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不落戦艦「キイ」~宇宙戦艦ヤマト2202・鋼鉄戦記~

作者:相模艦長
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第1話 建艦前史

 
前書き
暁、感想に関するシステム改善してもいいのよ? 

 
西暦2201年11月7日 極東管区内 日本国東京都 赤坂某所

 遠き16万8千光年の彼方、大マゼラン星雲内にある惑星イスカンダルより、コスモリバースシステムを受領して帰還した「ヤマト」によって地球の環境が再生されてから約1年。
 再建の進む東京都の赤坂にある料亭では、十数人の地球連邦防衛軍士官や民間企業の関係者が会合を行っていた。

「豊田中将、先のヤマト計画にて作戦を完遂した「ヤマト」は不沈艦ではありませんし、今の地球には適していない戦艦です」

 かつての他惑星避難計画であったイズモ計画や、宇宙戦艦「ヤマト」を建造し、イスカンダルへ派遣するヤマト計画にて、「ヤマト」とそのベースとなった移住船の設計に関わっていた福田啓二(ふくだ けいじ)造船中佐の言葉に、地球連邦防衛宇宙軍に属する豊田副武(とよだ そえむ)中将は驚愕した。

「何!?あの「ヤマト」が不沈艦でないと申すか」

 豊田がそう驚愕の表情を浮かべながら声を上げると、福田とともに設計に関わった技術者の一人である牧野茂(まきの しげる)造船少佐が口を開いた。

「はい、確かに「ヤマト」は往復33万6千光年という地球人類にとって前人未踏の航海を成し遂げ、ガミラスと休戦を結んだ上で帰還を果たした戦艦ですが、航海記録及び戦闘詳報から、設計上は問題が無かった部分や実際の運用面において、未だに脆弱な部分が残っている事が判明しました」

 牧野はそう言いながら、テーブルの上にタブレット端末を置き、一つの映像を投影する。それは「ヤマト」の見取り図であった。

「まず「ヤマト」は希少な宇宙鉱物を用いた新型装甲材を出来る限り損耗しない様に、エンジン及び弾薬庫、居住区の集中する部分を集中的に固めた集中防御方式を採用しておりますが、それはつまり従来の装甲材や複合材で構成された艦首及び艦尾は脆弱であるという事です。これは全体を対レーザー防護電磁被膜(ミゴウェザー・コーティング)で覆ったガミラス艦に対して脆弱であるのは確かですし、船体構造の見直しや、対ビーム複合装甲に波動防壁で対策を施しておりますが、それでも陽電子ビームに対して脆弱であるのは否めません」

 牧野の言葉に続き、地球連邦防衛軍統合参謀本部作戦課に属する松田千秋(まつだ ちあき)中佐が口を開く。

「我が地球にとって初の恒星間航行宇宙船である「ヤマト」のサイズや防御性能は、黛君や真田君とともに話し合って決めたのですが、先のガミラス艦隊の侵攻や遊星爆弾による港湾破壊で資源獲得が困難となった状況下にて、イズモ計画用に用意された資材と予算を用いて極秘裏に建造した結果、この様な性能となったのです。実際ガミラスは「ヤマト」よりも巨大かつ火力や防御力に優れた戦艦を何十何百隻も保有しておりますし、あの航海で生き延びれたのは、ひとえに沖田十三(おきた じゅうぞう)大将以下精鋭のクルー達の奮闘と、波動エネルギーを用いた決戦兵器である波動砲があったからに他なりません」

 松田がそう言った後、隣に座る防衛軍士官学校砲術科長の黛治夫(まゆずみ はるお)少佐は険しい表情を浮かべる。

「ですが、実際には「ヤマト」自身が波動砲の存在そのものに苦しめられた場面も多々あったそうです。まず波動砲は出力次第では惑星規模の天体を破壊出来る程の火力がありますが、その分多量のエネルギーを必要としますので、発射前後は非常に無防備な状態となります。何より七色星団での戦闘では、削岩弾を砲口に撃ち込まれて波動砲を封じられた上に、内部より破壊される危険があったそうです。今の地球はガミラスと関係改善状態にありますし、今後の主力艦に波動砲は搭載せずとも、ショックカノンのみで戦えると思うんですがね…」

