送り拍子木
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第一章
送り拍子木
本所入江町ではこの時奇妙な話が広まっていた。
「拍子木の声は聞こえるのに」
「それでも姿は見えないんだよな」
「一体誰が打っているんだ」
「それがわからないな」
「どうもな」
謎の拍子木の音の話でもちきりだった、それでだ。
この音の主が誰かということがわからなかった、それでどうしてもわからないで首を傾げさせていた。
だがここでだった。
江戸の火消しのまとめ役として有名な辰五郎が言った、火消しという荒くれ者達を束ねまとめる筋金入りの男だ。
結構歳はいっているが精悍な顔立ちで身体も引き締まっている、傾いた髷だが実によく似合っている。
その彼が周りに話した。
「その誰が打ってるかをな」
「頭がですかい」
「確かめますか」
「そうしますか」
「ああ、そうしてやるな」
自分の家にめ組の面々を集めて話した。
「それならな」
「そうしますか」
「頭自身が出られて」
「そうしてですか」
「それで悪戯ならよし、化けものならな」
それならというのだ。
「俺がこの手でな」
「やっつけてやるんですね」
「そうしてやるんですね」
「化けものだった時は」
「ああ、そうするな」
辰五郎は笑顔で言った、そうしてだった。
早速め組の面々を連れて夜に本所入江町に行ってみた、この時彼はめ組の者達に強い声で言った。
「いいか、火事だって聞いたらな」
「その時はですね」
「いつも通りですね」
「すぐにですね」
「ああ、火事場に飛んで行くぞ」
そうするというのだ。
「いいな」
「はい、その時はですね」
「もう迷わずにですね」
「拍子木のことは置いておいて」
「行きますね」
「俺達は火消しだ」
だからだというのだ。
「だからいいな」
「はい、その時は」
「そうしますぜ、俺達も」
「火事場に飛び込んでいきますよ」
「それが俺達の仕事ですから」
「おう、そうするからな」
こう言ってそうしてだった。
本所の見回りをしていった、そして。
その拍子木を探した、するとだった。
やがてその音が聞こえてきた、音を聞いた辰五郎はめ組の者達に対して真剣な顔になってこう言った。
「聞こえるな」
「ええ、拍子木ですね」
「俺達も聞こえます」
「はっきりと」
「まさにここが入江町だ」
それでというのだ。
「だからな」
「はい、ここはですね」
「調べますね」
「そうしますね」
「いいか、一刻位一人一人に別れてだ」
そうしてというのだ。
「町の中を探すぞ」
「誰が拍子木の音を立てているか」
「それをですね」
「今から手分けして探しますね」
「そうしますね」
「そうだ、そうするぞ。集まるのはここだ」
今この場所だと話してだった。
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