不落戦艦「キイ」~宇宙戦艦ヤマト2202・鋼鉄戦記~
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序章 月の海にて
前書き
新作です。
何とかヤマト2205の公開日に間に合う事が出来た…
かつて、地球人類が重力に足を引かれていた頃、海戦の主役となっていたのは空母とその艦載機であった。
艦砲よりも遠い距離に攻撃を与える事の出来る艦載機は、対空戦闘システムが急速に発展してもなお強大な火力を誇り、200年近くもの間、地球上に存在する軍事組織の主要な攻撃戦力となっていた。
しかし宇宙空間や太陽系に存在する惑星への進出と開発が進むと、航空機の持つアドバンテージは過去のものとなり果てる。何故なら、これまで航空機や潜水艦に狩られる側であった水上艦の直系の子孫たる宇宙船が、宇宙空間という場所にて航空機と同じ土俵に立ったからである。
戦闘空間が航空機と同じ条件になった以上、ペイロードと武装の火力やバリエーションで上回る艦船が、宇宙空間での戦闘の主役となるのは当然の帰結であり、旋回性能や加速力などの戦術機動力しか利点が無くなり、航続性能などの戦略機動性や搭載能力に枷を持つ航空機は、宇宙戦の主役でなくなってしまったのだ。
結果、宇宙空間の戦闘は、第二次世界大戦前ないし序盤の頃の、水上艦が主体の砲撃戦のスタイルへ回帰する事となり、従って軍事技術も宇宙艦船に関係するものに注力される事となった。
それは西暦2170年代に起きた、地球国際連合政府と火星自治政府との武力衝突である内惑星戦争や、2191年の未知の太陽系外生命体『ガミラス』との間で始まった史上初の星間戦争でも変わる事が無く、2193年のカ1号作戦まで航空機の価値は軽んじられていた。
しかしカ1号作戦前後にてガミラス軍は高速空母とその艦載機による空襲や輸送船団に対する奇襲攻撃を実施し、その際の対空戦闘で撃墜した敵艦載機の残骸を解析した事で、オプション無しで大気圏内と宇宙空間双方で飛行・運用可能な航空機の開発・配備が進むとその流れは変わる事となった。
カ1号作戦から2年後の2195年には、地球初のオプション無しで大気圏内と宇宙空間を往来できる本格型航宙戦闘機〈コスモフライヤー〉が配備開始。その2年後にはより性能を向上させた〈コスモホーク〉が配備され、少なくとも航空機による戦闘ではガミラスと並んだ。
翌年のカ2号作戦では、ようやく完成した陽電子衝撃砲搭載艦とともに戦艦・貨物船改造の宇宙空母が投入され、新型のタンデム型電子励起炸薬弾頭ミサイルや陽電子衝撃砲による奇襲攻撃で敵艦隊を撃退。しかし艦艇の元々の性能差や特殊な植物や毒素を封じ込めた小惑星を投下する遊星爆弾攻撃によって地球そのものが汚染されていき、国連宇宙軍は次第に劣勢に追い込まれていた。
・・・
西暦2199年2月7日 太陽系 月 裏面
太陽系第三惑星にして、地球人類のほぼ唯一の生存拠点である地球の衛星、月。その表面近くを這う様に、1隻の大型艦が進む。
極東管区では金剛型宇宙戦艦の名称で建造・配備されているワイオミング級宇宙戦艦の両舷に長方形のコンテナを取り付けた様な外見をしたこの艦は、ラングレー級宇宙母艦の2番艦「レキシントン」であり、国際連合宇宙海軍の内惑星軌道防衛艦隊に所属する空母として月の警戒に当たっていた。
「レキシントン」の両舷に増設されている格納庫兼滑走路ユニットには計16機のCF-4/97式空間戦闘攻撃機〈コスモホーク〉やCA-3/97式空間艦上攻撃機〈コスモデバステイター〉が、中央胴体内には4機の予備機と2機のSR-100/100式空間偵察機〈コスモウォッチャー〉が搭載されており、常時艦載機をユニットから直接展開させて周囲の警戒に当たっていた。
そして北米管区方面軍第5空母航宙団所属のパイロットであるジョン・トーマス少尉は、愛機の〈コスモデバステイター〉に乗って発艦し、険しそうな表情を浮かべながらキャノピーの外に目を向ける。