 『大砲屋』の異名を持つ黛の言葉に、豊田は険しそうな表情を浮かべる。

「参ったな…現在防衛軍は量的劣勢を質的優勢で補うべく、波動砲搭載艦を5年以内に500隻揃える波動砲艦隊計画を遂行している。そして今、防衛軍航宙艦隊総旗艦となる新型戦艦の1番艦が起工したばかりなのだが…ところで牧野君、もし資材や予算に制限が無かったとしたら、「ヤマト」を一体どこまでの性能にする事が可能なのかね?」

「はい、それはこちらに」

 質問を投げかけられた牧野はそう言いながらタブレット端末を操作し、豊田に手渡す。そしてそれを見た豊田は血相を変えた。

「こ、これは…!こんなのが建造出来た、というのかね?」

「はい。元々イズモ計画用の移住船に求められたスペックを基にすると、全長500メートル、最大搭乗員数1万人の巨大宇宙船となる予定でした。もしガミラスとの戦争があと10年遅れていたら、金剛型宇宙戦艦も現在開発が進められている前衛航宙艦並みのサイズを持った次世代艦にバトンタッチしていたでしょう」

「成程…しかし造船所はどうする?現在我が防衛軍が有する宇宙軍工廠は大半が再建半ばであるし、民間造船所も貨物船の建造で手が足りん状況だ。それにサイズも考えると、相当な期間が必要となるかもしれんが…」

 豊田が述べた懸念に対し、福田が答える。

「その点についてはご心配なく。現在私どもは前衛武装宇宙艦並びに前衛航宙艦の建造拠点である新工廠にて、試作艦建造区画を確保しております。既存の造船所や工廠が使える状態になるまで用いる予定ですが、あそこならばこの規模の艦艇も建造が出来ましょう」

 福田の言葉に、豊田は驚きの表情を浮かべる。しかし確かに試作艦ないし実験艦の名目で予算と資材を確保する事も可能だろう。

「…分かった。今後、我が防衛軍はガミラスとの量的劣勢を埋めつつ、共通の敵となりつつあるガトランティスに対抗するべく、新たな戦艦を開発・建造しなくてはならない。そのための建造というのならば、私が全面的に支援しよう」

 豊田の言葉に、牧野達の表情が明るくなる。豊田は今度、新工廠が存在する防衛管区の基地司令官に任ぜられる事となっており、予算・資材の面で多少の融通をしてくれる可能性があるからである。
 その後、彼らは今後の地球製宇宙艦船はどの様なものであるべきかを論じながら、酒を酌み交わすのだった。

・・・

西暦2202年9月1日 小笠原諸島沖合 地球連邦防衛軍工廠 地上区管理棟

 会合から10か月後、新防衛管区の基地司令官に就任し、軍備再建計画の進展に貢献して昇進。新たに防衛宇宙軍技術本部艦船科長に着任した豊田大将からの提案書が防衛軍上層部に認められ、現在建造が進められている最新鋭艦とは全く異なった設計が施された新型艦の建造が開始。全体的な設計を終えた牧野は、数人の男達と連邦防衛軍工廠の管理棟で話し合っていた。

「まずは起工が開始された事に、おめでとうと言っておこう、牧野君」

 ヤマト計画にて宇宙戦艦「ヤマト」の設計に加わり、自身も「ヤマト」副長兼技術長として戦場に立った真田士郎(さなだ しろう)中佐の言葉に、牧野は頭をかきながら答える。

