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エターナルトラベラー

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第六十八話

 
前書き
とりあえず今回のはSAO編の閑話的なものとその後の日常の話しです。 

 


ソードアート・オンライン。

後に最大のサイバーテロと呼ばれる一人の天才が引き起こした事件。

デスゲーム。

俺はそんな事件に巻き込まれた一人だ。


突然だが、俺には前世の記憶があった。

前世の俺は所謂…まあ、アニメや漫画が好きな、一般ではオタクと言われる人種だった。

しかし、何が起こったのか俺自身にも分からないが、気が付いたら体が縮んでしまっていた。

いや、若返ったと言うわけではない。

どうやら前世を思い出すのが遅かっただけで、生まれ変わりのようだと気が付いた。

…もしくは憑依か?

成長し、情報を集めるとどうやら自分が居た日本とは現代に至っては総理や、芸能人に知らない名前が多く、…これが一番重要なことかもしれないが、俺の記憶にあるアニメや特撮と言ったエンターテインメントが放映されていなかった。

これにより、平行世界か漫画、アニメの世界の可能誠意が増したわけだが、特に周りに超常の力が溢れていたり、自身に隠された力が!とか言う事も無く、平穏無事に過ぎていった。



そんな時、ゲーム業界で革命が起きた。

MMORPGファンなら心待ちのVR技術の一般化である。

此れにより発売される一本のゲームタイトル。

転生してもオタク趣味は抜けなかった俺は何日も前から店に並び、どうにか初回生産分を手に入れることが出来た。

しかし、此れが俺の運命を大きく変える出来事になろとは…


ゲームをインストールしてアバターを設定する。

ふむ、男女どちらでもいいのか…

と、そこで俺の心に魔が差した。

前世のアニメはこの世界には無いのだから前世のキャラをロールプレイしてもそれはオタクの成り切りとは違って普通のロールプレイになるのでは?

そんな事を考え、アバターをいじくり回すこと数時間。

ピンクブロンドの髪に少し残念なプロポーション、さらに一番凝った所は声だろうか?

基本ボイスからトーンをいじくり記憶にある甲高い声に改変する。

アバター名は、『Louise Francoise le Blanc de la Valliere』

これで俺のVRでの分身が出来たわけだ。

勢い勇んでログインした時には既に夕方、目の前を中世ヨーロッパのような町並みが出現する。

ここがアインクラッド。

ふっ、ここなら思う存分姫プレイができ…ルイズでロールプレイするんじゃ無理ジャン!

姫プレイの基本はぶりっ子だ。ツンデレのルイズじゃハードルが高い。

これは選択を間違ったか?

まあ、いい。

とりあえず周りを見渡し、これからどんな事が出来るだろうとわくわくし、まずは散策と街を歩き始めようとした時、俺の数時間掛けたアバターは突然のデスゲームの始まりで木っ端微塵に吹き飛んだのだ。

デスゲームはいい…いや、良くないけれど、転生を経験したオタクとしては死への忌諱感は薄れていると言ってもいい。

しかし、しかしだっ!

俺の全てをつぎ込んだルイズたんがログイン開始数分でお亡くなりになったのだっ!

茅場晶彦よ!

なぜアバターを変更する必要があった?

長時間自分の性とは違うと精神的に変調をきたすからか?

そんな物はデスゲームだけで手一杯だ!

だいたいアバター強制変更するならばリネームさせろっ!

男性アバターで女性ネームなんて理不尽すぎるだろっ!

これじゃPTすら組めねぇよっ!

ぜぇはぁ…

欝だ…やる気しない。

デスゲーム?どうでも良いよそんなもの…俺の情熱をかえせ!


やる気をなくした俺はふらふらと歩いている内になんか大きな城の中にある凄く大きなモニュメントの前まで歩いてきていた。

なんだこの石碑は?

眺めるとアルファベットの『a』から順番に人の名前のような物が書いてある。

それも途方も無い数だ。

これはおそらくここに閉じ込められた一万人全てのアバター名だろう。

俺は何の気無しに『a』から順に眺めていく。

たまに読めないスペルも有ったが読み流していく。

「うん?なんだ?姉妹か何かでログインしたのだろうか」

『c』から始まるラインを読んでいたときだ。

前からかぶっている四文字の後にスペースを入れて別の名前が続いている。

「ええと…キュア…ブラック?…キュアムーンライト…キュアピース…これってもしかして」

プリキュア!?

「ええええええ!?」

混乱の所為で大声が出てしまった。

も、もしかして俺以外にもこの世界には転生者が!?

