ツバサ -DECADE CHRoNiCLE《ディケイドクロニクル》-
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第4話:新たなニチジョウ
前書き
謎の組織の存在。
悪魔は記憶を失った少女と重ね合わせ、彼らに協力することとした。
士達と小狼達が出会って翌日の事。
サクラが眠気眼を擦りながら布団から起き上がる。
周囲を見回すと、まず目に付いたのはベットにて寝ている夏海、そして彼女に寄り添って寝ているモコナの光景。
眠っていた頭が段々冴えて来て、ようやく自分の状況を思い出す。
「そうだ、私達、今夏海さんの家に泊まってるんだよね」
初めてこの世界に訪れた時、怪人達に襲われていた自分達を助けてくれた士さん達。
出会って間もない私達を泊まらせてくれたどころか、羽根集めに協力してくれる事を名乗り上げた。
感謝してもし足りないくらいの気持ちになったサクラは、布団をたたんで起き上がると身支度を整えてまだ寝ている夏海とモコナを起こさないように部屋を出て後にする。
階段を下りて一階に降りると、リビングを兼ねている写真室の方からいい匂いが漂ってくる。
ひょっこりと頭を出して覗いてみると、机の上には既に配膳された食事と、それを準備するファイの姿があった。
ファイはこちらの様子を覗くサクラの姿に気が付くと、にっこりと笑いかけて彼女を呼ぶ。
「おはよう、サクラちゃん。よく眠れたかい?」
「ファイさん、おはようございます。朝ごはん用意したのですか」
「まあね、泊めてもらってるお礼として料理でもどうかなってね」
「私もお手伝いしますよ」
「ありがとう、それじゃあお願いするね」
サクラはファイと共に朝食の配膳に努める。
人数分の食器を取り出しながら、サクラはファイとの会話を続ける。
「小狼君と黒鋼さんはもう起きているんですか?」
「そうだよ、二人とも日課の修行をやってるよー。それと彼……門矢士も一緒にね」
「士さんもですか?」
「うん、なんでも彼カメラマンらしくてね。二人を被写体として撮りにいくってさ」
「上手く撮れてるといいですね」
サクラはふとその光景を思い浮かべる。
黒鋼に剣の稽古をつけられてる小狼と、士はその姿をカメラに撮っている。
小狼君の稽古も見てみたいなと思ったサクラは、後でこっそりと現像した写真を士に頼んで見せてもらおうと思った。
だが、彼女は知らない。士が撮った写真は世界に拒まれなぜか被写体が歪んで写ってしまう事に。
やがてユウスケ、夏海、モコナと起きて、外に出ていた三人が戻ってきたころには栄次郎を含めた一同が席についていた。
並べられた洋風の装いの朝食に、士とユウスケは喜んでいた。
「ほう、朝からこんなものとはな。素晴らしい行いだな」
「士も見習えよ?2人とも、ありがとね」
「えへへ、皆さんには世話になってるからね。オレとサクラちゃんで用意したんだ」
「皆さん召し上がってください」
「では、モコナが音頭をとるよー」
モコナがサクラの肩に飛び乗り、手と手を合わせる仕草を行う。
他の一同もモコナに倣って手を合わせ、頂きますの言葉を言った。
「みんな手と手を合わせてー、いただきます」
「「「いただきます」」」
食事をとり始める一同。
ファイが旅の中で磨いてきた料理が夏海やユウスケがその味に舌を唸らせる。
「わぁ、美味しい!こんなに美味しいなんて凄い!」
「ホントだよ!いやぁ食が進むよ、ファイの料理美味い!!」
「ハハハ、泊まってくれてありがとう。ごはん美味しいね」
「いえいえ、それほどでもないですよー」
栄次郎の褒め言葉に対してファイは自身の事を謙遜する。
卓を囲む同じ席では、士が小狼に対して羽根の事で会話をしていた。
「小狼、お前、羽根の手掛かりについて手掛かりはあるのか」
「ええ、まだこの世界にやってきてまだ間もないですが。モコナによるとこの世界に羽根の力を感じる、と」
「ほう、そりゃまた便利なことだな。あの白い毛玉は」
士はすぐ隣にてハムを取り合ってる黒鋼とモコナの両者の姿を見ながら、小狼に対してそう呟いた。
……小狼によれば、昨夜の就寝前、モコナに頼って【この世界】にサクラの記憶の羽根があるか波動を辿ってみたという。
そしたら、モコナは小狼にこう告げたという。
―――めきょっ!羽根の力を感じるの!!でも、なんだか妙なの……。
―――妙、とは?
―――あちこちから不思議な力が出てきて、羽根が何処にあるか分かりにくくなってるの……。
小狼はモコナの言葉にふと脳裏によぎるのは、この世界に辿り着いた時に遭遇した怪人達。
もしかしたら、怪人達のような存在が羽根の場所を阻害しているのではないか?
