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異生神妖魔学園

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一海の秘めた思い

あの後辰蛇を尻尾で窒息で気絶させた紺子は龍哉と牙狼に別れを告げ、気絶した辰蛇を尻尾に巻きつけたまま自宅に帰ったが、一海は怒ってなどいなかった。むしろ心配してくれていたのだ。
一海は気絶した辰蛇など気にせず、紺子が帰ってくるなりいきなり飛びつくように抱きつき、無事であったことに嬉しさのあまり泣きそうになってしまった。










紺・一「「ごちそーさまー」」


入浴を終え、その日の夕食は激辛麻婆豆腐だった。パジャマ姿の紺子と一海は裾を結ばなければならないほどあまりの辛さに汗を流した。
紺子は常にパンツ丸出しのため腹と下半身がとても涼しくて快適だったものの、対照的に一海はズボンを履いているため汗がくっついて気になってしまった。


一海「うわぁ……こんなに濡れちゃって……」

紺子「脱いだ方がいいんじゃね?パンツ丸出しはかなり涼しいぞ?」

一海「出雲姐ちゃん、そのうち風邪引くよ?」

紺子「いいんだよ。脱げばかなり涼しくなるぜ。頼むよ、脱いでくれよ」

一海「はぁ………しょうがないなぁ」


仕方なくズボンを脱ぐ一海。履いていたのは縞模様のパンツ。紺子はそれを目の当たりにするなり一海の膨れた腹に触れた。


紺子「私たち、よく食べたなぁ…カズミンのお腹、こんなに膨れちゃって………」

一海「んっ……そう言う出雲姐ちゃんのお腹だってなかなか触り心地がいいよ……」


一海も紺子の膨れた腹をなでる。互いの腹をなでているうちにふと時計を見上げると、針が夜の9時を指していた。
今の時間を確認した一海が口を開く。


一海「ねえ………ベッドに行こうよ」

紺子「?」

一海「こうやって座ってばっかりだと面白くないし、寝ながらやった方が面白いでしょ?」

紺子「…………姐ちゃんカズミンが何言ってるかさっぱりわかんないんですけど」





紺子「………そっか……ベッド行こうってのはそういうことだったんだな………………」


意味がさっぱりわからなかった紺子だったが、彼女の部屋のベッドの上で納得した表情をしていた。
部屋には気絶した辰蛇が倒れていたが、一海にはすでにわかっていた。どうせまたセクハラでもしたんだろうと。それをよそに一海は紺子に心配するような声をかけようとした途端………。


辰蛇「プァッ!し、死ぬかと思った……!」


先ほどまで気絶していた辰蛇が起き上がった。辺りを見回すと、ここは紺子の部屋。その中にはもちろん紺子と一海がいた。


辰蛇「ちょっと、紺子ちゃん………いきなり尻尾で窒息させるとか―――――」

一海「開け、『異世界の門』よ」

辰蛇「へ?何それ?」


首をかしげた瞬間、目の前には謎の空間があった。そこから皿に盛られたある料理が飛び出し、辰蛇の顔面に直撃する。



ベチャッ



辰蛇「○☆♀々※Ω■∞#$@Σ¥×△£%♂℃*〆ε√◇Åゞ§∝≧‡∬α!!!!!」


飛び出したものは先ほど紺子と一海が食べていた激辛麻婆豆腐。いや、激辛麻婆豆腐といっても紺子と一海が食べていたものに非ず。辰蛇が声にならない悲鳴をあげたということは、この麻婆豆腐は何か特殊な材料を使って作られたすさまじい辛さを誇る激辛麻婆豆腐だった。
辰蛇はそのまま倒れると同時に後頭部を本棚にぶつけ、いかにも重そうな辞書が彼女の腹めがけて落下し、直撃。何かを吐き出すような苦しそうな短い声をあげると、そのまま顔に皿が被さったまま動かなくなった。
激辛麻婆豆腐が辰蛇の頭の周りに広がり、角とツインテールも麻婆豆腐まみれになり、紺子は唖然としていた。


一海「………やっぱり無亞みたいには行かないかぁ。僕なりの『創造の門』を妖術化してみたけど…………」

紺子「いや、普通妖術で『創造の門』作れるか!?」

一海「心火を燃やせば何とかなると思って」

紺子「心火で何とかなるか!?てか、あの麻婆豆腐は何!?」

一海「わかんない。でも僕の本能が言ってる。あれは僕たちが食べちゃいけない麻婆豆腐ってことだよ…………」

紺子「その麻婆豆腐、私たち絶対死んでるよな!?」


再び気絶した辰蛇に顔が青ざめた紺子を一海はしばらくなだめたのだった。










しばらくして紺子はようやく落ち着き、一海は改めて心配するような声をかける。


一海「ところで出雲姐ちゃん。思い出したくないかもしれないけど、舌寺先輩に舐められてどうだったの?」

紺子「急に何を聞いてんだ?あんな怖い思いをしたっていうのに………」

一海「いいから答えて。どうだったの?」


顔を近づけて詰め寄る一海に紺子はもじもじしながらこう呟いた。


紺子「………………だった」

一海「ん?」

紺子「ぜ、舌寺先輩の舌で舐められて…き………気持ち悪かったのに………だんだん………気持ちよくなっちゃって………………おかしくなりそうだった………………/////」

