魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第五十七話 フェイト・テスタロッサ
過去の世界に来てしまったアスカ。
途方に暮れる中、ジュエルシードを発見して封印に向かう。
魔法少女リリカルなのは 前衛の守護者、始まります。
outside
湖に飛び込む髪の長い少年を、離れた森の中から監視している二つの人影があった。
一つは小柄な少女のもの。もう一つは成人女性のものだった。
「湖に入って行っちゃったね……」
少女が、髪の長い少年の突然の行動に若干引いている。
「あいつ、何なんだい?さっきまで頭抱えて地面を転がっていたと思ったら、今度は急に立ち上がって湖に飛び込んでさ。ちょっとおかしいんじゃないか?」
女性は、コンコンと頭を指で叩いた。
「どのみち、あの人がいなくならないとジュエルシードは回収できないよ」
少女は困ったように眉を寄せる。
「まあ、慌てないでちょっと様子を見ようさね」
女性は腕を組んで、少年が飛び込んだ湖を眺めていた。
アスカside
冷たい水が身体に突き刺さりやがる。長時間は潜ってられないな。
オレはジュエルシードを見つけると刺激しないようにそれを訓練着のポケットにしまった。
封印前だから、慎重にやる。
ブツを回収したオレは、速攻で浮上して岸までクロールする。
なんか空気に触れたらもっと寒くなった!
「さ、寒い……マジで凍え死にそう……」
季節が分からないけど、春先だとしたら湖に飛び込むなんてバカのやる事で、ここにそのバカがいる訳だ。
『魔力を体温上昇に回していますが……』
オレの魔力をラピが熱に変えてくれてるけど、全然間に合わない。
「足りない……やっぱ起動できないのはツライな」
セットアップできれば、水に濡れてもすぐに乾かせるし、体温維持もできる。
オレに熱変換の資質があれば、セットアップしなくても体温維持くらいできるけど、悲しいかな。そんな便利な物はオレには無い。
ラピの温度維持もやらないよりはマシ程度の物だ。
それでも、少しすると震えが治まるくらいには回復した。
「さて、じゃあ封印と行きますかね」
面倒な事になる前に、このロストロギアを封印しなくちゃいけない。
何しろ、誰かがコッチの様子を見ているみたいだからな。
妙な気配がするぜ。
outside
「あっ!」
アスカが回収したジュエルシードを取り出したのを見て、少女が声を上げた。
「あいつ、ジュエルシードを拾いに湖に入ったのかい?」
女性も、思いも寄らない事態に驚いている。
「じゃあ、あの人も魔導師?」
ジュエルシードを知っていて回収しに来たとすれば、その人物は間違いなく魔導師だろう。
二人が遠くから見つめる中、少年はジュエルシードを両手で包み込むように持ち、魔力をそこに集中させた。
青い光が溢れ出て一瞬激しく輝き、ゆっくりと光量を落として行った。
「封印しやがったよ……ジュエルシードを知っていて封印もできる。あいつ、もしかしたら時空管理局かも」
女性が忌々しそうに少年を見ている。
「厄介だけど……やるしかないから」
少女の言葉を聞いて、女性はヤレヤレと肩を竦めた。
「まあ、いいけどね。いつも通りアタシが仕掛けるから、その後を頼むよ」
「うん。お願いね、アルフ」
アスカはジュエルシードの封印を無事に終わらせた。
「ったく……めんどくせぇ石だな。こいつのせいでこっちはタイムトラベラーっだってのに」
ずぶ濡れのアスカはそうボヤいてしまう。
『しかし、封印できて良かったです。あのまま暴走されたら、もっと厄介な事になっていたでしょうから』
ラピッドガーディアンの言う通り、動物が触れただけでも発動する可能性はあるし、もし人間が原因で発動したらどんな被害が出るか分かったものではない。
「そりゃそうだけどさ……今は自分を心配したいよ。寝床もない、食うものも金も無い。強制ホームレスだっつーの、こっちは!『ところで気づいているよな?』」
途中から念話に切り替えるアスカ。
『はい。大きな魔力反応が二つ。推定AAAとA+。上手く偽装していますが、私のセンサーが感知しています』
ラピッドガーディアンの言葉を聞いて、アスカは確信する。
アスカは湖から上がってくる時に気配を感じていた。誰かがこちらを観察している事に気づいていたのだ。
『狙いは……ジュエルシード、だろうなぁ』
『恐らくは』
