魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
G編
第96話:希望を掴む為に
前書き
読んでくださりありがとうございます。
出撃した一行を出迎えるのは無数のノイズに魔法使い達。
颯人達の姿を認めた瞬間、魔法使い達からの一斉射撃が襲い掛かる。
「俺らに任せな! 透!」
「!」
〈ディフェンド、プリーズ〉
〈バリアー、ナーウ〉
放たれた敵魔法使いからの攻撃を、颯人と透の障壁が受け止める。障壁に次々と魔法の矢が直撃するが、2人の障壁はビクともしない。
颯人と透の2人が攻撃を受け止めている間にシンフォギアを纏った翼とクリスが、立ち塞がるノイズとメイジを薙ぎ払うべく技を放つ。
[騎刃ノ一閃]
[QUEEN's INFERNO]
バイク自体を巨大な刃と化した翼が颯人の陰から飛び出てノイズを次々と切り裂き、クリスのアームドギアがメイジを手当たり次第に撃ち落としていく。
颯人も負けじとウィザーソードガンでノイズやメイジを撃ち抜いていった。
彼らの怒涛の攻撃に、ノイズはあっと言う間に数を減らしメイジも次々と倒れていく。
その様子は本部でも確認されていた。アップデートされた事で魔法使いの持つ魔力にも反応するようになった本部のセンサー。マップ上に表示されていたノイズとメイジの反応が4人の出撃後あっという間に数を減らしていった。
その光景にあおいが感嘆の声を上げる。
「流石!」
一見するとこちらが優勢なように見えるが、しかし今蹴散らしたのは所詮雑兵に過ぎない。彼らは知っている。敵にはあんなのが比べ物にならない程強力な存在が控えている事を。
「問題なのは、こっちが装者2人なのに対して向こうは……何でか向こうに寝返った奏ちゃんを含めて装者が3人。加えて確認されているだけで魔法使いの幹部も2人で、しかも1人は透君を単体で圧倒するって事」
「それに金色の魔法使い、ソーサラーもな」
分かっている範囲でも装者の数でも魔法使いの数でも負けている。しかも魔法使いに関しては、現時点で確認されていう内だけでさらに増える可能性があった。
考えうる限りで最悪なのはワイズマンが直接出張ってくることだろう。ワイズマンの力は未知数だ。現状の戦力が束になっても、勝てると言う保証はない。
そんな危険が待ち受けている事など承知の上で、颯人達は生涯となるノイズやメイジを蹴散らしながら進む。
その道中で、透とクリスは颯人達とは別行動に入った。
「アタシらは予定通り、ソロモンの杖――ウェルの野郎を何とかしに行く! こっちは任せたぞ先輩! ペテン師!」
「あぁ、行ってこい!」
「そっちは任せたぞ!」
クリスは自分と因縁のあるソロモンの杖を奪還しにウェル博士の元へと向かった。透はそれについて行く。ウェル博士がジェネシスと結託している以上、魔法使い……取り分け幹部による妨害はほぼ確実に存在する事が予想されるからだ。
クリスと透の2人と分かれ、颯人と翼はノイズやメイジを相手に奮闘していた。ここで2人が派手に暴れれば、クリス達への負担は少しは軽くなる。
そう思っていた矢先、颯人達の耳にとんでもない通信が入ってきた。何と調が響と共に出撃したと言うのだ。
「何ぃぃっ!? あの2人が出撃した!? しかも調ちゃんだけならまだしも、響ちゃんまでって!?」
「今の立花は戦う力を持たない筈です!」
『そ~なんだけどね~。弦十郎君ってば、か~んぜんに響ちゃんに乗せられちゃってさぁ』
『うぐっ!? ま、まぁ、何だ? 計算で出す行動だけが全てじゃないって事だ』
「要するに博打打っただけじゃん」
「司令……」
弦十郎の下した結論に、颯人と翼は顔を見合わせると揃って項垂れ額に手を当てた。今2人の姿はカメラに映っていないので、オペレーター達は2人の様子を想像する事しか出来ない。
だが朔也やあおい達は呆れた仕草をする2人の姿を幻視し、その姿を想像し思わず笑みを溢す。
こんな状態だと言うのにそんな顔が出来るのは、肝が据わっている証拠だろう。
一方の颯人と翼はと言うと、響の行動力に頭を抱えたが、直ぐにその顔には苦笑が浮かんだ。呆れずにはいられないが、しかし何と言うか響らしい。ジッとしている事が出来ず、出撃してしまったのだろう。
「ったく、こりゃ後で響ちゃん説教してやらんとなぁ?」
「全くです」
互いに苦笑しつつ、蔓延るノイズを始末する2人。
その時、突如として2人の周りに無数の槍が降り注いだ。降り注ぐ槍は2人には命中せず、2人の周りに蔓延るノイズやメイジだけを正確に射貫く。
「「ッ!?」」
