オーバーロード ~もう一人の超越者~
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第一話 カルネ村(後編)
前書き
連続して出しときます。
村全体を等間隔に魔法伝道師(マジックキャスター)が囲んでおり、その側には魔法で召喚された守護天使が佇んでいる。
村の建物から見えるだけで数はおよそ20人はいるだろう。
「これだけの魔法伝道師(マジックキャスター)を揃えられるのは間違いなく【スレイン法国】によるものだろう。それも神官長直轄の特殊工作部隊......おそらく六色聖典のいずれかだろう」
「と言う事はさっき村を襲っていたのは......」
「【バハルス帝国】に扮した【スレイン法国】の兵士で間違いないだろう」
「やっぱり......ですがこの村にそんな価値が?」
「アインズ殿やナバナ殿に心当たりが無いとあれば、狙いはおそらく......」
「なるほど。王国戦士長は人気者ですね」
「えぇ。まさかスレイン法国にまで命を狙われるとは」
するとガゼフはナバナとモモンガを一瞥した。
「アインズ殿、ナバナ殿......一つ雇われないか?報酬は望む額を用意すると約束しよう」
「「お断りします」」
ナバナとモモンガはハモるように一緒に答えた。
その回答に対してやはり、と思ったガゼフは軽く笑うと、今度は頭を下げた。
「では約束してほしい。この村の人達は必ず守って下さい。どうか、この通りだ」
「頭を上げて下さい。頭を下げる必要はないです。この村の人達は守ります。アインズ・ウール・ゴウンの名に掛けて」
「それを聞いて安心しました。私は前だけ見て戦います」
「では、こちらをお持ち下さい。御守りの様な物です」
「アインズ殿からの御品だ。有難く受け取っておこう」
「御武運を」
そう言ってガゼフは家屋を出て兵士達と共に村を出ていった。
「YGGDRASILLの天使達......おそらく魔法もYGGDRASILLと同じなのだろうか?」
「どうかな......でも可能性は高い」
ガゼフが村から出た後、ナバナとモモンガは外にいる天使を分析し始めていた。
「あの......ナバナ殿、アインズ殿。何故戦士長は村を出て行かれたのでしょうか?」
そうしていると村長が不安そうに尋ねてきた。
「外に待ち構えている者達の狙いは王国戦士長です。ですからこうして囮として出ていったのでしょう」
「では、我々はこのまま村に残った方が?」
「まさか。この隙に乗じて逃げるのが得策でしょうね。その為に目立つ様に逃げているのですから」
モモンガがそう言う様子を横目に、ナバナは村の外に目を向けていた。
ーーーNow Loading......ーーー
村の外ではガゼフが様々な武技を使いながら天使達と交戦していた。
敵に突進し、包囲網を崩して全ての敵を村から引き離して撤退。
と言うのが最初の作戦だったが、兵士達は最後までガゼフと共に戦うと言って戦場に残り、一緒に天使達と交戦していた。
だが状況は変わらない。
魔力がある限り無尽蔵に湧き出る天使はガゼフの武技を使用した攻撃でやっと倒せるレベル。
正直、兵士の中で天使を倒せる者は居ないだろう。
事実、一人、また一人と兵士が倒れていく。
ガゼフもまた、天使達の攻撃を何度も受け、致命傷も喰らって立っているのがやっとだった。
「その傷で良く立っているな」
ニグン・グリッド・ルーインは笑っていた。
「数々の武技を使いこなす様は見事だったが、それだけだ」
「舐めるなよ。俺は王国戦士長......貴様らの様な奴等に負けるわけにはいかない」
「そんな意地を張った所で、立っているのがやっとだろう。それにお前はここで死ぬ。死に様は無様に散らせてやる。その後はあの村人も殺して焼き払う。お前がどれだけ足掻こうと無駄なんだよ」
「......あの村には俺よりも強い御人がいる。無駄になるのはお前達の方かもな」
「ハッタリにしては見え透いている。地獄で村人達に詫びるといい。守れなくて申し訳なかったとな!」
天使の攻撃がガゼフに向かう瞬間、ガゼフと王国兵士達の姿が幻影の様に消えて、代わりに一人の姿が現れた。
黒いローブに身を包み、摩訶不思議な模様の仮面を付けたそれは、ゆっくりと手を広げて挨拶を始めた。
「お初にお目に掛かる。我が名はアインズ。アインズ・ウール・ゴウンである」
気が付くと、ガゼフはカルネ村の村人に囲まれていた。
近くには息のある兵士達も横たわっている。
「......!?ここは?」
「ここは村の倉庫だ。怪我人の治療場所として仮に開けられている」
「......ナバナ殿」
「お疲れ様。後は僕たちに任せてくれ」
ガゼフは淡く光るナバナの手に触れた瞬間、全身の痛みが消えていくのが分かった。
「そうか......感謝しま......す」