アスカはゆくっりと森に近づきながら、辺りに気を配る。
間違いない。はっきりと視線を感じる。それも、あまり良くない視線だ。
『まったく、次から次へと……』
休む間もない展開に、アスカは再びボヤく。
『言ってる場合では……上!』
ラピッドガーディアンの警告と同時にアスカはその場にしゃがんだ。
次の瞬間、頭上をブンッと何かが通り過ぎた。
「よけられた!?」
驚愕する声が聞こえる。
『前!』
ラピの声よりも前に、アスカは地面を蹴って後退する。
ほぼ同時に何かがアスカをかすめた。一瞬でも躊躇していたら攻撃を喰らっていただろう。
「え!?」
二人目の襲撃者も避けられるとは思わなかったのか、驚きの声を上げた。
バックステップで攻撃を躱したアスカは態勢を整え、その襲撃者を見て……固まった。
(……そうだよ、いるんだよ。分かってたんだよ……でも、実際に目にすると頭が真っ白になるな……)
アスカが目にしたのは、黒いバリアジャケットに特徴的なマント。戦斧のように鋭い光を放っている魔法の杖。
金髪をツインテールに纏めた少女、未来の上司、フェイトだった。
その隣には、派遣任務の時は少女の格好をしていて、今は大人の女性の姿をしたアルフが立っている。
アスカは戸惑い、フェイトは感情がないような表情をし、アルフは睨んでいる。
「おい、お前!そいつをこっちに寄越しな!逆らったらガブッと行くよ!」
アルフが威嚇する。
(派遣任務の時もそうだったけど、この人、オレを噛む事に固執してないか?)
アルフの脅し文句に冷や汗をかきながらも、アスカは場違いな事を考えてしまった。が、すぐに意識を元に戻す。
(どうする?あんまりハラオウン隊長と絡むのは良くないよな?確か、タイムスリップして過去に行った場合、なるべく未来が変わらないようにしなくちゃいけないんだよな?映画でそう言っていたような気が……)
ピンと張りつめた空気の中、アスカは必死になって考えた。
(だからと言って、この二人から逃げきれないだろうし……まてよ?直接隊長達と絡まなければいい訳だよな?だったら、この際管理局に保護してもらうのも手か?)
過去の世界にいて、どこにも居場所がないアスカは大胆な事を思いつく。
未来からきた事を限定的に開示し、将来直接会う人達から遠ざけてもらうのも良いかと考えつく。
「ロストロギア、ジュエルシードをこちらに渡してください」
フェイトがバルディッシュをアスカに突きつける。その間に、アスカは自分の考えをラピッドガーディアンに伝えた。
『……と言う訳だ。いいな、ラピ』
『大胆過ぎますが……それが一番傷口を広げない方法かもしれません。私はマスターに従います』
念話での話し合いで、アスカは投降する決心をする。
「手荒な事はしたくありません。ジュエルシードを……」
「はい」
フェイトが言い終わる前に、アスカは封印したジュエルシードを彼女に差し出した。
「え……えぇ?えーと……」
まさか素直に差し出されるとは思ってなかったフェイトが面食らう。
そして、戸惑い気味にアルフに目を向ける。
アルフも唖然として、フェイトと顔を見合わせていた。
「あ、あの、ジュエルシードを……」
「はい、どうぞ」
「え?いや、あ、あの……」
「ジュエルシードです。はい」
差し出されたジュエルシードを、なぜか取ってしまっても良いのか悩むフェイトに、言われるままに差し出すアスカ。
そんな間抜けなやりとりをしばらく続ける3人。
埒があかないと感じたアスカは、ツカツカっとフェイトに近づき、手を取ってジュエルシードを握らせた。
「これでいいですか?」
「え?あ……はい。ありがとうございます……」
ペコリと頭を下げるフェイト。とりあえず、ジュエルシードも件はこれで終わった。
「あの、時空管理局の方ですよね?オレ、次元漂流しちゃったんで、保護をお願いしたいんですけど」
行き場のないアスカがフェイトに頼み込む。
保護さえされれば、その後会わなければ未来への影響は少ないのではないかと考えたのだ。
だが、フェイトは困ったように眉を寄せて俯いてしまう。
(あれ?どうしたんだ?)
アスカが不思議に思っていると、アルフが口を挟んできた。
「悪いけど、ウチらは時空管理局じゃないんだ。アンタを保護する事はできない」
「へ?」
予想外の答えに、今度はアスカが戸惑う。
(管理局じゃない?それなのにジュエルシードを……あっ!)
