魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第99話:衣替え
前書き
どうも、黒井です。
前回あんな引きをしておいてあれですけど、今回は戦闘無しな回です。ようやっと判明した新キャラ、ガルドの過去とかの話となります。
ガルド・イアンがイヴ姉妹と出会ったのはF.I.S.の施設に連れて行かれてからの事だ。
出会った当初、イヴ姉妹は突然連れて行かれた事もあってガルドに対しても、主にマリアが警戒していた。だがこの頃からガルドは他者への気遣いが上手かった為、打ち解けるのにそう時間は掛からなかった。
もともと面倒見のいい性格だったガルドは気付けば集められた子供のお兄さん的ポジションに収まり、時に不安がる子供を元気付けたり、ナスターシャ教授に無理を言ってなけなしの食材を用意してもらい孤児院の子供達に手料理を振舞ったりした。連れて来られる以前は料理屋の息子として育ち、早い段階から料理を色々と学んでいたので彼の作る料理はマリアやセレナ達を含む子供達に好評であった。
そんな生活の中で、ガルドが一番親しくなったのがセレナであった。他者に慈愛をもって接し優しく微笑むセレナに、気付けばガルドは惹かれていたのだ。
しかしその生活は長くは続かなかった。
そもそもF.I.S.が子供を集めたのは、次期フィーネの器となる存在を集めたかったから。そしてフィーネの器となれるのは、シンフォギア適性を持つ女性のみ。
にも拘らず何故少数とは言えガルドの様な男が集められたのかと言えば、それは実験のモルモットとしてである。米国はシンフォギアを男でも纏い兵器として運用する方法を模索する為、少数ながら男児も集めて人体実験を行ったのだ。
大人でも厳しい訓練を課し、次々と作られたLiNKERの被検体として使われたガルド達少年組。幼い子供に耐えられる訳も無く、実験の影響や訓練に耐え切れず脱落して少女以上の早さで白い孤児院からは少年が姿を消していった。
ガルドはそんな中で少年として長く耐え続けた。訓練や実験で体がボロボロになろうが、セレナが居てくれれば、彼女の笑顔を見ればそれにも耐えられた。
だがそれも長くは続かなかった。所詮は少年の体力、大人以上に限界が来るのは早い。度重なる実験と年齢の割に厳しすぎる鍛錬に遂にガルドの体が耐えられなくなったのだ。
LiNKERの副作用で全身ズタボロになり、血を吹き倒れるガルドをF.I.S.の研究員はゴミの様に扱った。他の限界を迎えた少年少女と同様、彼も処分されそうになった。
それをウィズが救った。少年と言う年齢の割に、死しておかしくない状態となりながらまだ生きていた。ガルドの生命力に魔法使いの素質を見たウィズは、ガルドを魔法使いとすべく彼を研究員から奪い取り連れて行ったのだ。
勿論その時は騒ぎになった。だが魔法で姿を眩ませたウィズを探す術を、F.I.S.の者達は有していなかった。結局、ナスターシャ教授を始めマリアやセレナはガルドのその後の所在を知る事は無く、ただ2人の少女は突然のガルドとの別れを悲しんだ。
その後ガルドはウィズの下で魔法使いとして仕立て上げられる事となった。その手法は颯人の時と同様。未来視の魔法を使用し、彼にとって大切な女性の死――即ち将来やって来るセレナの死を告げ、助ける為の力を与えると言って魔法使いに仕立て上げた。
そうして魔法使いとなり、ウィズの下で鍛錬を積み、力を付けた。
そう…………颯人の前に、ウィズの元にはガルドが居たのだ。
だが、ガルドはウィズの前から姿を消した。
あの日…………実験でネフィリムを起動させた日、当初の目的通りガルドは危うい所だったがセレナを救った。絶唱を止めさせることは出来なかったが、それでもセレナが瓦礫に押し潰されて死ぬと言う未来は変える事が出来た。
問題はその後だ。当初の予定通り、セレナの死は回避する事が出来た。だがその直後、倒れたネフィリムと入れ替わるように新たな敵……ファントムが襲い掛かったのだ。
ガルドはセレナ達が逃げる時間を稼ぐ為、単身勝負を挑み戦った。ウィズもそれに参戦しようとしたが、彼には無数のメイジが襲い掛かりそれを妨害。
セレナを助けられるほどには力をつけていたガルドだが、未知数の力を持つファントムを相手に1人で戦うのは無謀すぎた。
結局彼はそのまま敗れ、そしてその後にやってきたワイズマンにより連れ去られたのだった。
***
「――――――うぅ……」
不意にガルドは瞼の向こうに光を感じ、ゆっくりと目を開いた。
目覚めるとそこは医務室のように見える部屋の中で、天井からの照明が彼を照らしていた。
「ここは……一体? 俺は、どうなった?……ぐっ!?」
