刃こぼれ
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第三章
「もうな」
「左様でありますか」
「うむ、それでそなたの母を殺した仇だが」
観音は音八にあらためて言った。
「仇を取りたいか」
「寺にいますが」
それでもとだ、音八は観音の問いに答えた。
「それが出来るのなら」
「そうか、それならば」
観音は音八の返事を受けて言った。
「寺を出てだ」
「そうしてですか」
「刀鍛冶になるのだ、そうすれば」
「おっ母の仇を取れますか」
「必ずな」
「それでは」
音八は観音の言葉に頷いた、そして目が覚めるとだった。
住職と僧そして飴家に夢のことと自分の決意のことを話した、するとまずは僧が彼を心配する顔で見て言った。
「気持ちはわかるが」
「それでもですか」
「仇を取ることは」
このことはというのだ。
「寺にいる者としてはな」
「勧められませぬか」
「どうしてもな」
「拙僧もだ」
住職もこう言った。
「それはな」
「そうですか」
「思い止まるべきだ」
「御仏のお言葉なら間違いはないだろうが」
飴家は仇討ちは適うと言った。
だがそれでもとだ、こう言い加えた。
「しかしわしも賛成出来ぬ」
「人を殺めることは」
「それはお主の母を殺した者と同じだ」
「それはわかっていますが」
「どうしてもであるな」
住職はあらためて言った。
「それは」
「はい、決意は変わりませぬ」
「それならよい」
住職は音八に目を閉じ深刻な顔で答えた。
「行くといい」
「お許し下さいますか」
「御仏の前で頷いたのであろう」
「そうしました」
夢の中でとだ、音八は住職に頷いて答えた。
「そのことは」
「それなら我等が言っても仕方ない」
「御仏の言われたことなので」
「行くといい、だがな」
「それでもですか」
「人を殺めるのは仇だけにしておくことだ」
「他の誰もですね」
「手にかけてはならない」
絶対にというのだ。
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