リュカ伝の外伝
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天使とラブソングを……?「エンディング」(第16幕)
(サンタローズ)
アイリーンSIDE
サンタローズ村聖歌隊の初お披露目は無事成功に終わった。
リュリュさん&フレイちゃん姉妹の見事な歌声も相まって、歌い終わった後の歓声は凄かった。あの“引き籠もり王”と揶揄されるデール陛下のご臨席もあって、教会の大聖堂は満員状態だったので、あの歓声は本当に凄かった。
ミサの客も帰り、ラインハット王家ご一行と共に控え室用の村長宅で、陛下と一緒に談笑をしている。もっとも私やピエッサは緊張で王家の方々の会話になんて入っていけないけど。
因みにこの村の村長は、陛下のお母様でした。
正直言うと、もう帰りたいのだが……
ラインハット王家がご臨席なさらせたので、陛下も気を遣ってミサ後の談笑を行っている。
私の予想だと、普段であれば目下の相手にこんなに気を遣われないであろう。もしかしたらお母様の手前って事も影響してるのかも。
私がもう帰りたい理由は、勿論王家の方々とのご同席が緊張するってのもあるが、あの女に出来れば会いたくないと言うのが一番の理由だ。
あの女とは……リュリュさんの事だ。
陛下とフレイちゃんにはバレてしまってるのだが、私はあの女が大嫌いだ。
嫌いになったのはつい最近……
あの女が聖歌隊に参加してからだ。
王都グランバニアに住む者なら誰しもが知っている事なのだが、あの女はファザコンである。
だが想像してみよう……
実の父親がリュケイロム陛下なのだ。
よりいい男が現れれば、そちらに気持ちが移るであろう。
だが実の父親はリュケイロム陛下なのだよ!
“よりいい男?”……そんな男が存在する訳ない。(断言)
だから一国の姫君が未婚である事に、国民は一様に『仕方ないよね』という思いがある。
あの女と深く関わりが無い者は、諦めという名の理解が存在してる。
だが近しい存在になってみれば如何であろうか?
変態極まりないうえ、鬱陶しさが盛り沢山の苛つく女なのだ。
聖歌隊の練習でも、あの女は練習の必要無いくらい完成されていたのだが、歌い終わる度にプーサンが実父である事が秘密であるのを利用して『上手く歌えたでしょ~♥ 私、頑張ってるでしょ~♥』って感じで、擦り寄っていくのだ。
内実を知っているフレイちゃんやお母様のシスター・フレアは盛大に顔を顰めてるのだが、解ってない他の聖歌隊員のおばさま方は『まぁ~……リュリュちゃんにもやっと春が来たのかしら?♥』って感じで眺めてる。
またそれが、私らの苛立ちを一層誘うのだ。
いや、ちょっと(ではないが)大きい娘さんが父親に甘えていると思えば苛立ちも押さえられなくは無い様な気がしないでも無い様な気がする。
だが問題なのは陛下が嫌がっているという事なのだ。
陛下が巨乳好きだと言う事は周知の事実だ。
お妾さんは漏れなく大きいし、今目の前居るお妾さんのひとりのシスター・フレアも標高ウン万メートルだ。
なのにだよ……そのシスター・フレアを上回る巨乳を押しつけても、陛下は本気で嫌な顔をするのだ!
そんな父親の……大好きであるはずの父親の嫌がる事を、自分の欲望を優先して行う女を好きになれるはずがない!
いや……他所の家庭の親娘が同じ状態で、その娘と知り合いになっても私は何とも思わないだろう。
だが問題なのは、嫌がってるのが陛下で在らせられる事なのだ!
