提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・72
~曙:チョコチップクッキー~
「味はどうだ?曙」
「……ふん、まぁまぁってトコね」
「さよか」
まぁまぁ、と言いながら口元に運ばれる手は止まる気配を見せない。しかもそれは皿に山盛りにしたクッキーをペロリと平らげた上で、おかわりを要求され、もう3皿目に突入してこの状態である。
「大体、ご機嫌取りの意図が見え透いてんのよね……ったく、こんなので、誰が、釣られるモンですかっての」
ブツクサ文句を垂れながら、咀嚼する口も止まらない。口の中にチョコチップクッキーがどんどんきえていく。その上口の中に物が入っているのに文句を垂れるのも止めないモンだから、クッキーの滓がボロボロと零れている。
「そんなに言うなら、無理して食わんでも良いんだぞ?」
「んぐ……誰も食べないなんて言ってないでしょ!?このクソ提督」
「あっそう。ならクソ提督はクソ提督らしい事でもしますかね」
そう言って俺はヒョイとクッキーの乗った皿を曙の前から掠め取り、その内一枚を摘まみ上げて自分の口に放り込む。
「あっ……」
「んー美味っ。流石は俺、いつ食っても美味いわ」
「じ、自画自賛してんじゃないわよ!」
「おやおやぁ?からボノたんは美味しくなかったとでも?」
「ボノたん言うなっ!」
「まぁ、あれだけ貶されたしなぁ。そんなクソ提督の作ったモンなんて不味いに決まってるかぁ」
「うっ、いや、その」
「悪かったなぁボノたん、不味いクッキーなんぞ食わせて。残りは妖精さんとか食いたい奴に食わせるから」
「いや、だから、その……」
「んん?何か言いたい事があるのかなぁ?言いたい事があるならハッキリ言ってもらわんと解らんなぁ?」
今俺、物凄く厭らしい笑みを浮かべてると思う。効果音を付けるなら『ニチャァ……』って感じの。
「ク、クッキー……美味しかった、です。も、もっと食べたい……です」
顔を真っ赤にして俯き加減にそう呟く曙。こんな表情は滅多に見られるモンじゃない。
「しょうがねぇなぁ」
してやったり、というニヤニヤ笑いを張り付けたまま、俺は曙の目の前にクッキーの皿を戻してやった。
「最初から素直に食いたいって言えばいいものを……」
「……うっさい」
テーブルの下の爪先が、俺の脛を捉える。だが、普段の強烈な蹴りではなく、あくまでコツンと触れる程度。明らかに照れ隠しだと判る。クッキーを食べる手は止まっており、一休みのつもりか、クッキーを食べる手を止めて牛乳を飲んでいる曙。さっきのやり取りが恥ずかしいのか、横を向いたまま黙って牛乳を飲む。
「曙」
「なによ!?」
「牛乳ヒゲ、付いてるぞ」
「あっ!?////」
鼻の下に白い牛乳ヒゲが付いているのを指摘してやると、途端に赤くなって腕で拭おうとする曙。改二になって見た目も大人っぽくなったと思ったが、中身はまだまだ子供だな。
「なにニヤついてんのよ、キモッ」
「いやなに、お前はいつまで経っても変わらんなぁと思ってな?」
「はぁ!?アタシが子供だって言いたいワケ!?」
「いやいや、子供だって言い張るには少々肉付きが良すぎるだろ?太ももとか尻とか」
「バカ!変態!スケベ!」
「知ってる知ってる」
俺はスケベで変態だぞ?自覚はある。むしろ知っててそう言う発言をさせようとする曙の方に問題があると思うんだが。
「見た目はともかく、中身は相変わらずの意地っ張りだって言ってんだよ」
着任当初、曙はとにかく俺のやる事為す事全てに噛み付いて来た。やれ資源の配分がなってないだの、訓練が厳しすぎるだの、私生活がだらしないだの、挙げ句の果てには提督がBarを経営するなんておかしい、そんな事をしている暇があったらもっと提督らしい仕事をしろ、と来やがった。当然のごとく俺の料理と酒を楽しみにしている奴等は激怒。一時期曙は目の敵にされ、身内同士での演習では袋叩きに逢い、いつも擦り傷や切り傷だらけだった。
「なぁ曙よぉ。何でそんなに俺に楯突くんだよ?」
「…………フン、アンタみたいなのがアタシは嫌いなの。話しかけないでくれる?」
傷だらけの顔でそっぽを向き、目線を合わせようとはしない曙。
「でも会話はしてくれんのな」
「なっ……だって!一応アンタは上司な訳だし、話くらいは聞かないと、失礼だし」
「ふ~ん、そのくらいの分別はあるワケだ」
「うっさいわね!それが何!?」
「まぁ、とりあえずはそれでいいや」
「はぁ?」
「俺ぁな、曙。無理に俺を好きになれとは言わん。ただな、俺は俺だ。それは変えられんし、変わるつもりもねぇ」
「そこは努力しなさいよ、このクソ提督!」
「やだね。だが、俺は俺なりにこのクソッタレな世界をどうにかしたいと思ってる。お前もそうだろ?」
「そりゃあ……そうだけど」
「だろ?なら、俺はこのままやり方を貫く。そこは実績で示していく。お前は部下として、俺が上司として信用出来る人間かを判断しろ」
「……信用出来ないと思ったら?」
俺は一枚の紙を取り出し、サインをして判を捺した。
「転属届けだ。俺のサインと捺印もしてある。後は大淀に提出すれば好きな所に転属出来る魔法の紙だ。これをお前にやる」
本来は特殊な事情で戦えなくなった艦娘なんかを問答無用で後方へ送ったりするための書類なんだが……まぁ一枚位はこういう目的に使っても大丈夫だろ、多分。
「で?どうしろってのよ」
「俺がどうしても気に食わなくなるか、上司として信用出来ないと判断したら好きな所に転属すりゃあいい。希望は俺の権益で出来る限り融通してやる」
「なら今すぐ転属したいんだけど?」
「いや、流石にそれは無理」
「ダメじゃないのよ、このクソ提督!」
~回想終了~
そう言ってあの時も脛を蹴られたっけな。今も照れ隠しなのか、ゲシゲシ蹴られてるけど。
「それで?あの転属届渡してから20年以上経ちますが……俺は信用出来る上司かな?ぼのたん」
「……ここにアタシがいるのが証拠でしょ、このクソ提督。あとぼのたん言うなっ!」
やれやれ、ぼのたんは可愛いなぁ。
後書き
どうも、ぼのたんをイジリ倒して遊びたいクソ提督で~すwww
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