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犬と曾祖母のお陰で

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第二章

 だが一人で子供を育てる力がなくそれでだったのだ。
「無責任な話ね」
「母親はもう勘当されていて赤ちゃんも引き取らない」
「そう言ってきたし」
「じゃあ赤ちゃんどうなるの?」
「一体」
「それならね」
 博之がここでまた言った。
「赤ちゃんうちの娘にすればいいんだよ」
「えっ、うちでか」
「赤ちゃんうちの子にしてか」
「そうしてうちで育てる」
「そうしろっていうの」
「そうしよう、お母さんがいないなら」
 博之は話を聞いてこう解釈した。
「それならうちの子供なって」
「それでか」
「うちで育てるか」
「うちの娘として」
「そうして」
「僕の妹にして」
 そしてというのだ。
「育てよう」
「それでいいね」
「ワンッ」
 曾祖母のマキも頷いた、白髪ですっかり小さくなった身体で穏やかな皺だらけの顔の九十になる老婆である。
「じゃあそうしよう」
「ワンッ」
 丁度彼女の横にいたハナもそれがいいという感じで鳴いた、曾祖母はさらに言った。
「このままだとどうなるかわからないしね」
「赤ちゃんもどうなるか」
「孤児院に入るしかないし」
「それはそれで暮らしていけるけれど」
「やっぱり家族と一緒の方がいいわね」
「丁度私は今はいつも家にいるしね」 
 それでとだ、曾祖母は笑って話した。
「私が育てるよ」
「ひいお祖母ちゃんがなんだ」
「そうしてくれるんだ」
「それじゃあ」
「この娘は」
「任せてね」
「ワンッ」
 ハナも尻尾を振って応えた、そしてだった。
 赤子は弓香と名付けられそのうえで曾祖母によって育てられた、彼女は優しく穏やかに赤子を育て。
 ハナはいつも赤子の傍にいた、そのうえで温もりを与え。
 令和になった頃にだ、弓香はすっかり成長して四十に達し結婚して娘もいたがもう村から市になっていて赤子の頃と比べてかなり拓けた家の周りを歩きつつ娘達に話した、そこにある山の一つを指差しながら。
「お母さんはあそこにいたのよ」
「いつもお話してるね、お母さん」
「あの山にいたって」
「それで犬に助けられて」
「犬とひいひいお祖母ちゃんに育てられたって」
「そうよ、博之叔父さんがお母さんを家族にしようって言ってね」
 娘達に笑顔で話していった。
「それでよ」
「ひいひいお祖母ちゃんとハナってワンちゃんがいつも傍にいてくれて」
「赤ん坊のお母さんを育ててくれたのね」
「ひいお祖母ちゃんもハナもお母さんが小学校に入る時に亡くなったけれど」
 それでもというのだ。
「ずっと一緒にいてくれたのよ」
「それで今のお母さんがあるのよね」
「そうよね」
「そうよ」
 中学生になっている娘達に話した。 
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