魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第五十九話 奇妙な共同生活
なし崩し的に始まったフェイトとの共同生活。
関わりを持たない方が良いと考えるも、フェイトの無茶な行動にアスカは黙っていられなくなる。
魔法少女リリカルなのは 前衛の守護者、始まります。
outside
「ん……」
フェイトが薄く目を開ける。ぼんやりと周りを見回し、目を閉じる。
「……?」
何か違和感を感じ、フェイトは再び目を開けた。
「………え?」
時計を見て、一瞬思考が固まる。
(確か10時くらいに帰ってきて……お風呂に入って……ナナシが作ってくれたゴハンを食べて……)
フェイトが見ている時計は、8時を指している。
(……-2時間?)
そこでハッとなり、フェイトはガバッと身を起こして窓を見る。
外はすっかり明るくなっていた。
フェイトは、自分が眠っていた事に気づく。
「しまった……」
ジュエルシードを探さなくてはいけないのに、寝入ってしまった事にフェイトは後悔する。
その時、台所から話し声が聞こえてきた。
「パン、買ってきましたけど、これでいいんですか?」
「それでいいよ。食の細いフェイトにはそれぐらいが丁度いいから。まったく、料理ができるって言ってたけど、聞いてみたらサバイバル料理じゃないか。昨日の唐揚げは奇跡だったんかねぇ?」
「大丈夫です!熱を通せば大概の物は食えます!」
「そこは自信満々に言うところじゃないだろ!」
と、何やら揉めているようだ。
フェイトはロフトから降りて台所に顔を出す。
「おはよう……」
言い合っているアスカとアルフに、フェイトが声を掛ける。
「あ、フェイト、おはよう!」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
フェイトに気づいた二人が返事を返す。
「うん……でも、ジュエルシードを探さなきゃいけなかったから、起こして欲しかったな」
責めるという感じではなかったが、フェイトは少しだけ不満そうに漏らす。
そこには、年相応に拗ねている少女がいた。
「ジュエルシードを見つける為にも、休息は必要です。疲れ切った身体では、100%のパフォーマンスを発揮できませんよ?」
アスカはフェイトにそう返した。
一晩休んだフェイトは、体調は良さそうだったが、まだ疲れが抜け切れた状態ではなさそうだった。
(こんな子供が一晩寝ても回復しきれない疲労って……どれだけ無茶をしてるんだ?)
心配を通り越して不安になるアスカ。
今のままでは、本当にジュエルシードの為なら命を賭けるんじゃないかと思ってしまう。
そんなアスカの考えを余所に、フェイトは不満げな表情を見せた。
「とにかく朝ゴハンにしましょう。えーと、パンを焼いてっと」
飄々とフェイトの視線を受け流して、アスカはパンをトースターにセットする。
「うん……」
仕方なく、フェイトはイスに座る。アルフもその隣に腰を下ろした。
程なくしてパンは焼き上がり、食卓に並べられた。
その他にも、大雑把に切られたリンゴとベーコンエッグ、そして昨日の残りなのか、サラダがあった。
アスカはコップに牛乳を注いで、フェイトとアルフに出す。
「はい、どうぞ」
「うん、いただきます」
朝食は静かに始まった。
ふと、フェイトはある事を思い出した。
「ねえ、ナナシ。昨日はどうやって寝たの?」
そう、この家のベッドはフェイトが使っている物しかない。
そうなると、この少年はどこで眠ったのだろうかと思ったのだ。
「ソファーを借りました。アルフさんも、毛布を持ってきてくれましたし」
それを聞いて、フェイトは納得したようだ。
「そうなんだ。アルフ、偉いね」
フェイトが頭を撫でると、アルフは嬉しそうに目を細めた。