先程もミサが終わって、本来ならばシスター・フレアが後片付けをしているのだが、今回に限り王家の方々を接待しなければならない為、有志で参加して頂いている聖歌隊の方々に後片付けをお願いして、私達と共に村長宅へと戻ってきたのだが……
自分の欲望しか頭にないあの女は、後片付けの事なんか頭の片隅にも置かず、しれっと父親の後を追って教会を出ようとしてた。
勿論とっても良い娘なフレイちゃんに『ちょっとお姉ちゃんも後片付け手伝ってよ! いっつも自分の事しか考えてないんだから!』と叱られ、慌てて後片付けに参加してた。
多分……基本的には彼女も良い娘(年上に“娘”と言うのは気が引けるが……)なのかもしれない。
グランバニアでもファザコン関係以外の悪評は微塵も聞いた事はない。
だが私は、あの鬱陶しさ……嫌いだ。
陛下に迷惑を掛ける、あの鬱陶しさが大嫌いだ。
悪気が無い分、より一層鬱憤は溜まる。
そんな訳で大聖堂の後片付けが終わって、彼女がこちらに帰ってこない事を祈りつつ窓の外をチラ見している。
だが私が知らなかった“神”という存在が、あの貧相なオッサンである事を知ってしまったので、祈っても意味ないと感じている。
その証拠に、聖歌隊のおばさま連中が教会から出てくるのが見えた。
そして決定的なのは最後にフレイちゃんとあの女が出てくるのも見えてしまった。あのオッサン、ホントに役に立たねーな。
思わず小さく溜息を吐く。
すると……
「じゃぁ僕等はもう帰るよ。ていうかよく考えたら何で僕が自国内のイベントに参加した国王を労って接待してやらねばならないのか解らん。労われるのはこっちだっつーの(笑)」
と言って立ち上がった。
嬉しさを抑え、私とピエッサも陛下に続き立ち上がり、出口へと移動する。
陛下はサッサと出て行ってしまったが、私とピエッサは振り返り王家の方々にお辞儀をしてから退出した。リュケイロム陛下より格下だが、私達よりかは遙かに目上の方々なので、礼儀は守る。
「いや~悪かったね長居させちゃって。一応あれでもアイツら王族だから……(笑)」
「いえ、お気になさらないで下さい社長。王家の方々を接待するのは当然だと思っておりますから……」
外に出ていきなりの労いに、慌てて返答する。因みに私(ピエッサも)はプーサンの事を社長と呼んでいる。
「そうだね……早く帰りたい本当の理由は、あの娘だもんね(笑)」
そう言って教会の方を指さす陛下。
そこには村の若い男と会話している彼女が居た。
如何やらこちらに帰ってくる途中、村の者に呼び止められたみたいだ。
呼び止められたのは彼女だけの様だが、気を遣ってフレイちゃんも一緒に話を聞いてあげてる。良い娘や~。
村の者の話を聞いてる彼女と違い、手持ち無沙汰なフレイちゃんは私達に気が付き、軽く会釈をしてくれた。彼女に気付かれない様に。
陛下も彼女に気付かれない様に、無言だが優しい笑顔で手を振って帰る事を告げて、私達を巻き込み魔法を唱えた。
あの女に会わずに済んで本当に良かった。
アイリーンSIDE END
(グランバニア城)
ピエッサSIDE
サンタローズ村でのミサも終わり、私達は陛下の魔法でグランバニアへと帰って来た。
魔法で到着したのは陛下の執務室へ繋がるテラス。
何時もアイリーンから聞いてた話では、練習が終わると自宅かバイト先前まで送っていただいてたそうなので、少し驚いた。
でも考えてみれば当然だ。
今回は私が居る。
アイリーンよりの場所に送り届けたら私が手間だろうと陛下はお考えになったのだろうし、私よりでもアイリーンに気を遣ったのだろうから、二人にとって公平なグランバニア城になったのだろう。
「それでは社長……では無く陛下。私達は早々に失礼させて頂きます」
私と同じ考えに至ったのか、アイリーンが挨拶をすると……
「まあまあ待ちたまえ。君たちに渡したい物があるので、娯楽室までご同伴願おう」
と、私達を娯楽室へと誘った。
(グランバニア城・娯楽室)
娯楽室へ着くと陛下はテーブルに2通用意してあった封筒のうち1つを手に取り、まずは私に手渡して下さった。
早速中身を見てみると、予想してた事だがそこには楽譜が……
タイトルを見ると『少女時代』と書かれている。
そしてピアノに向かわれた陛下は、徐に私に渡した楽譜の曲を弾き語る。
