Fate/WizarDragonknight
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ネガーエンド始動
「や、やった……?」
大爆発によって倒れた響は、起き上がりながら呟く。
ラ・ムーがいた場所は大きな爆炎がもくもくと立ち込めており、あの巨大な質量の敵はすでにいなくなっていた。
「やったの……私……」
「響!」
茫然とする響を現実に戻したのは、陽だまりの声だった。自らの首元に抱きつく未来。
「大丈夫? 体は平気?」
「はは、未来……大丈夫……へいき、へっちゃら」
響はほほ笑みながら、未来の頭を撫でる。
さらに、ハルトやコウスケをはじめ、仲間たちや駆けつけてきた参加者たちも集まってくる。
「みんな……」
「大丈夫か? 響」
コウスケが手を差し伸べる。衣服もボロボロになっている彼だが、顔だけはいくら傷ついても爽やかな笑顔を保っていた。
「うん。助けてくれてありがとう、皆」
響はコウスケの手を借りて起きあがる。
ふらついた足取りながら、未来に肩を借りながら起き上がる。
響は静かにラ・ムーの祭壇を見返した。
「エンジェルは……この星を壊して、一体どんな世界を創ろうとしていたんだろうね……?」
「響ちゃん?」
その言葉に、ハルトが首を傾げた。
だが、未来にもたれかかる右半身に力を込めながら、響は続けた。
「確かに、世界って、どこでも……争いはあるし、ぶつかり合うこともある……難しい世界なのかもしれないけど。だからこそ、手を繋ぐために、私は叫び続けたい」
「……」
響の言葉に、誰もが静かに聞き入っていた。
「そして、言い張りたいんだ。今は、エンジェルの言う通り、醜い世界なのかもしれないけど、いつかきっと、皆が言葉で繋がる、分かり合える世界になるって。それはきっと、醜い世界なんかじゃない」
「……うん」
響の言葉に、未来は静かに頷いた。彼女は静かに、響の頬にその頬を合わせる。
「分かってる。響は、人と人を繋げるために、どんなに辛い戦いをしてきたのかも。どれだけ苦しんでも、絶対に諦めなかったことも」
「未来……」
「きっと、本物の私も、響のことを恨んでなんかいない。むしろ、皆を守ってくれたことを感謝しているはずだよ。だって」
未来は響から顔を離して、ほほ笑んだ。
「私が、今響に感謝しているから。ありがとうって」
「……うん……」
「おのれ……ランサー……ッ!」
その声に、一同に戦慄が走る。
ラ・ムーがいた祭壇。その爆炎より這って出てきた、ボロボロの姿のブラジラ。四枚の美しい翼はすでにズタズタに引き裂かれ、全身のパーツもところどころに亀裂が走っていたが、それでもその目には、怒りの炎が燃えていた。
「下がって! 変身!」
真司の声とともに、可奈美、友奈、龍騎がエンジェルの前に立ちふさがる。
だが、即座に剣を振り抜いたブラジラは、三人を一刀のもとに切り伏せる。地面を転がった三人には目もくれず、ブラジラは響へその剣を振り上げた。
「響ちゃん!」
「響!」
「ランサー!」
ハルト、コウスケ、リゲルにも、すでに戦う余力はない。響を守ろうとするが、ブラジラの方が速い。
そして。
「がはッ……!」
ブラジラの手から、剣が零れ落ちる。
その胸から、他の剣が貫かれていた。
「な……に……ッ!?」
響も、そして誰よりもブラジラも。その目を疑った。
そして、その声が、ブラジラの背後より聞こえてきた。
「ムーの誇りを汚す者は……誰であろうと、消す!」
漆黒のボディの、ムー大陸最後の一人。ブライ。
彼が、背後よりブラジラの胸を貫いていたのだった。
「貴様……ッ!」
「先ほどの礼だ。そしてこれは、ラ・ムーを汚した償いだ!」
ブライは剣を引き抜く。そして、ブラジラが彼へ振り向いた時には、すでに彼はそのブライソードを振り上げていた。
「おの……______」
ブラジラの最期の叫びさえも掻き消す、ブライソードの唸り声。
地面からの紫の衝撃波とともに、ブラジラの体は真ん中から切り裂かれた。
「あ……ッがッ!」
全身から火花を散らしながら、ブラジラは倒れる。
「死に損ないが」
その姿を見下ろしながら、ブライは吐き捨てる。