(これだけ見ていると、幸せそうな感じもするんだけどな……)
そう思うアスカだったが、やはり未来のフェイトにある輝きが今のフェイトに無い事が気になってしょうがなかった。
慎ましやかな朝食が終わると、フェイトはすぐにでも飛び出そうとしたが、それをアルフに止められる。
「待ちなよ、フェイト。この時間から空を飛ぶ訳にもいかないだろう?」
「じゃあ、歩いて行こう」
メゲないフェイトは、今度は玄関から出ようとしたが、今度はアスカがそれを止める。
「ちょっと待ってください、フェイトさん。今の時間に子供がウロウロ出歩いていたら補導されますよ」
今日は平日。アスカの言う通り、9歳の女の子が学校にも行かずに歩いていたら、間違いなく補導官に声を掛けられるだろう。
「でも……」
昨日、思わず眠ってしまったフェイトは、すぐにでもジュエルシードを集めたいと思っているのだ。
アスカはフェイトを宥める。
「もし補導でもされたらどうするんですか?この世界の警官相手に魔法を使いますか?そんな騒ぎを起こせば、時空管理局が黙ってないでしょう。今は慎重に行動するべきです。夕方から、本格的に探しましょう。それまでは、休んでいてください」
アスカに諭されたフェイトであったが、やはり不満のようだ。
「でも……夕方まで何もできないなんて落ち着かないよ」
フェイトのその言葉に、思わず納得してしまうアスカ。
ジュエルシードを集めると言う目的があるのに、何時間も動けないというのは酷である。
ジーッ
訴えかけるように、フェイトがアスカを見つめる。
「え、えーと……」
何とか上手くフェイトを説得しなくてはと思うアスカだったが、何の言葉も浮かび上がらない。
ジーッ
フェイトは視線を逸らさずにアスカを見つめている。その無言のプレッシャーに、アスカは汗を浮かべる。
ジーッ
まだ睨んでくれた方がマシ、とアスカは思った。
訴えかけるように、つまり”お願い”と見つめられると、つい分かりましたと言ってしまいそうになる。
(な、何か言い訳はないか!)
テンパったアスカは、ついポロッと心にもない事を言ってしまった。
「あ……そ、空を飛べたらいいな~」
(何言ってんの、オレ!?」)
何でそんな事を言ってしまったのか自分でも分からない程焦っていたようだ。
恐るべし、フェイトの無言のプレッシャー。
「え?飛行魔法を覚えたいの?」
意外な言葉に、フェイトが聞き返す。
「は、はい!オレも空を歩く事はできるから、その便利さを知ってますけど、どうせなら自由に飛べたらな~って」
口からでまかせを並べるアスカ。だが、フェイトはその言葉を真に受けた。
「じゃあ練習してみる?私が教えてあげるよ」
「おいおい、フェイト。そんな面倒な事なんかやることないよ」
さすがにアルフが止めに入るが、フェイトは首を横に振る。
「夕方までやる事ないし、何かをしていた方が気が紛れるから。それに……」
フェイトがアスカの目を見つめる。その透き通った瞳に、アスカは魅入られる思いがした。
「それに、ナナシはこの世界の事を良く知ってそうだしね。私達に協力してもらいたいの」
「……」
「昨日も何も教えてないのに普通に買い物してきてくれたし、この世界の法律を守る組織も知っていたし。多分、ナナシが協力してくれたら、この世界の人達に迷惑を掛けないでジュエルシードを集められるような気がするんだ」
フェイトの言葉に、アスカは思わず苦笑いを浮かべる。
(迂闊だったな……金の単位、買い物、普通にやっちまった……良く見ているな)
何気ない行動の中に潜んでいる情報を読み解くフェイトの鋭い洞察力に、アスカは舌を巻く。
異世界においては、日常のルールは当然変わってくる。
買い物一つとっても、通貨単位、購入の仕方。料理をするにもキッチンの使い方を何の説明を受けなくてもアスカは行ってしまった。