「いえ、真田さんのに比べれば、私の設計なんてまだまだですよ。福田大佐と真田さんの設計があればこそ、今のこの艦があるのですから」

 牧野が謙遜した様子で答える中、そこに豊田が入室してきて、牧野に話しかけてくる。

「久しぶりだな、牧野君。中佐への昇進と改ヤマト型宇宙戦艦1番艦起工、まずはおめでとうと言っておこう」

「ありがとうございます、豊田大将閣下」

「それで、その改ヤマト型宇宙戦艦の設計について、改めて聞かせてもらおう。「ヤマト」と、現在建造が進められている同型艦とはどの様に異なるのかを」

 豊田の求めに対し、牧野はモニターディスプレイを起動して設計図を投影し、説明を始める。

「はい…まず艦のサイズはヤマト型より大幅に拡張し、全長500メートル、船体幅75メートルの超大型艦となっております。これは現在この工廠で建造が進められている前衛武装宇宙艦の全長444メートル、船体幅66メートルよりも大幅に巨大であり、人員の省力化によって装甲及び防御区画に割く余裕を確保しております」

 その戦艦の船体形状は「ヤマト」によく似ており、一見水上艦とほぼ変わらない様に見えるのだが、水上艦はもとより「ヤマト」と大きく異なる点が艦尾にあった。

「しかし、「ヤマト」と大きく違うのはサイズだけではなく、艦尾形状にもあります。こちらはガミラス軍のゲルバデス級戦闘空母を参考に、前衛航宙艦用のメインエンジンを2基、サブエンジンを4基搭載した複数機搭載型としており、エンジンノズルも複数装備する事によって万が一片方が破壊されても自力で航行可能な様にしております」

 そう、艦尾形状はガミラス軍のゲルバデス級戦闘航宙母艦に類似したものとなっており、エンジンノズルの数も増やされている。そのため「ヤマト」に比べるとスマートではなくなっているが、その分力強さが際立っていた。

「また、エンジンを増やした事によって波動防壁の出力も強化されており、連続展開時間は最長2時間にまで向上。反射衛星砲の直撃にも耐えられる様になっております」

「成程な…「ヤマト」よりも撃たれ強くなっている、という事か。して武装はどうかね?」

「はい。まず主砲は新開発された50口径51センチ収束圧縮型衝撃波砲(スーパーショックカノン)を三連装砲塔に収め、艦上部に3基、艦底部に1基搭載。下方への死角を補った他、正面火力を強化しております。副砲は「ヤマト」と同様の20センチ三連装陽電子衝撃光線砲(ショックカノン)を2基搭載し、さらに対空砲も従来のパルスレーザー砲に加えて12.7センチ連装速射砲を搭載。近接戦闘でも十分にショックカノンを使える様になっております」

 エンジン増加による次元波動エネルギーの増大の恩恵は武装面にも活かされており、対空砲にもショックカノンを採用できる程の高出力に、豊田は改めて、イスカンダルからもたらされた技術の凄まじさを実感する。

「艦載機につきましては、基本単艦で行動しなければならなかった「ヤマト」とは異なり、基本的に艦隊行動を取る事を前提としているため、第二格納庫の規模は小さめにし、搭載機数も1個飛行隊分の16機に抑えております。その分第一・第三格納庫を拡張し、〈コスモゼロ〉の搭載機数を2機から8機に増やしております。また〈コスモウォッチャー〉と〈コスモシーガル〉の搭載機数を増やし、対処能力を向上。予備機の搭載数を増やす事で十分な制空能力を確保しております」

「まぁ現在、新型空母の開発と建造も進めているからな…少なくとも対空兵装の強化で個艦防衛能力は上げられているし、艦載機も機体性能と搭乗員の練度向上で数的劣勢をカバーできる事は「ヤマト」航空隊が証明しているからな。だが気になるところもある…」

 豊田はそう言いながら、艦首部分に目を向ける。
 「ヤマト」との差異で最も際立つのはやはり艦尾形状であるが、『それ』は「ヤマト」を知っている者ならばすぐに気付ける差異が艦首にあった。
 そう、次元波動爆縮放射器、通称『波動砲』が存在しないのである。そしてそれは、豊田に対して相当な苦労をかけてもいた。