もしかしてまだ居るかもと思い読み進めると出るは出るは…

…大半が女性キャラだったが、俺と同じ様な事になった男性ではなかろうか。


その時俺の心に一つ湧き出た感情があった。

きっと彼らにも前世の記憶があるに違いない。

会って見たい。

彼らと会って話がしたい。


そう思った俺は行動に移すことにした。

先ずは方法だ。

どうやったらこの一万人の中で彼らとコンタクトが取れる?

一人一人話し掛ける?

無理だ。

もっと効率よく、彼らだけに分かるような物で知らせる方法はないか?

一番手っ取り早いのは『声』だ。大勢の前で彼らのみが分かることを話せば?

だめだ、注目は集まるが、ただの妄言野郎になってしまう。

ならば、話しよりはいっそ歌か?

良いかもしれない。

前世知識のアニソンを大勢の前で歌っていれば向こうからコンタクトを取ってきてくれるはずだ。

そう思った俺はまだなにも入れていないので二つ空いているスキルスロットに何か役に立ちそうなスキルが無いかを探し、発見した『拡声』を入れる。

これは名前から言ってたぶん声を大きくする物だろう。


場所を人が集まる広場へと移動する。

勇気を出して歌おうと思っても中々歌えずにその日は日も暮れてしまった。

二日間。

それは歌いだす勇気を出すために要した時間だ。

動悸が激しくなるような幻覚に襲われながらも何とか歌い始める。

「まっくすは~~~と」

プリキュア、プリキュア


全てはここから始まった。

この後に出会う彼らとはゲームの中だけで無く、帰還したリアルでも切れない繋がりになるのだが、それはまた後の話だ。






木枯らしの吹きすさぶ十一月に現実世界へと帰還した俺に待ち受けていたのはソラ達との再会と、寝たきりだった為に低下した身体能力と、現実社会の現状だった。

当然通っていた学校は休学中で単位は足りてないので当然留年していたし、非日常が日常であるデスゲームの中に二年間も閉じ込められていた俺達SAOサバイバーは倫理観にズレが有るのではないかとカウンセリングに回された。

ゲーム内ではPKをしたことは無いし、何とか早期でカウンセリングも終わり、今は落ちた体力を戻すべく体力作り中だ。

いやぁ、まいったね。

起きた時なんかは歩く事で精一杯だったからね。

神酒を取り出し口に含み何とか普通に走れるくらいまでは回復したが、それでも落ちた筋力が戻ってくるわけじゃない。

学校などはリハビリが済むまではと休学し(どうにも新年度からSAOサバイバーを集めた学校が新設されるとの噂もあるが)体力づくりに励んでいる。

海鳴の街を久遠を連れてランニング(数十キロ単位)し、折り返し地点の海鳴温泉で汗を流し、帰ってくるのが天気の良い日の日課になりつつある12月中旬。

まだ雪の降らない山道を駆け抜け、目的地の海鳴温泉へと到着した。

「じゃあ、俺は温泉に浸かってくるから、久遠も遠くに行かないようにね」

「くぅん。大丈夫、そんなに遠くには行かないから」

子狐の姿のまま森の方へと散歩に行っている久遠。どうやら顔なじみが居るようだ。

俺はそんな久遠を見送って温泉旅館に入浴のみでやっかいになるべく歩をすすめた。


湯に浸かって汗を流すと、着替えを以前グリード・アイランドから持ち帰った『勇者の道具袋』をポケットから取り出した。

いやぁ、いいね。この道具袋。

中に入れた物は劣化せず、重さも消失するしね。持ち運ぶのは少しシンプルな巾着のような道具袋のみだから殆ど邪魔にならない。

そんな便利アイテムから俺は着替えを取り出し、来ていた衣服と交換した。

「ふぃ、さっぱりした」

湯上りに『勇者の道具袋』から、以前リオとヴィヴィオにあげたのと同じパヒュームを取り出してシュッとひと吹き。

一瞬で筋力疲労が嘘のように回復する。

こんなドーピングのような事はしたくないんだけど、仕方ないか。

汗も引いたし、十分温まった。…まぁ、これから帰りも寒空の下走って帰るのだが…

さて、久遠を探して家に帰るか、と旅館の通路を歩いていると廊下の手すり(バリアフリーの為に改良したようだ)に掴まりながらよわよわと千鳥足のようにふらつきながらも懸命に歩いている少女が眼に入る。