突然の事に身を硬くする2人。2人が動きを止めたのは、予想だにしない攻撃に驚いた訳ではない。いや確かにこの攻撃にも驚いたが、2人が何よりも驚いたのは降り注いできた槍の形状だった。
その槍は見紛う事ない、奏のシンフォギアのアームドギアだったのだ。
つまり、この攻撃は――――
「奏……」
思わず颯人が呟いた、その視線の先にはアームドギアを手に2人にゆっくりと近付いてくる奏の姿があった。彼女の目はどこか虚ろで、目の下には隈が浮いており普段の彼女の様子からは全く想像できない姿となっていた。
変わり果てた奏の様子と先の戦闘で彼女に不意を打たれた事で、翼が表情を硬くする。
翼が緊張したからか、それとも別の思惑があるかは分からないが、奏の姿を確認した颯人は翼の肩を掴むと彼女を自分の後ろに追いやった。
「は、颯人さん――!?」
「悪い、翼ちゃん。奏と2人きりにさせてくれ。頼む」
颯人の言葉に勿論翼は反発した。颯人に取って奏が特別な存在であり、2人が互いに想い合っている事は承知している。だがそれを配慮しても、譲れない想いは翼にだってあった。颯人1人に奏の事を任せる様な事はしたくない。
「待ってください! 奏の事だったら、私も――――」
思わず颯人に食って掛かる翼だったが、彼女の言葉は颯人の怒声により遮られた。
「頼むッ!!」
「ッ!?」
「……すまねぇ。だが奏の事に関しては、俺がケリを付けたいんだ。納得できねえかもしれないが、今回だけは俺に譲ってくれ…………頼む」
颯人の気迫に気圧された翼だったが、次に彼が真剣な様子で頭を下げてきたのを見ると先程までの興奮が一気に冷めるのを感じた。
彼の様な人物が、これほどまで真剣に頭を下げてきているのだ。こんな姿を見せられてしまえば、それを拒否する事に躊躇いを感じてしまうのは致し方のない事と言えるだろう。
「…………分かりました。奏の事は任せます。ただし、絶対に奏を連れ戻してくださいね?」
「言われるまでもねえよ。…………すまねえな、我が儘言って」
「いえ、気持ちは痛いほど分かりますから……。私は雪音達の方に向かいます」
「はいよ。気を付けてな」
翼が颯人から離れて行く。その様子を見ても奏の目は颯人だけに向けられ、翼には一切向けられない。ここまで来ると寧ろ、あの目は何かを見ているのかも怪しくなってくる。
だが翼の姿が見えなくなると、奏が口を開いた。その目は確かに颯人に向けられているが、目は依然として胡乱でまるで幽鬼の様ですらあった。
「颯人……やっぱり来ちゃったんだな」
「そりゃな。ジェネシスの連中やウェルは止めなきゃならねえし、奏も連れ戻さねえといけねえしよ」
颯人の答えに奏が顔を顰めた。心を締め付けられ、精神的な苦痛を感じている時の顔だ。その顔を見るだけで、颯人の心も苦しくなる。
「何で……何でまた変身しちゃったんだよ!? お前自分がどれだけヤバい状態だか分かってるのか!?」
「何の事だよ?」
「聞いたんだよ。颯人は透とは違って戦い続けるとその内体に限界が来るって……。このまま戦い続けたら、ヒュドラみたいにファントムになっちまうって!?」
「……誰に?」
颯人には勿論身に覚えがない話だ。仮に事実だったとしても、ウィズがそれを周りに漏らすような真似はしない。その事実を誰かに告げるとしたら、それは間違いなく颯人だけだろうし、その場所は絶対に第3者の耳に届かない場所を選ぶ筈だった。
つまり、奏にそんな事を告げたのはジェネシスの誰かという事になる。颯人はそれが誰なのかが気になった。
「……グレムリンって奴。そいつが言ってたんだ……颯人はアタシが本来受ける筈だった負担を請け負ってる所為で体がボロボロになってるから、変身し続けて魔力が上がればいずれ魔力の器である颯人の体が耐え切れなくなるって……」
気付けば奏は目から涙を流していた。涙ながらに奏が口にする颯人が辿る最悪の結末。その内容に颯人は表情を険しくさせた。
それはその内容が不愉快だからではない。不愉快でないと言えば嘘になるが、颯人が癪に障ったのはそこではない。
颯人が気に入らないのは、自分の本当に実現するかも分からない結末をダシに奏を惑わし、誑かしたことが何よりも気に入らなかった。
心の中で颯人は奏が言うグレムリンと言うジェネシスの幹部に対し怒りを燃やす。
「……んな戯言信じるのかよ? 大法螺に決まってんだろ?」
そう言って颯人は優しく奏を説得しようとするが、奏は聞く耳を持ってくれない。寧ろ先程以上に興奮した様子で颯人に捲し立てた。
「でも最近ずっと颯人がファントムになって死ぬ夢を見るんだ!? こんな偶然あるか!?」