一海「…………………」


そう呟いた紺子に一海は目を閉じ、体育が始まる前の時間を思い出す。
更衣室の中、目の前にいたのは舌寺の長い舌で縛られ、腹と出べそを舐められている紺子。舌寺はもう報復を受けて終わったはずなのに、彼に対する憎悪が再び込み上げてきた。


一海(あのペロリストの下郎、絶対に許さない。司先輩からつかみ技、龍華から格闘技を学ばないと。そこからまずはあの長い舌を引っこ抜いて、その後股間を何度も蹴りまくって―――――)

紺子「ほら、言ったぞ!思い出したくなかったってのに!おい、聞いてんのか!?///////」

一海「…………………」

紺子「ってカズミン!?な、なんか怖い…!」

一海「あ、ごめん。改めて聞いたけど、あのペロリスト…………いや、舌寺先輩だね?」


優しい笑みを浮かべる一海だったが、紺子は嫌な予感がした。『これ絶対怒ってんじゃね!?』と。
だが一海は怒ってなどいなかった。一海は笑顔を保ったまま言葉を紡ぐ。


一海「ホントにひどいよね……僕が予約取ってたのに……」

紺子「か、カズミン…?」

一海「でも一番ひどいのは………」

紺子「え?え………え?」


笑顔の一海は紺子を押し倒すと、尻尾で紺子の両腕と両足を縛り、拘束。紺子は理解できないまま一海の顔を見ると、その目に恐怖感を覚えた。


一海「出雲姐ちゃん、僕以外に触られて気持ちいいなんて、ひどいじゃないか…………」

紺子「カズミン?な、なんか目が光ってないぞ!?」


そう、舌寺に舐められたと聞いた一海は優しい笑顔を保っているものの、その目は光が消えていたのだ。


一海「しょうがないでしょ?あんなペロリストの汚れた舌なんかで、気持ちいいって言うんだもん…………」

紺子「な、なあ……確かに昨日私のお腹好きにしてもいいって言ったけど……あ、あんまりやりすぎないでくれよ?休みだったら一晩中触ってもいいけど、そうじゃない日は勘弁してくれよ?」

一海「場合によるかもね………てことで、早速………」



ズキュウウウン!!



紺子「!!?////////」


一海が紺子の上に乗るように互いの腹をくっつけ合い、急に顔を近づけてきたかと思うと、そのまま口づけをしたのだ。
だが、そのキスは乱にされたように息ができなくなるほどの激しいディープキスではなく、優しいキスだった。


紺子「んっ…!?んんぅっ!?////////」

一海「んむっ………チュッ………♡」

紺子(おいおいおい!こいつまで急にチューしてくるとか………けど、何だろう……なんか……全然嫌じゃない………)


乱のディープキスとは対照的に一海のキスは勢いがなく、逆に一海への優しい気持ちを受け止めているようにも思えた。


紺子(キスはいつも乱にやられてるけど………カズミンのは………すごい優しい………)


最初は嫌がるような声を出していたが、次第におとなしくなっていく紺子。ようやく終わった時には互いの目がトロンとしていた。


紺子「はぁ…はぁ…カズミン、お前ぇ……/////」

一海「ごめん、ちょっと怖かった?」

紺子「ふぇ?」

一海「あのペロリスト先輩の話を聞いただけで冷静にいられなくなっちゃって……出雲姐ちゃんがひどいことしかできない誰かに捕まって………また……また……1人ぼっちになるんじゃないかって………………」