髪の毛を両サイドで纏め上げた十三、四歳ほどの少女だった。

一歩一歩ゆっくりと進む少女の横を通り過ぎようかとした時、少女がふらつき、支えていた手にも力が入らないのか手を離してしまったようでこちらに向かって倒れてくる。

「きゃっ」

「おっと」

倒れてくる少女を俺は苦も無く受け止める。

少女は受け止められた事に気が付くと目を開けてこちらを振り返った。

「ご、ごめんなさい!あたし、まだ…その、か、体が…え?」

振り返った少女のおもむきに俺は見覚えがあった。

髪の色も、瞳の色も違う、けれど…

「シリ…カ?」

少女も俺に心当たりがあるようだった。

「アオ…さん?」

驚き、声を詰まらせる俺達を不審に思ったのか、廊下の端の方から女性が走りよってくる。

「珪子!大丈夫」

俺は支えていた少女をその女性に任せ、手を離した。

「あ、お母さん。だ、大丈夫だよ」

どうやら彼女の母親のようだった。

「娘を助けていただいて、ありがとうございます」

「いえ、たいした事じゃありませんよ」

「あのっ!お母さん、ちょっといい?」

「何?珪子」

「あたし、この人とお話ししたい事があるの」

「そうなの?」

母親は良いかしら?と言う意味を込めた視線を俺に向けた。

「俺も話したいことがあるので、向こうのカフェテリアに行きませんか?」



カフェテリアの席に座ると母親は適当に飲み物を取ってくると席をはずした。

改めて目の前の少女を見る。

「…シリカ、だよね?」

「その名前を知っているって事はアオさんって事ですよね?」

「ああ、本名は御神蒼(みかみあお)、年齢は…もう19になったかな」

互いに知り合いのはずなのに自己紹介とは、なんかくすぐったい。

「あたしは綾野珪子(あやのけいこ)って言います。…いままでいっぱい会話をしてきたはずなのに、こうして自己紹介をしてるのって、なんか変な感じですね」

それはあの世界のアバターが現実の容姿を再現したからだろう。

「珪子ちゃんでいいのかな」

「…シリカでいいですよ。なんかそっちの名前も呼ばれなれちゃって、なんかアオさんに珪子って呼ばれると少し違和感があるんです」

ニックネームって事で、とシリカ。

「アオさんはいいですね。アイオリアって本名をもじったんですか?」

「そんな所」

以前その名前で呼ばれていた事があるとは言わなかった。

「まあ、それより。シリカはどうしてこんな所(海鳴温泉)に?」

聞けば病院から退院後、リハビリステーションに通いながら何とか体力を戻そうとしていたシリカだが、動かない体にやはり心的ストレスが掛かるだろうと、母親がリフレッシュにと温泉街へと旅行兼リハビリに来ているらしい。

