SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第二章 ~罪と罰~
その十一
前書き
若干無理な展開がありますが、目を瞑っていただけるとありがたいです。
その日の夕方、楓は商店街へ夕食の買い物に出ていた。
「よう楓、買い物か?」
後ろから掛けられた声に振り向くと、見知った幼馴染の姿があった。
「あ、はい。柳君もですか?」
「いや、俺はちょっと暇つぶしに」
そう言って楓の持つ買い物袋を見る。半透明の袋からはじゃがいもや人参、牛乳のパックなどが見えている。
「今晩はシチューか?」
「はい、クリームシチューにします」
少し笑って楓が答える。
「買い物はそれだけか?」
「はい、そうですけど」
「ふむ、それじゃ荷物持ちといきますか」
「え、でも……」
「気にするな。暇つぶしだって言ったろう? それに、帰り道は同じなんだからさ」
楓はまだ逡巡している。続けて柳哉は言った。
「男っていう生き物はな、太古の昔から“ええかっこしい”なんだよ。遺伝子レベルでな」
だからかっこつけさせてくれ、と続ける柳哉に苦笑して楓は言った。
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
「ん、まかされた」
そう言って楓から荷物を受け取る。
(これが稟だったら、頑として断ってるんだろうな)
とりあえずは成功。これで芙蓉家に向かう大義名分ができた。ちなみに水守家は芙蓉家から歩いて五分ほどの近場にある。楓が了承したのもそういった理由からだろう。
そうして柳哉は楓と共に芙蓉家に向かった。
(もしかしたら、これが楓と過ごせる最後の時間かもしれないな)
楓は柳哉のそんな内心にはまるで気づいていなかった。
* * * * * *
「ただいま帰りました」
「お帰り、楓って柳も一緒か」
「何か不都合でもあったか?」
にやり、としか形容のしようが無い笑みを浮かべる柳哉。
「いや、別にそんなことは……」
「ふーん?」
「だからその亜沙先輩や麻弓を彷彿させる笑顔をやめろ」
「へいへい」
まったく、とため息をつく稟。そこへ、
『稟、一度部屋に戻れ』
突然、頭の中に声が響いた。
「え?」
「稟君、どうかしましたか?」
「……いや、今何か声が聞こえたような……」
「そうですか?」
楓には聞こえなかったようだ。と、
『稟、これは“念話”と呼ばれる魔法の一種だ。それを使って、今話し掛けている』
また聞こえた。もしや、と思い柳哉を見ると、小さく頷いている。
『言いたい事を頭に浮かべればこちらでそれを拾えるから、そうしてくれ』
『……これでいいのか?』
『ああ、問題ない』
「あの、稟君? 大丈夫ですか?」
はっと気づくと楓の心配そうな表情が目の前にあった。
「ああ、大丈夫だ。ちょっとボーっとしてたみたいだ」
「おいおい、ボケるにはまだ早いだろ」
お前が言うな、とツッコミを入れたかったが、“念話”による会話は楓には聞かれたくないようなので我慢する。
「楓、夕食の準備しなくてもいいのか?」
「あ、そうですね」
そう言って楓は柳哉から荷物を受け取ろうとするが、柳哉はキッチンまで運ぶようだ。
『すぐに部屋に戻りな』
『……分かった。でも何でだ?』
『これから楓に“あの時”の事を聞くんだが、お前がいたら話し辛くなるだろう?』
それより、と続ける。
『準備はできてるのか?』
『ああ』
『なら稟は俺がいいと言うまで部屋で待機。まあ予習でもやってろ』
『トイレとか行きたくなったらどうすればいいんだ?』
『我慢しろ。そんなに時間は掛からないだろうからな』
そこで“念話”は切れた。しょうがない、と思って稟は部屋に戻ろうとするが、そこでそのことに気づく。
「器用な奴だな……」
柳哉が稟と“念話”を交わしながら、同時に楓とも会話を交わしていた事に。
* * * * * *
「楓、少し話があるんだが」
「何でしょうか?」
買ってきた食材をシンクの上に並べて、いざ調理に取り掛かろうとしていた所へ柳哉が話しかけてきた。
「……」
「?」
少しの逡巡の後、柳哉は口を開いた。
「ある程度の所までは聞いているんだがな……八年前のあの事件の後の事だ」
「!!」
楓の顔に驚愕が浮かび、続いて苦しげな表情へ変わる。
(まあ、当然だろうな)
柳哉の予想が正しければ、それは楓にとっては拭い難い罪の証なのだから。
「どうして……でしょうか?」
その事を証明するかのように震える声で問う楓に、柳哉は言葉を発した。
「光陽町に帰ってきてから、正確には楓と再会してからかな、お前に対してどうも奇妙な感情を抱いている自分がいるんだ」
恋愛感情ではない、ということは断言できる。しかし、
「意味不明な感情ってのはどうにも気持ち悪くてな、もしかしたらその事が関係してるんじゃないかと思ってな。まあ、ただの勘だが」
そう言って苦笑する柳哉。
「勘……ですか?」
「ああ。そして困った事に、この手の勘は外れた例が無い」
なので話してもらえないか、と言う柳哉。しかし、楓は沈黙している。
(流石に無理があったか?)
だが、本来の目的を話す訳にはいかない。“対処”ができなくなってしまう。
「……分かりました」
「……いいのか? 自分で言っておいて何だが」
「はい、それに……」
「それに?」
柳君には知っていてもらったほうがいい、と思いますから、と楓。
「……それは“勘”か?」
「はい、“勘”です」
そう言って楓は少し微笑んだ。
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