アスカは以前、シャーリーが教えてくれた事を思い出した。
子供の頃、ジュエルシードを巡ってフェイトとなのはが敵同士であった事を。
(ヤバイ!じゃあこれ以上絡んだらマズイ事になるんじゃ?)
焦っているアスカをよそに、アルフが言い放つ。
「ジュエルシードを渡してもらった事は感謝するよ。でも、アンタの保護はできない。悪いけど他を当たってくれ」
「アルフ、そんな……」
「誰かを連れてジュエルシード集めなんかできないだろう?フェイト」
フェイトとアルフが何やら揉め出す。ならサッサと離脱した方がいいとアスカは判断した。
「……そうですか。分かりました」
そう言って、アスカは二人に背を向けた。
「「え?」」
もっと粘ってくるかと思ったのに、アッサリと引き下がった少年に二人は驚く。
「あ、あの!分かったって、行く当てはあるの?」
フェイトが少年に向かって言う。
「いや、行き場所なんてどこにも……でも迷惑かけられないし、どうにかなるでしょ」
そう言った時、アスカは足下にカエルがいる事に気づいた。
次の瞬間、アスカの目がハンターの目になった。ユックリと移動するカエルを目で追うアスカ。
その少年の視線の意味に、フェイトは気づいた。
(この人、カエルを食べる気だ!)
この少年はジュエルシードをくれた恩人で、次元漂流して困っている。
そして、たぶんお腹も空いていて、今カエルを捕まえようとしている。
「あ、あの!良かったらウチにきますか?!」
気がつけば、そう口にしていたフェイト。
「え?」
「何を言ってんだい、フェイト!」
アスカが驚く声よりも、アルフの声の方が大きかった。
「あんなどこの馬の骨とも分からないヤツなんか家にいれちゃダメだよ!」
「でも困っているし、ジュエルシードを渡してくれたんだから悪い人じゃないよ」
「でも、アイツをウチに入れてフェイトに何かあったら!」
「orz」
ヒドい言われようにアスカがガックリと崩れ落ちる。
「いや~、地味に傷つくんですけどね……」
落ち込んでしまった為に、その場から逃げ出す事を忘れてしまうアスカ。
その時、カエルとバッチリ目が合う。
カエルがギクッとして視線を外そうとするが、アスカは目に力を入れてカエルを金縛りにする。
哀れかな、アスカ睨まれたカエル。彼の昼飯は確保されてしまった。
その無言の弱肉強食の自然の摂理を、フェイトは敏感に感じ取っていた。
(本当に行く所がなくて、本当にカエルを食べようとしている……)
フェイトはカエルに手を伸ばそうとしているアスカに近づいた。
「私の今の住まいで良ければ、来る?」
フェイトの言葉に、アスカがエッ?と彼女を見る。
その隙にカエルは危険地帯から離脱した。
「で、でも、迷惑になりますし……」
「行く所が無いんだよね?ジュエルシードを渡してもらったし、何かお礼がしたいんだ。ウチのおいで」
その言葉にアスカは悩む。行き場所が無いのは確かだし、できれば野宿とかは遠慮したい。
だが、このまま未来の上司と居続けると言うのもどうなのだろうかと考えてしまう。
『ラピ、どうしたら良いと思う?』
相棒に助言を求めるアスカ。
『本来であれば、すぐにでも離れた方が良いのでしょうが、行く当てが無いのも本当ですから……極力こちらの情報を出さないように注意して、助けてもらうしかないのではありませんか?』
ラピの助言を聞いて、アスカは少し考えて決断した。
「すみません……厄介になります」
アスカは深々と頭を下げた。
16歳の少年が9歳の少女に頭を下げている姿は、どこか滑稽に見える。
「いいね、アルフ」
フェイトが納得のいってないアルフに視線を向ける。
「まあ……アタシはフェイトの使い魔だからさ。マスターがいいって言うんなら文句はないよ」
文句がイッパイありそうな感じでアルフは言う。
「うん。ありがとう、アルフ」
フェイトが微笑むと、アルフはちょっと頬を赤く染めた。
その微笑みに、拗ねていた感じは一気に吹き飛んでしまったようだ。
「あ、私はフェイト。フェイト・テスタロッサ。この子は使い魔のアルフ。よろしくね」
そう自己紹介をして、フェイトは右手を出してきた。
(フェイト・テスタロッサ……ハラオウンはどこに行った?)
