リュカ伝の外伝
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狙った相手が悪かった
前書き
珍しく一話が長いよ。
でもかなりサクサク書けたよ。
マサオ君が可哀想だよ。
(グランバニア城下町)
首刈りマスターSIDE
俺は殺し屋。凄腕の殺し屋。
皆からは『首刈りマスター』と呼ばれ恐れられている、プロの殺し屋……本名など生まれた時から無い。
某国のお偉方から依頼され、二ヶ月前からグランバニア王都に潜入して、実行の機会を覗っている。
なんせ世界でもトップクラスの要人……グランバニア国王の暗殺だ。
入念に準備しても、し過ぎると言うことは無い。
俺にとっても記念すべき仕事だ。
仕事として首を刈ってきた人数が、丁度100人になる記念すべきターゲット。
それが現グランバニア国王、リュケイロム・グランバニアだ。
俺の腕には、これまでに刈ってきた首を両腕にドクロマークとして99個タトゥーで記録している。
右の二の腕に50個……
左には49個……そして明日には一つ増える。
俺は普段、二の腕が隠れる程度の袖がある服を着ている。
だが一度袖を捲れば、99個のドクロがお目見えし、誰もが俺……首刈りマスターに恐れ戦くのだ。
そのドクロが明日には100個になる……ふっふっふっ、俺の伝説は未来永劫語り継がれるだろう。
とは言え、名前すら知られてなかった小国を、一代で世界屈指の超大国へと変貌させた国王だ。
その警備は厳重で、100個目にして最大の難易度……だと思っていたのだが、このターゲット……護衛も付けずに、夜の城下町をフラフラ闊歩していやがる。
今日……と言うか今も、この先にあるナイトバーにお気に入りの女が弾き語りをしてるらしく、そこへ向かって歩いてるのだ。
しかもご丁寧に、毎週日曜日の23時過ぎに来店するから、待ち伏せするのも至極容易だ。
この二ヶ月間、幾度もすれ違ってきたが、全く俺の存在には気付いて無い。
まぁそれは当然なのだ……俺の仕事スタイルは、ターゲットを入念に調査し行動パターンを掴んだら、気配を完全に消して腰に携えた仕事道具……ククリナイフで一気にターゲットの首を刈り落とすのだ。
99個というドクロが、俺を凄腕と表している。
ターゲットまで50メートル。
さて……俺も動き出そう。
道の端に立つ客引きの売女共に笑顔で手を振り、俺の方へと近付いてくる。
ターゲットまで30メートル。
相手は俺に気付いて無い。
こちらに顔を向けること無く、両サイドの女共にヘラヘラ笑って手を振っている。
ターゲットまで10メートル。
あと少し……ここで素人だと、慌ててしまい自らの間合いでも無いのに襲いかかってしまうのだが、凄腕と評される俺クラスになると、自分の間合いを熟知している。
ターゲットまで5メートル。
まだだ……俺の間合いじゃ無い。
確実に一閃で首を刈るには、あと少し。
ターゲットまで2メートル。
ここだ! 次の一歩を踏み出し距離を1メートル未満まで縮めて、身体に染みついた動作でナイフを抜き、その動作のまま首を刈り落とすのだ!
くらえ!
俺は完璧な距離で、完璧な動作で、ターゲットの首にナイフを振りきった。
俺の視界にククリナイフがターゲットの首、数センチ……と言うとこで突如視界が急変した。
グランバニア国王の顔は視界に無く、代わりに満天の星空が目に映った。
そして視界が暗闇に閉ざされると、俺の右頬に激痛が走る。
一体……何……が……あった……?
首刈りマスターSIDE END
(グランバニア城地下牢)
ピピンSIDE
深夜……0時を回ろうとしたころ、リュカ様が訪ねてきた。
右手には見慣れぬ男を引き摺っている。
男の右頬は赤く腫れ上がっており、リュカ様に殴られたのだと推測される……生きてるのか?
なんでも、この引き摺られてる男に命を狙われたらしく、色々と確認したいので夜番の警備兵を2人ほど引き連れ、私にも立ち会えとの事だ。
リュカ様の命を狙うとは……馬鹿なのか?