先ほどの手すりに掴まっての歩行もその一環であり、手すりの先に母親が居たのだそうだ。

「アオさんは?」

「俺もリハビリの最中に汗を流そうと寄っただけ」

「この街に住んでいるんですか?」

「まあね。とは言ってもここからはずっと離れているけれど」

ここは山の方だからね。俺の住んでいるあの辺りはむしろ海が近い。

「え?じゃあどうやってここに?」

「ああ、体力づくりのために走って来た」

「え?走って!?もう走れるんですか!?あたしなんてまだ歩くのも精一杯なのに…」

頑張ったからね。

『アオ、どこ?』

シリカとの会話をしていると、久遠から念話が入った。

そう言えばそろそろ待ち合わせ時間か…

俺は腕時計を見ると、シリカに視線を戻す。

「悪い、シリカ。久遠が待ってるみたいだから、俺は行かないと」

「…久遠…さん?…えっと、どなたですか?」

こんな普通ならば学校に通っている時間に待ち合わせをする人間なんて普通は居ないよねぇ。

「ああ、家で飼っている狐の子供だよ。一緒に来ていたんだけどね、森の中で遊んでたんだ」

「え?狐を飼っているんですか?」

「まあね」

「可愛いんですか?」

「まあね。見たいの?」

「勿論です!」


シリカの母親に断りを入れて、車椅子にシリカを乗せてハンドルを握って旅館の外に出る。

そう遠くない観光コースを歩くと久遠との待ち合わせ場所に着いた。

念話で知り合いを連れて行くことを伝えてあるので人見知りの久遠だが、いきなり逃げたりはしないだろう。

カサリと茂みを掻き分けて草むらから久遠が出てくる。

「久遠っ」

「くぅん!」

てとてと俺の方へと歩いてきて、俺とシリカの正面でちょこんと座った。

「はじめまして、久遠…ちゃん?えっと、アオさん、この子って女の子ですか?男の子ですか?」

「女の子だよ」

まあ、普通狐の性別なんて見分けが付かないよね。座り込まれていたら尚更だ。

「私は、けい…シリカっていいます。よろしくね、久遠ちゃん」

シリカが丁寧に自己紹介をすると、久遠はてとてととシリカに歩み寄ってその膝にちょこんと乗って丸くなった。

「なでてもいいの?」

「くぅん」

「ありがとう。わぁ、ふわふわだね。うちのピナ(飼っている猫)みたいだよ」


久遠を連れて来た道を戻る。

「あのっ!アオさん、よければ携帯の番号とメアド、交換してくれませんか?」

「別に構わないけど」

携帯を取り出し、赤外線通信でデータを交換する。

「あ、それと、これをあげる」

そう言って取り出したのは一つのパヒューム。

「これは?」

「これは実は魔法の霊薬でね、振り掛けると簡単な怪我なら治せるし、リハビリ中の筋肉に掛ければ筋肉痛をやわらげてくれる優れもの」

と、本当のことを言って嘘っぽく伝える。

シリカにはかなり多くのことを助けられたし、七十五層のボス部屋からの脱出はシリカが居なければ果たされなかっただろう。

だから、これは感謝の印だ。

「へぇ、そうなんですか」

「あ、あれ?信じるの?」

「なんとなく、アオさんなら有るような気がします」

「そ、そう?」

なんだろう…シリカの間違った方向の信頼感は…

「とりあえず、寝る前にほんのちょっと飲んでみてもいいかもしれないね。足りなくなったら水を入れてここのボタンを押すとカプセルが押し出されて水に溶ける仕組みになってるから」

「分かりました」

母親の所にシリカを送り遂げ、久遠を連れて今日のところは家に帰ることにした。

聞けばしばらくこの温泉に滞在するとの事だし明日も会えるだろう。


side シリカ


アオさんと別れ、お母さんに車椅子を押されて今借りているこの旅館の部屋へと戻ったあたし。

部屋の奥にあるフローリング張りの縁側に設置してある背もたれの高いイスに座ると、お母さんが部屋に設置されている急須でお茶を入れ、対面に座った。

私は湯のみを掴み、一口すすった所でお母さんが盛大な爆弾を投下した。

「あの人でしょう。珪子の好きな人」

その言葉に驚いたあたしはお茶を気管に入れてしまい盛大に咽た。

「ケホッ、ケホッ…なっ!何言ってるの、お母さん!?」

あたしは誰か好きな人がいるとか言う話をお母さんとしたことは無い。

そもそも好きな人なんていないもん!

「アオさんはソードアートの世界でお世話になった人で…一緒に冒険した仲間って言うか…」

「ふふ、自覚は無いみたいだけどはっきりしとかないと手遅れになるわよ?彼、きっともてるもの」

え?

「顔のつくりがって言う訳じゃなくて。彼、強そうじゃない」

うん。それはあたしも知っている。

アオさんは強い。

あのゲームの中だけではなく、きっと現実でも。

今日、はじめて現実で会ったけど、アオさんの雰囲気から力強さを感じた。

「それに優しそうだわ」

それも知ってる。

結構ドライな物の考え方をする人だし、他人の生き死にに対してはどうでもいいような会話をあの世界で聞いた気もした。

だけど、それでも彼は優しいと、あのゲームの中で接するうちに理解した。

「強くて、優しい。それに顔の造形も整っている。ほら、これだけの要素があって本当にもてないと思う?」

「うぅ…」

確かにそう言われればそうかも。

うぅ…なんかもやもやするよぉ…

「だから、珪子も好きならばどんどんアピールしないと負けてしまうわよ?」

好き?

あたしがアオさんを?

ええええええぇぇぇぇえぇぇぇぇ!?

「ようやく自覚したのかしら。自分の子供ながら鈍いわねぇ」

顔を真っ赤にして内心で絶叫しているとお母さんがそう漏らした。

「あ、ああぁああのっ!」

パニックになって口から出る言葉が意味を成さない。

「落ち着きなさい。とりあえず、メアドは交換できたの?」

こくりと頷いたあたし。

「だったら、明日からリハビリを一緒にやりませんかって誘いましょう。まずはそれから」

ええ!?そんなのアオさんに悪いよぉ。アオさんは既に走れるくらい回復しているみたいだし。

「それから、春までとりあえずこっちに部屋を借りましょうか。お父さんには一人で我慢してもらいましょう。珪子も親しかった友達との距離が離れてしまって居心地が悪いだろうし、いっそこっちで一から始めた方がいいかもしれないわね。そうすると真剣に引越しを考えた方がいいかしら…」

