提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・73
~佐渡:プリンケーキ~
「なぁ提督、ホントに出来たんかよぉ?」
「慌てんなって、佐渡。しかしこれで良かったのか?注文された通りに作ったが……」
俺はそう言いながら佐渡にリクエストされた『それ』を切り分ける。一般的なイメージだとぷるん、つるんとした柔らかいデザートのイメージだが、佐渡のリクエストしてきた『それ』はケーキの様にしっかりとした黄色い断面。仕上げにホイップクリームとフルーツ、ミントなんかを飾ってと。
「あいよ、ご注文の『プリンケーキ』だ」
「おおおおおお!これこれ、こういうの待ってたぁ!」
満面の笑みを浮かべた佐渡は早速スプーンでプリンケーキを切り分け、あーんとでかい口を開けて頬張った。
「んめぇ!サイッコーだぞ提督!」
「はいはい、解ったから口に物入れて喋んな」
顔にプリンの破片が飛んできてるんだよ。
「にしても、妙な注文だな?『固いケーキみたいなプリンが食いたい』なんて。プリンなら間宮でも食えるだろ?」
俺がそう尋ねると、佐渡はスプーンを咥えたままう~んと唸り、
「なんつ~のかなぁ、間宮さんトコのプリンも美味いんだけどさぁ。俺はこう、ミチッとしてるっつーか、ガッチリしてるっつーか……あ~もう、説明難しいなぁ!」
「あ~、あれか。身の詰まった感じのプリンが食いたかったと」
「そう!そんな感じ」
「あ~、確かに最近のプリンは喉越しっつーか滑らかさ重視な所あるからな」
今のプリンは大半がゼラチンを使用した加熱してないプリン……所謂ケミカルプリンだ。ゼリーに近い食感で、ぷるん、つるんとした柔らかさと滑らかさが好き、という奴が多い。お菓子屋なんかで売ってる昔ながらの蒸し焼きにしたカスタードプリンも、最近はケミカルプリンに寄せているのか、ソフトな食感のぷるぷるな奴が主流だな。
「ぷるんぷるんのプリンも美味いんだけどさぁ、あれだと佐渡様くらいになると食った気しねぇんだよな!」
「あ~、なんとなくわかる」
昔のプリンは蒸し焼きにしてあるのもあってか茶碗蒸しみたいな固さがあって、ねっとりとした正に『カスタードを焼き固めたお菓子』感があった。佐渡が食いたかったのはそう言うプリンらしい。
《作ってみよう!固めのプリンケーキ》※分量:15cm丸型
・卵(Lサイズ):4個
・砂糖:80g
・牛乳:300cc
・バニラエッセンス:5滴位
・グラニュー糖:100g
※無くてもイイよ!
・スポンジケーキ(市販のでOK):1枚
まずはオーブンを160℃で余熱。その間にグラニュー糖でカラメルソースを作っていく。鍋にグラニュー糖を入れ、中火にかける。ポイントは極力混ぜない事。周りのグラニュー糖が溶けて色が付いてきたら、鍋を揺すってグラニュー糖を溶かしていく。粉末が無くなって色が濃くなって来たら焦げ付かない様に更に揺すっていく。段々と粘りけが出てきて小さい泡が全体に立って来たら、そろそろ仕上げだ。
さっきよりも泡が大きくなってきたらお湯を大さじ1杯入れる。これを入れるとソースに水分が入り焦げにくく色も変わりにくくなる。ただし、お湯を入れる時にソースが跳ねるので火傷に注意。お湯を加えたら全体をかき混ぜ、火を止める。ケーキ型に流し込んで底全体に拡げる。これでカラメルソースはOK。
お次はプリン液だ。卵を溶き、砂糖を加えて混ぜる。砂糖が溶けたら牛乳、バニラエッセンスを加えて更に混ぜる。全体が混ざったらザルで濾す。ザルで濾したら今度は目の細かい茶漉しで濾す。こうする事で、滑らかなプリンが出来上がる。やらないと出来上がりにムラが出来るからな。プリン液も出来たらケーキ型に流し込んでおいたカラメルソースが冷えて固まっているのを確認してから、プリン液を流し込む。天板にケーキ型を置き、周りにお湯を張る。焦げ目を付けない為にアルミホイルを被せ、オーブンへ。余熱は160℃だったが、焼く温度は150℃で50分程。オーブンの性能によってそこは前後するから注意してくれ。それと、たまに焼け具合を確認する事。温度が高過ぎると『す』が入って表面が凸凹になるからな。焼き上がってもすぐにオーブンから出さず、粗熱が取れるまで放置。
オーブンから出したら冷蔵庫で冷やして完成なんだが、ここで一工夫。市販されてるスポンジケーキを上に被せる。こうすると、ひっくり返して皿に盛り付けた時にカラメルソースを吸って、美味しくなるぞ!是非試してみてくれ。後は冷蔵庫で冷やして盛り付け、飾りつけをすれば完成だ。
「しっかし、よく食うなぁ」
1ホール分あったプリンが既に半分以上消えている。俺も味見のために一切れ貰ったが、残りは全て佐渡のあの小さな腹に納まっている。
「ん、そうかぁ?これくらい普通だろ。兵隊なんだし、食える時に食っとかないとな!」
にしし、と無邪気に笑っちゃいるが、その意識の根底にあるのは恐らく、大戦末期の記憶。日本が最も苦しく、そしてひもじかった頃の記憶だろう。完全に覚えている様には見えないが、無意識でその思考に影響を及ぼす程だ。その影響力は計り知れない。
「そうか。なら遠慮せずに食え」
「へへへ、やっりぃ!」
「ただし、食い過ぎて動けねぇなんて間抜けはやらかすなよ?」
「大丈夫だって。余ったら持って帰って明日食うから!」
「おいおい、姉妹にも分けてやれよ。お前だって去年対馬から飴ちゃん貰ったろ?」
去年のホワイトデー企画の時、対馬が俺と一緒にフルーツ飴を大量に作って持ち帰った。姉妹達に配るためだと言っていたので間違いなく佐渡も貰っているハズだ。
「ん?そうだっけか?」
「おいおい、大丈夫かよ……」
「だって覚えてねぇよ、そんな昔の事!3日前の事だって怪しいのによぉ!」
「そりゃお前がアホの娘だってだけじゃねぇか!」
「なんだとぉ!?佐渡様はアホじゃねぇぞ!」
ぷ~っと頬を膨らませて、佐渡がぷんすこ怒っている。その姿が可愛らしくて、思わず吹き出してしまった。
「笑ってんじゃねー!」
更に怒る佐渡様は、見た目通り年相応の無邪気な子供に見えた。俺は、こんないたいけな子供を戦地に送り出しているのかと考えると少し胸が痛んだ。
結局、佐渡はすべてのプリンを食べきれず部屋に持ち帰った。翌日、持ち帰ったプリンを巡って大喧嘩が発生。最終的に俺が択捉型全員分のプリンを焼く羽目になった。なんでや。
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