「別に奏は特別な能力者でも何でもねえだろうが。何そんな夢位でビビってんだよ、しっかりしろ」
「じゃあ逆に聞くけど、颯人が絶対ファントムにならないって保障があるのか!? 未来が見える訳でもあるまいに、何でそんな楽観的になれるんだよ!?」
冷静さを完全に欠き、喚く奏を颯人は説得するがやはり効果は薄い。
こうなったら、多少なりとも荒療治をするほかないだろう。
「じゃあ仕方がねえな。口で言って分からねえなら、力尽くでだ」
「上等だ……颯人はもう戦わせない。アタシがお前を止めてやる――!」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
ウィザーソードガンを構える颯人とアームドギアを構える奏。
一触即発の空気の中、しかし颯人の口元には笑みが浮かんでいた。
「そういや、最近はあんまりガチの喧嘩はやらなかったな。折角だ、久し振りに思いっきり喧嘩しようぜ奏」
***
フロンティア上での戦いは激化しつつある。クリスと透はウェル博士達が居るフロンティア中枢へと向かいながら立ち塞がるノイズに魔法使いを蹴散らし、翼もそれに近付きつつある。
一方遅れて出撃した響と調だが、調は突如として立ち塞がってきた切歌と戦う為響と別れた。今、響は1人でフロンティア中枢へと向かっている。
それら戦いの様子を、マリアがフロンティアのブリッジから見ていた。
数ある戦いの中でも、彼女が注目せずにいられないのは切歌と調の戦いだ。元々仲間で、しかも仲が良かった筈の2人が戦い始めた事に膝を折らずにはいられなかった。
「どうして……仲の良かった調と切歌までが――――!?」
崩れ落ちたマリアに、ソーサラーがそっと肩に手を置く。彼にはそれしか出来る事が無かったからだ。
だがマリアはこの状況で対にソーサラーに縋った。今まで幾度となく自分達を支えてくれた彼なら、或いは――――――
「ねぇ、私どうしたら良いの? 私、こんなものが見たいが為にやって来た訳じゃないのに……」
マリアからの問い掛けに、ソーサラーは何も答えない。ただ肩に手を置き、苦しそうに顔を俯かせるだけだった。
それがマリアの神経を逆撫でした。この状況で、頑なに何も語らず助言もしてくれない彼にやるせない気持ちをぶつけたのだ。それはただの八つ当たりでしかないが、精神的に追い込まれた今のマリアの状態を考えればそうなるのもやむを得ないだろう。
「何で? ねぇ何で何も言ってくれないの!? 何時も何時も、何であなたは私に何も――――」
その時、一瞬ソーサラーとマリアの視線が交錯した。仮面越しにだが、マリアにはソーサラーと視線が混じり合ったのが分かった。
その時、マリアは既視感を感じた。今の感じ、覚えがある。
自分は彼を……ソーサラーを、知っている?
「あなた……あなたは、誰なの?」
「ッ!?」
何かに気付いた様子のマリアに、ソーサラーが静かに息を呑み顔を逸らせた。
「ぷ……くくく……アッハハハハハハハハハハ!! ヒャハハハハハハハハハ!!」
彼がマリアから顔を逸らした、それを見て笑い声を上げる者が居た。グレムリンだ。何時からここに居たのか分からないが、メデューサの隣にグレムリンが居て腹を抱えて馬鹿笑いをしていた。
一体何がそこまで面白いのか、目尻には涙を浮かべ壁をバンバン叩いている。
明らかにソーサラー達を馬鹿にした様子のその笑いに、マリアが憤りを覚え立ち上がる。
「何よ……あんた、何がそんなに――――!?」
笑うグレムリンにマリアが食って掛かろうとしたその時、ナスターシャ教授からの通信が入った。
『マリア』
「ッ! マム?」
突然の通信にマリアが目を丸くしていると、ナスターシャ教授は近くにウェル博士が居ないのを見て安堵し、しかし離れた所にグレムリンとメデューサが居る事に視線を険しくさせた。
『ソーサラー、マリアを。マリア、フロンティアの情報を解析して、月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました』
「え?」
『最後に残された希望……それはマリア、貴女の歌が必要です』
「私の……歌……」
ナスターシャ教授の言葉に、マリアが呆然としながらオウム返しをした。
そのマリアとメデューサ達の間には、彼女を守るようにソーサラーが立ちはだかる。
そして、そんな緊張感の漂うブリッジの中の様子を、入り口の陰からセレナが壁に手をつき荒く息を吐きながら見つめていた。
後書き
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
ページ上へ戻る