凄まじい眠気が急に襲い掛かり、ガゼフは意識を手放した。
全員の治療を終えたナバナはすぐに倉庫を飛び出して【クラック】を操作して【裏道】をモモンガの近くに出してワープした。
ーーーNow Loading......ーーー
ワープした直後、ナバナの耳に聞こえたのは嘲笑だった。
「アインズ、とか言ったか?お前はこの状況の中で我々に抵抗せず命を差し出せとは大きく出たな。どう考えてもお前が命乞いをするべきだろうに」
「拒絶、と受け取って良いのだな?」
「お前には選ぶべき選択が二つある。抵抗せず大人しく命を差し出すか、無力さを呪いながら嬲り殺しにされるか......好きな方を選べ」
「そうか......残念だ」
瞬間、モモンガは魔法を放った。
「【負の爆発(ネガティブ・バースト)】」
一瞬で天使の軍勢はその姿を消した。残っていたのはニグンの側に立っていた大天使一体のみだった。
「な......何が起こった!?」
ニグンの言葉の後、周囲の魔法伝道師は次々と魔法を繰り出し、後続の天使を召喚していく。
「ふむ......天使といい魔法といい、やはりYGGDRASILLと同じか。その魔法は誰に教わった?」
「ひぃいいい!」
一人の魔法伝道師が石礫を投擲した。
その投擲を、ナバナは足で打ち返して顔面に当てる。
それだけで、一人の魔法伝道師の首は弾け飛んだ。
「別にあの程度の攻撃でダメージは受けないが?」
「すまない。ふざけた輩だからムカついた」
「それを言えば、奴らは全員ふざけた連中だと思うがな」
「くっ......上位天使(プリンシパリティ・オブザ・ベーション)!掛かれ!」
大天使はそのニグンの言葉に従う様に巨大なメイスをモモンガとナバナに向かって振り落とす。
「遅いぞ」
ナバナはメイスを蹴り上げた後、大きく跳んで大天使の顔面を蹴り飛ばすと、大天使は光の粒となって虚空に消えた。
「蹴りの一撃......だと?ありえんだろう!上位天使が人間の一撃で倒されるハズが無い!!」
「に、ニグン隊長!我々はどうすれば......」
ニグンはすぐに我に返り、懐から何かを取り出した。
「最上位天使を召喚する!」
ナバナとモモンガはニグンが取り出した物を見て警戒を強めた。
超位魔法以外なら封じ込められる【魔封じの水晶】......YGGDRASILLにもあったアイテムだった。
「見よ!最高位天使の尊き姿を!最高位天使(ドミニオン・オーソリティ)!」
暗闇に近くなる村の外が昼間の様に明るくなった。
目の前に神々しい光を放つ最高位の天使が降臨していた。
付近には天使の輝く翼が舞い散っている。
「これが......最大の切り札?」
「そうだ。お前達にはこの秘宝を使うだけの価値があると判断した」
ニグンは声を上擦らせながらそう続ける。
「魔神をも沈める神の御業の元に消え去るがいい!」
「......身構えて損をした。モモンガさん、後始末は僕がやるよ」
ナバナはモモンガの返答を待たずに最高位天使目掛けて跳んだ。
最高位天使に手刀を叩き込んだ瞬間、兜割の要領で真っ二つに分断され、光の粒子が宙に舞った。
ナバナが行ったのは空間の切れ目を可視化した【クラック】を最上位天使の身体を真っ二つにする様に重ねて開き、その【クラック】を手刀で破壊しただけだった。
空間の裂け目を可視化した【クラック】を開くと【ヘルヘイム】の森へと繋がる入口となるが、【クラック】が開いている状態で【クラック】そのものを破壊すると、物体の強度や質量・規模に関係なく、空間ごと対象を切断できる。
第十位階魔法に【現断(リアリティ・スラッシュ)】という魔法があるが、それの真似事の様な者である。
当然そんな事にモモンガを含めて誰一人気付いていない。
「素手の、一撃で......最高位天使がやられた......だと!?」
目の前の光景が信じられないニグンは嫌な汗が全身から吹き出していた。
「お前達は......何者なんだ!?」
「アインズ・ウール・ゴウンだよ。この名はかつて、知らぬ者が居ないくらい轟いていたのだがね」
「ま、待ってくれ!アインズ殿......いや、アインズ様!私達、いや私だけで構いません!命を助けていただけるならば、望む額をーーー」
その言葉はナバナによって遮られた。
ナバナはニグンの首を掴んで持ち上げていた
「確か......選ぶべき選択が二つあると、お前は言ったな。お前にはそんな選択肢はあり得ないかな......」
大人でそれなりに鍛えた体格のニグンだったが、ナバナの首掴みから逃れる事は出来なかった。
「モモンガさん......少し、後ろに下がって貰えますか?」
「あっ......ハイ」
ナバナの満面の笑みを見て、モモンガは少し引きながら後ろに下がった。
「ふぅん......」
ナバナは首を左に少し傾けて、息を吸った。
