異生神妖魔学園
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遠呂智と龍華のカフェにようこそ
紺子「EVOLUTION SPACE行こうぜ」
唐突だった。一海が理由を聞いたが、いつも自分が作るインスタントコーヒー以外にもたまには遠呂智のコーヒーを飲みたかったかららしい。
それに彼と一緒に働いている龍華も気になる。体育が始まる前の着替え中、竜巻にされたのを怒っているのではないかと不安で仕方なかったのだ。出会ったらすぐに謝ろうと考えている。
一海「いなり寿司くれた礼も言わなきゃならないし、ホント大変だよね」
紺子「でも今日やってるかどうかわかんねぇしなぁ……仮にやってたとしたら昼飯食えるかどうかだし」
一海「龍華いるかな?」
紺子「遠呂智しかいなかったら最悪だぜ……」
一海「あ、龍華ってあのカフェで働いてるんでしょ?あのかわいいメイド姿見たくてたまらないなぁ…」
紺子(何言ってんだこいつ)
EVOLUTION SPACE。それは異生神妖魔学園の生徒であり生徒副会長でもある草薙遠呂智が営む有名なカフェ。
後輩である2年の龍華も働いていることは紺子も教師も他の客もよく知っており、彼女が作る料理を求める者が後を絶たない。それとは別に彼女のメイド姿を求める者も。
店内も宇宙を模したような装飾が施されている。星空が散りばめられた天井をはじめ、天体望遠鏡やいろいろな天球儀、星座早見盤なども飾られ、常連の一部である宇宙マニアにはたまらないものだ。
だからこうして遠呂智のカフェは今日も繁盛している。
紺子「おーっす、遠呂智せんぱーい」
遠呂智「おう、紺子か。いらっしゃい」
一海「カズミンもいまーす」
軽く挨拶を交わし、カウンターの席に座る。
それぞれお冷やをもらい、メニューを見ているとメイド姿の龍華が出てきた。
龍華「全然メイド服には慣れねぇなぁ……////」
恥ずかしがりながらも紺子たちの前に出てくる龍華。彼女の声を聞いた紺子はすぐに立ち上がり、謝ろうとしたが。
紺子「めっ、メイド服ーーーー!!お前いつも青いTシャツとスカート着てるけど、カフェで働くお前の姿もスッゲェかわいいよ!!」
龍華「会って早々そのセリフかよ!!いや、言うと思ってたけど!!」
一海「…………」
龍華「カズミンもカズミンで変な目で見てんじゃねぇ!!」
遠呂智「落ち着けよ龍華。こいつ、何か言いたそうにしてるんだぜ?」
龍華「は?」
見ると、確かに何かしゃべりたそうに身を震わせている。同時に唇も震えていた。
龍華「お、おい?どうしたんだよカズミン……」
一海「……………」
返事がない。
紺子(あー、こりゃ絶対かわいいって言うな)
一海「……………か……か……かわいいーーーーーーーーーーっっ!!!!!」ピーーーーッ
興奮のあまり絶叫したかと思うと、沸騰したやかんのように耳や鼻から煙を出した。
目もハートになり、頭の中も「かわいい」の一言で埋まっていき、さらに厄介なことに意識が遠退いてしまい、倒れてしまった。
龍華「カズミンンンンンンンンンン!!!え、何で!?いくら興奮するからって気絶するか!?え、マジでどういうこと!?」
紺子「そりゃお前、着慣れてなくて恥ずかしがってたからだろ。ただでさえカズミン、かわいいの好きだってのに」
龍華「はぁ…いや、だからって!今さっき変な目で見られてたんだぞ!?俺だって恥ずかしいったらありゃしないのに!」
紺子「私だってお前に謝りたいことあるんだよ。覚えてるか?体育始まる前の着替え中にさ、お前のことグルグル巻きにしてコマみたく大回転させたろ?」
紺子の一言に黙る龍華。しばらくの沈黙が続いたと思うと。
龍華「……あーーーーーっ!!そういえばお前、確かに俺を大回転させて保健室送りにさせたよな!!あそこにいた時、どんだけ具合悪かったと思ってんだ!?」
紺子「知らねぇよ!……あっ、さてはお前!私の尻尾の万能さにビビってたなぁ!?」