今や地下牢としては使用してない牢獄の一番奥の部屋に、件の男を厳重に手枷足枷を施し、鉄製の椅子に座らせ鎖で縛り付け待機する。
リュカ様が同席されてるのだから、手枷足枷どころか紐で縛り付ける必要も無いのだが、男の安全の為に縛り付けておく。
程なくして使いに出していた兵士が、もう一人の重要人物を連れて、この牢屋へと入ってきた。
兵士の顔には「ウンザリ」の影が覗える。
深夜の呼び出しに、相当嫌味を言われたのだろう。
「何すかこんな時間に呼び出して。明日月曜の朝一じゃダメなんすか、リュカさん?」
相手が誰であろうとブレないこの精神力には敬意を表したいとは思うが、それをさせてくれないほどの性格が悪い宰相閣下がお出ましだ。
「コイツ、誰?」
宰相閣下の性格の悪さを唯一凌駕することの出来る精神力を持っているリュカ様が、深夜の呼び出しに対する労いも、状況の説明も……あまつさえ主語すらも省いた質問を浴びせかける。
「知るかよ!」
だろうな。
いきなり呼び出され、顔の腫れ上がった男を見せられても、答えが出る訳も無い。
「何だ何だぁ……今をときめく天才宰相閣下は、この有名人のことも知らないのかぁ(笑) 『天才』って言うのも、もう止めた方が良いんじゃねぇの?」
まだ意識の戻らない男の髪を掴み、顔を見える様にしての嫌味である。一体いつこの男が有名人認定されたのか?
「あ゛ぁ? 相変わらずムカつくオッサンだな」
「オッサンじゃ無い、イケメンだ」
そこ重要ですか?
「……ん? ちょっと其奴の腕、捲ってみろ」
必要無いだろうと思うが、建前上警備用に2人の兵士を男の後ろに立たせてあるのだが、そのうちの一人……ジャナン軍曹に指示を出す。流石に上司には指示を出さなかった。
「……ああ、コイツ知ってる。殺し屋の……え~と……首取り……マタンゴって名前だった様な気がする」
多分ウソだ……この人の記憶力はずば抜けている。
一度見聞きしたことを曖昧に憶えるはず無い。
「首刈り……マスター……だ!」
多分リュカ様に頭を動かされた時から意識が戻ってたのだろう。失礼な名前の間違いに、黙ってられず訂正する。このお二人も、それを解ってての茶番だろう。何だよ『首取りマタンゴ』って……殺し屋の名前にある訳無いだろう。
「あぁソウダッタ。腕のタトゥーは今まで刈り取ってきた首の数って話だよ」
「へ~……じゃぁ、えーと5×10で50人の首を刈ったのか」
右腕だけを……ワザと右腕だけを見て数を数え納得するリュカ様。可哀想に……これから存分に馬鹿にされ続けるのだろう。
「左腕も見ろよ」
「左? あぁホントだ! あれでも、一個欠けてるよ。これじゃぁ左腕は49個しかドクロマークが無い。バランス悪くね?」
「50人、49人の都合99人しか刈ってないんだろ。察してやれよ」
「何だ。まだ二桁だったのか。中途半端だな。こんな中途半端な自称殺し屋の100人目のターゲットに選定された奴には同情を禁じ得ない」
「その同情を禁じ得ない奴がリュカさんだよ。解れよ(クスクス)」
「え? でも僕、首が繋がってるよ。あぁ物理的な意味だけど」
でしょうね。
「だからコイツはそこで縛り上げられてるんだろ! リュカさんの首が刈られてたら、今頃コイツの左腕には100個目のドクロが刻まれてるはずなんだよ」
「あぁ~……そっかぁ~……ゴメンね、空気読めず邪魔しちゃって。お詫びに僕が、100個目の場所にバランス良くなる様、ウ○コマークを描いてあげるよ」
そう言うとリュカ様は、もう一人の警備兵……タック少尉の腰からショートソードを抜き取り、刃の先端部分を掴み器用に男の腕に入れ墨を彫りだした。
「や、止めろこの野郎! ぶっ殺すぞ!!」
「ちょ……動かないで! 可愛くウン○が描けないでしょ!」
そう言うと我々に目配せをするリュカ様。