それはつまり、この世界に精通していると言う事になる。
「私が飛行魔法を教えるから、ナナシはこの世界の事を私に教えて」
ここまできては、それを断る事はできなかった。
「……分かりました。オレの知っている事は教えます」
(絡まないつもりだったけど、こうなりゃ仕方ないね)
夕方までフェイトを休ませるだけの筈だったのに、意外な方向に話が進んでしまった。
こうして、アスカはフェイトじゃら飛行魔法の手ほどきを受ける事になった。
それから数日が経った。
昼間は飛行魔法の講義、夜はジュエルシード集めと、意外にもフェイトは充実した日々を送っていた。
だがアスカとアルフは、あまりそれを良しとは思っていなかった。
フェイトは夕方からマンションを出ると、日が変わるまで帰ってこないからだ。
一応は睡眠もとっているが、明け方には起き出して散歩と称してジュエルシードを探していたのだ。
フェイトが落ち着いてマンションにいるのは、アスカに飛行魔法を教えている時だけだ。
「じゃあ、行ってくるね」
今日もまた、フェイトはアルフを連れてジュエルシード集めに出かける。
しかも、今日は日曜日。
フェイトにとって待ちに待った朝から探索できる日なのだ。気合いの入り方が違う。
同行できないアスカは、ただ待っている事しかできない。
一人になった部屋で、アスカは自分の寝床となったソファーに腰を下ろす。
『なるべく干渉しないようにしたいけど、あそこまで無理をすると黙ってられないよな』
アスカは無意識にイヤーカフに触れる。
『少し気をつけた方がよろしいかと。ハラオウン隊長は、マスターに少なからず興味を持っているみたいですし』
ラピッドガーディアンの忠告にアスカは驚く。
『オレに?なんでさ?』
『恐らくですが、マスターが珍しいのではないでしょうか?珍獣を見ているような感じでしたよ』
『ひでぇ言われようだな』
そうは言ったが、なんとなく腑に落ちるアスカ。
フェイトとアスカは、正反対のタイプだ。
普段の立ち振る舞いを見ても、フェイトは上品な環境で育った事が伺える。
対してアスカは、野郎ばっかで酒をかっ喰らって喧嘩してきた環境だ。
確かに動物を観察するような心境なのかもしれないと、ラピに言うアスカ。
すると、ラピッドガーディアンは呆れたように話し出した。
『……いえ、そういう事ではなく、単に異性が珍しいのかも、と言う事です』
『え?』
『異性と関わりあえない環境で成長したのではないかと言う事です』
『どこの女子校だよ、そこは?』
ツッコミを入れて、アスカはこの話を終わらせた。
『まあ、その事はいいさ。それより、今後の事だ』
アスカが過去の世界に来て数日。まだ何か起きる気配はない。
(いつ状況が動く?いつ高町隊長と絡む?その時、オレはどう動けばいい?)
答えの出ない自問自答を、アスカは繰り返した。
日が変わり、時計の針が2時を指す頃にフェイトは帰宅した。
「おかえりなさ……何かありましたか?」
二人を迎え入れたアスカは、フェイトの様子が普段と違う事に気づいた。
いつもより疲労感が出ているように見える。
「ジュエルシードを見つけたんだけど、その時に戦闘になったんだよ」
バリアジャケットを解除して私服姿になったフェイトは、アスカの寝床であるソファーに腰を下ろした。
「戦闘って、何か厄介な物にでも憑依していたんですか、ジュエルシードは?」
動物の願望を吸収し、暴走でもしたのかとアスカは思ったが……
「違うよ。魔導師がいたんだ」
フェイトのその言葉にアスカは引き吊る。
「ま、魔導師?」
イヤな予感しかしない。
「うん。デバイスはバルディッシュと同系統のインテリジェントデバイス。術式はミッドチルダ式の射撃型。私と同じくらいの女の子で、白いバリアジャケットの……」
ガンッ!