訳が分からないながらも、とりあえず情報を得ようと体を持ち上げた瞬間、彼の全身を鋭い痛みが走った。
そして思い出した。自分はワイズマンにより掛けられた呪いの効果により、全身をズタボロにされ更にグレムリンによりセレナ共々フロンティアの制御室の天井から放り出された事を。
「ッ!? そうだ、セレナは――ぐぅっ?!」
自分はともかく、絶唱の後遺症により体が弱っているセレナに何かあっては事だ。ガルドはここに運び込んだ者にセレナがどうなったのかを聞こうと再び体を起き上がらせ、そして再び痛みでベッドに沈んだ。
そこへ、騒ぎを聞きつけたのかウィズとアルドが入ってきた。
「目を覚ましたようだな? まぁあの程度で死ぬほど柔ではないだろうが」
「ウィ、ウィズ――!」
ウィズとアルドの登場に、ガルドは目を見開いたと同時に理解した。ここは二課の施設であると。
あの時、トルネードの魔法により空中へ投げ出された2人はそのまま気を失ったのだが、地面に叩き付けられる前にウィズが2人を救出していたのだ。
そして助けられた2人はそのまま二課仮設本部の医務室へと連れていかれ、治療を受ける事となったのだった。
正直、ガルドは気不味くて仕方なかった。嘗てセレナの救出に赴いた際、ファントムが出た時彼はウィズに即座に撤退するよう言われていたのだ。当時の彼では勝ち目はないから、さっさと逃げろと。
だが当時のガルドはそれを突っぱねた。あのファントムがセレナ達を襲う可能性を秘めている以上、放置することはできないと。そうして無茶をした挙句敗北し、ジェネシスの虜囚となった彼はセレナへの想いを逆に利用されウィズ達と敵対する存在となった。謝罪してもし足りない。
「も、申し訳ありません、ウィズ。このようなことになってしまい……」
ガルドからの謝罪に対し、ウィズは大きくため息をついた。失望されたかと肩を落とすガルドだったが、ウィズは腕を組みそっぽを向いて口を開いた。
「全く……世話を焼かせる。だがまぁ、生きていると分かった時は素直に安心したぞ」
「え!?」
予想外のウィズの言葉に顔を上げるガルド。それに対しウィズは即座に取り繕うように言葉を紡いだ。
「だがお前に手を焼かされたことを忘れた訳ではない。勝手なことをしてこちらの手間を増やしてくれたことも、だ。それを忘れるな」
「は、はい。肝に銘じます」
改めて頭を下げたガルドに、溜飲が下がったのかウィズは一歩その場から引いた。代わりに前に出たアルドが、彼とセレナの現状を伝えた。
「ともあれ、無事で何よりでした」
「本当に、申し訳ありません。ところで、俺と一緒に吹き飛ばされた筈のセレナは?」
「そちらで寝ていますよ」
いわれてアルドの視線の先を追うと、今の今まで気付かなかったが隣のベッドに規則正しい寝息を立てるセレナの姿があった。とりあえずは無事な様子に、ガルドは心の底から安堵の溜め息を吐いた。
「セレナ……良かった」
「彼女もまた、ジェネシスにより利用されていたようですね。彼女にも呪いが掛けられていました」
「なっ!?」
恐らくは、接触を図った時点でセレナがガルドとマリア達装者の両方を手中に収めるのに都合の良い存在と気付いたのだろう。なのでガルド達を精神的に一度に縛り付ける為、セレナに呪いを掛けて満足に動けないようにした。
その事を当然ながら知らされていなかったガルドは、知らず知らずの内にセレナの体が蝕まれていたことを知り驚愕すると同時にジェネシスに対し怒りを燃やした。
「あ、あいつら――――!?」
「ご安心を。彼女に掛けられていた呪いは既に解呪してあります。もちろん、貴方も」
「感謝します、アルド。そして、もう一つ頼みがあります。図々しいとは思いますが、どうか聞いてはくれないでしょうか?」
強い決意を伺わせる目で告げてきたガルドに、アルドとウィズは一度顔を見合わせてから彼に向き合った。
「俺を、すぐにでも戦わせてください! 彼らを、ウィザード達を、マリア達を助ける為に!!」
今の自分が戦える状態でない事は理解している。だからこそ、ガルドは2人に頼んだ。アルドはあらゆる病や怪我に対処する術を持っており、ウィズの魔法は他者を癒す事が出来る。無論リスクはあるだろう。本来時間を掛けて癒すべき傷を、強引に癒すのだ。後で必ずしっぺ返しが来る。
「……後でしっぺ返しが来ますよ?」
「承知の上です。このまま何もせずに寝ているなど、それこそ俺が迷惑を掛けた全ての方達に面目が立たない。これまでの件で咎を受けると言う意味でも、お願いします!!」
ベッドの上でガルドは2人に頭を下げた。その様子からは確かな覚悟を感じた。ウィズとアルドは再び顔を見合わせる。その2人を、ガルドは目線を反らさずじっと見つめ続けた。
