提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・EX8
~ビスマルク:葛切り~
「ねぇ提督」
「あん?何だよ急に」
「提督って、金剛のどこに惚れたの?」
今回のチケット当選者はビス子ことビスマルク。リクエストされたのは『あんこを使わない和菓子』。実はビス子、日本文化にかなり馴染んでは来たものの、どうしてもあんこに抵抗意識があるらしい。本人曰く
『豆が甘く煮付けてあるとか、無理』
と、ミルク粥に砂糖をぶちこむお国の人が言っていた。まぁ、この辺りは国ごとの食文化の違いだからとやかく言うつもりは無いが。そこで俺はあんこを使わない上に暑いから涼しさを感じる葛切りを選んだって訳だ。しかも葛粉を使った本格的な奴だ。透き通る様な葛切りを物珍しそうに眺めていたが、きな粉と黒蜜をかけて一口食べたらそこからは勢いよくズルズルと食べていた。それが一段落したところでさっきの質問が飛んできた。
「第一印象は顔と身体付きだな。もろ好み」
「うわサイテー。っていうか仮にも奥さんである私に向かって、顔と身体で選んだなんてよく言えるわね」
「いや、むしろ昔からそこが疑問だったんだよな」
「どこが変なのよ?」
「いや、だってよぉ。初対面のハズの相手に対して『貴女の内面に惚れました!』って気持ち悪いを通り越して恐くね?」
割とよく聞く気がする女が男を責める常套句『見た目で人を判断するなんてサイテー!』。『いや、お前らもイケメン好きやろ?』とか色々とツッコミたい所はあるが、そもそも会ったばかりの人間を印象付けるのは何か?と言われれば外見だ。だから就職活動の時には小綺麗なリクルートスーツなんて物を準備して、美容室等で身嗜みを整え、少しでも面接官の印象を良くしようと奮闘するわけだ。逆にヨレヨレのスウェットにボサボサの頭で就職面接に行く奴はいないだろう。そこまで行くと勇者を通り越してただのバカだ。
恋愛に於てもそうだろう。出会いのキッカケは何であれ、第一印象は内面ではなく外面だ。いくら中身が聖人のような人であっても、外見が不衛生に見える人が魅力的に見える人間は恐らくいないだろう。だから見た目で選ぶな、判断するなは矛盾してるってのが俺の持論だ。
「しかもよ、初対面で『貴女の内面に惚れました!』なんて言われたら、キュンと来る前に『あれ、こいつストーカーじゃね?』って疑わないか?」
「う、言われてみれば……確かに」
初対面でいきなり内面に惚れた、なんて頭のおかしい発言をする奴はいないと信じたいが、もしもいたら胸のドキドキは恋の予感ではなく不安から来る動悸だろう。どう聞いてもストーカーの発言だもの。連絡先交換するフリしてお巡りさんを召喚せねば。
「でも実際、金剛は美人よね。羨ましいわ」
「そうかぁ?お前も大概美人だけどなぁ」
ちょっとからかい半分に、そんな言葉を投げ掛けてみる。ケッコンカッコカリ当初なら、顔を真っ赤にして照れ隠しにキレ散らかすか、小さく小声で『………………danke.』と言って小さくなるかだった。ところが今や、
「あらそう?ありがと。それなら総旗艦、私に乗り換えてみない?」
と悪戯っぽく微笑む余裕まである。こういうリアクションの成長を見ると、海外組も馴染んだなぁと思うわ。
「いや、それは無理だな。そもそもあり得ん」
「あら残念、8割本気だったのに」
「割と本気度強かった!?」
実際、公私共に一番身近な金剛の替えは居ない。この大組織且つ特殊な運用形態のウチが大きな破綻もなく円滑に回っているのは、実のところ金剛のお陰の部分が大きい。実戦での出番はかなり減ったものの、やはり鎮守府最高錬度の戦力はここぞと言う時に頼りになるし、減った出撃の機会の分の時間を、金剛は鎮守府内の組織を見回って問題が無いかを確かめている。本人は『暇だから散歩してるだけデスよ~』なんて言っていたが、悩みを抱えている奴を目敏く見つけて相談相手になってやったり、戦闘技術で伸び悩んでいる奴がいればその経験から適切なアドバイスをするか、その問題を解決できそうな相手を紹介する。そういう組織の潤滑油のような真似は、真似しようとしても出来る物ではない。陰が薄い本妻、なんて陰口を叩く奴も少なからずいるようだが俺も含めて大半の連中は感謝してる。
