提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・70
~ザラ:カタラーナ~
「しっかしまぁ、姉妹だなぁ」
「? どうしたんですか、提督」
スプーンを咥えたザラが小首を傾げている。
「いや、ポーラの奴が頼んだのもアイスだったんでな。食い物の好みが似てるんだなぁと」
「あぁ、そういう事ですか」
ザラのリクエストは『カタラーナ』。卵黄のコクを活かしつつ、オレンジリキュールを利かせた濃厚な味が特徴のプリンをアイスにしたようなドルチェだ。
《半解凍が美味しい!カタラーナ》※分量:6人分
・生クリーム:200cc
・グラニュー糖:30g
・全卵:1個
・卵黄:2個
・グランマニエ(無ければコアントロー):大さじ1
・バニラエッセンス:3~4滴
・カソナード(無ければ三温糖):適量
さて、作っていこう。まぁ、俺も今回初めて作ったが、普段から料理をしている奴からしたら然程難しくも無かったから安心してくれ。まずは生クリームにグラニュー糖を加え、鍋で加熱していく。この時、沸騰させないように注意だ。グラニュー糖が溶けたら火から降ろし、粗熱を取っておく。
※生クリームは脂肪分40%以上の物を使う事!そうしないと濃厚な味が出なくて美味しくないぞ!
ボウルに全卵と卵黄を入れて溶いておく。そこに粗熱の取れた生クリームを少しずつ加えて混ぜつつ延ばしていく。生クリームを全て加えたらバニラエッセンス、グランマニエを加えて更に混ぜる。これで生地は完成だ。
オーブン対応の型に生地を流し込み、天板に湯を張る。湯の量は大体、生地の高さの半分位になるように。もし天板の深さで足りない様なら、金属製のバットの中に型を入れて、その中にお湯を張ろう。後は130℃に余熱しておいたオーブンで30分、じっくりと湯煎焼きする。焼き上がったら粗熱を取り、冷凍庫でしっかりと凍らせる。
しっかりと凍ったのが確認できたら、冷凍庫から取り出して上にカソナードを振る。カソナードってのはサトウキビの風味を残した砂糖でな。焦がすと香ばしい薫りがする。カソナードを散らしたらバーナーで炙ってキャラメリゼだ。当然だが土台はアイスだからやり過ぎ注意だぞ?※作者実体験
香ばしい焦げ目が付いたら再び冷凍庫で凍らせる。
これで完成なんだが、実はこのお菓子溶け具合で味が変化する。カチカチに凍った状態だと濃厚なカスタード風味のアイスでこれも美味いんだが、冷凍庫から冷蔵庫に移して竹串を刺して少し抵抗があるが刺さる位……少し溶けかけ位になるとプリンとアイスの中間の様な不思議な味わいになる。俺は此方をオススメするぜ。
「でも、確かに私もポーラもアイス好きかもです」
聞けば、間宮でも頼むのは専らアイスクリームだし、新しい味が出たら必ずチェックするらしい。コンビニに行っても真っ先に向かうのはアイスのコーナーだし、ファミレスで食事してもデザートには必ずと言っていいほどアイスを頼むらしい。
「完全にアイス好き……ってか、最早中毒だな。アイス中毒」
「そんなポーラのアル中みたいに言わないで下さいよ」
「いや、実の妹をアル中患者扱いする姉も大概だと思うが?」
「アイスだけじゃなくてかき氷とかも好きですもん!」
「いやそれフォローになってねぇし、寧ろ中毒症状の深刻さの証明になってるからな?」
アイスだけじゃなくてかき氷も好きとか、氷菓子全般好きってだけじゃねぇか。アイス好きより悪化しとるわ。
「そういえばポーラの奴、最近は休肝日を設けてるらしいな?」
「ええ、私もビックリしました……。しかも初めてそれが発覚したのが私の誕生日だったので」
「ほほぅ」
ザラによると、ザラの誕生日に限らずイタリア組は誰かの誕生日毎に全員集まってパーティを開催しているらしい。数年前のザラの誕生日パーティの際、ポーラがザラへのプレゼントとしてワインを買ってきたらしい。それも、普段から安酒をカパカパ飲んでいるポーラでは手が出せそうにない高級な奴だ。
「しかも、しかもですよ?普段なら『ザラ姉様一緒に飲みましょ~♪』って私へのプレゼントなのに半分以上飲むポーラがですよ?『今日はポーラ、休肝日なので遠慮しておきますぅ~』って言ってブドウジュース飲み始めたんですよ!ブドウジュースのボトルに入れて偽装したワインじゃなくて、ブドウジュースのボトルに入ったブドウジュースですよ!?」
「いやそれ普通のブドウジュースじゃねぇか」
どんだけザラをはじめイタリア組の連中が混乱していたかが解る。
「ローマさんなんて、ポーラの肩掴んでガクガク揺すってましたからね?『アンタどうしたの!?ツーフー?それともトーニョー!?』って」
ツーフー?トーニョー?……あぁ、痛風に糖尿か。まぁ今まであれだけ毎日のように浴びるほど飲んでた奴が、突然休肝日を始めましたなんて信じられんものな。というか。
「ザラ、お前声真似上手いな」
ポーラは妹だから似ていて当然だが、ローマの声もかなり似ていた。目を閉じて聞いたら聞き分けがつかんかもしれん。
「特技なんですよ。他の娘も出来ますけど?」
「へぇ~……って、それも気になるけど今はポーラの事だ。いきなり休肝日を作るなんて、何か理由聞いてないのか?」
「う~ん……」
実際の所、ザラは理由を知っている。だがポーラ本人から『バラさないで欲しい』と半べそでお願いされている以上、姉としても恋を応援する乙女としても口を開く訳にはいかなかった。
「け、健康の為……ですかねぇ?」
「はぁ?」
提督は納得していない様子だ。だが、間違ってはいないしある意味真実を語ってはいるのだ。酒の飲みすぎで身体を壊し、長く好きな人の側に居られなくなるのは嫌だというのが休肝日設立の経緯なのだから、『健康の為』というのは決して嘘ではない。ましてや妹の思い人本人にバラす訳にはいかないだろう。絶対に。
「提督さんって、鋭い時と鈍い時のギャップが激しすぎますよね」
「んん???」
ますます首を傾げる提督。そんな鈍感な提督の珍しい困り顔を眺めてクスリと笑いつつ、ザラはまたカタラーナを一口運んだ。とろける様な甘さの中に、ほんのりとカラメルが苦味のアクセントを加える。恋とはこんな味なのだろうか?提督とケッコンカッコカリはしているものの、提督に対してあまり恋心のような物を感じた事は無い。優秀な指揮官だとは思うし、頼り甲斐のある男性だとは思う。しかし、それまでだ。毎日のように妹から聞かされる可愛らしい恋の葛藤を聞かせられる内に冷めてしまったのだろうか?
『まぁ、傍観者も楽しいんですけどね♪』
恋に焦がれる妹と、その思いに気付かない提督。そんな2人のやり取りを美味しいドルチェや食事を楽しみながら眺める。さながらディナーをしながらの観劇の様で、これはこれで楽しんでいた。
「提督?カタラーナお代わり♪」
「ん?おう」
嗚呼、今日も妹の悶える姿を想像するとおやつが美味い。そんな事を考えながら、ザラはコーヒーを啜った。
後書き
ウチのザラ姉様は普段はニコニコしながらも、裏では小悪魔系の人でしたw
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