DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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センス
第三者side
「わ!!どこ投げてるの!?」
「ごめん!!」
グラウンドの隅で始めてのキャッチボールに苦戦している一年生たち。それを横目で見ているのは、ペッパーゲームを行っている上級生たち。
「経験者の子たちもやっぱり差があるね」
「まぁ……うまい奴らは東英に行っているだろうからね」
私立東英学園……彼女たちと同じ東京都内で最も女子野球が強い学校として知られている。男子の野球はそれほどでもないが、女子生徒の比率が多いからか、中学時代から野球をやってきた生徒たちが多く集まってくるのだ。
「それでもよく瑞姫ちゃんが来てくれたよ。今年はそれだけが救いかな?」
「いやいや、これからうまくなる子だっていっぱいいるよ」
相手が投じるボールをじっくりと見ながら打ち返す銀髪の少女がそう言う。それを聞いた相手の金髪の少女は、彼女の打ちやすいコースにボールを投じ、打ち返されたそれを華麗に捌きながら話している。
「栞里!!伊織!!練習に集中しろ」
「「は~い」」
隣でペッパーゲームを行っている陽香に注意され、反省の色が見えない返事ではあったが、さすがは主力選手といったところか、すぐに練習に集中している。
スカッ
「葉月、ボールに集中しろ!!」
「すみませ~ん」
陽香の投じたボールを空振りした黒髪のサイドテールの少女は、バットを抱えたまま後ろへ転がっていくボールを拾いに行く。
彼女が走っていると、女性らしい体つきをしているからか、ユニフォームの上からでもわかるほどの大きな膨らみが揺れるのが目についた陽香は、自分の小さなそれに手を当て険しい顔になっている。
「あんたが集中できてないじゃん」
「それは言わないでくれ、莉子」
長い髪を二つにまとめ、お団子にしているピンク色の髪をした少女が陽香に向かってそう言う。
図星を突かれた彼女は表情をひきつらせながら、葉月から返球されたボールを受け取っている。
「今日は投げるの?」
「いや……今日はバッティングをしておきたいかな」
「了解」
先に所定のメニューを終えていた彼女は、彼女にそれを聞くとすぐに離れていく。彼女の手にはめられている内野用のグローブを見て、思わずため息を突く。
(あいつには悪いことをしているが……チーム事情として仕方ないことなんだよな)
他のグループの後ろに入っている彼女の動きは他の選手よりも遥かに優れている。それだけに、本来のポジションに配置できないことがキャプテンとして気になっていた。
「お待たせしました~、陽香さん」
「あぁ、すまない」
いつの間にか戻ってきていた相方に声をかけられ、集中力が切れかけていたことを反省する。思うところはあるが、それを考えても仕方ない。そう切り替え、彼女は練習に戻った。
瑞姫side
バシッ
莉愛の胸元に投げ込むと、まだ新しいミットでいい音を出して捕ってくれる。元々運動神経がいいからなのか、ボールも私の捕れる範囲に投げてくれるし、すごくやりやすい。
「お!!莉愛ちゃん!!うまいね!!」
「えぇ!?ホントですか!?」
優愛さんに褒められて満更でもないような莉愛。優愛さんは明るい性格だからか、人を乗せるのがうまい。
「うんうん!!そのくらいならすぐに試合に出れちゃうかもね~」
「わーい!!やったぁ!!」
優愛さんがスタメンを決めるわけではないのにすっかりその気になっている莉愛。でも、このチームには水島莉子さんがいるから、莉愛が希望しているキャッチャーとしての出場は恐らく秋まではできないんだよね……
(まぁ、絶対に言えないんだけどさ)
莉愛にそう言ってもあの子は諦めないだろうし、そんなにすぐ試合に出れるとは思っていないと思うし……余計なことは言わない。
「優愛!!ちょっと来てくれ!!」
「えぇ!?イヤで~す!!」
「優愛!!」
「はい!!すみませんでした!!」
すると、先輩たちのアップが終わったタイミングで優愛さんが陽香さんに呼ばれる。相変わらずのおふざけモードで返していたけど、すぐに誰に呼ばれたかわかった彼女はダッシュでそちらへと向かっている。
「明里!!そのままキャッチボールとノックやっておいて!!」
「え?ノック一人でやるの!?」
大慌てでもう一人の教育係の明里さんに託していなくなってしまう優愛さん。さすがチームの主力なだけあって足がすごく速くて、明里さんの問いに答える暇もなくいなくなってしまった。
「えぇっと……とりあえず、もうしばらくボールに慣れようね」
「「「「「は~い!!」」」」」
なんだかバタバタしているけど、仕方ないのかな。そもそもあんなに破天荒な優愛さんをこの役目をやらせている時点で、何か起きそうだなぁとは思ってたからね。
明里side
「う~ん……そろそろノック始めたいんだけど……」
チラッと優愛たちの方を見るけど、何やら向こうであったらしい。大方週末の春の大会についてのことだとは思うんだけど……
「えぇ……どうしよっかな……」
陽香さんからの指示でこの後サイドノックをするようにと言われている。サイドノックとは、それぞれのポジションに着いて行うシートノックとは違い、全員が同じ位置からノックを受ける。
それによりボールに慣れるという意味合いが強いのだけど……
(一人だとさすがにやりづらいんだよね……)
高校野球ではたまにいるが、片手でノックを打ち、もう片方の手で相手からボールを受ける。しかし、それは現実的ではない。女子がやるとどうしてもバットが重くて強い打球が打てなくなる。それだと練習にならなくなってしまう。
(でもこれ以上やらせると集中力切れちゃうだろうし……仕方ない、代わる代わるキャッチャー代わってもらうか)
何回かずつノックをしては誰かにキャッチャーを代わってもらいながら全員に打球を受けてもらう。未経験の子も多いから、今回は経験者に絞ってキャッチャーをやってもらおうかな?
