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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第七十二話 追憶

 
前書き
久々の更新ですみません。 

 
「ついてきてください」
 プサンに従って私達は天空城を進む。
 湖の底に沈んでいるのに互いの姿を確認できたり、呼吸に不自由がないのは妙に思えたけれど、プサンの説明によれば天空城の結界の機能によるものらしい。どうやら外界との時間と空間を隔絶させた上で凍結させるのだとか。
 その証拠か彫像のようになった天空人たちがいたるところに見受けられた。
 私達がこうして結界の中に入れるばかりか自由に活動できるのもプサンが結界の仕組みを熟知しているかららしい。
 階段を上ると、ここ数年王城を訪れたり王城で生活するようになって見慣れ切ったものが目に入った。
「あれって王様のイスだよね?」
 目に飛び込んできたのは玉座だった。しかしその大きさは人間のために作られたものではない。そこに坐するのは巨人かそれとも。
「すっごく大きい……!」
 タバサは未知の玉座に知的好奇心を刺激されたのか普段からは考えられないほど目を輝かせている。
「玉座に興味を持ってもらえたようで何よりです。しかし大事なのはここではないのです」
 プサンは玉座の裏に回り込み、床の上で手を掲げる。再び光の紋章が浮かび上がると、たちまち床は消え失せ階段が現れた。
「ここは天空人の中でも秘中の秘なのですが、皆様にだけお見せいたします」
 いたずらっぽく笑いプサンは階段を下りていく。
「ミレイ。正直どう思う?」
 アベルが耳元でそっとささやいた。
「プサンのことなら正直心配いらないんじゃない? タバサが大丈夫だって言ってたし」
「だけどあの男があまりにも天空城の主として絶大な力を持っているのに、素性の殆どがわからないのはやはり信頼しきれない」
「アベルがあの人を信頼しきれないのは何故? あなただって邪悪の見分けはできるでしょ?」
 同じエルヘブンの血が流れ、魔物使いとしての力が出ているのはタバサだって同じなのに。
「……そうだな。別に彼が明確に悪事を働いたわけじゃないし、邪悪な気配はしない。ただ素性がわからないというだけで今この場では最も頼りになる人だろう」
「なら何故?」
「怖いんだ。もしプサンが何かを企んでいる悪の使徒だったら。僕がそれに気づかず看過した結果子供たちに悲劇が訪れたら。僕はそれが怖い」
 アベルの声は強張っていた。まるで石のように。
 過ぎ去った月日を想う。
 実際経ってみれば8年はあっという間だったけれど、その間に起きた出来事はあまりにも多すぎて、いつまでもただ前を向いていられた少女じゃない。
 アベルの心はどうなのだろう。
 8年という月日はアベルという石をどのように彫り刻んだのだろう。
「怖かったら怖くてもいいよ。あなたがプサンを信じられないならそれでいい。私が代わりに信じるから。もしプサンが魔物だったらその時はお願いね」
「任せといてくれ。ミレイ」
 それ以降は私達は喋らずプサンが案内する廊下を突き進む。
「さて、ここが皆様にお見せしたかった場所です」
 玉座の裏の隠し階段。
 その最奥は青で塗りつぶされた巨大な天窓がある部屋だった。他にあるものは銀色の宝玉が宙に浮かんでいる台座だった。
 そして床には巨大な穴が穿たれていた。
「なるほど。全て把握できました」
「なにがあったの?」
「ここは天空城が浮かぶのに必要な制御室だったわけです。しかしその制御に必要なゴールドオーブがあの穴から落っこちたことで安定性を失い、結果天空城は湖に沈んだというわけです」
「なんで穴をふさがなかったの?」
 レックスの質問にプサンは少し口ごもってからバツが悪そうに言った。
「数百年前邪悪なるものに穴を穿たれてから、この城は既に持っていた力の大半を失っていたわけです。それを誤魔化してなんとか修復していたですが、この城の主がいなくなってから再び魔族の王が誕生したことの影響で穴が復活してしまい、そしてゴールドオーブが落ちてしまったのです」
「あれだけの力があるのに?」
「人に限らず魔物に限らず神に限らず。ただできることとできないことがあるという話です。さて過去の話をしていてもしょうがない。ゴールドオーブの位置を探し当てなくては」
 プサンは台座に手を当て意識を集中させる。金色の光が台座に溢れたがすぐに輝きは収まった。
「やはり長い時が流れたのか完全に探し当てる事はできません。しかし……」
 プサンはアベルの方に視線を向ける。
「あなたとの間にゴールドオーブとの縁を感じます。少々よろしいですかな?」
「はい」
 アベルの体にプサンは手を触れる。
 すると金色の輝きが溢れだし、制御室全てを埋め尽くした。光の中に何かが見える。
「もう少し解像度を上げます!」
 金色の輝きが強くなる。
 それと同時に私達がいる場所はもはや制御室ではなく古びた城になっていた。
 墓の前にいる少年と少女は髪の色からすぐにわかる。幼き日のビアンカとアベルだ。
 ビアンカが草むらから金色の宝玉を拾い上げ、アベルと二人で微笑みあった。
 次に場面は切り替わる。
 少年のアベルが金色の宝玉を手に幼獣のゲレゲレと走り回っている。
 更に場面は切り替わる。
 それは先程までのような微笑ましい場所などではない。薄暗い古代の遺跡だった。
 屈強な戦士が醜悪な魔物達に嬲られているが、自分に与えられている苦痛などには戦士は意識を向けていない。
 彼の視線の先には愛しい息子の姿があった。
 散々嬲られた末に父親は灰になる。
 息子の懐から零れ落ちた金色の宝玉は醜悪な魔物によって打ち砕かれた。
 全てが夢だったのではないかと思うほど唐突に制御室へと私達は戻ってきた。
 真っ先に私はアベルの顔を見る。
 いつも穏やかな、あるいは勇敢だった彼の顔は幼い子供のようだった。

 
 

 
 

 
後書き
このシーン原作プレイしていてプサンのデリカシーのないと感じたのは自分だけではないはず。 
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