私は慌てて二人の兵士に指示を出し、男を押さえつけ傍に置いてある机に左腕を押し当て固定する。なお、天才宰相閣下は腹を抱えて笑っておられる。
「よし描けた」
そう言うとリュカ様はこの部屋の隅に蓄積されてる土埃を手に取り、刻んだばかりのあのマークに刷り込んで……「ホイミ」と傷口を塞いだ。
「どれどれ?」
笑っておられた宰相……天才宰相閣下が男に近付きマークを確認する。
そして「ぶはぁ!」と吹き出すと「色合いもバッチリですね(爆笑)」とリュカ様の作品を褒め称えた。
私も二人の兵士も、この男が哀れすぎて笑えない。
いや、一応上司方に合わせる為に愛想笑いはする。
この世で敵に回してはいけないナンバー1とナンバー2を敵に回した報いだろう。
「ところでさぁ……お前、本名何?」
散々笑った天才宰相閣下が、今更の質問を投げかける。
確かに……お二人の非常識ぶりに、そこへ気が回らなかった。
「お、俺の名は首刈りマスター! 本名など生まれた時から無い」
「え~……君、本名無いの!? 不便じゃん」
本心かどうか解らないが、リュカ様が同情する。本心な訳無いか。
「じゃぁ名前付けてあげるね。う~ん……首刈りマスターってダサく呼ばれてるんでしょ。じゃぁ格好良く『クサ○リ・マサオ』! うん、これからはマサオ君って呼ぶよ」
「あははははっ! 首刈りだって言ってんのに、何でクサカ○になるんだよ!(大爆笑)」
腕に変な入れ墨を彫られ、勝手に変な名前を付けられ、この男も涙が止まらない様子だが、違う意味で天才宰相閣下の涙も止まらない様子だ。
多分明日、腹筋が筋肉痛になってるだろう。
「クソッ! ふざけやがって!!」
「え~……わりと真面目なんだけどぉ」
「あははははははっ……あ゛~お腹痛い!! もうこれ以上笑わせないで!」
広い地下牢内には天才宰相閣下の大きな笑い声が響き渡る。
牢屋の中でも一番奥を選んでおいて良かった。
入り口付近だと地上階にまで笑い声が響いて、人々の安眠を妨害してただろう。
「く、くそ~……お、おい教えろ!」
「ん……なにを? パンツの色?」
何で下着の色が話題に出るんだ!?
「そんなことじゃない! 俺は……何時しくじった? この二ヶ月間……俺は気配を殺し、チャンスを覗っていた。そしてそれは完璧だった……貴様は一度も俺に注目しなかった。存在に気付いてもいなかったんだ! 貴様はどのタイミングで俺を怪しんだ!? 教えろ……処刑の前に教えろ!!」
「最初からに決まってんだろ(薄笑) 二ヶ月前に姿を現した時から、お前のことは怪しいと気付いていたさ! 顔が犯罪者だったからね」
「さ、最初からだと!? ウ、ウソだ!! 俺は完璧に気配を消しきってた。実行のタイミングまで武器すらも持たず、一般人に同化してた! 貴様は一度も気付いた素振りを見せなかったじゃないか!?」
「気付いた素振りを見せたら、お前は逃げ出してただろ? 罠にかかったフリをしてやるのも、結構大変なんだぞ」
「そ、そんな……お、俺の能力は……完璧だった……はず……」
「でもさぁリュカさん。今回は怪しんで正解だったけど、顔が犯罪者ってだけで全くの無関係者を殴ってたかも知れないんですよね? 間違ってたら如何するんですか?」
確かにその通りだ。リュカ様に間違いは無い……と言いたいが、100%なんてことはあり得ないだろうし。
「間違ってたらぁ? う~ん……そうだねぇ……『ゴメンね』って言う」
「……………ぶはぁ!! ゴ、ゴメンで済む訳ねーだろ(爆笑)」
全くだ、顔が倍近くに腫れ上がるほど殴っといてゴメンで済むとは思えないな。
もう既に心身ともゴメンで済まない自称凄腕の殺し屋は、お二人の遣り取りなど耳に入ってない。
心を重点的に壊され放心状態だ。
まだ気を抜くのは早いと思うぞ……このお二人を相手にはな!
