SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第二章 ~罪と罰~
その一
前書き
第二章に入ります。
ちなみに某ロシア小説とは何の関係もありません。
日曜日の朝、芙蓉家に柳哉の姿があった。幹夫が中断していた出張に戻るため、その見送りに来たのである。前日に盛大な壮行会、という名の宴会が行われ、柳哉も参加していた。その席でも結構呑んでいたが二日酔いの気配は無い。若干顔が青い稟とは対照的だ。
「それじゃ稟君、楓をよろしくな」
「よろしくされるのはむしろ俺の方な気がしますが」
「はっはっは。前にも言ったが親公認だからがんばるように」
「お、お父さん」
照れる娘を微笑ましく見つめる幹夫。亡き妻、紅葉の面影を強く受け継ぐ楓に注ぐ愛情は神王・魔王の二人にも引けをとらない。
「柳哉君、二人を頼む」
「はい」
力強く頷く柳哉に草司の面影を見て取り、破顔する。
(鉢康、草司、お前達の息子達はいい男に育っているぞ)
心の中で亡き友人達に語りかける。二人の照れくさそうな表情が見えるかのようだ。
「それでは、行って来るよ」
「行ってらっしゃい、幹夫おじさん」
「行ってらっしゃい、お父さん」
「行ってらっしゃい、幹夫さん」
そうして幹夫は出かけていった。
* * * * * *
芙蓉家、稟の部屋にて。
「さて、と」
そう言って柳哉は部屋を見回す。
「何をするつもりなんだ」
嫌な予感しかせず、ジト目で見る稟を気にする事無く言い放つ。
「そりゃあ、思春期男子の部屋に来たからにはやることは一つだろ?」
予感的中。というかお前は亜沙先輩か。麻弓なんかもやりそうだが。
「先に言っておくがお前が喜びそうな物は無いからな」
「……お前、いつの間に俺の趣味の傾向を知ったんだ? まさか、引越しの時か?」
「いやそうじゃなくて」
いわゆるエロ本の類の事だろう。
「……持ってないのか?」
「持ってない!」
「……お前、まさか……」
「行っておくが「同性愛の趣味があるんじゃ……」違う! 俺はいたってノーマルだ!」
「エロ本の一冊も持ってないなんて普通ありえないだろう」
思春期男子として。まあ柳哉も人の事は言えないのだが。
「芙蓉家には楓とプリムラがいるんだからな。下手にそんな物見つかってみろ。壮絶に気まずくなるだろうが」
「気まずくなるのはお前だけだと思うが」
確かに。楓は妙に理解を示しそうだし、プリムラにいたってはそういう知識があるかどうかも疑わしい。
とそこへノックの音。
『稟君、柳君、掃除機をかけたいんですがいいでしょうか』
部屋の外から楓の声がする。
「ああ、分かった」
そう言ってドアを開ける稟。
「失礼しますね」
「稟、お前自分の部屋くらい自分で掃除しろよ」
反論しようとする稟だが、
「いいんです。私が好きでやってる事ですから」
楓の台詞に言葉を飲み込む。
「柳、下に行こう」
「ああ」
リビングのソファに座る。
「確かにあれじゃ無理だな」
「分かってくれてありがたい」
「いつもあんな感じなのか」
頷くことで肯定する稟。
「もしかして家事関係は全部楓がやってるのか?」
再び肯定。考え込む柳哉。
「……桜からはどれくらいまで聞いてる?」
「仲直りした、ってところまでは」
ということはその後のことはほとんど聞いていないのだろう。もしくはあえて聞かなかったか。
「罪滅ぼし、か?」
「いや、気にするな、とは言ってるんだけどな」
さすがにそれは無理だろう、と柳哉は思う。桜から聞いてはいるが、あくまでもそれは桜の視点からの話でしかない。実際は相当ひどい目に遭っていただろう。この幼馴染は。それに……。
「どうした?」
「いや、何でもない」
その後は楓も交えておしゃべりに興じた。
(何なんだろうか? どこか暗いこの感情は……)
* * * * * *
夕方、そろそろ帰ろうと柳哉は腰を上げる。夕食に誘われたが既に昼食もご馳走になっている。さすがにこれ以上は気が引けた。帰ることを伝え、その前にとトイレを借りる。出るとキッチンから声が聞こえた。
「稟君は座っていてください」
「いや、でもな」
「いいんです、私がやりますから」
「いや少しぐらい……」
「稟君のお世話をするのは私の生きがいなんです! ですから……」
私の生きがいを奪わないでください、と言う楓に根負けしたのか、稟は諦めたようだ。
「稟、楓、それじゃ帰るわ」
「あ、ああ」
「あ、はい」
稟が見送りに出る。楓は料理から手が離せず、プリムラはそのサポートに付いている。
「それじゃ、また明日な」
「ああ、また明日」
そう言って柳哉は芙蓉家を辞した。
その帰り道。
(まただ。一体どういう……?)
柳哉は昼にも感じたどこか暗い感情に悩まされていた。しかも少し大きくなっている。
(嫉妬ってわけじゃなさそうだが……)
最初に考えついたのがそれだった。しかしそれなら、この感情は稟に向くはずだ。しかし実際にはそれは楓に向いているように思う。だが自分には楓に嫉妬するような理由など無い。ならば一体なんなのか。答えを探しながら柳哉は歩いて行った。
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