龍華「確かにあれはビビったわ!でもさ、そこまでするか普通!?俺が尻尾動かしてるの見たことないからってそこまでするか!?」
紺子「あっ、言ったな?そこまで言うんなら動かしてみな」
龍華「上等じゃねぇかテメェこの野郎!!」
カチューシャを床に投げ捨て、カウンターにあるお冷やを尻尾を使ってつかもうとする。龍華は龍神族の1人で赤と青の尻尾が2本ずつ生えている。
しかしいくら彼女が龍神族といっても尻尾を動かしたことは一度もない。なかなか動かず、逆に尻尾がお冷やを押してしまう。
紺子「…なーんだ、全然動いてねぇじゃん。それがお前の本気?笑っちゃうぜ」
龍華「うるっせぇな!ていうか!動いてねぇどころか全然動かねぇ!どうなってんだ!?」
紺子「龍華がバカだからじゃね?」
龍華「バカって何だよ、バカって!せめて体育つけろよ!」
遠呂智「ほらほら、もうやめろよ。せっかく客が来てくれたんだ、ちゃんともてなしてやれ。あと紺子、お前も用があってここに来たんだろ?俺にも何か言わなきゃならないことあるじゃねぇか」
紺子「…………そうだった。遠呂智先輩、いなり寿司届けてくれてありがとな」
龍華「俺にも言わなきゃならないことあんだろ」
紺子「龍華もごめん。もう二度としないから」
龍華「全くよぉ…」
遠呂智「これにて一件落着。さて、あとはカズミンを起こすか起こさないか……」
ドアが開くと同時にベルが鳴り、別の客が入ってきた。
???「入るぞ」
???「遠呂智君、いる~?」
入ってきたのは教師のヴォイエヴォーテとトリノだった。
遠呂智「おう、いらっしゃい。先生」
紺子「ヴォイエヴォーテ先生!?しかもトリノ先生まで!」
ヴォイエヴォーテ「我々が来てはまずいのか?出雲」
紺子「そういうことじゃないんだけど……先生もここに来るんだって思って………」
トリノ「遠呂智君のコーヒーと龍華さんの料理はとても美味しいって先生たちの中でも噂になってるんだよ。ヴォイエヴォーテ先生に誘われてここに来たんだよね」
ヴォイエヴォーテ「うむ。では草薙、早速だがコーヒーをひとつくれないか?」
トリノ「僕は龍華さんの紅茶で」
遠呂智「へーい、かしこまり。龍華、紅茶はお前の役目だから頼むぜ」
龍華「おう」
紺子「じゃあ私もコーヒーとナポリタン頼むわ」
遠呂智「任せな。龍華と一緒にとびっきり美味いのを作ってやるよ」
紺子(カズミンのも頼めばよかったかな…)
紺子は少し後悔した。すると。
一海「ちょっと出雲姐ちゃん!!ちゃんと僕のも頼んでよ!!」
紺子「ウェ!?カズミン!?」
龍華「生きてたんかい!!」
一海「勝手に殺さないでよ!!まだ生きてるから!!」
トリノ「いや、僕たちがここに来る前何があった!?」
遠呂智「カズミンが龍華のメイド姿見て気絶しちまってな」
トリノ「気絶!?」
ヴォイエヴォーテ「雨野はここのカフェでメイドをやっているが、全然慣れないとのことだ。藤井はその恥ずかしがっている姿を見てあまりのかわいさに倒れたのだろう」
遠呂智「正解」
トリノ「一海さァァァァァァん!!?」
ようやくコーヒーと紅茶が完成し、紺子たちの前に置かれる。その中には一海の分であるコーヒー以外にもいなり寿司もちゃんとあった。
紺子「全然起きなかったらどうしようと思ってたけど、これで安心だ」
紺子の前にはコーヒー以外にもナポリタンもしっかりあった。
一海「だから勝手に殺すなって」
トリノ「一海さん……」
ヴォイエヴォーテ「烏丸殿、そなたもあまり気にするではない。しばらくの間ここでくつろごうではないか」
トリノ「ええっ!?ですがヴォイエヴォーテ先生…」
ヴォイエヴォーテ「今日は休日だろう?私にもたまにはゆっくりしたいという気持ちがある。この時期働き盛りの我々にはちょうどよいからな。ほどよく休みをとれば、翌日の仕事が大変はかどるのだ。烏丸殿は考えたことはないのか?」
トリノ「ヴォイエヴォーテ先生…ぼ、僕は………」
言葉を続けようとしたが、再びドアが開く。
