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リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
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天使とラブソングを……?「裏エンディング」(第16.5幕)

 
前書き
天使とラブソングを……? の本当の最終回。
ある意味、『裏』と言うよりも『真』と
表記した方がいいのかも。 

 
(サンタローズ)
フレイSIDE

アイリーンさんの嫌悪に気付きもせず、父親の後にノコノコ付いていく姉を諫め、手伝わせたミサの後片付けも終わり、私達も王家の方々に挨拶するべく教会を出る。
こちらからは確認できないが、マーサ様の家の窓から私達に気付いて、お父さん達が帰ってくれると、アイリーンさんの心も穏やかだろう。

私に出来る時間稼ぎは終わってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、村の若い衆(ヘタレ野郎共)の一人が意を決した表情で私達(主にお姉ちゃん)に話しかけてきた。
これで時間が稼げる……普段は只のヘタレモブなのに、今日は良い仕事をするじゃないか!

「あ、あの……リュ、リュリュさん!」
「あ……はい。え~っと……」
突然話しかけられたお姉ちゃんは、このモブの名前を思い出そうとしている。

だが中々思い出せない……当然だ!
何故なら名前なんか知らないからだ!
普段は仲間モブ等と共に牽制し合ってて、名乗った事すら無いのだから、名前を思い出すワケない。

「きょ、今日のミサは素晴らしかったです!」
「ありがとうございます」
『今日の』だと!?

ふざけた事を言う奴だ。
今までのミサに参加した事の無いクセに、『今日のミサは素晴らしかった』などと、何と比較して素晴らしいと言ってるんだ。

「と、特に……リュリュさんの歌声は本当に素晴らしかったです!」
「あ……ど、どうもありがとう」
名前が無い(判らないだけ)と不便なので、今日からこのモブを心の中で“ジョン・ドゥ”と呼ぶ事にするが……このジョン・ドゥはお姉ちゃんとの単独(私が傍に居る事は無かった事にしている)会話に大興奮だ。

どのくらい大興奮かというと、基本的に外面が良く誰にでも優しい感じで接してるお姉ちゃんが、ドン引いてるくらい大興奮だ。
他人(ひと)の興奮具合にドン引いてるが、実父相手に自分の欲望をぶつけてるアナタの姿と大差ないからな!

ふと思い出し、チラリとマーサ様の家の方に目をやる。
すると私達(主にお姉ちゃん)が教会を出た事を察知したお父さん達が、既に帰宅の体勢に入っていた。
お姉ちゃんは気が付いてないけど、お父さんと目が合ったので軽く会釈をした。

お父さんもお姉ちゃんの状態を理解し、気付かれない様に手を振って応えてくれた。
そしてそのままアイリーンさん達と共に魔法(ルーラ)でグランバニアへと帰って行ゆく。
一方、ジョン・ドゥは……お姉ちゃんとの会話(一方通行なのだが)に超大興奮だ。

因みにどのくらい一方通行かと言うと……
「いやぁホント……あのサビのファルセットは最高でした!」
「え゛……サビたコルセットが好きなの? 何それ!?」

「あ……え、え~っと……ラストのビブラートも素晴らしかったです!」
「オブラートに包まないと飲めないほどの歌だった?」
……と、ジョン・ドゥは音楽の知識があるみたいだが、相手が悪いらしく話は噛み合わない。

当然である。
この女は天性の素質で歌がうまいだけで、音楽の知識は皆無なのだ。
基本的に馬鹿では無いのだけれど、興味の無い事柄にはとことん無知なのだ。

そんな訳で、意味の解らない事を言ってくる男の事よりも、大好きな父親の下へ行きたい欲が溜まり……
「あの……何言ってるのか解らないのよ。それよりも私、忙しいんだよね」
と珍しく冷たい返答。

「あ! ご、ごめんなさい……そ、そうですよね。王家の方々のお相手をしなきゃならないんですよね」
「え、王家? ん? あ、ああ……そう! そうなのよ。王家の方々のね……そうなのよ!」
相手の勘違いを都合良く利用する姉。まぁ“王家”という意味では嘘は言ってないのだけど……国が違うだけね。

大義名分が出来たお姉ちゃんは、フローラルな残り香を残しジョン・ドゥの前から去って行く。
さて……時間稼ぎをする必要も無くなった事だし、私はちゃんと王家の方々にご挨拶をしておこうと思う。もう一人の王家の方は、きっと失礼な事を言ってから立ち去ったはずだろうから。

「あ、あの……フレイちゃん!」
「……はい?」
興奮が冷めたのか否かは判らないが、突如ジョン・ドゥが私に話しかけてきた。姉を諦めて妹に乗り換えようとか、そんなふざけた魂胆で無い事を祈る。

「あ、あのね……君のお姉さんは……如何(どん)な男性が……その……こ、好みなのかな?」
「……………」
如何しよう……手斧が欲しい。

「あ、いや、あの……と、友達の友達から聞いてくれって頼まれちゃって……」
『友達の友達』って、行って来いで自分の事だろ!
お前みたいないさぎの悪い男など絶対義兄(あに)になんてさせないからな!