「見ろ、ジャック。地球だ。昔、大いなる先輩であるユーリ・ガガーリンは『地球は青かった』と言っていた。それが今やこの様だ。合衆国に至ってはニューヨークもベガスも、そしてロスも過去の遺跡となっている」
「少尉…」
かつての青さを失い、すっかり赤茶けた故郷を見て、後部座席に座るアンドリュー・ジャック曹長は複雑そうな表情を浮かべる。
アメリカ合衆国は8年前までは国際連合の常任理事国を務める5大国の中でも最強であり、宇宙艦隊もこの「レキシントン」を含め、最多の700隻を誇っていた。かつての内惑星戦争でも愚かにも反旗を翻した火星軍をその物量で捻じ伏せ、外宇宙からやってきた謎の勢力をも容易に撃退出来るだろうと多くの将兵は考えていたに違いない。
しかし冥王星軌道の戦いや第一次火星軌道会戦にて、ガミラス軍は艦艇そのものの性能や技術力の違いを有効的に活用。アメリカのみならずイギリス。フランス・ロシア・中国の大艦隊も悉くが陽電子ビームと高性能ミサイルの餌食となり、宇宙空間のデブリの一部と化していったのである。
本国自体もガミラスの遊星爆弾によるロングレンジ攻撃を受け、ワシントンDCやニューヨーク、ロサンゼルスをはじめとした大都市が消滅。人口が多かったが故に地下都市への収容が間に合わず、10億人以上の死者を出しながら政府そのものが崩壊した中国やインド、軍事力は優れていても経済力が低かったために地下都市に十分な設計を施せず、飢えと毒素汚染で滅んでいったロシアと異なり、地の国力に余裕があったアメリカは1億人以上を生き延びさせられたものの、もはやガミラス軍に対して大規模反攻作戦を行える程の余裕はなかった。
その中でカ2号作戦前までアメリカの予備戦力扱いされていた極東管区の一国家であった日本国は、最初の着弾以外遊星爆弾による直接被害を被らなかった事もあって、戦力や工業地帯、地下都市の完成度はアメリカに匹敵しており、北京そのものが遊星爆弾の直撃によって指導部ごと吹き飛んだ中国に代わって極東管区の中心国となって防衛体制を再建。第二次火星沖会戦での迎撃作戦や、3週間前に冥王星に前線基地を築いたガミラス軍を奇襲攻撃する『オペレーション・プルート』を実施したものの、ともに深刻な被害を被り、今では唯一生還した戦艦1隻を含めて僅か7隻が残るのみとなっているという。
「徹底して大都市や工業地帯を狙われたせいで生産力ががた落ちし、宇宙港の再建も遊星爆弾による被害で遅々として進んでない…そのため仮設ドックにて大型宇宙船を建造し、別の恒星系へ移住するというメイフラワー・プロジェクトが進められているらしい。極東管区だと確かイズモ・プロジェクトだったかな」
「別惑星への移住ですか…敵さんがそれを見逃してくれればいいんですがね…」
ジャックが憂鬱そうな表情でそう呟く中、トーマスはレーダーに複数の反応が生じるのに気付く。そしてその反応からより複数の一回り小さい反応が出てくるのを見て表情を変える。
「チッ、敵さんが忍び込んできやがってる!母艦に通信!」
「りょ、了解!」
トーマスの〈コスモデバステイター〉は主翼を翻しつつ、敵艦隊の接近を報告する。直後、先程までいた場所にピンク色の光弾が飛び込んできた。
それを撃ってきたのは緑色の全翼機で、主翼下にはミサイルを6発搭載しており、攻撃にそれを使わなかった事から空対地装備である事が伺える。恐らく月の宇宙軍基地を攻撃しにきたのだろう。
「しょ、少尉!敵機が執拗に攻撃してきます!」
「分かってる!牽制だ牽制!」
トーマスに怒鳴られ、ジャックは後部座席からキャノピーの直ぐ後ろにある遠隔操作式レーザー機銃を操作し、迫りくる敵機に向けて迎撃を開始する。
電子戦の急速な普及や様々な放射線・電子線が飛び交う宇宙空間にて精密誘導兵器が最強でなくなり、代わってレーザー式機関銃やレーザー式機関砲による直接攻撃が主流となった現在、航空機の戦闘は第二次世界大戦までの銃撃主体の格闘戦に回帰していた。無論遠距離からの一撃離脱攻撃ではミサイルの有効価値が維持されていたが、やはり接近戦では機銃主体による直接戦闘がものを言った。