紺子「……カズミン?」


語尾を震わせながら言う一海は今にも泣きそうな顔をしており、目には涙が溜まっていた。



ポタッ



一粒の涙が紺子の頬に落ちる。一海はそれを指で拭うと、あることを問う。


一海「ねえ出雲姐ちゃん、覚えてる?あの日僕が泣いてたことを……出雲姐ちゃんと偶然出会ったことを…………」










ある日の夕暮れ、紺子の家の前にて………。


一海『ひっぐ…………えっぐ…………ごめんね…………ごめんね………父さん…………母さん…………僕のせいで…………僕のせいで…………死んで…………ごめんね………』

紺子『誰かいるのか?』


何らかの理由で泣いているところを買い物帰りの紺子が見つけ、声をかけた。


一海『だ、誰?』

紺子『待て、警戒すんな。こんなトコで何泣いてんだ?』

一海『………僕のせいで…………父さんと母さんが…………死んじゃった………僕が………僕が捕まらなければ……………僕が…………!』

紺子『…………私の家に来るか?』

一海『え?』


この時、紺子の脳裏にあの記憶がよぎった。明治時代中期、初めて惣一と会った自分。声をかけられたところを短刀を向けて警戒した自分。養子となって惣一の家に住んだ自分。全てあの時と同じだ。
警戒する一海に優しい声をかけたのも自分の記憶と全て一致していた。


紺子『私も親がいないんだ。お母ちゃんは目の前で雷に打たれて死んで、お父ちゃんは老衰………お前と一緒だ』

一海『………………』

紺子『一緒に来ないか?』

一海『………………行く』

紺子『そうか。私は出雲紺子。お前は?』

一海『…………藤井…………一海…………』

紺子『なら今日からカズミンって呼んでやるよ』

一海『カズ……ミン………?』

紺子『ああ。その方が親しみやすいだろ?』

一海『…………うん』










そして今に至り、今の一海は紺子の家に居候。1人でなくなって幸せな毎日を送っている。だが、ここで紺子もいなくなれば一海は二度と立ち直れなくなってしまう。


一海「僕、本当のこと言うけど…どこにも行ってほしくないんだ……出雲姐ちゃんが………いなくなることが………怖いんだ………」

紺子「…………そうだったな。けど、いつかは私もお前も嫁がなきゃいけない時が来るだろ?」

一海「それはそうだけど………それでも…………やっぱり出雲姐ちゃんを僕が信用できそうな奴じゃないと渡したくないんだ…………」

紺子「………………(これ思ってた以上に懐いてんな)」

一海「それなのに…………あのペロリスト先輩は…………!!」


再び舌寺に憎悪をぶつけたい。一海は歯ぎしりしながら拳を強く握りしめる。


紺子「待て待て待て待て!?今はそう言うの忘れて、な?今日は私のお腹触ってあげてんだから……そ、それでいいだろ?」

一海「………それもそっか。それじゃあ、出雲姐ちゃんが落ち着いてきたところでお腹触ろうっと。もちろん出雲姐ちゃんがよがり狂って二度とペロリスト先輩の舌責めが感じなくなっちゃうほどいっぱい触ってあげるね?」

紺子「か、加減ぐらいしてよ……!?」


それから一海は自分が満足するまで紺子の麻婆豆腐で膨らんだ腹とへそをくすぐった。
一海も紺子同様腹とパンツを丸出しにしているため、紺子の右手を動かせるようにすると、紺子も一海の腹をなで回したりへそに指を入れたりした。どうやら紺子も一海の麻婆豆腐で膨らんだ腹をなでたかったようだ。
やがて互いの気が済むまで、2人はいつまでも互いの腹とへそをいじり続けたのだった。










ところ変わって閉店したEVOLUTION SPACE。麻由美はすっかり寝静まっている。
紺子と一海が互いの腹とへそをいじっているその頃、貴利矢はコーヒーを飲みながらあることを思い出していた。


貴利矢「ったく、あの学園どんだけハチャメチャなんだよ………………そういえば学園で思い出したけど………あの妖狐はどうしてんだ?」

遠呂智「どうした?いつにも増して真剣じゃねぇか」

貴利矢「いや、昔を思い出してな。悪事を働いていた妖怪を倒した時の話なんだが、俺の他にもう1人の陰陽師と一緒に行動していたんだよ。終わったのはいいんだが、いつの間にかその陰陽師がいなくなっててな。探して探して探し回ったんだが見つからなくて、仕方なく帰ろうとしたらその帰り道……偶然見つけたんだよ。《《しかも3匹の妖狐のおまけつきでな》》」

龍華「3匹の妖狐?」

貴利矢「ああ。一体どういうことだと思った瞬間、親と思われる妖狐を殺したんだよ。俺目線からして、あいつらは何の悪さをしたような覚えがねぇし……にも関わらずあいつは殺したんだ。そして今度は子供と思わしき妖狐を狙いつけた。俺は急いで術を使って妖狐を守り、村正で陰陽師の攻撃を防いだ」