そう考えに至った小狼は士に相談してみる。それに対して士は食事を口にしながらこう答えた。
「ありえなくもないな。お前達の見たファンガイアやオルフェノク、イマジンにワームの他にも怪人達はいくらでもいる。そいつらのせいで何処にあるか分からなくしているってのも可能性としては十分にある」
「それに、あの怪人達を連れていた黒い服の人達の事が気になります。もし、また襲い掛かってきたら」
「その時は俺とユウスケで相手にしてやる。お前達は羽根探しをメインにやっていな」
「はい、ありがとうございます」
士は小狼にそう受け返され、再び食事に戻るだろう。
この世界にやってきて初めての探索、羽根探しのために気合を入れていかなければ。
「白饅頭てっめぇ自分の飯食え!俺の分取るな!!」
「モコナの分もう食べちゃったモーン!!」
「だからって俺の分ばっか取るんじゃねえよ!!」
……黒鋼とモコナの食事の奪い合いが苛烈していくのも気にせずに。
―――――
【―――貴方に信頼と安心の美味しさを、SMART-BRAIN食品】
時刻は昼間、サクラは夏海に連れられて街へと繰り出していた。
街角の巨大モニターに宣伝で流れているCMを横目に、2人は目的地へ歩いていく。
「サクラちゃん、服屋行きましょう!ファッションです!」
「あの、夏海さん!いいのですか?私なんかのために?」
「大丈夫ですよ。実を言えば……じゃーん、士君からの臨時収入が入ったんです!」
夏海の手元には少し分厚い封筒が握られていた。
サクラが訪ねてみると、どうやら"この世界"に来る前の世界にて手に入れた物を換金していたものらしい。
胸を張りつつ笑顔の夏海は、サクラの手を引っ張り、ファッションショップへと向かおうとする。
「士君から言われたんです。『どうせあの黒服どもに怪しまれて目をつけられるよりはいいだろう。せいぜい可愛くしてやれ』って!」
「えぇ、でもそんな悪いですよ!」
「いいからいいから、レッツゴー!!」
サクラは夏海に連れられて、とあるファッションショップへと訪れ、暫しの着替えを楽しむ。
ミニスカート、和風の服、派手なパンツルック、白いワンピース……そうして夏海がサクラに似合う服を買っていく。
やがて遊び疲れた2人は近くにとある喫茶店に辿り着いた。
中に入ると、そこは落ち着いた内装といくつもの絵皿が飾られた壁、そしてカウンター席の向こう側で珈琲を入れる作業をしている眼鏡のかけた壮年の男性のいる光景だった。
マスターと思わしき眼鏡をかけた男性は、二人に気が付くと声をかけてくる。
「いらっしゃい。今すいてるから、どうぞ好きな席に座って」
「はい、お邪魔します」
マスターの男性にサクラが答えて、カウンター席に座る。
メニューを差し出され、中身を開いた夏海はサクラと相談して注文を決めた。
「ご注文は?」
「カフェオレ二つでお願いします」
「ふふっ、かしこまりました」
サクラは物珍しいそうに店内を見回す。壁には1986年から2009年まで飾られた22枚にも及ぶ絵皿があり、この店が相当長くやっていると察した。
ふとカウンター席の奥の壁に設けられた犬小屋に目がつくと、その中からごそごそと何かが這い出てくる。
出てきたのは金色の体毛を持つ大型犬と小さな子犬だ。彼ら二匹のラブラドール・レトリバーは鼻を鳴らしながらサクラの方へ近づき、彼女へすり寄ってくる。
「わぁ、可愛い」
「あらあら、ブルマンとジュニアが懐くなんて。その子達親子そろって警戒心強いのに」
「そうなんですか?マスターさん」
「うん、彼女で三人目かなー。珍しい事もあるね」
マスターはブルマンと呼ばれた親犬と触れ合うサクラを見て、夏海に教えてくれた。
何処か誰かを重ね合わせるような眼差しを向け、マスターはサクラ達に話し出す。
「今この街にはいないんだけどさ、君と同じような不思議な何かを持っていた人が」
「私と同じような……?」
「そ、不思議なお客さん……懐かしいなぁ。よく仲間内に語っていたよ、"人の音楽を守りたい"って口癖でね」
「今、その人はどうしているんですか?街にはいないって……」
「さっき言った通りさ。なんでも大事なものを守りに行くって出て行ったきり、姿を見せないのよ」
マスターは悲し気な表情でそう言いながら、写真を取り出す。
そこに映っていたのは、仲間達と楽しい様子で映っている茶髪の青年の姿。
サクラと夏海は写真を覗きこみ、マスターに訪ねてみた。
「この人がマスターの言っていた……」
「あの、お尋ねしますがこの人の名前はなんて言うんですか」