仲の良かった友達はゲームの中にいた二年の間に皆それぞれ別のグループを作っていたし、彼女達の輪の中に今から入る事も難しい。

子供の社会は結構閉鎖的なのだ。

うーうー唸っていたあたしを他所に、とりあえず明日は賃貸を見てくるわと母さんが宣言していた。

「とりあえず、アオさんにメール打っておきなさいね」

お母さんは、私はとりあえずお父さんに電話してくるわ、とそう言って席をたった。

「お…おかあさ~ん」

あたしの抗議とも言えない声が部屋に響いた。

side out



その日の夕食時。

やはりなのはが当然のように席に座っている風景を眺めながら、先ほど届いたメールに了承の返事を出し、明日からの予定を会話に出した。

「明日から少し海鳴温泉の方で用事が出来たから、帰ってくるのが少し遅くなるんだけど」

「あら、なんの用事?」

母さんがそう聞き返した。

「SAOの時に一緒に冒険した仲間と出会ってね、一緒にリハビリしませんかって誘われた」

「……女の人?」

と、ソラ。

「女の子だよ」

「え?」
「女の子ぉ!?」

フェイトとなのはが少々驚いたようにこちらを向いた。

「ソラ達と同じ14歳だそうだ」

まあ、時間は有るしシリカが居たからこそあのゲームを生き抜いてこれたのも事実なので、了承したのだが。

「ふーん。…明日は丁度土曜日で学校は休みだから私も付いていくわ」

決定事項のように言い切ったソラ。

「あ、私も行きます!」
「私も」

それになのはとフェイトが追随した。

「ええ!?」

「その子も同年代の女の子が一緒に居た方が気が楽だと思うし」

「そうだよね、私もそう思う」

と、フェイトとなのはが俺を説得に掛かる。

「あら、私も会って見たいわ。明日は皆で行きましょうね」

そう母さんが纏めた。

母さんが決定したのならば逆らう事は難しい。

しぶしぶシリカに家族を連れて行くが良いかどうかをメールするのだった。



次の日、俺達は家族全員で海鳴温泉にやってきていた。

「不破穹です。はじめまして」

「私は高町なのは、14歳だよ」

「御神フェイトです。年齢はなのはと同じ14」

母親に車椅子を引かれたシリカを前にソラ達が自己紹介をしている。

「あ、あの…綾野珪子です。年齢は皆さんと同じ14歳です」

気圧されながらもしっかりと自己紹介を返したシリカ。

と、そんな自己紹介の後、なにやら女の子同士の話があるとなのは達がシリカの車椅子を押して少し離れていってしまった。

久遠とアルフもそっちに付いていたし、母さんはシリカのお母さんと談笑中。

あれ?誘われたはずの俺が余っているミステリー…

しばらくして戻ってきた頃にはソラ達とシリカはとても仲良さそうにおしゃべりしていたから別にいいか。



いつの間にかこの海鳴の街に部屋を借り、父親を逆単身赴任で引っ越してきていた綾野母子。

それにしても、やはり神酒は偉大だった。

シリカに渡したパヒュームを正しく使用してのリハビリは劇的にシリカの体を回復させた。

二日後には普通に歩けるようになってたし、一週間後には走れるまでに回復していたからね。

…ただし、結構大きな副作用がある事が判明した。


それはシリカと再会して二週間がたった頃だった。

平日の午後の昼下がり。

まだ雪の降っていない海鳴の街。

シリカと一緒に町内一蹴程度のランニングを終えると、シリカには詰まらないかも知れないが、高町家の道場をかりて、母さんと御神流の練習を一時間ほど。

その間、シリカは道場の隅で邪魔にならないように俺達を見学している。

その視線が興味深そうな感じがしたのだが、気のせいかな?

ゆっくりとした母さんとの剣戟。

バシンっと言う心地よい竹刀の音が道場に響く。

念法は体が覚えていたようだが、少しでも感を取り戻すかのようにオーラを纏って母さんと打ち合いもひと段落し、シリカの方へと向かうと、道場の隅でジィっと真剣な表情でこちらを見ていたシリカが発したこんな一言だ切欠だった。

「あの…アオさんと紫さんからそれぞれ色の付いたモヤのようなものが見えるのですが…」

え?

