××・×××・チャンネル
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スマホを壁に投げつける。光源のなくなった音楽室は真っ暗で、光に慣れきっていた目には何も見えない。手探りでポケットからロウソクとライターを取り出す。
そういえば、この2つも彼女が持ってきたものだった。懐中電灯じゃ風情がないからと言って。
オレンジ色のぼんやりとした明かりを頼りに、ここから出ようと腰を上げる。1階の昇降口はふさがれていたが、他の出口を探せばまだ望みはあるかもしれない。
ふわりと鼻先をかすめた甘い匂いに、眉根を寄せる。
いつもはメイが隣にいたから感じなかったが、ロウソクからは蕩けるような甘ったるい香りが漂っていた。
「君たちを追いかけてる子、あたしはワンちゃんって呼んでるんだけど、とおっても鼻がきくのよ」
ふいに聞こえた声に振り返ると、扉にはめ込まれたガラスの向こうに、普段と変わらない柔らかなメイの笑顔があった。
彼女を一目見たときから、その美しさに目を奪われた。人形のように整った顔はいつも無邪気に微笑んでいて、天使のように可愛いと思っていた。
「ワンちゃんは賢いから、あたしの香水とロウソクの香りをかぎ分けられるの。ほんの少し、ムスクが多いか少ないかの違いなのに、凄いよね」
世間話でもするかのように、声のトーンもいつもと変わらない。彼女は最初から狂っていたのだ。
いや、違う。狂っていると評価するのは正しくない。彼女にとっては、これが普通のことなのだ。
「さて、そろそろ時間かな? それじゃあ××君、バイバイ」
ブツンと、何かが切れる音が上から聞こえる。顔をあげる間もなく、落ちてきた巨大な黒い塊に潰され、全身の骨が軋み折れる音が聞こえた。
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