エンジンとは別に装備されている動力より供給される電力を基に発生させたプラズマの光弾が、銃口から一瞬に等しい冷却期間を繰り返しながら照射され、敵機に向けて飛翔していく。敵機は僅かに機体を傾けながら回避するが、ついに先頭を進む機体が主翼にレーザー弾を被弾して黒煙を引き、よろめきながら失速していく。
直後に別の機がトーマス機に向けて銃撃を放つが、直後に別の方向よりレーザー弾が飛翔し、真上から銃撃を浴びた敵機は火を噴き出しながら墜落していく。そしてトーマス機の上方に数機の〈コスモホーク〉が現れる。
『ブラボー3、大丈夫か?』
〈コスモホーク〉のパイロットから通信機越しに声がかけられ、トーマスは安堵した様子で答える。
「こちらブラボー3、助かった。さっきのは月軌道上に現れた敵空母から発艦してきた『ブーメラン』だ!直ぐ近くに母艦がいる、先ずは敵機を排除してくれ!」
『了解した。直ちに母艦に増援を要請する。ブラボー3は直ちに母艦で補給を受け、攻撃に参加されたし』
「了解した!無茶はするなよ!」
トーマス機は大急ぎで母艦「レキシントン」に戻り、重力の存在しない宇宙空間である事を利用して、「レキシントン」の右舷艦載機運用ユニット上で停止。そしてゆっくりと姿勢制御スラスターロケットを焚いて姿勢を正しながら降下し、着艦を終える。直後に数人の宇宙服姿の航空要員が現れ、姿勢制御スラスターロケット用の酸化剤やレーザー機銃用の触媒ガス、そして空対艦ミサイルを搭載していく。さらに各部スラスターロケットの簡易的なメンテナンスも行われ、僅か5分で発艦準備が完了する。
そして武器の装備と機体の整備を終えたトーマス機は、航空管制所からの許可を得つつ、電磁カタパルトを用いて発艦。敵空母との交戦宙域へと向かう。
再出撃を終えたトーマス機は僅か5分でその場に駆けつけ、敵空母とその艦載機、そしてそれらと交戦する友軍機を目にした。そして月の表面に目を向け、一体何が起きているのかを把握した。
「少尉!月の友軍基地が…!」
「くそ…だからこんなところまで侵入してきたのか…!」
月表面に目を向けると、国連宇宙陸軍の月面基地が敵機の攻撃を受けており、友軍機がこれ以上の攻撃を防ぐために防戦に回っているが、十字型の船体が特徴的な敵空母は艦底部からレーザーを照射し、直接表面を攻撃している。これ以上の攻撃は何としてでも阻止しなければならない。
トーマス機は僚機とともに加速し、敵空母に向かう。それを察したのか、敵空母は数隻の護衛艦とともに艦上部に装備している三連装砲を撃ち、敵艦載機も攻撃を阻止する動きを見せる。敵空母が搭載する火砲は無砲身のビーム砲であるが、放たれるのは電子と対消滅を起こす反粒子である陽電子ビームであり、貫通力や破壊力は国連宇宙海軍艦艇の装備する高圧増幅光線を凌駕する。
国連宇宙軍も陽電子ビーム兵器は実用化させていたが、ガミラスの様な砲塔に収まるサイズにする事は難しく、それ以上に主力艦艇の動力である核融合炉では連射出来るだけのエネルギーを確保する事が出来ず、基本艦首に固定装備して第二次世界大戦時の駆逐戦車の様な遠距離狙撃に用いられる事が多かった。そのため威力の割に使い勝手が悪く、運用面にてガミラスに不利を強いられていた。
しかし敵艦の照準は甘く、〈コスモデバステイター〉は主翼を左右に振りながら回避し、一気に肉薄。そして射撃管制システムの助けを借りて狙いを定める。
「食らえ!」
敵空母の下方に潜り込んだトーマスは操縦桿の引き金を握り、胴体ウェポンベイに搭載していた2発の空対艦ミサイルを発射する。空対艦ミサイルは突出部の艦載機発進口に向けて飛び込んでいき、敵艦内で爆発。もろに直撃を被った敵空母は各所を爆発させ、よたよたと月表面に向けて墜落していく。それに敵艦載機は動揺を露わにし、それを突く様に〈コスモホーク〉は格闘戦を仕掛けて叩き落していく。
敵護衛艦は圧倒的劣勢を感じ取り、撤退に動き出したのだが、一歩遅く〈コスモデバステーター〉の空対艦ミサイルが艦橋部に叩き込まれる。