そんな彼を見ながら、響の隣の未来は言葉を紡いだ。
「貴方……無事だったの……?」
「……フン」
ブライは未来を一瞬だけ見て、興味を失ったようにブラジラを見下ろした。
「急所を突いた。貴様はもう、ネガーエンドとやらを完遂することもできない」
「埃くさいムーの生き残り風情が……ッ! この私の計画を邪魔するというのか……ッ!」
「ムーの力を弄んだ代償だ……精々地獄で後悔していろ」
「おのれ……ならば……ッ!」
ブラジラは、おぼつかない足取りでラ・ムーがいた祭壇へ移動する。
そのまま、もはや飛ぶことのできない翼を広げ、ブラジラは叫んだ。
「救星はならずとも、破壊だけは必ず果たす! 地球はムー大陸共々滅ぶがいい!」
両手を大きく伸ばしながらの宣言とともに、ブラジラの体は爆発を引き起こした。
その大きな爆発は、ムー大陸の頂上である祭壇でも、とりわけ大きなものであった。
「……ふん」
ブラジラの最期を看取ったものの中で、最初に言葉を口にしたのはブライだった。彼はソロへ変身解除し、背を向ける。
「ま、待って!」
祭壇から立ち去ろうとするソロへ、響は呼びかける。足を止めた彼へかける言葉を考えて、響は口を動かした。
「あ……ありがとう……助けてくれて」
「勘違いするな……奴は、ムーの誇りを踏みにじった。だから始末しただけだ」
「……ねえ、あなたは……」
「手を貸したのは今回限りだ」
ソロはそのまま、響を……そして、ハルトを睨む。
「次に会う時は、互いに敵同士だ。オレは、オレ以外の全てのキズナを否定する。この聖杯戦争は、オレの誇りを証明するための戦いだ」
「……ソロ……」
静かに、ハルトがその名を呟いた。
ソロはそのまま、祭壇を降りていった。揺れるムー大陸の音だけが、彼の退場を見送る音楽となっていった。
「ちょっと、皆忘れてるわよ!」
その尖った声に、参加者たちは血相を変える。
リゲルが、またゴーグルに何やらデータを表示させている。
「エンジェルも随分な手土産を用意してくれたわよ!」
彼女はそのまま、ラ・ムーがいた祭壇より地下を見下ろしていた。
「アイツ、破壊はするって言ってたけど、どうやらハッタリじゃないわ。アイツが残したエネルギーが、今ムー大陸のコアに溜まってる!」
「え? どういうこと?」
友奈が全員の疑問符を代表してリゲルにぶつけた。
リゲルは少し呆れた表情を浮かべ、
「エンジェルの計画は、このムー大陸のエネルギーを地球の核にぶつけて、その刺激で地球を破壊することよ。このエネルギーの性質を考えれば、あと一時間でムー大陸は地表に到達するわ!」
「地表に到達すると、どうなるんだよ?」
真司の質問に、リゲルは首を振った。
「ムーのエネルギーは慣性の法則に従って二時間で地球のコアに到達。その刺激で、地球全体の火山活動が活発になると同時に、護星天使とやらの力で内部から破裂。地球なんて、木端微塵になるわ!」
「木端微塵……!?」
可奈美が悲鳴に近い声を上げる。
ハルトが唖然とした表情を振り切りながら、リゲルに詰め寄った。
「何とか方法はないのか? 今、ここで、俺たちで止める方法は……!?」
「まだ力を見てない人が何人かいるけど……さっきの戦いで確認した限りだと……」
リゲルが、新しく合流した参加者をゴーグルでスキャンしている。それと、目下のネガーエンドの計画と計算しているのだろう。
そして、長くない間に彼女が下した結論は。
「……ゼロパーセント……不可能よ」
「そんな……」
ハルトが、がっくりと膝を折った。
その時。
『ピンポンパンポーン』
響を含め、全員の脳内に声が割り込んできた。あらゆる思考を停止させるその声は、ムー大陸に来た時と同じ主のものだった。
「……モノクマッ!」
歯を食いしばった響の表情などどこ吹く風とばかりに、脳内のモノクマの言葉は続く。
『今回のムー大陸のパーティーは、主催者が死亡したために、解散になりま~す。皆さん、六時間ぶりの見滝原にお帰りくださ~い!』
「おい、ちょっと待て、今かよ!」
『今で~す!』
コウスケの文句が終わらないうちに、銀のオーロラが現れる。それは、ムー大陸における聖杯戦争の開幕を告げたもので、今は同時に、閉幕を告げるものとなっていた。