それを聞いた母さんも驚きの表情だ。

「…えと、そのモヤは何色に見えるの?」

「えーっと、アオさんが銀色で、紫さんが薄い紫色ですね」

2人とも取っても綺麗な色ですよ、とシリカ。

「あーちゃん…」

「ああ…」

シリカの精孔が開きかけている。

だけどどうして?

「あーちゃん、何かした?」

「いや、何もしていない…はす…だけど」

もしかして…

「心当たりがあるのね?」

「たぶん」

それらしい事はきっとシリカにあげたパヒューム。

それに使われている神酒の塊はもともと四凶を封印した物だったはずだし、アレらは基本的にチャクラの塊だった。

つまり…微弱ながら他者のオーラを吹きかけているようなものだろうか。

「それで、結局そのモヤはなんなんですか?」








その日の午後、学校が終わったソラ達がリハビリに合流すると、昼間に起きた事件について報告した。

「えー!?シリカちゃんの精孔開いちゃったの?」

そう驚きの声を上げたなのは。

ソラとフェイトも声は出さなかったが驚いている。

「どうやって?」

と、ソラが問いかけた。

「神酒を薄めたパヒュームだよ。あれを少量ずつ服用して行ったからだと思う。もともとオーラの塊みたいな物だしね」

そう言った俺の言葉に三人は納得したようだった。

「それでシリカはあっちで『纏』の練習をしているんだ」

フェイトが道場の隅で母さんに纏を教えて貰っているシリカに視線を送りながら言った。

「どの道開きかけていたんだ。ならばきちんと教えた方が大事が無いかと思ってね」

独学で念を習得し、他人に行使してしまったら大惨事になりかねないからね。

「教えたのは念だけ?私たちが魔法を使える事とかは?」

「それはもう少ししたら打ち明けようかと思っている。念を知ったなら俺達との付き合いも深くなるだろうし、いつまでも隠してはいけないだろうからね」

ソラの問いに俺はそう答えた。

「そっか、そうかもね」


時は流れ、翌年二月。

日曜日のお昼。その日もシリカとリハビリをした後、ソラ達も交えて昼食を御神の家で取っていたときのこと。

「「ブーーーーーッ!」」

「お兄ちゃん!シリカちゃん!なにやってるのっ!」

「そうだよ、皆ご飯食べているんだからね」

そうなのはとフェイトに窘められたが…

「…いや、そうは言っても…なぁ?シリカ」

「…はい」

さてさて、なんで俺達が盛大に吹いたかと言えば、食事中に流していたTV番組で取り上げた一つのニュースが原因だった。


『ザ・シード』

VRワールドを作りたいと思えば、ある程度の技術は必要だが誰でもつくれるようなパッケージが無料サイトで配布される事になり、世間を驚かせた。

そのほんの前、SAOからの帰還の際に横槍を入れて、非人道的な実験のためのモルモットとしてSAOプレイヤー300人を捕らえていたと言う事件もあり、その実験を行なっていたのがその当時人気を博していたVRMMORPGを運営する会社だったために一時は本当にVRMMOに関する風評もう酷く、衰退をたどると思っていた矢先のこの『ザ・シード』である。

此れにより、世間ではもう一度VRワールドに命が戻ったようだった。

まあ、俺達にしてみれば余り関係が無いことだと思っていた…のだが!

丁度その頃、一つの映画作品が有償サーバーにアップロードされ話題を呼ぶことになった。

『fate/stay night』

後にVR映画の先駆けとされたその映画は、有償であったが、唯一デスゲーム時代のSAOの映像であることもあり、数多くのダウンロード数を誇り、各国の言葉に翻訳され、視聴されることになる。

これが俺とシリカが噴出した原因。

まさに寝耳に水な状況だった。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、TV見てみなさい」

母さんが2人の視線をTVに誘導する。

「あ、これって」

編集して触りの部分だけだったが、そこにはしっかりと俺とシリカのアバターが映っていた。

SAOのアバターは多少の違いは有るが、現実の姿かたちとそっくりなので、知っている人が見れば一目瞭然なのである。

「あんな(デスゲーム)になっていたのに、こんな面白そうなことをしていたんだあーちゃん達は」

「「あはは…」」

あまり追求されたくないのでとりあえず笑って誤魔化そうとした俺とシリカだったのだが、結局根掘り葉掘り聞かれることになった。

て言うか誰だよ!あのファイルを流したのは!

噂だと茅場晶彦らしいが、真相は闇の中だった。

それから数日後、銀行の口座を確認すると、結構な大金が『出演料』として振り込まれていたのだが…一体誰の仕業なのだろうか?


