異生神妖魔学園
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鬼灯冷火は動かない:怪奇の家
鬼灯冷火は親バカで異生神妖魔学園の家庭科の教師でもある母親、燐斗にいつも悩まされている。
彼女は常に娘に愛情を注いでいるが、その愛情はあまりにも過度。いつもキスの雨を浴びせたり、時には娘を傷つけた者には冷酷極まりない性格となったりなど、冷火は苦労していた。
おかげで燐斗は全教師の中から問題児扱いされていた。授業中でも親バカぶりが発揮されるのだから、冷火にはたまったものではない。これはそんな親子が体験した話である。
ある日の鬼灯家にテレビ局から電話がかかってきた。
内容は『怪奇の家を調査してほしい』とのオファー。電話に出た燐斗は当然これを了承。娘がメリーとアイズリーシリーズを書いているのは彼女も知っていたため、娘に新たなネタを作らせるにはちょうどいいと思ったのだ。
親子一緒に出演することも決まり、家の前にテレビ局専用マイクロバスが停まり、鬼灯親子は早速『怪奇の家』と呼ばれる家へ向かうことになった。
燐斗「頑張ろうね?冷火」
冷火「う、うん…(あー何でこんなことに……まっ、ネタになるならいっか)」
マイクロバスが到着する前までオファーを受けたくないと言っていた冷火だったが、燐斗から内容を聞いて気に入ったのか心の中では珍しくノリノリだった。ありきたりなネタでは読者に飽きられる、怪奇現象に悩む家ならすごいネタが手に入ると思ったのだろう。
冷火(一体どんな怪奇現象が起きるんだろ?楽しみだなぁ………)
運転手「あー、燐斗さん?念のため神社でお祓いしましょうか?」
燐斗「嫌よ。お祓いなんかしたら私が成仏しちゃうし」
運転手「……そ、そうでしたね。燐斗さん幽霊でしたもんね」
マイクロバスに乗りながら談笑しているうちに怪奇現象に悩まされる家に到着。鬼灯親子は早速その家に住む主人の話を聞くことに。
心霊現象が絶えない家、通称『怪奇の家』。ここに住む家主はよくポルターガイストに悩まされているらしく、起こり始めたのは10年前から。その真実をつかむため鬼灯親子はその家に一晩泊まることになった。
各部屋には2階を除き、カメラがいくつか設置された。2階の部屋は開かずの間と呼ばれていたらしく、設置しようとしたところ家主にあっさりと断られてしまった。
その夜、スタッフたちは同行された僧侶と異変が起こるまでマイクロバスで家の様子を寝る間も惜しんで一晩中監視することに。その僧侶はすでに冷火と燐斗の種族を見抜いていたが、スタッフにはバラさなかった。
鬼灯親子が夕食と入浴を終え、くつろいでいるその時、ついにその現象は起こった。
ガシャーン
バリバリバリィィッ
突然台所の方からいくつものガラスが割れるすさまじい音が響き渡った。
冷火「ひゃあっ!?(おおっ、来てよかったぁ!ネタになるぞこれ!!)」
燐斗(やっぱり思った通りだったわね。冷火、びっくりしててもホントは嬉しいんだよね♪)
正直燐斗もこの家で何が起こるか予想していなかったため、台所から聞こえてきたガラスが割れる音には驚いた。
だが同時に驚いた冷火の目を見ると、彼女は一瞬だが喜びのあまり光っていた。面白いネタが浮かんだに違いないとも考えてしまった。
ガラスが割れる音を聞きつけたスタッフたちと僧侶もマイクロバスから飛び出し、すぐに家の中へ入る。
スタッフ「何ですか、今のすごい音は!?」
冷火「あ、スタッフさん!さっき台所からガラスみたいなのが割れる音が!」
音がした台所へ向かう一同。そこには予想通り、食器棚のガラスが全て砕け、床に散らばっていた。
この場にいる鬼灯親子と家主を除いた全員が青ざめ、絶句。だがこれはほんの序曲にしか過ぎなかった。これから起こる真の恐怖が待っていることをまだ知らなかった。
???『出ていけぇ……殺してやるぅ……』
その後もポルターガイストが次々と勃発し、さらには押し潰したような低い声が耳元で聞こえるようにもなった。
スタッフ「ヴッ…!」
やがて僧侶やカメラとマイク担当を除いたスタッフたちにも異変が起こる。謎の声の影響か、脳震盪を起こし、次々と倒れていくではないか。
冷火「一体この家で何が起きてるんだ!?(スゲェ!こんなに起きるなんてネタが盛りだくさんだぁ!)」
恐怖には震えているものの、小説のネタが次々と頭に入っていく冷火。こんなに怪奇現象が起こるなんて冷火自身も予想していなかったため、心の中では歓喜に満ちていた。
ところが、その歓喜はいつまでも長く続かなかった。スタッフ以外になぜか燐斗も倒れ、過呼吸に陥ったのだ。目には怯えの色が見え、こんな奇妙な言葉を放った。
燐斗「……ピエロが、ピエロがいる………」
冷火「ピエロ!?ピエロなんてどこにもいないじゃん!ねえ、どうしたのお母さん!?ねえ、お母さん!!お母さん!!しっかりして!!お母さん!!」
燐斗の言うピエロは彼女にしか見えていないようだ。冷火にはもちろん、生き残ったスタッフにも見えていない。
冷火「これ、どうしたらいいんだよ!お母さんまでおかしくなっちゃった………」
僧侶「わかりました。では燐斗さんは私たちに任せてください。きっと家のどこかにポルターガイストを引き起こしてる原因があるものがあると思いますので、冷火さんはカメラさんとマイクさんと一緒に探してきてください」
こうして僧侶と生き残ったスタッフは燐斗を落ち着かせるため居間に残り、冷火はカメラとマイク担当の2人と原因を探るべく家を探索することになった。
カメラ「じゃあ冷火ちゃん、僕たちは外の物置の方にいるから君は家の中を頼むよ」
マイク「こっちも何かあったら連絡するからね」
冷火(連絡がどうとかそういう問題じゃねぇよ!何で私みたいな小っちゃい女の子1人残してお前らだけ外なんだよ!私が脳震盪起こしたらどうすんだお前ら!)