来店したのは司である。
遠呂智「おう、いらっしゃい。うちのコーヒーは美味いぜ?」
司「最近人気だと言われてるカフェに初めて来てみたが……なかなかいい雰囲気出してるじゃねぇか」
紺子「お前がここに来るなんて珍しいな。どうしたんだ?」
司「よっ、紺子。実はいろいろ悩んでてな…」
龍華「悩んでる?いっつも明るいお前がどうしたんだ?」
司「音楽の先生だよ。あの先生、種族トルネンブラだろ?あんな白髪混じりのババア、どうやって先生になれたんだってつくづく思っちまう。音色もたまに不気味すぎるし―――――」
司がため息をつきながら言っていたが、この時彼は気づいていなかった。
誰かが声をかけようとしたが、間に合わなかった。司の背後にいつの間にか現れたその音楽の教師が殺意を込めた笑顔で仁王立ちしていたのだ。
南原「つ・か・さ・く~ん?」
司「!?」
振り向こうとしたが、即座につかまれた。
南原はいつものジャーマンスープレックスをかけようとする。
南原「何度も言いますが、音楽をバカにしたり私の年齢を気にする奴はジャーマンスープレックスの刑に…」
遠呂智「すんなよ?ここ、店の中だから。やるなら外でやってくれ」
南原「わかったですよ~」
トリノ「そこは了承するんかい!?」
司「ふざっけんなよ、おい!!なぜ俺様がジャーマンスープレックスを決められなければならない!?」
南原「ごちゃごちゃ言わずに表に出るですよ♪」
一海「やっぱり怖い…」
引っ張り出されるようにカフェを出た司。外から店内に地響きが起こり、同時に司の絶叫も聞こえてきた。
一海「ほら、僕の授業の時だってそうだったよ。藤一と稚童の断末魔がまだ忘れられない………」
紺子「ごちそうさん。お金はここに置いとくぜ」
一海「僕の分もちゃんと払ってくれた?」
紺子「当たり前だろ。ほら、帰るぞ」
遠呂智「またのお越しを~」
店を出た紺子と一海は南原のジャーマンスープレックスによって埋められた司を見た。それを見た2人は恐怖で震え、絶対音楽をバカにしないと決意したのだった。
???「うぃーっす」
紺子と一海が出て30分後、新たな客が来店した。
その男は平安時代の貴族の着物と袴を身につけ、色合いは黒と紫。黒い立烏帽子をかぶっているというまるで陰陽師と同じ服装をしていた。
龍華「いや、だからここお前の家じゃねぇだろって!実家どうした!?」
陰陽師「同じ陰陽師に燃やされたんだよね~。おかげで住む場所がねぇよ。弁償しろよなぁ、あいつ…」
陰陽師はカウンターにぐったりと突っ伏しながら呟く。
龍華「………………マジで陰陽師だったのかよ」
陰陽師「信じてなかったの!?」
龍華「お前の話が9割嘘くせぇからだよ!」
陰陽師「さすがに泣くよ、自分………」
トリノ「人間がここに来るなんて珍しいですね………」
ヴォイエヴォーテ「珍しくもないだろう。草薙のカフェは人間も入店できる」
遠呂智「そういうこった。特にこいつは人間の……それも陰陽師初の常連客でな」
トリノ「陰陽師なのにチャラそうに見える気が……………」
遠呂智「安心しな。俺たちが見つけ次第じわじわとなぶり殺しにしてやっからよ」
龍華「怖いこと言うなよ!?」
遠呂智「住む場所なくなったんだぞ?せめて何か食わせないとかわいそうだろうが」
ヴォイエヴォーテ「失礼だが、そなたは陰陽師のようだな。名は?」
陰陽師「言峰貴利矢と名乗っておきますかね。ところであんた、見たところ吸血鬼みたいだな。俺にはわかるんだ」
ヴォイエヴォーテ「そうか……見たところそなたは全ての妖怪を知っていそうだな。では烏丸殿の種族はわかるか?」
貴利矢「天狗だろ?」
遠呂智「おーい、貴利矢ー?あんたの好きなロコモコとコーヒーでいいかー?」
貴利矢「別にいいぜ。ちょうど腹減ってるしな」
果たしてこの陰陽師、一体何者だろうか。
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