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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第2部
テドン
  ポルトガの灯台守

 ほかの船員たちを船に残し、私たち三人は船を降り、そのすぐそばの灯台へとやってきた。
 通りがかる船に方角や位置を知らせるそれは、建物の上部に巨大なレンズを備え付けていた。そのレンズを光に充てることで、船に居場所を知らせるらしい。
 真っ白な石造りの建物は、海の青によく映えていた。時折灯台の上から降りてくるカモメが、水面を弾き魚をくわえてまた空へ飛び立っていく。
 灯台の入り口まで来ると、扉は閉ざされていた。ヒックスさんは扉の横にある鐘を鳴らすと、ほどなく上の方から足音が聞こえてきた。
「なんだ、こんなところに何の用だ?」
扉越しに尋ねてきたのは、海の男特有の少し声枯れした男性の声だった。
「聞こえるか、おれだ、ヒックスだ。実はお前に聞きたいことがあってここに来た。開けてくれるか?」
 ヒックスさんの声に、すぐにがちゃがちゃと鍵の開く音が聞こえる。勢いよく扉が開かれ、中からヒックスさんと同年代ぐらいの体格のいい男の人が現れた。
「おお!! ヒックスじゃねーか!! 久しぶりだな!! なんだ、仕事は再開したのか?」
「いや、まだ定期船は運休中だ。それより、お前はアリアハンの勇者を知っているか?」
「ん? ああ、確か十年ぐらい前に魔王と戦って行方知れずになった、オルテガの息子だろ? そりゃあお前、オルテガとは一時とはいえ一緒に旅をしてきたんだ。その息子が魔王を倒すために最近旅に出たことぐらいは知ってるさ」
「その勇者様が、お前に聞きたいことがあるっていうんでお連れしたんだ。ユウリさん、こいつがここの灯台守で、バングと言います」
 ヒックスさんの紹介に、いつもの無愛想な態度でバングさんの前に出るユウリ。
 一瞬何のことかとキョトンとしたバングさんは、急な客人に驚いて声が出ないのか、無言でヒックスさんとユウリの顔を交互に見る。
「おい、お前。今俺の親父と旅をしたといっていたが本当か?」
「へ?」
「あと、魔王の城がどこにあるか知っていたら教えてくれ」
「あ、えー、はい、そうっすね。はい」
 突然勇者が目の前に現れ、混乱するバングさん。気持ちはわからなくもない。
「えっと、この人はおっしゃるとおり、オルテガさんの息子さんです。それで私たちは今、魔王の城がどこにあるか探してる最中でして、もしそこについて知っていることがあればお聞きしたいと思ってこちらに伺いました」
 とりあえずまずは私たちの事情を明らかにしなければならない。私は慌てて二人の間に立ち、ここに来た理由を説明した。
「そうか……。本当に、オルテガの息子が旅に出たのか……」
 一呼吸ついたおかげでバングさんは冷静さを取り戻したのか、ユウリの顔をまじまじと見る。
「あれからもう十年か……。そりゃあおれも年を取るわけだ、オルテガの息子がこんな大きくなっちまうんだもんなぁ」
 そう呟くと、感慨深げに息を吐く。
「なあ、おれは初耳だったんだが、本当にお前はあの英雄オルテガと一緒に旅をしていたのか?」
 ヒックスさんがユウリと同じ問いを投げ掛けると、バングさんは遠い目をした。
「ああ。出会ったのは十一年前だが、オルテガが消息を立ったのはそれから一年もたたないくらいの頃だった。当時おれは、ちょっとは名の知れた海賊でな、自分で言うのもなんだが、この辺じゃ知らないやつはいないほどだったんだよ。そんなときある町で、あの男はいきなり一人でおれの船に乗り込んできたんだ。それで、何て言ったと思う? あいつ、魔王の城に連れてってくれと頼み込んできたんだ」
 一人で海賊の船に乗り込んで、さらに魔王の城に連れてってくれだなんて、オルテガさんてずいぶん破天荒な人だったんだというのが窺える。
「少し聞くだけでも、面白い男だな、オルテガは」
 半ば感心するようにヒックスさんが言うと、父親の話だと言うのに全く興味がなさそうな顔でユウリがバングさんに尋ねた。
「で、結局魔王の城まで連れてったのか?」
「ああ。そのときはあちこちに火山が噴火していて、大分地形も変わってると思うから、今はおそらく通れないと思うぜ」
「なら場所だけでもいい。教えてくれ」
「いやしかし……」
「頼む」
「……仕方ねえな」
 最初は口ごもっていたバングさんだったが、ユウリの真摯な態度に折れたようだ。
「ちょっと待ってな。今世界地図を持ってくる」
「世界地図ならここにある」
 ユウリが鞄の中から世界地図を取り出し、皆の前で広げて見せた。
「こりゃ珍しい。三賢者が作った世界地図だな」