先日、『fate/stay night』がマスコミに取り上げられてから数日後。

どこをどうやって調べたのか、SOS団団長から手紙が届いた。

どうやらSAO脱出記念&『fate/stay night』放映記念のオフ会を開くらしい。

同様の内容の手紙をシリカも受け取っているので、『fate/stay night』出演者及びSOS団メンバーには送られているのではなかろうか?


しかし、そのオフ会の会場がまた問題だった。

何故に翠屋?

一応翠屋は軽食もメニューにあるし、予約すれば奥のほうの少し隔離されているスペースの席をリザーブできるだろう。

だが、彼らが翠屋を指定したと言う事は、この世界が何なのか分かった奴らも多いと言う事だ。

うーむ、困った事にならなければ良いが…って、開催日って明日じゃん!?


翌日。

快晴のおかげで気持ちのいい金曜日の午後、翠屋にてSAO脱出記念&『fate/stay night』放映記念のオフ会が催される事になった。

皆リハビリ明けでまだ時間の都合がそれなりに付くらしく、結構な集合率だった。

「皆、よく集まってくれた。皆欠ける事無くこの世界に帰還できたことを、それと映画の成功を祝して、乾杯」

『かんぱーい』

集まったのはSOS団メンバーと風林火山からはクライン。それとエギルとリズベットと俺とシリカ。

アスナも誘ったようだったが、もろもろの理由により欠席との事。

どうやらアスナは先の事件でまだVRに囚われていたみたいで、いまだに体が動かせる状況じゃないらしいとはリズベットから聞いた話だ。

後日アスナの見舞いにシリカと連れ立って向かう予定だ。

乾杯の音頭の後、SOS団のメンバーが一直線にその手をシュークリームに伸ばす。

「おおおおおっ!此れが夢にまで見たあの…」

「そうだぜ、ヴィータ…此れがあの有名な翠屋のシュークリームだっ!」

「「うまああああああい!」」

誰だ、あのイケメン二人は?

記憶に引っかかってるようだけど、出てこない。

「待て…近くに住んでいる俺達が何故か最後だったから行き成り始まってしまい紹介もされていないから今までスルーしていたが…誰だ、そこの二人は」

とりあえず、近くに居た団長に問いかけた。

今日呼ばれたメンバーはあの映画の製作に参加したメンバーだと聞いていたし、…それに、どことなく見覚えはあるのだが、SAO世界の容姿と結びつかないでいた。

「何を言っている、ヴィータとフェイトじゃないか」

なん…だと?

「ええっ!?」

ほら、シリカも驚いているし、これが普通の反応だよね?

「どうやら脂肪に蓄えられたエネルギーを、二年に渡るSAOへの幽閉で使い切ったらしくてな。予期せぬダイエットに成功したらしい。痩せたらモテたと言われたから…大丈夫だ、すでに俺達SOS団のメンバーで制裁済みだっ!」

いい笑顔でサムズアップする団長。…何があった?

「あたし、リズベットさんの所に挨拶に行ってきますね」

「あ、ああ。俺も後で行くよ」

リズベットはどうやらエギル、クラインとSOS団メンバー以外のグループで談笑していた。

まあ、この集団に入る勇気はなかなか無いだろうけれど。

シリカが離れると入れ替わりにヴィータとフェイトがやってくる。

「お久しぶりですね獅子座さん」

待て、お前はリアルでもその名を呼ぶつもりか!

「アオだ。御神蒼。改めてよろしく」

「あ、ああ。深板(みいた)だ。よろしく」

「俺はファート。フェイトとは呼ぶなよ?それは彼女の名だ」

あらら、バレてるかな?

それぞれ自己紹介してくれたヴィータとフェイト。

つか!ファートはハーフだったのか!?

SAO内では髪の色や眼の色などは容貌を戻された後もカスタマイズ出来たけれど、まさか本当に金髪だったとは…

「それよりも、此れより異端審問を開始する!」

ザッと俺の周りを囲むように包囲したSOS団のメンバー達。

「な、なにかな?」

すると深板が裁判官風の小槌を持ち、声高らかに宣言する。

「被告人、御神蒼。罪状、テンプレ転生」

は?

「とっくに調べは付いている。今回の集まりをおこなうべく、皆の住所を調べたときに『海鳴』と言う地名があった。もしやと思い、それを深板やファートと連絡を取ったら…な?」

な?じゃないよ団長!

「高町家の隣が君の家だそうじゃないか。しかも、なんだ?なのはとフェイトと思しき人物が君の家に当然の如く上がっていっている。それに極めつけはシリカ嬢だ。…いつの間にリアルでそんな関係に!?羨ましいんじゃボケェ!」

と、深板が憤慨する。

『リア充は爆発しろ!』

うおっ!これはマズい展開か?

