オーバーロード ~もう一人の超越者~
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第2話 模擬戦闘(前編)
前書き
とりあえず上げときます。
夢を見ていた。
夢の中では、赤と黒を基調としたダンスコートに身を包んだ金髪の男性ーーー駆紋戒斗と、青い服と白のズボンに身を包んだ清潔感のある黒髪の男性ーーー葛葉絋汰が向かい合っていた。
互いの背後には無数のインベスが所狭しと肩を並べている。
「やはり、最後まで俺の邪魔をするのはお前だったかーーー葛葉絋汰」
「戒斗......」
迷う様な素振りの後、絋汰は口を開いた。
「お前は......何がしたいんだ?」
「今の人間では決して実現できない世界を、俺が......この手で創り上げる」
戒斗は迷う素振りも見せず言い切った。
「なんだよ、それは」
「弱者が踏み躙られない世界だ!」
それを聞き、絋汰はまた視線を落として唇を噛んだ。
「誰かを虐げる為だけの力を求めない。そんな新しい生命でこの地球を満たす......舞と一緒に、知恵の実を使って!」
「今の世界で、それは無理だって言うのか?」
「それが俺の生きてきた時代だ。誰もが強くなる程、優しさを忘れていった!」
「強くて優しい奴だって大勢いた!皆この世界を守ろうと必死だった!」
「そんな奴から先に死んでいった!優しさが仇となって本当の強さに至れなかった!」
戒斗は絋汰を睨み付けながら、人差し指を差し出した。
「貴様もそうだ、葛葉絋汰!」
「いいやーーー俺はお前だけには負けない!」
右手に戦極ドライバーを装着ながら、絋汰は口を開く。
「お前を倒し、証明して見せる。ただの力だけじゃない......本当の強さを!」
右手にオレンジロックシードを握り締めた。
「それでいい」
戒斗も戦極ドライバーを装着した。
「貴様こそ、俺の運命を決めるに相応しい」
【バッナーナ!】
【オレンジ!】
「うぉおおおおおお!」
絋汰の咆哮と共に両者が変身して、アーマードライダーとなり、戦いの火蓋が切って落とされた。
音速を超える剣戟と体術で繰り広げられる街中での乱戦。
大将同士の一騎打ちに両陣営のインベスが割り込み、入り乱れる
「葛葉ァ!」
「戒斗ォ!」
アーマードライダーからインベスの姿へと変身した戒斗は持っている巨大な剣で絋汰に襲い掛かる。
絋汰も大鎧のアームズに変えて背中の旗で応戦する。
「戒斗!悲しみや絶望の他に、手に入れたものはなかったのか!その怒りだけがお前のすべてだったのか!?」
凄まじい剣戟に旗が悲鳴を上げて折れる。
「そうだ!弱さに痛みしか与えない世界ーーー強くなるしか他になかった世界を俺は憎んだ!」
二本ある旗が両方とも折れて、ただの棒になっていたが、それでも剣を受け止めて押さえ付けた。
「今そのすべてを滅ぼす力に手が届く!貴様を超えたその先に!」
旗を叩き落とした戒斗は神速の蹴りを絋汰の胴体に打ち込む。衝撃で大きく蹴り飛ばされた絋汰に更に追い討ちをかけるよう、戒斗は距離を詰める。
「超えさせない!超えちゃならない!戒斗、それがお前にとっての俺だ!」
絋汰は白銀の甲冑を纏う姿に変身して、その剣を受け止めた。
「葛葉ァ!」
「戒斗ォ!」
お互いの巨大な剣が音速を超えて交錯する。
剣が振われるだけで地面は割れ、周辺の空気にも衝撃が走る。
「俺は......お前なら禁断の果実を託しても良いと、そう思っていた!」
「......」
無言のまま、戒斗は蹴りを放つ。その蹴りが絋汰の持つ剣を弾き飛ばし、そのまま流れる様に剣の斬撃と蹴りの連続技を絋汰に叩き込んだ。
「今のお前に、禁断の果実は渡せない!渡しちゃいけない!」
「お前はいつまで上から目線でいるつもりだ?」
「なんだと!?」
「託しても良い、渡せない......お前は俺より上に立っているつもりか?俺はそんなお前の態度も気に入らなかった!」
絋汰は仮面の下で目を見開いた。
怪物の姿となった戒斗の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。
「どうした?もう後は無いぞ!」
二人の苛烈な戦いは速度と威力を増していく。
だが、そんな戦いにも終わりが訪れる。
絋汰は防ぎきれず、左肩から胸に掛けてモロに斬撃を受けてしまう。