「…まさか、最初から波動砲を装備しないとはな。波動砲艦隊構想が進められている中で、それを搭載しない大型艦の建造計画を通すのは一苦労したぞ」

「はい、その折には大分迷惑をおかけしました。ですが本艦は波動砲に頼らずとも十分な火力を有しております。基本コンセプトとしては、低脅威の紛争において少数の機動艦隊旗艦として、波動砲に頼らずに戦術的勝利を収める…波動砲は確かに戦略的勝利をも得る事の出来る兵器ですが、構造上防御面で大きな欠陥を有しておりますし、管理コストも相応に高い。一応改造で後から波動砲を搭載できる様に設計しておりますが、基本的にショックカノン主体で戦う運用が求められますね」

 近代化などの改造工事で波動砲を後日装備できるという点で、波動砲搭載艦を主力とした波動砲艦隊構想を押し進める軍上層部を納得させた牧野の手腕は確かであり、真田のサポートもあったとはいえこうして計画を現実のものとしたことは正当に評価すべきであろう。

「そうか…しかし、『例の装備』の搭載はまだなのか?こうして建造が決定されたのも、それの試験艦を造るためなのだからな」

「それにつきましては、現在世界各地で適合者を探してもらっているところです…確かに、今政府と防衛軍が進めている計画に思うところはありますが、今は現在の地球が求めるものを開発し、生産していくべきでしょう」

 牧野はそう説明しながら、豊田とともに設計図を見つめるのだった。

・・・

西暦2202年10月8日 日本国鹿児島県大隅市 大隅中央病院

 ガミラスの遊星爆弾攻撃後、首都機能は鹿児島県地下の極東管区中枢都市である大隅市に移され、コスモリバースシステムによる環境再建後も、遊星爆弾の直撃で壊滅した東京都が完全に再建されるまでの首都として、大隅市地上区が整備されていた。
 そしてその市街地の中心部にある中央病院のとある病室。そこでは、一人の女性が病床に身を横たえていた。

「調子はどうですか?」

 診療に訪れた医師が尋ねる中、女性はただ静かに窓の外に広がる大都市の街並みを見つめていたが、不意に彼に顔を向け、平然そうな表情で尋ねる。

「…先生、私はあと何年…いえ、何日生きられますか?」

 女性の問いに、医師は思わず息がつまる。どの様に答えようか迷っていたその時、女性の方からさらに質問が投げかけられる。

「…家族は皆、遊星爆弾で死に、私もその影響でいつ死ぬのか分からない状態…自分の身体の事は自分が一番分かっています。本当のところはどうなのでしょうか?」

「…」

 ガミラスとの戦闘で受けた病に侵されている女性は、いつ危篤状態に陥ってもおかしくない様子であるにも関わらず、それを左程気に留めていない様な素振りで尋ね、医師は思わず目を泳がせる。
するとその時、一人の背広姿の男が入室し、女性に話しかけてきた。

「…子竜乙姫(しりゅう おとひめ)さんですね?」

 突然現れた背広姿の男に、女性―子竜乙姫は思わず眉を顰める。一方で医師はその男を知っているらしく、困惑はしてても動揺した様子は見せていなかった。

「失礼、私は連邦政府の関係者でして、私どもの研究に協力してくれる人達を探しているのです。現在政府が官民共同で遊星爆弾症候群の治療方法を研究している事はご存じでしょう?」

「はい…ですが私の様に苦しんでいる人はごまんといる筈。なのに何故私を?」

「はい…詳しい理由は申し上げられませんが、貴女の協力が是非とも必要なのです」

 背広姿の男の言葉に、子竜は表情を一つも変える事無く、小さくため息をつく。そして男の顔に視線を向ける。

「…分かりました。どのみち長くはないでしょう。せめてこの星の同じ病で苦しんでいる人達の救いになると言うのなら…」

「ありがとうございます。ご協力に感謝いたします」

 子竜がやや投げやりながら返答を返し、背広姿の男は神妙そうな表情で答える。そして30分後、彼女は装甲車を改造した救急車に乗せられ、軍関係施設へと移送される。
 しかしそれは、これまで戦争とは距離を取った人生を送り、ただ静かに最期を迎えようとしていた彼女に、新たな希望と試練を与える、最初の過程に過ぎなかった。 
 

 
後書き
次回は戦闘。あと結構遅れます。 
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