そして何より、金剛は魅力的な女性だ。元気溌剌でハイテンションな時の弾けるような笑顔、ちょっとしたミスをしてシュンと落ち込んだ顔、ちょっと焼きもち焼いてムッとした顔、疲れてソファで寝ている時の無防備な寝顔まで、コロコロと変化する顔は見ていて飽きない。よく『美人は3日で飽きる』なんて聞くがとんでもない。むしろ毎日新しい顔が見られるので毎日顔を合わせるのが楽しくて仕方無い。
そして金剛は気配りの人だ。出撃すれば同じ艦隊のメンバーへの目配りは怠らないし、普段の生活でも妹達や自分より幼い娘達に対して良き姉、良き先達としてその抱擁力で皆の事を見守っている。その一方で執務に於いては副司令官の様なポジションで俺が居ない時の業務代行をそつなくこなしてくれる上に、一緒に仕事をしているメンツの疲労具合を判断して適度に休憩を挟み、業務の効率を落とさない様にしてくれている。
そして何より、金剛と俺の身体の相性はすこぶる良い。あんまりこういう場で話す事ではないかも知れんが、疲れていようが迫られると否応なしにハッスルするからな。そしてそのまま明け方まで……なんてのも珍しくないから、明石にはしょっちゅう迷惑をかけている。他の奴とヤってもこうはならんからな、やはり俺にとって金剛の存在は特別と言える。
「……とまぁ、金剛の替えの効かない理由はこんな所だが。どうしたビス子?顔がげんなりしてるぞ」
「いや、まぁ、私が聞いたのがいけなかったのでしょうけど……あれだけ濃厚なノロケ話を聞かされたら疲れもするわよ」
こめかみの辺りを押さえながら、茶を啜るビス子。その顔は頭痛に苦しんでいるように歪んでいる。
「俺はノロケてるつもりはないんだがな……」
「自覚がないって恐ろしいわよね、全く。そういえば、あれだけシてるのに未だに子供が出来たって話は聞かないわね?」
「まぁ、妖精さん曰く妊娠出来るようになるのはケッコンしてからだからな。それも、普通の女性よりも確率は低い」
艦娘が妊娠しない、というのは最早常識の類いに近い。何しろ、子供を作る器官に艦娘の力の核たる物が収まっているから。それが錬度の上昇と共に身体と一体化が進み、ケッコンカッコカリが可能な錬度に達する頃には子宮内にも子供を宿すだけの余地が出来る。そしてケッコンカッコカリによって抑制されていた排卵機能が活動を始めて、子供を作る事が出来るようになる……という仕組みらしい。それでも艦娘の妊娠率が低いのは、『今は戦時中であり、自分達は戦闘要員なのだ』という精神的なブレーキが掛かってしまう為だろう……というのがウチの明石の見立てだ。
「提督が種無しって訳じゃないのよね?」
「バカ言え。俺のは元気よすぎてヤバいって言われたぞ」
一応不妊治療に近い物の為、俺の方の検査もしたのだが、精子の活力・量共に至って健康。寧ろ活力がよすぎて普通の女性なら一発必中位の物だったらしい。
「そっか。だから艦娘用の不妊治療薬を……」
「不妊治療薬っつーより、排卵誘発剤みたいなモンだって聞いたぞ?」
心理的なブレーキが掛かってしまうのなら、当たる確率を増やしてしまえって事らしい。なんともウチの明石らしい力業な解決法だ。
「ねぇ提督」
「……なんだ?」
「その薬、もう試作品が出来上がってて希望者に配ってテストしてるって言ったら……どうする?」
「そりゃあまぁ、協力するのは吝かじゃねぇが……っておい!?」
ビス子はいつの間にか立ち上がっており、カチャリとドアに鍵をかける。
「実はね……私も飲んでるの。薬」
そう言ってビス子は1枚、また1枚と服を脱ぎ捨てながら俺に近寄って来る。
「おいおい、まだ執務時間中で……」
「あら?そんなにしてて我慢出来るのかしら」
ビス子の視線は俺の愚息に釘付けだ。既にウォーミングアップは済ませたとでも言わんばかりに、ズボンを押し上げている。
「はぁ……幸い今日どうしても片付けないといかん書類は終わってるしな」
「きゃっ!?」
隙を突いて、ビス子をソファに押し倒す。執務室のソファは高級品だが、ちょっとした操作でソファベッドに出来るように改造済みだ。
「ちょっと待って、落ち着いてベッドに……」
「無理、待てん」
さんざん煽って火を点けた責任は、たっぷり支払って貰うとしよう。
後書き
半年遅れですが、今年のホワイトデー企画、完走しました。来年やるとしてもいつもの人数にしたいと思います……orz
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