「これで......終わりだ!葛葉ァ!」
肩から血が吹き出す絋汰に切先を突き立てて戒斗は剣を振り下ろした。
「それでも......俺は!」
絋汰は持てる力すべてでその剣を右肩と右腕で受け止めて剣先をへし折り、戒斗の胸部に折れた剣先を突き刺した。
突き刺してさらに、体重を乗せた拳を叩き込み、折れた剣先が戒斗の胸部を貫通した。
戦いは絋汰の勝利に終わった。
怪物の姿から人間の姿になった戒斗を、同じく変身を解いた絋汰が胸で抱き締める。
お互い満身創痍で絋汰も重症だった。
「ーーー何故だ?何がお前をそこまで......」
「『守りたい』という祈り、『見捨てない』という誓いーーーそれが俺だ!俺のすべてだ」
戒斗を抱き締めながら、絋汰は悲しみの涙を流した。
「ーーー何故泣く?」
痛みで泣いている訳では無い事は戒斗にも分かっていた。
絋汰の顔が悲痛に歪んでいるのを見て、何を感じているのか分かったからだ。
「泣いていいんだ......それが俺の、弱さだとしてもーーー拒まない!俺は泣きながらでも前に進む!」
頭からも血を流し、涙と鼻水で顔を歪ませ、嗚咽を溢すその姿は、駆紋戒斗の中の勝者の姿とはとても程遠い。
だが、こんな男に負けたのかという悔しさや恨みはない。
勝った者が泣き、負けた者が笑っていると言うのもある意味、悪くないのかも知れない。
「ーーーお前は、本当に強い」
その言葉と右手の拳を絋汰の胸に叩き込み、駆紋戒斗はこの世を去った。
始まりの男となった絋汰は舞と共に、宇宙の果てにある生物のいない星で一から世界を作る選択をして、去っていった。
「祝福された世界を追われ、荒野へと去った男と女。新たな創世の神話がまた一つ......次はどんな種族が進化の試練へと向き合うのだろうな?」
その声は割と近くから聞こえた。
「よう」
ターバンを巻き、何処かの民族衣装を纏った男がそこには立っていた。
手にはアタッシュケースが握られており、異質さを放っている。
「......アンタは?」
「俺が何者かーーーそんなのはどうでもいい。重要なのはそこじゃない。だが、まぁ......以前はサガラとか呼ばれてたから、そう呼んでくれて構わない」
「前?」
「さっきお前も見てただろ?知恵の実を巡る死闘。あの後、新しい知恵の実が芽吹いたのさ」
「芽吹いた?......どこに?」
「どこにってそりゃーーーまぁいい。お前がどんな選択をして、どんな未来を歩むのか、楽しみだな......木場七海」
サガラは持っていたアタッシュケースをナバナに渡した。
「......開けても?」
「お前にやるよ。今のお前に必要なモノだ」
アタッシュケースの中には刀のようなパーツの付いた黒い板状の何かが入っていた。
「これは......」
さっきの決戦の中で二人が腰に装着していたモノだった。
「確か......こうだったか?」
見様見真似でナバナは腰に装着した。
瞬間、ナバナの頭の中に流れたのは、この装置の名前と使用方法、その用途に至るまでのすべての知識が流れ込んできた。
まるで動画を見せられているように使い方が分かってしまった。
「戦極ドライバー......ーーーなるほど。こう使うのか」
「使い方は分かったみたいだな。だが忘れるなよ?力を持って成せるのは破壊だけだ」
「ーーーどうかな。使い方次第だと俺は思う」
その回答に、サガラは少し驚いた表情を浮かべていた。
ナバナの意識が段々と遠のいていく。
夢の世界から、ナバナの意識がなくなった。
「まったくーーーアイツと同じ答えだ。なんだか似てるな、葛葉絋汰に」
誰にも聞かれる事のないサガラの声が、夢の世界に消えていった。
ーーーNow Loading......ーーー
ナバナが目を覚ました時、馬乗りになるようにエントマがこちらをじっと見つめていた。
「やぁエントマ。」
「呑気ですね。この状況で軽口が叩けるとは」
「眠っている間ではなく、俺の意識がある時に甚振って殺すのが目的かい?」
「そうですね。貴方が挙げる悲鳴には大変興味がありますね」
ゆっくりとエントマはナバナの頭を昆虫のような鋭い足6本で掴んだ。
「質問に答えて下さい。何故貴方は動いたのですか?」
鼻先が触れそうになるほどの至近距離。しかし、そこにあるのは殺意と憤怒の感情と僅かな興味。