ガミラス艦は高圧増幅光線を容易く弾く事の出来る対レーザー防護電磁被膜を装備しているが、一方で実弾兵器の炸裂には若干弱く、陽電子ビームを用いずとも実弾の強力な爆発エネルギーで容易に被膜を排除できる事が判明したため、電子励起式炸薬を二段重ねにして破壊力を増した新型空対艦ミサイルと、同様の弾頭を採用した上に推進器をデトネーションロケットにして推進力を上げた新型空間魚雷を開発。接近すれば従来艦艇でも十分に敵艦艇に致命傷を与えられる様になっていた。
一段目の弾頭の炸裂で電磁被膜をはぎ取られたガミラス艦は、二段目の爆発を直接被弾して損傷し、艦橋を破壊された艦は航行不能となって月表面へと墜落していく。戦闘の大勢が決した事を認識したトーマスは、敵艦が墜落していく様子を見つめながら、ジャックに話しかける。
「どうやら久々の快勝の様だ。これで軍の上層部も空母と艦載機の運用について見なおしてくれるだろう」
「そうなるといいんですがねぇ…だって地球や月に直接攻め込むには余りにも戦力が少なすぎます。威力偵察程度のつもりだったのではないのでしょうか?」
「確かに、な…思えば我が合衆国軍は相手を侮っていたがために、こうしてこの8年間で追い詰められていたのだ。決して心から侮らずに立ち向かわねばならん…」
トーマスはジャックにそう答えながら、「レキシントン」への帰路についたのだった。
その日、国連宇宙軍は威力偵察のために侵入してきたガミラス軍空母機動部隊と交戦し、敵空母1隻と護衛の巡洋艦2隻を撃破。残る空母1隻は地球へ直接攻撃を仕掛けたものの、直後に『地上からの迎撃』を受けて撃沈し、月に墜落した艦艇3隻は現地の宇宙陸軍歩兵部隊や空間騎兵隊が制圧。国連宇宙軍は久方ぶりの勝利を収めたのだった。
・・・
2日後 月軌道上
久方ぶりの勝利から2日後、「レキシントン」は地球本土より緊急出撃した宇宙艦隊12隻と合流していた。
というのも火星軌道に展開した偵察衛星より、冥王星から超大型弾道ミサイルが発射され、一路地球へと向かっているとの情報が入ってきたからである。恐らく先の威力偵察艦隊を殲滅された事に対する腹いせのつもりであろう。
そして現時点で地球に残された全戦力である宇宙艦艇13隻は、これを迎撃するために月軌道に集結し、今か今かと待ち構えていた。
「たったこれだけしか残っていないのか…」
母艦「レキシントン」から発進したトーマスは、横陣を敷いて迎撃態勢を取る宇宙艦隊の全容を見て、苦々しい表情を浮かべながら評する。
かつて地球は太陽系全域の治安維持と国防のために3000隻以上の艦艇を保有し、配備していたが、この8年間の戦闘で激しく消耗し、現時点で直ぐに出撃出来たのは僅か13隻に過ぎず、中でも艦隊旗艦を務める戦艦「キリシマ」は、3週間前の『オペレーション・プルート』にて負った損傷を応急修理したばかりであり、手負いの戦艦1隻を出さねばならぬ程に今の国連軍は戦力が足りていなかった。
『艦隊全艦に次ぐ。本艦隊の目的は敵弾の破壊ではなく、一点に集中砲火を浴びせて軌道を狂わせ、無害ないし被害が軽微で済む地域に落下させる事にある。何としてでもこの座標には落とさせるな』
国連宇宙軍防衛総軍司令の土方竜大将が広域通信で流し、将兵一同は気を張り詰めさせる。そして目前に黒く巨大な物体が見えてきて、トーマスは目標を認識する。
『アレか…!』
『なんてデカさだ…』
かつて地球人類が大気圏内で争っていた頃に開発された、如何なる弾道ミサイルをも凌駕するサイズを持つそれに、多くの将兵が唖然となる。しかし敵の技術力と国力の高さに震え上がっている時ではない。
『艦隊全艦、攻撃開始せよ!』
「全機、突撃開始!ありったけのミサイルを指定されたポイントに叩き込め!」
トーマス以下8機の〈コスモデバステイター〉は急加速し、目前に迫りくる超大型弾道ミサイルの一点に照準。一斉に空対艦ミサイルを叩き込んだ。
16発もの大型ミサイルが一か所に集中的に叩きこまれ、艦隊各艦はそこを目印に砲撃とミサイル攻撃を集中させる。