「待って! 今ムー大陸から移動すると……」
可奈美の言葉など待つことなく、彼女の姿が銀色のオーロラの彼方へ消えていった。
「可奈美ちゃん! え、ちょっと……!」
さらに、言葉の抵抗もむなしく、友奈の姿もまたオーロラに飲まれていった。
「おいおい、こっちも来たぞ!」
「……ッ!」
さらに、真司、ほむらもまたオーロラに連れ去られる。
「そっちの都合で勝手にムー大陸に連れてきて、今度はそっちの都合で強制退場!? バカにするのもいい加減にしてよ!」
ハルトが文句を言ったところで、監視役の権限は止まらない。ハルトの姿もまた、ムー大陸より消失していった。
「今参加者がいなくなれば、ムー大陸を止める者は本当にいなくなるわ。これは本当に…って、まだ説明終わってない!」
「これは……この世界の能力か?」
焦るリゲルと、落ち着き払ったキャスターもまたムーの地を離れた。
「クソッ!」
さらに、逃げるコウスケを追いかけるように、オーロラも迫ってくる。
「コウスケさん!」
「振り切れねえ! 響!」
足がオーロラに飲み込まれる。だが、その中で、コウスケは叫んだ。
「もうこうなったらお前しかいねえ! 方法があるのかなんてわかんねえけど、頼む!」
そして、オーロラは響のもとにも訪れる。
だが、それが迫る前。コウスケの、ムー大陸での最後の声が聞こえた。
「ムー大陸を、止めてくれ!」
「……ッ!」
オーロラに飲まれる直前、響は横へ飛び出し、回避した。
オーロラが響がいた場所を通過し、消滅していく。
「……」
立ち上がった響は、ボロボロになった祭壇をざっと見渡した。
オーロラが見向きもしない未来を除いて、もう誰もその場にはいなかった。
『あれれ? おかしいなあ? まだ参加者が残ってる』
その声に、響は顔を強張らせた。
階段を登ってきた、聖杯戦争の監視役、モノクマ。
白と黒に二分されたクマは、テクテクと祭壇を歩いてくる。
『困るなあ。もうムー大陸での聖杯戦争は終了。ほら、見滝原に戻ってよ』
「このまま私がムー大陸を離れたら、どうなるの?」
『さあね? ボクには関係ないよ? ウププ』
モノクマは口を両手で覆った。
『エンジェルが、な~んかすっごい面白いネタを仕込んでくれたみたいだけど、ルールはルールだからね。聖杯戦争は、きちんと所定の場所で行ってもらいます』
「でも、このままじゃ地球が……」
『ああ、そこは心配ないよ』
すると、モノクマがにやりと歪んだ笑みを浮かべた。
『地球が無くなっても、聖杯戦争は続けられるよ。ボクの道具で、疑似的な地球を創れるからね』
「それ……それじゃあ、地球に住んでる、他の人たちは!?」
『ウププ。それ、聖杯戦争に関係ある?』
モノクマの白い方の眼が、赤く輝く。
『君たちは願いのために戦って、願いを叶えることができる。参加者じゃないところがどうなったところで、関係あるの?』
「あるに……」
「あるに決まってる!」
響の言葉は、未来の大声に飲まれた。
未来は、響の前に立ち、モノクマへ怒鳴った。
モノクマは未来を詰まらなさそうに眺め、吐き捨てる。
『ああ。バングレイのお人形さんか。まだいたの? 君、もう消えてもいいよ』
「響は、人と人を繋ぐために戦ってきたんだから……その響が、他の誰かを傷つけてでも願いを叶えようとするはずがない!」
「未来……」
「だから、このムー大陸は、絶対に止める! 響と、私が!」
すると、モノクマは『へえ……』と頷いた。
『もう変身する体力もない、限界を迎えたランサーと、シンフォギアを失ったただの一般人の君が? このムー大陸を止める? うぷぷぷぷぷ、あっははははははははは!』
未来の言葉に、モノクマは口を大きく開く。
『面白い! そこまで言うなら、いいよ? やってみたら? このデッカイデッカイムー大陸をどうこうしてみなよ!』
モノクマの背後に、銀のオーロラが現れた。それは、今度は響の回収には向かわず、モノクマだけを飲み込む。
『それじゃ、今回のムー大陸最後のイベントだね! このムー大陸を、君たち二人で止めてごらんよ!』
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