SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第二章 ~罪と罰~
その二
翌週、月曜日。
このよく分からない感情を解明するため、柳哉は楓を観察することにした。もっとも、じろじろ見たりするのではなく、何気なく楓の言動に注意を払う程度だが。そして昼休みはそれにはうってつけの時間だ。食事中というのは人が無防備になりやすい時でもあるのだから。
「ねえねえ、柳哉くんのお弁当って誰が作ってるの?」
柳哉の弁当を覗き込みながらシアが聞いてきた。
「今日のは自作だが」
「あれ、柳ちゃん料理できたんだ」
柳哉の返答に亜沙が驚いたように言った。
「意外ですか?」
「うん、意外」
「そう言えばインタビューの時、趣味に家事全般があったのですよ」
「こういう事に関しては麻弓の記憶力は高いね」
「ふふん、社会に出てからは使う機会の無い事を覚えるよりよほど有意義なのですよ」
樹の皮肉に麻弓が返す。典型的な勉強しない学生の言い訳である。
「今日のは、ということはいつもは違うのでしょうか?」
「水守家の人間は全員、家事全般ができるので。基本的には俺か菫が作って、時々母さんが作る、といった具合です」
カレハの疑問に柳哉が答える。玲亜が時々、というのは前にも出たが、仕事の時間が一定ではないからだ。
「うらやましいです……」
「ネリネはできないのか?」
ネリネの弁当はなかなか豪勢だが、手作りのようだ。
「はい……やろうとすると……」
放火、爆発、出血、溶解……と続いたところで止めた。それはもはや料理じゃないだろう。
「ってことはお母さんが?」
「いえ、実は……お父様です」
「えーと」
「柳、受け入れろ。あのおじさんはそういう人だ」
家庭的な魔王って……どうツッコミをいれるべきか。個人の趣味に関してはいちいちどうこう言うべきではないが。
「まさか……?」
シアを見る。察したのかシアが言った。
「あはは、うちのお父さんは手伝うくらいかな。基本的には私かお母さん達がやるし」
「達って……ああそうか、神界は一夫多妻制だったな」
神族は女性の比率が高い(約七割が女性)ため一夫多妻制を布いている。そのため複数の女性が一人の男性を好きになっても、喧嘩などはほとんど起きないそうだ。
「あの、柳君」
「ん? 何だ」
それまでずっと会話に参加せず、何かを考えていた楓が口を開いた。
「確か柳君は左利きでしたよね?」
「よく覚えてたな」
「私もですから。でも……」
皆が柳哉を見る。右手で箸を持つ柳哉を。
「右だね」
代表して樹が口を開く。
「矯正したのか?」
「いや」
稟の疑問を否定し、箸を左手に持ち替えて食事を続ける。その動きはいたってスムーズだ。続いて右手に持ち替える。ぎこちなさは一切無い。
「訓練して右もしっかり使えるようになった。それでも握力は左の方が上だけどな」
以前、左手を怪我して難儀した経験かららしい。それだけが理由ではないが。
「つまりは両利き、と。何かかっこいいのですよ」
どーも、と答える。ちなみに菫も両利きだったりする。
「で、だ。さっきの話に戻るが」
「?」
「家事うんぬん、の話。この中でできないのはネリネと麻弓と稟と……樹はできるのか?」
「一応はね」
「というか何でナチュラルに私の名前が入っているのですか!?」
「「できるのか!?」」
稟と柳哉の合唱。麻弓がどう思われているかがはっきり分かる。
「何でそんなに意外そうなのですか!?」
「仕方ないだろう? 事実できないわけだし」
樹が追撃する。
「あの、麻弓さん。がんばればきっとできるようになりますよ」
「リンちゃん……」
「あ、でもリンちゃん料理以外はすごく上手だよね」
「うわーん! 皆敵なのですよおおお!」
ネリネがフォローを入れるがシアの台詞で台無し。
「樹の弁当はやけに可愛らしいな?」
「今日のは一年生だね。あの初々しさが何ともいえないよ」
「……今日のは?」
柳哉の疑問に樹が答える。
「日替わり弁当、というものがあるだろう?」
それはそういう意味じゃない。ツッコミたかった柳哉だった。
* * * * * *
帰り道。柳哉は一人考えていた。
(今日はぜんぜん感じなかったが……)
柳哉自身にもよく分からない“あの感情”。一体何なのだろうか?
(何か条件でもあるのか?)
思考錯誤を繰り返す。別に気にしなければいいのだろうが、柳哉自身の勘がそれを許さない。この勘、というものもなかなか厄介なもので、根拠というものがまるで無い。それ故に迷信とされたりもする。だが柳哉はそれを軽んじることはしない。それによって助けられたことも多いのだから。
(ただでさえ考えなきゃならない事が多いってのに)
はあ、とため息をつく。心配事も多い。ただの考えすぎならいいのだが、そうはいかない。そんな気がする。
(ま、今の所は心に留めておくだけにしておくか)
そう考えると少し気が楽になった。と、携帯電話がメールの着信を知らせる。菫からだ。
『少し遅くなりそうなので夕飯の準備をお願いします。無理なようなら連絡をください』
簡潔な文面。苦笑しつつ了解、と返信する。
(さて、何にしますかね)
冷蔵庫の中身を思い出しながら買い物に向かう柳哉を美しい夕焼けが照らす。明日もいい天気になりそうだ。
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