「おーほほほほっ! あの娘の事なら、妾が詳しいですわよ」
ジョン・ドゥに苛立っていると、後ろからこの場では聞こえちゃダメな女の声が聞こえてきた。
恐る恐る振り向くと、案の定ポピーさんがそこに居た。目眩がする。

王家のご臨席と言う事で何時もとは違って豪華なドレスを身に纏い、もうすぐ生まれ出る赤ちゃんがいるお腹を愛おしそうに摩りながら、ニヤけ面を我慢できないのか煌びやかな扇を広げて顔を半分隠して、その人は目の前に立っている。

「お、王太子妃殿下!」
「苦しゅうない……妾の事はポピレアと呼びたもれ」
王家の生まれで王家の人なのに、王族っぽいしゃべり方に慣れてなく語尾が安定しない。

「は、はい……ありがとうございますポピレア様。そ、それでリュリュさんの好みの男性とは?」
この男も王族の登場にパニクって当初の目的を忘れろよ!
なに一貫して自分の欲求を貫いてるんだ!

「うむ。あの娘の事は幼き頃より知っておるが、好みの殿方のタイプ……それはぞな」
「そ、それは……?」
『そ、それは』じゃねーよ! 語尾に違和感感じろよ。

「リュリュは“女々しい”殿方に惚れる傾向があるざます」
「め、女々しい……ですかぁ?」
ざます(笑)

「疑うのは尤もだが、妾の話を聞くのである」
もうワザとやってんのかな、あの語尾?
語尾が気になって話が頭に入ってこない。

「女々しいと言っても色々あるが、あの娘の好みは『ゴキ○リを見ただけで「きゃ!」とか言って腰を抜かしたり、野に咲く花を見つけては「摘むのは可哀想」とか言って顔を近付け匂いだけを楽しむ』そんな女子(おなご)っぽい殿方に好意を寄せる……のじゃ」
今、一瞬語尾忘れた!

「どうしてそのような殿方に惚れるかと言うと、リュリュは幼き頃より剣術を嗜んでおったじゃろ?」
「そ、そのようですね……」
詳しく知らんのかい!

「リュリュは心優しき娘でな、弱気を助ける事を目的として剣術を始めたざんす」
「そうなんですよ、リュリュさんは心優しい美女なんですよ! ……って、僕の友達の友達が言ってました」
まだそれ続けるんかい!

「じゃが同時に矛盾するところもある……それは剣術という他者と争う事を主目的としながらも、争い事を嫌う性格なのじゃ」
そろそろ語尾もネタ切れか?

「想像して見よ。筋骨隆々・男の中の男的な殿方が現れ、リュリュに近付き『俺様がお前を守ってやる』等と言い寄ってきた……心優しき娘じゃが、勿論プライドも持っておりんす」
お、おりんす(笑)

「幼き頃より弱き者を守る為、剣術を嗜んできたので、弱き者(リュリュ)を守ると嘯いてる者相手に対抗心を燃やしてしまう……ぞな」
語尾を忘れるくらいなら、もう普通のしゃべり方に戻せば良いのに(笑)

「そして気付くのじゃ、競い合い争っている自分に……その事に嫌悪し、気付けば自信をの対抗心を掻き立てるその男をも嫌悪するざます」
それと女々しい男好きが如何(どう)繋がるざますか?

「翻って女々しい男は如何(どう)であろう。ゴ○ブリ()を見ただけで恐れおののく様を見て、あの娘はこう考えるのじゃ……『この男性(ひと)は私が守らなきゃ』とな……ざんす」
その程度で恐れおののくのなら、マリーの部屋に入ったらショック死するな。

「そして気が付けばその殿方へ内から湧き出る母性を向け始め、それが愛へと変わってゆくのである」
ポピーさn……いや、ポピレア様も言ってて笑っちゃって、扇で顔半分を隠しているが、肩がピクピク震えてらっしゃるざます。

「な、なるほど……そうなんですね!!!」
「「え?」」
あのホラ話を信じたの? 発信源のポピレア様も驚いてるわよ! って言うか貴女が驚いて如何(どう)するのよ!

「そ、そうなのですわよ(笑) ……おぬしの友達の友dブファ(爆笑) ……ゲフンゲフン、失礼。おぬしの友達の友達にも直ぐに知らせよ。世間一般の常識に囚われ、雄々しい男を目指してたら取り返しの付かぬ事になるぞえ。ささ、早う行くがよい」

「あ、ありがとうございますポピレア様!!」
ポピレア様に急かされてジョン・ドゥは私達の前から去って行った。友達の友達に情報を伝える為……家帰って鏡に向かって今の話をするのだろうか?

因みに……ジョン・ドゥ以外のモブ等も遠巻きに今の話を聞いてた(ポピレア様は聞こえる様に話してた)らしく、各々急いで帰宅してゆく。
なんだ? スカートでも履くのか?

なお、ポピレア様はモブ等に見られない茂みの後ろに行き、辛抱溜まらんとばかりに笑い転げている……豪華なドレスに泥を付けて。
そして笑いながら涙を流し、こう言う……

「アイツら全員ガチで信じた(大爆笑) 馬鹿なの? ねぇ、馬鹿達なの!?」
笑いが止まらないらしく、芝生をバンバン叩いて笑っておられるポピレア様。
最悪だ……

明日から……いや今日の午後から、この村にはヨナヨナした男共で溢れるだろう。
多分、誇大解釈した者はおねえ(○かま)もどきになってるに違いない。
お父さんに言い付けてやりたいけど、一緒になって楽しみそうなので、それも出来ない。

笑い疲れ芝生でぐったりする着飾った妊婦を見下ろして、この村の将来を心配せざるを得ない。

フレイSIDE END



 
 

 
後書き
最終回に相応しいエピソードになったと
自負しておりんす。

最大の難点は、
ポピレア様の語尾でしたw




次回も外伝。
タイトルは
「解ってはいるけど止められない事もある」です。
投稿は6/15 0:00 
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