ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜
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第七十三話 標
前書き
作品作りとか意識していなかった7年前のことを言っても仕方ないと思うんですけれど完全にミレイの原作知識設定死んでますね。
ゴールドオーブの行方がどうなったのかは判明した。
しかし場の空気は静寂に包まれてる。
今しがた展開されたアベルの壮絶な過去に圧倒され、誰も口を開くことができなくなっていた。
「……ゴールドオーブは破壊されていました。何か手段などはありますでしょうか?」
しかしその静寂を他ならぬアベル本人が打ち破る。
「えっ。ええっと、そうですね」
しどろもどろになりながら、努めてプサンは平静を装っていた。
「ゴールドオーブとシルバーオーブは数千年も前にある妖精の女王から賜ったものなのです。彼女に協力を求められれば、きっと新しいものを授けてくれるでしょう」
話が変わったことで、先程までの重くなっていた空気はいくぶんか和らいでいた。
しかし真っ青な顔になったレックスとタバサの顔を見ると、あの光景は未だにこの場にいる全員に焼き付いてしまっている。
「妖精の女王はどこにいるかわかりますか?」
「彼女は人間界とも妖精郷とも隔絶された空間に居を構えています。そこに通じる道は妖精郷の長のみが知っているでしょう」
プサンは目を閉じて小声で何やらぶつぶつと唱え始めた。
しばらく何をしているのかはわからなかったが、アベルの腰元に括りつけられた地図が淡い虹色の光を放っていることに気づく。
「妖精郷へと至る路がある場所の標を地図に現わしておきました」
「ここは……サラボナの近くか」
横から地図を覗き込むと、サラボナの近くの一点に虹色の炎が揺らめきながら灯っている。
「私はここに残って天空城の管理をしています。どうか皆さん、ゴールドオーブをよろしくお願いします」
「……お父さん、大丈夫?」
プサンの力で天空城から戻った後。
今まで口を開かなかったレックスが真っ先に口を開いた。おそるおそる慎重に。
「泣いて、いいんだよ」
「レックス…………」
「辛いときは泣いていいと、私も思います」
タバサも兄に続いて口を開く。
少しの間アベルは唇を固く結んでいたけれど、それを優しく緩めた。
「ありがとう二人とも。でも大丈夫。もう辛くはないよ」
ポンと。
レックスとタバサの頭を撫でる。
「本当に大丈夫なの?」
「平気、なんですか?」
「そう言ってくれるだけで嬉しいよ」
柔らかな笑みをアベルは我が子に向ける。何かを覆い隠すように。
ルーラでグランバニアに帰還する。
冒険が一区切りついた後のいつもの流れだ。
「……泣かなくてよかったの?」
その流れの途中で私はアベルにたずねた。
私達に気を遣っていたのはわかる。
だとしてもレックスとタバサに聞かれるまでパパスさんのことを口に出さず、口に出させようとしなかった。
それだけじゃなく、天空城を出た後もしばらくは足が止まってもいいはずなのに目的地まで一切の迷いなく向かおうとしているその姿にどこか私は危ういものを感じた。
「感じるものがないわけじゃないさ。けれどそれで皆の歩みを止めるわけにはいかない」
しかしアベルは表情を崩さない。
声にも何も感傷めいたものを出さない。
「思いやってくれるのは嬉しいんだ。でも僕はもう子供じゃない。今までずっと戦ってきて、前に進んできた。父さんが遺した願いを無駄にしないためにも」
不安が口を衝きそうになった。
立ち止まれずに前に進むしかなくなったアベルに少しでも立ち止まってほしかった。
けれどそれは私が自分の不安を解消したいという自己満足でしかない。
「報告が終わったら、なるべく早くサラボナに行きましょう。一刻も早くゴールドオーブの手がかりを求めないと」
だから私はアベルと共に、突き進む道を選ぶ。
それが自分にできる唯一のことだからだ。
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