SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第二章 ~罪と罰~
その十三
(どうして?)
芙蓉楓は走っていた。
(どうして?)
答えの出ない問いを心に浮かべながら。
(どうして?)
目的も無く。
(どうして?)
ただ、走っていた。
* * * * * *
「はあ、はあ、はあ……」
どれだけの時間を、距離を走っていたのだろうか? 呼吸を整えつつ、周囲を見回す。すぐにここがどこなのかが分かった。一昨日、稟と共に来た光陽公園だ。わずか二日前だというのに遠い昔の事のように思える。
「稟、君……」
愛しい人の名を呼ぶ。何故、どうしてこうなってしまったのか? 一昨日、ここで稟に伝えた事が原因なのだろうか? いや、そもそも何故自分は逃げてきたのか? 頭がこんがらがって考えがうまくまとまらない。
(少し、落ち着かないと……)
そう思って噴水に近づく。水面に写った自分の顔を見て苦笑いが出る。自分では気づいていなかったが、涙で顔が酷いことになっている。流れる水から発せられる冷気のおかげで、少しづつ火照っていた体と頭が冷えていく。それにより、こんがらがっていた思考が回り始める。ついでとばかりに手を噴水の水に浸ける。
「冷たい……」
予想以上の冷たさに驚くが、かえって頭が冷えた。
(柳君……どうしてあんなことを……)
そして湧き上がる疑問。何故柳哉はあんなことを言ったのか? ただ楓を傷つけるためだけに言ったわけではない事は、柳哉の人柄を考えればすぐに分かる。ならばそれ以外の意図があったのではないか?
「……っ!」
そこで唐突に思い当たった。もしかしたら柳哉は……
「……もしそうなら、柳君は……本当に酷い人ですね……」
そうつぶやき、楓は小さく微笑んだ。
「楓ちゃん?」
「え……?」
振り向く楓。そこには八年来の幼馴染が立っていた。
* * * * * *
光陽公園の噴水前で、二人は向き合っていた。
「桜ちゃん、どうしてここに?」
「楓ちゃんこそ、どうしたの?」
「私は……」
どう説明するべきだろうか。とそこでひらめくものがあった。
「桜ちゃん、柳君に言われて来たんですか?」
「え、えっと、それは……」
挙動不審になる桜。その様子に笑みをこぼしながら、自分の予測が正しいことを確信する。
「桜ちゃん」
「え、えっと、何?」
「私は、幸せになってもいいんでしょうか? そんな資格が私にあるんでしょうか?」
「楓ちゃん……」
不安そうに自分を見てくる楓を、桜は思わず抱きしめる。
「桜ちゃん?」
「楓ちゃん。私はね、幸せになる資格は誰もが持ってるものだと思うよ。それに……」
昨日、柳哉が言っていた事を思い出す。
『俺は楓の幸せを願っていますよ。二人と同様に。それに……』
「柳ちゃんも言ってたよ。『幸せにならなきゃ、生まれてきた甲斐が無い』ってね」
「……そうですか、柳君が……」
やはり自分の予測は正しかった。柳哉は楓を決して許さないことで楓を罰したのだ。罪には罰を。それが世の常識だ。楓のかつての行いは“罪では無い”とされた。その内容は明らかに犯罪だが、当時は(というか今も)楓は未成年。さらに被害者である稟が加害者である楓をかばい、隠蔽までしていたため、犯罪として立件されることは無かった。
本来、芙蓉楓は心優しき少女だ。土見稟との出会いにより、さらに他人の痛みにも気を配れるようになってもいる。その楓が、稟がついた嘘のせいとはいえ、明らかに罪と分かる行為に手を染めていた。そしてその嘘が暴かれた後も、稟は決して楓を責める事はしなかった。罪を犯したのに罰が与えられない。その事実を幸運だと受け止められればよかったのだろうが、そもそも楓はそんな事ができる子ではない。
柳哉にもそれは分かっていた。だからこそ楓を罰する、という行為に出た。とはいえ、いくら罰されたとはいえ、それで楓の稟に対する罪悪感、罪の意識が消える事は無いだろう。だが、ほんの少しだけだが、楽にはなるだろう。余裕もできるだろう。以前のままの楓だったら、遠からず潰れてしまっていただろうから。
「……本当に、柳君は……酷い人です……」
「え……?」
「だって……私は、楽になってはいけないのに……」
楽になってしまった。自分も幸せになっていいんだ、と思ってしまった。そんな事、許されないと思っていたのに。
「楓! それに桜?」
「あ……」
「稟君……」
「……えっと、もしかして……お邪魔だったか?」
「「え?」」
思い出して欲しい。今の楓と桜はどんな状態なのか。答えを言ってしまえば、しっかりと抱き合っている状態である。しかも楓の顔には涙の跡も見える。いわゆる“百合の香り”が漂っている状態にも見える。
「「~~っ!」」
赤面しつつ離れる二人。シリアスな空気台無しである。
「で、大丈夫なのか?」
「は、はい。心配をお掛けしました、稟君」
「そっか。桜もありがとな」
「う、ううん」
そこで楓が口を開く。
「あの、稟君」
「? 何だ?」
「柳君を、責めないでくださいね?」
「……」
「……」
無言の稟。桜も口を閉ざしている。
「……分かったよ」
やがて根負けしたのか、稟が降参した。若干不満はあるようだが。
「ありがとうございます」
笑顔で感謝する楓。桜も笑っていた。
後書き
回想での柳哉の台詞は“――RAINBOW――二舎六房の七人”のアンチャンこと桜木六郎太の台詞そのままです。
アンチャンかっこいいですよね!
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