揺るがぬその視線に、アルドが折れたのか小さく溜め息を吐くと小箱を取り出した。そして小箱から薬液の入ったアンプルを幾つか取り出し、別の小瓶に入れ振り混ぜる。混ざり合った薬液は極彩色であり、正直に言って人間相手に使うような代物ではない。毒と言われても仕方ない物だが、アルドはそれを躊躇無く注射器に入れた。
そしてガルドの手を取ると、極彩色の薬液を彼の腕に注射した。
「ぐぅっ!? うぅぅぅぅぅぅ――――!?」
冷たい薬液が腕を中心に全身を駆け巡る感覚に思わず怖気が走る。流石に呪いでボロボロになった体を癒す程となると、その過程で不快感がどうしても出てしまうらしい。
しかしそれだけの価値はあった。全身の不快感が引いた時には、それまで全身を苛んでいた苦痛が綺麗さっぱり消えていた。流石の腕前とガルドは感心する。
「お見事です……流石……」
「あとは、これだな」
〈コネクト、ナーウ〉
両手を何度か握って開くを繰り返し調子を確認するガルドに、ウィズは魔法で新たなウィザードライバーと幾つかの指輪を取り出し放った。それは嘗て、ガルドがウィズと共に行動していた時に使用していた物だ。
「これは――!」
「お前にはこちらの方が似合っている」
ソーサラーのドライバーや魔法はジェネシスが用意した物。心理的にもそうだし、何か仕掛けられていないかと言う意味でも使い続ける気にはなれなかった。
それはガルドにしても同意見だった。ジェネシスに支配されていた証であるソーサラーはもう使いたくはない。
「ウィズ、アルド……感謝します!」
新たな力を授けてくれたウィズに感謝し、ガルドは今まで装着していたドライバーの代わりにウィザードライバーを装着しベッドから出た。
「が、ガルド君……」
「ッ!? セレナッ!?」
そこでセレナが目を覚ました。彼女は消耗しているだろう体で、それでも気力で体を起き上がらせた。アルドが言うには彼女に掛けられていた呪いも解呪されている様だが、失われた体力が戻るには時間が掛かる筈。当然と言うべきか、体を起き上がらせるだけでかなりの体力を使ったのか顔色が悪い。
「お、お願い、ガルド君……私も、連れて行って」
「なっ!?」
しかしそれでもセレナは、ガルドに同行を希望した。フロンティアにはまだマリアが居る。そのマリアの傍で、例え戦えずとも赴き支えたいと思っていたのだ。
言うまでも無くそれは危険な事であり、ガルド以上にセレナの体を気遣ったアルドが却下した。
「いけません。ただでさえ長い間呪いに苛まれていたのです。これ以上の無茶など――」
「無茶は承知の上です! でも! 姉さんを1人残して、放っておくなんてことできません!!…………う、うぅ――」
「セレナ!? あまり無茶をするな」
嘆願しただけで眩暈がしたのか、唐突に脱力しベッドから落ちそうになったセレナをガルドが支えた。
やはり今の彼女が動くのは無理がある。そう思ったアルドがセレナを説き伏せようとした。
その前にウィズが動き、彼女に魔法を掛けた。
〈リカバリー、ナーウ〉
「ッ!? ウィズ!?」
「ウィズ、何故です!?」
「この光……暖かい……」
癒しの魔法がセレナの消耗された体力を取り戻させ、彼女の血色が良くなっていく。それはつまり、セレナが多少の無茶をする事が出来るようになったと言う事に他ならなかった。
今のセレナを、癒したとしても行動させる事にアルドは当然ながら抗議した。
「ウィズ!? 幾ら何でもそれは危険です!?」
「かもしれん。だがこういう輩は力尽くで束縛しようと、何かを仕出かすものだ。それで無茶されて状態や状況を悪化されてはそれこそ本末転倒だろう。なら、望むままにさせてやって方が良い」
それに、とウィズが言葉を続けた。
「お前が彼女を守ってやればいいだろう。その為に力を付けたんだ。よもや出来ないなどとは言うまい?」
「そ、それは、勿論!」
「なら問題はないな」
それで話は終わりだと、ウィズは踵を返し医務室を出て行った。アルドが慌ててその後に続き、後にはガルドとセレナの2人だけが残される。
「…………本当に良いんだな?」
「うん! もう戦えないけど、それでも姉さんを助けたい!」
「分かった……行くぞ!」
自分からベッドから降り、ガルドの傍に立つ。ガルドは傍に来た彼女の体を軽く抱き寄せると、右手をハンドオーサーに翳した。
〈テレポート、プリーズ〉
2人は一瞬でその場から転移した。
目指すは、今正に心折れかけているだろうマリアの傍だった。
後書き
ここまで読んでくださりありがとうございました!
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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