 所有者の位置がリアルタイムでわかるこの地図は、やっぱり珍しいものだったらしい。あとで聞いたが、この地図は昔、三賢者と言われた一人の賢者が道に迷わないようにわざわざ作ったという逸話があるそうだ。
 それはさておき、気を取り直して、バングさんは現在地を指で指し示した。
「魔王の城は、ここからちょうど南東だな。未到達の場所は表示されないから現在の地形がどうなってるかはわからないが、この辺りはネクロゴンド山脈と呼ばれていて、活火山が多い。現にオルテガが消息不明なのも、火山に巻き込まれたからだという噂が立つくらいだ」
 オルテガさんが消息不明、というバングさんの言葉に、なんとなくユウリの方をちらっと見るが、当人はさして気にする素振りは見せていない。
 バングさんは、今いる位置から魔王の城までを指でなぞった。
「おれたちが通ったのは、南にずっと行ったところにあるテドンの岬をぐるっと回り込んで行ったルートだ。おれが知る限り、船で行くにはこのルートしか行くすべはないだろう。だが、実はもうひとつ魔王の城に行く方法がある」
「? 今の話、矛盾してるじゃないか」
 確かに、船で行けるルートは一つしかないといってるのに、それ以外にも道があるなんて、どういうことなんだろう。
「船で、と言っただろう。おれが得た情報だと、世界のどこかに、オーブと呼ばれるものが全部で六つ存在しているらしい。確か、赤、青、黄色に緑と……、まあとにかく、それぞれ何かを象徴してるみたいだが、詳しいことはわからねえ。そのオーブをすべて集めることが出来れば、船を必要としないで魔王の城に行けるんだそうだ」
「その話は本当か!?」
 バングさんに掴みかからん勢いで迫るユウリ。
「ああ。それで、全く同じ話をあんたの親父にも伝えたんだ。けれど結局、六つ全てを集めることは出来なかったみたいだぜ」
 そう鼻で笑うと、バングさんは突然真剣な表情でユウリを見据える。
「あのオルテガでさえ見つけられなかったものを、あんたは見つけられるって言うのか?」
 そう言い放つバングさんの目は、どこか品定めをしているようにも見えた。
 きっとユウリもそう感じているのではと思いつつ、逆上しないかと私は内心ビクビクしていた。だが、
「ああ。俺はあの男とは違う。もし必要になったとしても、俺の力で全て見つけてみせる」
 そう言いきったユウリの目に、迷いはなかった。
「ははっ、言うじゃねえか。面白い、気に入ったぜ。でもな、せっかく船があるんだ。まずは船でネクロゴンドに行ってみな。テドンの岬を陸づたいに行けば魔王の城が見えるはずだ」
「……わかった。礼を言う」
 バングさんに魔王の城への行き方を教えてもらい、素直に頭を下げるユウリ。
「じゃあな、道中気を付けろよ。……それとヒックス、ちゃんと勇者を魔王の城まで乗せてってやれよ」
「ああ、お前に言われなくてもわかってる」
「へへ、昔と違って、ずいぶん丸くなっちまったじゃねえか」
「うるせえ。勇者さんの前で変なこというんじゃねえよ」
 そう笑いながら別れの挨拶を済ませると、バングさんは仕事に戻ると言い、扉を閉めた。
 帰りの道中、ヒックスさんは早速ユウリに尋ねた。
「どうでしたか?」
「なかなか有益な情報だった。おかげでこれからの方向性がある程度定まった」
「それはよかったです」
 そう頷くと、二人は今後の針路について話し始めた。そのまた後ろで私は、ユウリに借りた世界地図を黙って眺めながら歩いている。
 確か、ここがテドン。そこをぐるっと迂回して、突き当たった先がネクロゴンド山脈。そこから魔王の城までの道程は行ってみないとわからないけれど、ようやく目的に一歩近づいたような気がして、無意識に胸が高鳴る。
「とりあえず、ネクロゴンドに向かおう。城には行けなくても、その近辺がどういう状況なのかをある程度は把握しておきたい」
「わかりました。すぐに船員に指示を出し出航します」
 そういうと、一足先にヒックスさんは船へと戻っていった。灯台から船までは目と鼻の先なので物の数分も歩けば船に到着するのだが、ヒックスさんにとっては数分の時間も惜しいらしい。
「おいボケ女。お前が見てもわからないだろ。早くその地図を返せ」
 私の返事を待たず、せっかく見ていた世界地図を取り上げるユウリ。私がぶうたれた顔を向けると、いつものごとく私の右の三つ編みを引っ張ってきた。今回はそれほど痛くない。
「なに不細工な顔してるんだ。置いてくぞ」
 地図を鞄にしまいながら、あきれた様子でユウリが歩みを早める。
「あっ、待ってよ」
 私は緊張と不安を振り払うかのように、先を行く二人を追いかけたのだった。
 
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