その曲はまさにタイトル通り……甘く切ない少女時代を唄った歌だ。
「あ、あの……この曲は……?」
「あげる。今日手伝ってくれた報酬」
そう言ってニッコリ微笑む陛下……隣では羨ましそうな顔をしてるアイリーン。アンタだって陛下から名曲を貰ってるのだから、そんな顔しないでよ! って言うかもう一通はアンタのよ。
「あの陛下。宜しいんですか私が貰っても?」
「いいよ。でもマリピエで披露するなら、作詞作曲は僕にしてね。絶対あの娘は自分の手柄にしようとするから。ピエッサちゃんが個人で披露するのなら僕の名前は極力伏せてね」
私は楽譜を抱きしめ静かに頷く。
これ以上陛下のご厚意に戸惑っても、もう1通を待ちわびてるアイリーンに悪いし。
隣でもう1通期待への圧が凄いのよ……
「んで、もう1通は予想通りアイリーンちゃんね」
「えぇー! もう既に報酬は頂いてるのに、宜しいんですかぁ~?」
白々しい。
「うん。本当に助かったから、1曲だけってのが申し訳なくてね……ボーナスって奴だよ。リュリュにも苛ついただろうし」
「ありがとうございますぅ~」
餌を貰った犬の様に喜ぶアイリーン。尻尾が生えてたらパタパタ振ってるだろう。
封筒を渡されたアイリーンは早速中の楽譜を眺める。
そちらのタイトルには『花咲く旅路』と書かれていた。
パッと楽譜を見る限り、私が頂いた曲とはまた趣が違った曲調の様だ。
そして当然の様に陛下はアイリーンの方の曲も弾き語る。
心を綺麗にしてくれる曲……
それが花咲く旅路だ。
「初めて聴く歌なのに、どこか郷愁を感じる」
アイリーンが陛下の歌を聴き終わり、感動と共に発した言葉。
うん、解る!
「そう……そうだわ! 初めてサンタローズ村に行った時に感じた感覚ですわ。この曲は陛下が故郷のサンタローズ村を想って作られた歌ですわね!」
「え!? そんな風に聴こえた? う~ん……じゃぁそうなのかもしれないけど……う~ん」
陛下ご自身は戸惑ってるけど、感動しきってるアイリーンは気にしてない。
「そうだわ陛下。早速この曲を今夜のバイトで披露して宜しいですか?」
「あげた曲だからそれは構わないけど、今日の今日で大丈夫?」
「愚問ですわ」
見えない尻尾を振り回し、自身が天才である事を間接的にアピール。
ハラたつ~。
「じゃぁバイトの時間まで、ここで練習していけば?」
「それは大丈夫です、もう完璧に弾けますから(笑顔) それよりもピエッサ……アンタが頂いた曲の練習を手伝ってあげるわよ、まだ時間があるから」
ムカつく上から目線での申し出。
取り敢えず頬をつねってやってから……
「宜しくお願いします天才先生!」と申し出を受ける。
そんな遣り取りを見ていた陛下が、
「じゃぁ一度も練習せずの、ぶっつけ本番を僕等も見学に行こうよピエッサちゃん」
と、今夜のアイリーンのバイト見学を提案された。
是非とも、ぶっつけ本番見学に行きたいけど……あの店、高いんだよなぁ(まぁ陛下からのお誘いなので断らないけど)
そんな事を考えてたら、陛下は懐をゴソゴソ探ってる。
「大丈夫。誘った以上、会計は僕が持つよ」
と言って懐から数枚のお札を取り出した。
正確には判らないけど、400~500Gありそうだ。
「あれ……僕、何でこんなに金持ってんの?」
いや知らんがな!
普段はお金持って無いって事ですか?
「あ、そうだ。一昨日アイリーンちゃんをバイト先へ送った時、帰りがけにカツアゲに遭ったんだ!」
「いや陛下。普通、逆でしょ? カツアゲに遭ったら、お金は無くなるモンでしょ!」
思わず我慢できずツッコんでしまった。
「え、そう? カツアゲしてきた奴らを、ちょっとブッ飛ばせば、勝手に金を置いて帰っていくよ(笑)」
「陛下か社長ならではのエピソードですわ(笑)」
そう言って陛下とアイリーンは笑い合っている。
私はあちらの常識には馴染めぬまま、二人の天才先生に優しく指導され、名曲の少女時代を練習する……
ピエッサSIDE END
後書き
まさかの嫌われ様w
次回
裏エンディング!
天使とラブソングを……?(第16.5幕)本当の最終話です。
追伸
皆さんご存知でしょうけど、
「少女時代」も「花咲く旅路」も、
原由子さんの楽曲です。
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