「うぉおおおおおおおおお!!」
瞬間、ナバナは叫びながら目にも止まらぬ速度で拳をニグンの身体に叩きつけた。
物体が音速を超えた場合、周囲には凄まじい衝撃波と音波が発生する。
俗に言う「ソニックブーム」だ。
コンコルドのようなジェット機が上空を飛んだ場合、ソニックブームの影響で地上のガラスが割れるような被害もあるという。
何故このような話をしたかと言うと、ナバナの振るう拳がそのコンコルド同様に音速を超えていたのだ。
拳の一撃一撃が音速を超えてニグンの人体に叩きつけられる。
音より早い一撃。それが連続で打ち込まれた場合、どうなるだろうか。
人間の体にジェット機が突っ込んだ時にどうなるのかと同じである。
全身の筋肉が衝撃に耐えられず、人体は破裂して肉片に変わる。
いくら鍛えられたと言ってもニグンの身体も、それは例外ではない。
ただ、ニグンの身も心も死滅させるにはこの一瞬はあまりにも長過ぎた。
ニグンの身体にナバナの拳が1発入った瞬間、衝撃が全身を走り、筋肉が悲鳴を上げて、耐え切れずに筋繊維が破損し、全身の骨にもヒビが入る。
瞬間、ニグンの感じる世界は景色を変えた。
世界は色を失い、白と黒の濃淡だけになり、無音無臭となった。
ナバナの音速を超える動きがニグンには視認できた。
だが、痛みだけは消えてくれない。
およそ体験したことのある激痛を何倍、何十倍、何百倍にも鋭くしたような強烈な激痛が身体にゆっくりとやってくる。
動きは視認できるのに、身体も指一本動かせない。
感覚だけが鋭敏になって体感時間を引き伸ばされている事に、ニグンは気が付いた。
2撃目の拳がニグンに触れる。
ニグンの体感時間はどんどん加速していく。
瞬間が1秒に。
1秒が1分に。
1分が1時間に。
1時間が1日に。
1日が1年に。
1年が1世紀に......。
激痛はより鋭く、より鮮烈に染み渡る。
動けない。
死ぬ程の激痛が引き伸ばされ、増幅されて襲い来る。
死ぬ程の激痛を味わいながらも死ねない。
死にたくても死ねない苦痛がニグンの心を砕く。
3撃目はスローモーションでやってくる。
避けられない。死ぬ。
死ねずに痛みで気も失えず、3撃目がゆっくりと迫るのをただただ、見つめるだけ。
「ゆっくりと味わうんだな、死ぬ感覚を。たったそれ、一つだけだ。お前達が辿るべき道は」
3撃目が触れた瞬間、ナバナの声がニグンには聞こえた気がした。
勿論、幻聴だろう。
ニグンはもう思考を放棄して、激痛に身を委ねる。
鋭い激痛が増幅されて思考と意識が無限に引き戻され続ける。
死にたくても死ねない、終わりのない終わり。
ニグンはその感覚を永遠に近い体感時間の中で味わいながら、一瞬で全身を水風船のように弾けさせて絶命した。
連打で弾け飛んだニグンだった肉塊を見て、兵士達はパニックに陥った。
逃げようと必死になった兵士はナバナの操る植物に取り押さえ、情けなく地面に組み伏せられる。
「敵前逃亡とは情けないな。御自慢の騎士道精神とやらを見せてみろ」
ナバナは人間の姿から本来の姿に戻し、両手を広げる。
恐怖で体が震えて、身動きが取れない者は持っていた武器も構えられず、尻餅をついて小便を漏らしていた。
「我こそは戦死した指揮官の代理で部隊の指揮を取り、武勲を挙げるという気概はないのか?」
兵士達は、身動きも止めて、ただ死を受け入れた。
ーーーNow Loading......ーーー
「モモンガさん。なんでアインズ・ウール・ゴウンを名乗ったのですか?」
「そうですね。もし、この世界に我々以外のプレイヤーが居れば協力したいなと思って」
「あぁ、なるほど。では当面の目的は知名度を上げていく感じになるんですかね?」
「とりあえずは。それと、ナバナさん。今回救ったカルネ村ですがーーー」
「いいよ」
「まだ何も言ってないんですが」
「カルネ村の防衛とかやってくれって事だろ?勝手に飛び出して来たのはこっちだし、友好的に接する事の出来た貴重な場所だ。村の近くの森に住んでカルネ村の様子を見守るよ」
「NPCに任せるつもりでいましたが、ナバナさんがやるのでしたら心強い」
「ああ。一緒に冒険......はしばらく無理そうだね。エントマにも謝らないと」
「守護者全員に何があったのか報告して下さいね」
「はいはい」
その後、守護者全員にモモンガを勝手に連れ回したと勘違いされて攻撃を受け、モモンガが仲裁に入り、モモンガ改め、アインズ・ウール・ゴウンに名前を変えた事を守護者達に伝えた。
「お前達に厳命する!アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ!」
後書き
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