夏海が青年の名前を伺うと、マスターはそれに対して笑顔を向けて答えた。
まるで昔の出来事を懐かしむように。
「―――紅渡、腕のいいバイオリン職人だよ」
……サクラと夏海、二人がいる喫茶店の時間は過ぎてゆく。
ひっそりと掲げられている看板には、こう書かれていた。
【カフェ・マルダムール】、と。
――――
同じ頃、士達男性陣達は羽根の手掛かりを探していた。
小狼・黒鋼・ファイの三人はこの街にいてもおかしくなく活動できる現代の服を買った後、それぞれ分かれて情報集めを行っていた。
やがて待ち合わせのビル近くにて佇んでいた士とユウスケは戻ってきた三人と合流する。
「遅かったな。三人とも」
「お待たせしました。士さん、ユウスケさん」
「で、どうだった?何か分かったか」
ユウスケが三人に訪ねてみると、三人のうち小狼が一歩前に出てきた。
その表情は明るくないまま、説明を始める。
「この世界……国で羽根に関する情報を集めていたんです。もしこの国に羽根があるなら、これまでは伝説や噂のように何かしらの手掛かりが掴めるんじゃないかと思って」
「でも残念ながら、それらしい情報は見つからなかったね。インターネットってやつや、図書館に行って調べたりしたのにね」
ファイは残念そうな仕草を見せつつ、小狼の言葉に付け加えた。
士は三人の結果に眉を顰め、溜息を付きながら呟いた。
「つまり手掛かりゼロって事か」
「だが、白饅頭によると羽根の波動はあるらしい。つまり、【誰かが手にしてる】んじゃないかと俺達は考えてる」
「なるほど、誰かが羽根を手に入れてそれを隠してるなら情報が出ないのもうなずけるな!」
黒鋼の言葉にユウスケは納得し、うんうんと頷く。
……実際、サクラの記憶の羽根が持つ力は凄まじく強く、過去にはそれを手にして悪用する人物がいた。
しかも次元を超えて記憶の羽根をつけねらう輩も存在しており、幾度もその尖兵に差し向かれたこともある。
今回は心強い味方がいるとはいえ、奴らが出てこない保証はない。
そんな考えがよぎる小狼の頭を、士の手がポンと乗る。
「そう難しい顔をするな。小狼」
「え……?」
「例え誰がその羽根を狙おうが、俺が倒してやる。こう見えても悪名高い悪魔だからな、俺は」
「士さん……」
士の言葉に元気づけられた小狼は表情が明るくなる。
小狼達が集めた情報を告げ終わると、次は士とユウスケが集めた情報を三人に話す。
「どうやら、黒服達。多くの怪人達と繋がってる様子だな」
「怪人達と繋がってる?」
「そうなんだよ。ファンガイアにオルフェノク、イマジンにワーム、その他にも魔化魍やミラーモンスターまで従えてるんだ」
小狼の言葉に士とユウスケは集めた情報を続ける。
……黒服達は怪人達を連れ、時折人々を襲っているらしい。一般人は誰も刃向えず、奴らに怯えてされるがままだ。
一部には黒服達に対する反抗活動が行われていたが大半が粛清されたらしい。
何故怪人達を従えてやってるかは分からないが、
その話を聞いた小狼と黒鋼は眉を顰めて歯を食いしばっていた。
「そんな……悪い奴らを野放しにしているのか」
「ケッ、そいつら気に入らねえな。今度会ったら叩き斬ってやる」
「まったく、おかしな話だ。いつもならここで仮面ライダーが出てくるはずなんだが……」
士は呆れながら空を見上げる。
―――恐らくだが、この青空の下にて何処かにいるかもしれない、【この世界の仮面ライダー達】。
彼らは怪人達を好きにさせたまま一体何処で何をやっているのか……。
「おーい、士、いくぞ」
「置いていっちゃうよー」
「ああ、今行くぜ」
ユウスケとファイに呼ばれ、士は少し憂鬱な気分になりながら、皆と共にその場を後にした。
後書き
どうも地水です。
いやぁ、日常回をやれてよかった。
普通にご飯食べ、おしゃれして、喫茶店行って、伏線貼って……ん?
何故か出てきたカフェ・マルダムール。そう【仮面ライダーキバ】にて素晴らしき青空の会の拠点となるあの喫茶店です。
ブルマンと子供のブルマンジュニア登場!最終回にてお産づいたあのワンコ。無事生まれました!←
それにしても渡、何処に行ったんだろうね……。
対して男性サイドは現状整理。
羽根の行方は未だつかめず、黒服達の悪さが明るみに出た……。
ちなみに名前が出なかったグロンギ・アンノウン(ロード怪人とも)・アンデットは今回言及されなかっただけでちゃんとこの世界にいます。
次回、ネオライダーだよ!襲撃開始!
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