「もう日付も変わっちゃってるし、そろそろお開きにする?」
もう終わることを匂わせ、油断を誘うリュカ様。
私は警戒を解きませんよ。
「あれ……マサオ君に聞かないの、重要な事?」
「え、重要な事? 初Hの思い出とか?」
それ重要ですかね?
「違ーよ。コイツは自称だがプロの殺し屋。って事はコイツに殺しの依頼をした奴が居る。重要だろ」
「誰でも良いよ。この状況が重要なんだから」
如何言うことだ?
「まぁ多分、依頼主はホザックだろう」
「火縄銃の件で恨んでいると?」
だとしたら恨まれるのは天才宰相閣下の方だろう……あの件の黒幕だからな。
「でも違ったらゴメンねじゃ済まないですよ」
「済ます気は無いよ」
いや国際問題になりますよ。
「一国の国王を暗殺しようとして失敗し捕縛される殺し屋。この件が知れ渡れば誰しもが“殺し屋は処刑される”と思うはず。でも投獄こそされるが生き残っていれば、周囲は何と思うかなぁ? まるで『司法取引』でもした様に見えない? 『依頼主のことを全て話すから、命だけは勘弁してくれ』ってさぁ!(笑)」
「でも何度も言うが間違ってたら大問題になる」
「お前だって僕に隠れて火縄銃開発……そしてそれ以上の兵器開発を企み実行しただろ。あの国だって王が命じて無くても、隠れて暗殺を手配した部下が居るかもしれない……と思い込むだろう。本当に居たって、殺しが失敗に終わってる状況で、王に正直なことを報告するはずも無い……と思い込む。こっちからのいちゃもんに、100%の自信を持って否定が出来ないんだ。火縄銃関連の武器開発情報を、まだ隠し持ってるかもしれない訳だし、家宅捜索の大義名分になるだろ(笑)」
「あぁ確かに」
悪魔が二人居る。
リュカ様のことは心から敬意を持ってるが、悪魔としか表することが出来ない。
「じゃぁと言う訳でピピン大臣」
「はっ!」
急に呼ばれて少し慌ててしまった。
「コイツは刑務所に放り込んで置いて。仮釈放無しの無期懲役ね。あと独房は禁止。皆に僕のタトゥー作品を見て欲しいからね。それと……渾名で登録する訳にいかないから、正式に○サカリ・マサオって記録しておいて」
そこまで指示を出されると、男でも惚れる様な仕草で翻り牢屋を出て行かれた。天才宰相閣下も一緒に……
私を含めた軍人はお二人が出て行くまで敬礼で見送る。
哀れなク○カリ・マサオに目をやると……
「お、俺は完璧だった」とか「俺の名は首刈りマスターだ」等と光の消えた瞳でブツブツ呟いている。
「はぁ……相手が悪いよ」
思わず呟くと、二人の兵士が吹き出し笑い出した。
やれやれだ。
ピピンSIDE END
(グランバニア地下牢通路)
重大な犯罪を犯した殺し屋の心を破壊したリュカとウルフは、並んで地下牢出口へと歩み進んでいた。
そして先程居た牢屋からは会話が聞こえないくらいの距離まで来た所で、ウルフがドヤ顔で今回の事件を語り出した。
「マオさんの情報が役に立ちましたね」
「大して役立ってねーよ。殺し屋がグランバニアに潜入したってだけの情報で、其奴が誰で如何な奴かは解らねーんだから」
「え……じゃぁ何時アイツが殺し屋だって気付いたんですか!?」
「直前だよ。気付いたらナイフが首元数センチに迫ってたから、慌ててアイツを裏拳で吹っ飛ばしてやったんだ。その結果が今に至る」
「じゃぁ『コイツ、誰?』の質問もガチだったの?」
「そうだよ」
凄腕なのは自称では無かったことを知り、同時に殺し屋に同情をしてしまうウルフ。
「狙った相手が悪かったな」
後書き
リュカさんとウルポンが
生き生きしてたね。
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