ヴィータやフェイトと言う名前を付けるほど好きだったのなら、彼らの暴走が手をつけられなくなりそうで怖い。

しかし、俺の心配は杞憂に終わる。

「安心しろ。リア充は許せないが、俺達にこの世界の彼女達(なのはとフェイト)に積極的に関わる気は無い。まぁ、魔法は使ってみたいと思うけれどね」

は?

突然ヴィータにそう宣言されて俺は戸惑う。

「いいか?俺達の中での彼女達はこうだ」

そう言って出されたのは誰が書いたのか、しっかりと色までつけられた二枚のイラストだ。

目を通すとどうやらそれは、なのはとフェイトがバリアジャケットを着てそれぞれのデバイスをかっこよく構えている。

その絵はたしかに記憶にあるアニメに出てきた彼女達にそっくりだった。

「だが、現実の彼女達はどうだ?確かにかわいい。だがっ!それでも彼女達は人間(リアル)だ。二次元じゃない」

それはそうだろう?当たり前の事だ。

「現実にいる彼女達を遠目に見て俺達は一つの真理を確信した」

何だ?

「二次元は二次元だからこそ好きで居れる、と。憧れと現実は別物だと、ね」

…確かに真理かもしれない。

「俺達が好きなのはこの絵の彼女達であって、それっぽいリアルの女性では無い事に気が付いた。…君も思ったことは無いかね?自分の好きなキャラクターのコスプレをしている女性コスプレイヤーを見て、自分の好きだったキャラが汚されてしまったような感覚をっ!」

あー、なるほど。彼らからしてみれば現実の彼女達はただ似ているだけの現実の人間でしかないわけか。

確かにこの絵のように目は大きいわけでもなく、頭身だって普通のリアルの人間だ。

確かに似てはいるが、それだけに彼らはギャップを感じてしまったか。

「だから、俺達は造る事にした。俺達のヴィータをっ!フェイトをっ!『リリカルなのは』をっ!」

力強く宣言した深板。

は?

こいつは今何を言った?

「先日配布を開始された『ザ・シード』。これをうまく使えば映画の一本や二本は簡単に作れるだろう。SAO内ですら可能だったのだから」

VRアバターを二次元キャラクターに似せる事は可能だろうし、魔法や飛行などと言った事もVR内ならば可能だ。

「魔法だって設定すれば使えるのだからな。ある意味現実世界でのそれ(魔法)より素質に影響されにくい所を考えると素晴らしいではないか」

それに、どれだけやっても遊びの域を出ないしね、と続けた。

「それで、だ。獅子座さんに頼みがある」

「な、何?」

あんまりいい予感はしないのだけど…

「現実のなのはちゃんとフェイトちゃんに出演依頼してくれない?」

はああああ!?

お前らさっきは関わらないと言っただろうがっ!

「それはそれ。やっぱり作品を作るにしても本人にやって貰うのが一番だと思うんだ」


その後作られた現実世界でのSOS団第一作。『魔法少女 リリカルなのは』はそれは高い評価を得て彼らを革新する事の切欠となるのだった。


追伸

一応やっておかないととは思ったクロノへの報告。

一応『管理局』等の名称が使われるからどうしようと聞いたところ、もしも管理局が地球での勢力にバレたの時の受け入れの前段階として許可されました。

とは言え、所詮は映画だし、誰も信じないとは思うけれどね。 
 

 
後書き
映画のアップロードは茅場晶彦(ヒースクリフ)の置き土産です。
たぶん映画の作成は楽しかったのでしょうね。感謝の意も込めて、その映画での収入は関わった人たちに均等に入金するようにプログラムしておいたと言う事で。
え?なんで口座がわかったかですか?
きっとSAOの課金は口座だったと信じています。…だぶん。
SAO2フェアリィダンス編はスルー。と言うか、キリトと仲良くなかったアオでは関わることが出来ません。
それにフェアリィダンス編はそもそも数日間の話しだしねぇ。
それと、SAO3ファントムバレットも多分スルーですかね。
後SAOで関われるとしたら番外編のマザーズロザリオやキャリバーくらいですかね。
と、いいますか。この後の展開はマジで考えてません。
浅く、広くをモットー?にしているこの作品としてはまた次のクロスかなぁ…現代にはもう暫く居るつもりですが…どうなることやら。

次回の更新はかなり先になると思いますが、ご了承いただけますよう。 
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