「はい!!じゃあ集まって!!」
「「「「「は~い!!」」」」」
間の抜けた返事にタメ息が出る。みんな優愛のせいで少し気持ちが入ってないように思うんだよね……あとで凝らしめておこっと。
「今からノックをします。今から捕り方の説明するね」
「「「「「お願いします!!」」」」」
今日はゴロだけの練習にするから、それに合った基本的な動きを教える。今回の子達の中で硬球の経験者は二人だけ。他の経験者たちはみんな軟式だから、勝手が違うからか少し戸惑っているみたい。
「私がノックを打つから誰かキャッチャーしてもらいたいんだけど……」
「はい!!」
硬球経験者の二人のどちらかに最初はやってもらおうとそちらを見ると、全く別のところから元気な返事がする。そちらに顔を向けると、そこには目を輝かせて手を挙げている水髪のツインテールの少女がいる。
「う~んと……」
本当は安全性を期すために経験者の子にやってほしいんだけど、よほどキャッチャーという単語に拘っているのか、やりたくて仕方ないといった表情の莉愛。
「……よし、じゃあお願いね」
「やったぁ!!」
本来なら説得しなきゃ行けないところなんだろうけど、さっきのキャッチボールの感じだとそこそこできそうだったし、ダメそうなら後で代わってもらおうと思い特別に許可する。それが心底嬉しかったのか、彼女は万歳で喜んでいた。
「じゃあ始めるよ。みんなはこの線からスタートね」
スタートの位置を決めてそこに線を引く。今回はボールに慣れることが目的だから遠すぎても近すぎてもダメ。ある程度の距離感を持って離れ、バットを構える。
「じゃあ一人ずつ、行くよ」
「お願いします!!」
やはりと言うべきか、経験者が前に来て初心者の子達は後ろになる形。様子見も含めて、ゆっくりノックをして行く。
パシッ ピュッ
瑞姫はさすがに守備も手慣れている。中学時代に男子に混じった中でもレギュラーだっただけに、他の子達よりも抜きん出たものを持っている。
「次!!」
「はい!!」
次の紗枝も硬球経験者。試合にもそこそこ出てたみたいだし、ボール捌きもうまい。でも、緊張していたのか……
「あっ!!」
投げる時にボールを引っ掻けてしまい半端な送球になる。
「ほっ」
バウンドするかしないかの微妙な高さ。でも、莉愛はそれを平気な顔で捌いていた。
「ナイスキャッチ」
「えへへへへ///」
褒められて満更でもなさそうな表情を見せる。なんか優愛っぽい雰囲気があるなと思いながらも、ボールを受け取り次に移る。
でもここからは経験者とは言え硬球は未経験の子達。緩めのゴロを打つため捕るまでは問題ない。ただ、どうしてもスローイングが不安定になってしまう。
ピュッ
予想していた通り乱れる送球。しかも今度は一番捕りにくいハーフバウンド。これは怖がって逸らしても仕方ないかな?
「うわっ!!」
と思っていたのに、彼女は膝をついてそのボールを難なくキャッチする。経験者でもなかなかできない判断を咄嗟にする彼女に、目を疑ってしまった。
「やぁやぁ!!お待たせお待たせ」
驚きを隠せずにいると、ようやく優愛が戻ってきたようでこちらに戻ってくる。堂々と歩きながら。
「走れ!!」
「わーん!!怒られたぁ!!」
思わず声が出てしまった。だってまるで偉い人みたいにゆっくり来るから、さすがに注意もしたくなるよね?
「よしよし、莉愛ちゃんあとは任せてノック受けてきてねぇ」
「えぇ!!キャッチャー楽しいのに……」
「大丈夫大丈夫、また今度させてあげるから」
「ホントですか!?やったぁ!!」
なんだか妹をあやすようなノリで莉愛をみんなの方に送り出す優愛。ただ、今考えているのはそこではない。
「あの子、もしかしたら使えるかもね」
「あ?やっぱりそう思っちゃう?」
どうやら優愛も同じことを思っていたらしい。初心者とは思えないほどの判断力とボールに適応できる能力。これは間違いなくセンスと言っていいだろう。
「春の大会が終わったら、監督に話してみようか」
「うん。それまでは私たちが頑張らないとね」
夏の大会のシードを決める春の大会。それが終われば再度チームの編成が行われる。その時に何人の一年生が出てこれるか、これは全国大会に行くためのもっとも重要な要素なのだから。
後書き
いかがだったでしょうか。
主人公は天才型が一番いいですね。じゃないとストーリーが成り立たないのでww
次は現時点での上級生のレギュラー陣が出てくる予定です。時間が取れる時に一気に進めたい……
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