二手にわかれ、冷火が家の中を探索しているうちに、2階からただならぬ気配を感じ取った。その場所は昼間家主に撮影を断られた開かずの間。『立ち去れ!立ち去れ!』と警告しているように禍々しい雰囲気を漂わせている。
嫌な予感とただならぬ恐怖に震えるも、勇気を振り絞り、思いきってそのドアを開けた。
冷火「!?」
気づけば冷火は和室の真ん中に立っており、彼女の目の行く先には奥に大きな祭壇があった。
祭壇には2つの大瓶が置かれ、警戒しながら近づいた後、恐る恐るふたを開けてみる。
冷火「っ!!!!な、何だよこれ………ひどすぎるじゃねぇか………」
入っていたのはなんと、ひとつは何者かの血や肉片。もうひとつは狐、狸、蛇といった動物の生首。生首の方には先ほどの大瓶に入っていたものであろう血が塗られ、口には肉片が詰め込まれていた。
血と肉片が入った大瓶の匂いを嗅いでみると、思わず吐きそうになり、顔を背けてしまった。
冷火「こ、これは……人間の血だ…………!」
そして顔を背けた方向の行く先である祭壇の横に置かれていたのは1棹のタンス。引き出しを開けると、そこには人間以外の血肉が入った瓶が並べられていた。しかもご丁寧に名前まで書かれていた。
次々と引き出しを開けて調べたが、どれも血肉が入った瓶しかなかった。すぐに伝えなければ一大事である。冷火は急いで窓を開けると、外にいるカメラとマイク担当に大声で2階に来るよう呼びかけたのだった。
幸い僧侶は徳が高かったため、報告を受けて鬼灯親子とスタッフを家から出した後、すぐにお祓いを始めた。長時間に及ぶお祓いが終わると、脳震盪で倒れたスタッフたちは回復。先ほどまで呼吸困難で苦しんでいた燐斗もすっかり回復した。
お祓いを終え、家から出てきた僧侶はこんな話をしてくれた。
僧侶「あの家は元々『怨念屋』の家系でしてね…怨念を持った人たちを集め、その血肉を採取し、動物の死体を生き霊の依り代として儀式を行うことで憎い相手を呪い殺していたんです。冷火さんはさっき祭壇の大瓶に入ってる狐、狸、蛇の生首を見ましたよね?」
冷火「………」コクッ
僧侶「で、燐斗さんが見たピエロですが、あれは儀式で呼び出された死神の1人なんです。あれ以外に呼び出された死神もたくさんいますし、死神以外の他にも悪魔や邪神を呼び出すことも可能だったと言われていました。今回は幸いピエロだけで済みましたが、燐斗さんが見たピエロはあくまで弱い死神。あれ以上の相手なら私も冷火さんも燐斗さんもスタッフの皆さんも全員殺されていたでしょう………間一髪でしたね」
僧侶の話が終わると、冷火は何か変わったことがないかどうか調べるため、お祓いを終えた家へ入ってみた。
燐斗「気をつけてね、冷火…」
冷火(お母さん心配しすぎなんだよ……逆にこっちが心配するわ)
ところが冷火、家の中へ入った瞬間驚きの光景を目にし、凍りついてしまった。
冷火「え……そんな…………嘘だろ?そんなことって………《《何で誰もいねぇんだよ》》…………」
真っ暗闇の中、家の中には何もなく、ただ無惨に散らばった瓦礫だけがあった。いくら探索しても瓦礫しかなく、そればかりか家主の姿もどこにもなかった。
冷火「………ということは祭壇も!」
すぐに祭壇が置かれていた2階へ駆け上がる冷火。だが2階も和室だった部屋も何もなく、祭壇どころかガランとしていた。
冷火「そんな………あり得ない………」
一体あの家主は何者だったのか?この家で昔何があったのか?そしてなぜ冷火たちを襲ったのか?
そんな多くの謎が残ったが、冷火は心の中で面白いと思い、いいネタになるかもしれないと確信した後、燐斗やスタッフたちと僧侶と共に帰っていった。
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