疑問はあったものの、アスカは少女の手を取った。
「はい、オレは……」
自己紹介をしようとして、アスカか固まった。
(ヤバイ!名前、言えないぞ!)
未来からタイムスリップしてきたアスカ。目の前の少女は未来の上司。
ここでバカ正直に名前を言って、未来に何か影響がでるのではないかと懸念してしまう。
「?」
一方、握手をしたまま固まってしまった少年を見て、フェイトは首を傾げる。
「ど、どうかしたの?」
動き出す気配のない少年に、フェイトが話しかける。すると、
「……言えません……」
「え?」
「訳あって、オレ、名前を言えないんです」
バツの悪そうに言い、アスカはフェイトの手を離した。
「どういう事だい?」
アスカを良く思ってないアルフが睨みを効かす。
「その……ちょっと訳ありで……名乗れないんです」
『なんで偽名を使うとかできないんですか!』
あまりの素直さにラピがツッコミを入れた。
『だって、ハラオウン隊長に嘘はつきたくないし……思いつかなかったし』
同僚にはよく冗談で嘘をつく事もあるアスカだが、意外と真面目と言うか、尊敬する上司には正直でいたいと思っているフシがある。
だが、その正直さはアルフの警戒心を煽る事になった。
「フェイト、やっぱりやめよう!こいつ、もしかしたら次元犯罪者かもしれないよ!だとしたら、アタシ達まで厄介事に巻き込まれるよ!」
がなり立てるアルフ。
アルフの言い分は至極当然の事である。
名前を言えない人物など、通常の生活でも怪しさしかない。
「それを言ったら、私達も一緒だよ。管理局の目を盗んでロストロギアを集めているんだから」
フェイトにそう言われると、アルフは下がるしかなくなる。
渋々、アルフは自分の意見を引っ込めた。
「でも、あなたをなんて呼べばいいのかな?」
アスカが名乗れないと言っているにも関わらず、フェイトは受け入れるつもりだ。
その器の大きさに、アスカは感心する。
「えーと……そうですねぇ……」
仮の名前を、と考えるが良い名前が出てこない。
元々、その手のセンスがないアスカなのだから、思いつかなくて当然だ。
下手をすれば、キラキラネームが出かねない。
「こんな名無し野郎、どーとでも呼べばいいさ!」
プイッと不貞腐れたようにソッポを向くアルフ。
「あ、じゃあそれでいいです」
「え?それって?」
フェイトが聞き返す。
「名無し野郎だから、ナナシ。オレの事はナナシって呼んでください」
『随分いい加減ですね』
ラピが呆れたように言った。
『適当だからな。それに、あんまり印象に残らないようにしたいんだよ』
何も考えてないように見えて、未来が大きく変わらないように気遣うアスカであった。
フェイトがそれじゃちょっと、と言っていたが、アスカはそれで良いと頑なだった。
「……うん。分かったよ、ナナシ」
結局フェイトが折れた。
揉めに揉めた自己紹介が終わり、フェイトの家に行く事になった。
「じゃあ、案内するからついてきて」
フェイトとアルフがフワリと空に浮かびあがる。が、
「ストーーーーーーーーーップ!!!!」
大声でそれを止めるアスカ。
「ど、どうしたの、ナナシ?」「まったく、うるさいヤツだねぇ」
上から少年を見下ろす二人。
「オレは陸戦なんですよ!空は歩けるけど、飛べないんです!」
そう叫んで、アスカはエリアルウォークで空中に駆け出し、二人の側に寄っていく。
「陸戦魔導師なんだ。空戦特性はCくらいかな?」
フェイトがアスカの右隣に並ぶ。反対側にはアルフが来る。
二人でアスカを挟み込むようにして腕を持った。
「え?」
これから何が起こるのかと思っていたら……
「じゃあ、行こうか」
フェイトとアルフはアスカを持ったまま高速移動に入った。
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
何の準備も心構えもできていなかったアスカは、ただ絶叫するだけだった。
後書き
一応、これで過去編の最低限の設定が終了しました。
アスカ=ナナシで、よろしくお願いします。
前から張りまくっていた伏線で、なのはの言っていた”魔導師のお兄さん”フェイト、はやてが言っていた”あの人”温泉回でシグナムが回想していた人物、このすべてが過去に行ってしまったアスカなのです。
回収までにエライ時間がかかりました
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