コーヒーを一口飲み、続ける。


貴利矢「そしてとっさに妖狐に言ったんだ。『逃げろ!俺が何とかするから逃げろ!』ってな。けど、なかなか動かねぇからこうも言ったんだ。『何ボサッとしてんだ!?早く逃げねぇと親と同じ運命を辿るぞ!!生きたいと思ってんなら逃げろ!!』ってな。そしたらそいつは泣きながら俺たちから離れていき、せめてもの償いとしてその陰陽師の一部の能力を奪って、意識不明の重傷を負わせちまったんだ。そしてこの様だ。他の陰陽師に狙われる羽目になっちまったんだよ。『裏切り者』ってな」

龍華「………救ったことに後悔でもしてんのか?」

貴利矢「後悔してねぇって言えば嘘になっちまうが、その妖狐の大事な家族を奪っちまったからな。もし再会できたら……土下座してでも謝りてぇんだ」


星空の天井を見上げ、たそがれるように言った。


遠呂智「………そうか。ところであんた、酒飲めるか?」

貴利矢「酒?飲めなくはないが、カフェにそんなのねぇだろ?」


すると遠呂智はニヤリと口元を歪めて笑い、ある飲み物の名を口に出した。


遠呂智「ところがあるんだよな。『裏メニュー』のひとつ『カルーア』ってカクテルがあってな」

龍華「は!?カクテル!?おいマスター!?どこで買ってきたんだよ!?つーか裏メニューなんて聞いてねぇぞ!」

遠呂智「通販で興味本位で買ったんだ。コーヒー豆も使ってるって聞いたしな。言っとくが飲んでねぇからな?天文学者になれなかった時のためにバーテンダーも視野に入れてんだよ」

貴利矢「お前カクテル作れるのか!?」

遠呂智「まだだ。卒業したら勉強するつもりだ。昼間はカフェ、深夜はバーっていうのもありかもな。宇宙空間の中で酒を飲めるなんて、贅沢だと思わねぇか?」

龍華「あんたなぁ………」

貴利矢「んじゃあ、そのカルーアっちゅうカクテル飲んでみるとするかね」

遠呂智「毎度。念のため薄めにしておくぜ」


呆れた顔をする龍華をよそに、遠呂智は早速カルーアを作る準備をする。


龍華「……マスター、念のため聞くけどさ……まさか裏メニューって全部酒関連とかじゃねぇだろうな?」

遠呂智「さすがにそれはない。今んトコこれと………チャレンジ精神を持ってる奴限定に『俺特製のダークマター』も出してるんだ」

龍華「あれ出してんの!?」

遠呂智「何でもゲテモノ好きの狂った常連客がいてな。どこでその情報を知ったか知らねぇが、それを注文しやがったんだ。しょうがねぇから作って食わせてやったら、あいつ何て言ったと思う?美味い美味いって言いながら何度もおかわりしやがったんだよ」

貴利矢「や、ヤベェ……で、そいつどうなったんだ?」

遠呂智「満足するまで食らい尽くして金払って帰りやがった。正直俺、生涯初めてのトラウマになっちまったよ。ぶっちゃけ金払わんでもよかったんだが………」


遠呂智の話が終わった頃、彼の目には光がなかった。


龍華「どんな客だよ!?そいつもう化け物じゃねぇか!!」

貴利矢「てか、そいつ自体人外なんじゃねぇのか!?」


龍華と貴利矢の大声はEVOLUTION SPACEの外まで聞こえ、その前を通りかかった者が1人いた。


ヴォイエヴォーテ「雨野と言峰殿の声?まさかとは思うがまだ閉店していないんじゃないのか?」










さて、ここは牙狼の家。彼は自室で寝ていたが、ふと目が覚め、サッとカーテンを開ける。
窓の向こう側には満月が美しく輝いている。


牙狼「……………」


満月を見るや否や、牙狼の顔が急に険しくなった。
うめき声をあげると同時に瞳孔が大きくなり、口から鋭い牙が生える。手足の爪がフックのように鋭くなり、同時に髪の色と同じ銀の毛が生え、毛むくじゃらになった。普段の体格よりもひとまわり大きくなり、パジャマが破ける。全身も毛むくじゃらになっていき、やがては顔まで毛むくじゃら。尻尾まで生え、口が犬のように突き出し、尖ってきた耳は頭へと移動する。声は獣のうなり声と化していた。
先ほどまで部屋に立っていた牙狼の姿はなく、そこにいたのは赤い瞳を持つ二足歩行の狼男だった。


狼男「僕は白銀牙狼………狼男………」


白銀牙狼と名乗る狼男はノイズのようなおぞましい声を出して呟く。
家を飛び出し、超人的な脚力で家の屋根まで上ったかと思うと、満月に向かって遠吠えをした。
そして、下を向きながらこう呟いた。


牙狼?「友達に手を出してみろ……命はないものと思え……」 
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