この集中砲火によって巨大弾道ミサイルは僅かに軌道がぶれ、僅かに進路を曲げる。それに多くの将官が成功したと喜んだのもつかの間、弾道ミサイルは推進部の無数に搭載されたロケットの推力を微妙に変動させて進路を修正。そして仕返しとばかりに国連宇宙軍艦隊の近くを通過。ロケットから発せられるプラズマの波が艦艇を揺らした。
「うおっ!?」
トーマス機もプラズマの波に当てられて揺られ、トーマスは何とか操縦桿を動かして姿勢を正す。しかし幾つかのセンサーが損傷した様で、エンジンに異常が生じていないのが不思議なぐらいであった。
「なんて化け物だ…こちらの全力攻撃に耐えたどころか、進路を変えながら反撃してくるとは…」
「…おのれ、ガミラスめ…!」
自分達の無力さに、多くの将兵が歯噛みする中、弾道ミサイルはそのまま大気圏に突入し、日本列島九州南部に向けて落下していく。そして間もなく地面に着弾しようとしたその時、弾道ミサイルは突然爆発した。
過去の地球各国が開発したどの核弾頭よりも明らかに強力である事を示す様に、非常に巨大なきのこ雲がその場に生じ、多くの将兵は作戦が失敗したのだと考えた。
しかしその時、艦隊艦艇の1隻が広域通信を垂れ流しながら騒ぎ出した。
『おい、あそこを見ろ!何か出てきたぞ!』
「何…?」
「あっ…少尉、あそこを!きのこ雲の中から何かが出てきてます!」
ジャックが指示した方にトーマスは目を向け、そして驚愕の表情を浮かべる。
弾道ミサイルが生じさせたきのこ雲の中より、1隻の宇宙船らしき船が出てくる。しかしその船は、国連宇宙軍のこれまでの艦艇とは姿が大きく異なっていた。青色がかった黒と赤の二色が映えるその船は、第二次世界大戦時の洋上艦に近い姿をしており、艦首側に2基、艦尾側に1基の巨大な三連装砲塔を備えたその姿はまさに『戦艦』そのものであった。
謎の宇宙船の出現に多くの将兵が言葉を失っていたその時、「キリシマ」より指示を出していた土方が広域通信で言葉を発し始めた。
『艦隊各艦に告ぐ。先程地上の作戦司令部より通信があった。敵弾道ミサイルは我が軍の最新鋭艦、宇宙戦艦「ヤマト」の迎撃により撃墜に成功した。これにて本作戦は終了する。各艦、これより地球を救うために16万8千光年彼方へと進む彼の艦を見送られたし』
「「ヤマト」…!?」
「少尉、「ヤマト」って確か、200年以上前に日本が建造した戦艦の名前ですよね!?まさかあんなものを極秘裏に建造していたなんて…」
突然現れた謎の宇宙船に、トーマス達国連宇宙軍将兵の多くは動揺を露わにする。無理もない、この時彼らは知る由もなかったが、宇宙戦艦「ヤマト」は極東管区が『オペレーション・イズモ』を隠れ蓑に極秘裏に建造したものであり、ガミラスに対する防諜の目的もあって、現在宇宙空間に展開している部隊には一切知らされなかったからである。
自分達の全力攻撃でさえ歯が立たなかった巨大弾道ミサイルを容易く撃墜した謎の宇宙戦艦はそのまま大気圏を突破して宇宙空間に到達。艦隊の真横を通り過ぎていく。その艦体は非常に大きく、トーマスは改めてその宇宙船らしからぬ外見に衝撃を覚える。その戦艦はまさに、自分達空母航空団は宇宙空間における戦闘では弱小な存在であるかの様に思い知らせていた。
「…あの「ヤマト」が宇宙戦艦となって蘇ったとは…まさか、ビキニに眠る『モンスター』までも宇宙戦艦となって蘇ったりしないよな…?」
10世代も前の祖先の武勲を聞いて育ったトーマスは、「ヤマト」の後ろ姿を見つめながらそう呟く。
その日、極東管区が大マゼラン銀河の惑星イスカンダルからの協力を得て、その総力を挙げて完成させた宇宙戦艦「ヤマト」は往復33万6千光年の長き旅に向けて出発。残された国連宇宙軍艦隊はただ1隻で困難な道のりを歩み始めた「ヤマト」を見送りつつ、地球への帰還の途に就いた。
そして約8か月後の12月8日、「ヤマト」がコスモリバースシステムを携えて帰還するまでの間、彼らは「ヤマト」によって奪還された制宙権内で出来る限り多くの資源をかき集め、必死に故郷たる地球を守り抜いたのだった。
後書き
次回、建造計画です。
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