アスカが大きく突っ伏す。勢い余って床に頭突きを喰らわせてしまった。
「ナ、ナナシ!?」「何やってんだい!?」
いきなり崩れ落ちた少年に、フェイトとアルフが引き気味に驚く。
「い、いや……貧血かな?大丈夫ッスから」
フラフラと立ち上がったアスカは台所に向かう。
「と、とにかく食事をしてください。何か簡単な物作りますから」
額を赤くしたアスカだったが、まるで痛みを感じていない。
もっとも恐れていた事が起きてしまったからだ。
フェイトとなのはの邂逅。
状況は動き出してしまったのだ。
「本当に大丈夫?無理してない?」
床に頭突きをするという少年の奇行に、フェイトが近づいて顔を見上げた。
優しい少女なのだろう。その瞳には心配そうな影がある。
「フェイトさんほど無理はしてませんよ。大丈夫です。すぐに用意しますから、座って待っていてください」
ポンポン、とアスカは無意識にフェイトの頭を撫でた。
それはまるで、エリオやキャロにするような、本当に何気ない行動だった。
だが、撫でられたフェイトは違った。
「え?」
突然の事に反応できず、頬を赤らめた。
アスカはそのままキッチンに立って料理を始めたが、フェイトはその背中をポカンと見つめていた。
(……男の人に、頭、撫でられちゃった)
フェイトの記憶にある限り、頭を撫でてくれた人物は二人だけである。
一人は、母親のプレシア・テスタロッサ。遠い記憶のなか、微笑んでいる母親が優しくしてくれた時に撫でてくれたのだ。
もう一人は、プレシアの使い魔でフェイトの教育係だったリニスだ。
彼女は勉強の時は厳しかったが、フェイトにとっては頼れる、そして唯一甘えられる存在だった。魔法が上手くできた時や勉強ができた時、リニスは嬉しそうにフェイトを撫でてくれた。
少年は3人目なのだ。
(初めて男の人に撫でられちゃった……)
少女の中で、この出来事は静かでありながらも衝撃的な事であった。
一方のアスカはそれどころではなかった。
(展開が早い!もう高町隊長の出番ッスか!?って、今日はフェイトさんが勝ったって事か?)
フェイトが遭遇した白いバリアジャケットの魔導師。恐らく……いや、間違いなくなのはだろうとアスカは考えた。
『どうするよ、ラピ。結構早く出てきちゃったよ、高町隊長』
『どうと言われましても……このまま大人しく見ている他ないと思いますが』
『大人しくって、あの二人がぶつかるのを黙って見てろって言うのかよ!』
『何かしたくても、今の我々の戦力では、見ている事ぐらいしかできません』
ラピッドガーディアンに言われ、アスカは言葉を詰まらせる。
実際のところ、デバイスの起動ができず、バリアジャケットも展開できない。
確かにこの状態では何もできない。そう理解はする。が、納得はできなかった。
この数日で、フェイトが脅迫概念に近い思いでジュエルシードを探している事は分かっていた。
それこそ、邪魔をする者は排除する勢いだ。
(シャーリーの話では、高町隊長が魔法に目覚めたのは9歳の頃。タイミングはドンピシャだ。このままフェイトさんと戦闘を続ける事になれば……)
アスカの脳裏に、大怪我をしたなのはのビジョンが浮かぶ。
(黙って……見てる…………なんてできるか!)
『……ラピ。とりあえず、近くで見守る事ぐらいはするぞ』
『分かりました。ですが、くれぐれも軽はずみな行動は謹んでください』
どんなに心配しても、どんなに焦っても、結局見守る事しかできない現実を突きつけられる。
何もできない無力感に苛まされるアスカ。
その時、いつかアルトが言ってくれた言葉が蘇った。
”しっかりしろ!アスカ!”
”ここで諦めるの?これで終わりなの?もう何もできないって思っちゃうの?違うでしょ!まだできる事はある!”
「……ですよね、そうだよ」
あの時アルトに元気づけられ、そして、今もまたその言葉にアスカは力をもらった。
「んー?何か言ったかい?」
アスカの独り言が耳に入ったのか、アルフはキッチンをのぞき込む。
「いえ、何でもないです。はい、焼おにぎりできましたよー。香ばしくておいしいですよー」
悟られぬように、アスカはおどけて料理をテーブルに並べた。
(そうさ、まだ何もできていないって事は、まだできる事があるって事さ!)
後書き
はい、国際大運動会が何とか終了して、全国的に疫病が蔓延しつつある中、いかがお過ごしでしょうか?
私はバテてます。
コロナ過の中、少しでも暇つぶしになればと投稿させて頂いてますが、そろそろネタ切れになりそうです。
なるべく間隔を開けずに投稿したいのですが、10月あたりから間が空くかもしれません。
読んでもらえるように頑張ってみます。
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