「勝手な行動は謹んで下さいと私は言いました。二度同じ事を言うつもりは無いですし、警告の意を込めてお伝えしました。しかし、貴方は人間などという脆弱な下等生物の為に動き、アインズ様の御身を危険に晒したーーーそうなると分かっていて、貴方は何故それでも動けたのですか?」
「......ナザリックにとってモモンガさんの立ち位置は把握している。勿論、俺が勝手に動けばモモンガさんにも迷惑を掛ける事になることも分かっていたよ」
エントマがナバナの頭を掴む力を強める。
「俺はね、エントマ。人間を下等生物だとは思わない。命に貴賎は無い。価値は等しく皆平等だと思っている。助けたいと思えば、俺はまた同じ事をするよ」
「そうですかーーーでは、貴方は人間と我々が敵対した場合、人間側に着く可能性が僅かでもある、ということですね?」
エントマの僅かな興味が失意に変わり、そして殺意を剥き出して頭に掛ける力を込めた。
「貴方を殺せば、アインズ様や......ナザリックの脅威を一つ潰せるのでしょうか?」
「......君の思うようにすればいい」
「ーーー」
ゆっくりとエントマはナバナの頭から手を引いていく。
「アインズ様や私の目が届かない所で、勝手をやって下さい。二度は言いません」
馬乗りの状態から立ち上がり、エントマは静かに部屋を出た。
「(何故、私は殺す事が出来なかった?)」
部屋の外で待機しながら、エントマはずっと考え続けていた。
ナバナはナザリックを攻略した外敵だ。
戦闘メイド部隊【プレアデス】はナバナと実際に戦った訳では無いが、それでも各階層守護者同様に怒りや憎しみが無い訳ではない。
ナバナはモモンガ様とは異なり、よく眠る。
眠っている間は無防備だ。いつでも攻撃できる。
だが、安らかな寝顔を眺めていると不思議と殺意を抱く事はない。
さっきもそうだ。殺すには絶好のタイミングだった。少し力を込めれば頭を潰せていたかもしれない。
でも潰せなかった。殺せなかった。
何故ーーー?
「ーーーそうか」
ナザリックにおいて、死はこれ以上の苦しみを受けることの無い慈悲である。
「簡単に殺してはダメ......。慈悲を私の手で与えるわけにはいかない、ということ......なのかな」
どちらにせよ、異業種であるナバナはその姿・能力では人間と共存はできない。助けても石を投げられて拒絶される事となるだろう。
所詮、偽善だ。虫らしく、疲弊して弱りきった時に殺してやろう。失意や絶望の中で殺した方がきっと楽しい。そうに違いないーーーと、エントマは結論付けて、思考を整理した。
これが、NPCが主人の命令無しに自分で考えて行動し、その結果を省みている初の事例である事にモモンガもナバナも気付いていなかった。
エントマが部屋から出た後、ナバナはクラックを開いてヘルヘイムの森に降り立った。
そこで夢の中で受け取った戦極ドライバーを装着する。
「......確か、ヘルヘイムの果実を掴めば良かったんだったか?」
ヘルヘイムのそこら中に生えている果実を4つ掴んだ瞬間、ナバナの手の中でヘルヘイムの果実が巨大な錠前へとその姿形を変えていく。
オレンジの形、パイナップルの形、イチゴの形、バナナの形をした錠前ーーーロックシードに変わった。
「これで......変身に必要な物は揃ったのか。となると後は実践する相手だな......」
逡巡し、ナバナはモモンガに連絡を取っていた。
『どうされましたか?ナバナさん』
「モモーーーアインズさん。魔獣か精霊を用意できませんか?」
『魔獣や精霊......ですか?』
「少し、試したい事がありまして」
『......それは戦闘訓練......ということですか』
「ええ、その通りです」
『......そうですか。では私と模擬戦をやりましょう』
「模擬戦......ですか?」
『こちらも確認しておく事があるので、都合が良ければ、ですが』
「それは丁度いい。是非お願いします」
『ではナザリック第六階層のコロッセオにいらして下さい』
「分かりました。ありがとうございます」
通話が終わり、ナバナは小さく息を吐いた。
「......エントマと仲直りしてから行くか」
ナバナはヘルヘイムの森からナザリックの部屋に戻り、ドア外にいるエントマに話し掛けるのだった。
後書き
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