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歪んだ世界の中で

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第十三話 希望の親その十

「その時は。そうしませんか」
「その時はなんだ」
「はい、そうです」
 これが今真人が希望に言うことだった。
「そうしませんか。どうでしょうか」
「そうだね」
 希望もだ。にこりと笑ってだった。そのうえで真人に答えたのだった。
「それじゃあ。そうしようね」
「テストの結果がわかれば」
「それで場所は何処かな」
「僕の家でどうでしょうか」
 他ならぬそこだとだ。真人は答えた。
「そこはどうでしょうか」
「ああ、いつもみたいに」
「お菓子とジュースで乾杯しましょう」
「いいね。僕もその時はお菓子を持って来るよ」
「それで何を持って来られますか?」
「たけのこの里かな。それとあとは」
「後は?」
 真人が尋ねるとだ。すぐに出してきた希望だった。他の菓子も。
「ドーナツかな。それとクッキーに」
「あっ、僕の好きなものですね」
「うん、あとはミルクティーね」
「有り難うございます。それも大好きです」
「僕も大好きだからね」
 こう言って真人の気遣いはいいというのだった。
「だからね」
「それでそういったものをですか」
「持って来るから。楽しみにしててね」
「では僕もです」
「友井君もなんだ」
「僕はビスケットにアーモンドチョコにパイを用意しておきます」
「僕の好きなものじゃない」
 希望が笑顔で言うとだ。真人も同じことを言ったのだった。
「全部ね」
「いえ、僕も好きですから」
「だからいいんだね」
「レモンティーもありますよ」
 真人が話に出した飲みものはこれだった。
「それも用意しておきますね」
「有り難うね。じゃあその時はね」
「二人で楽しみましょう」
「御祝いになるのかただの乾杯になるのかは」
「御祝いになりますよ」
 真人は希望の背中を押してみせた。今度はそうしたのだ。
「絶対に。そうなりますよ」
「そうだね。それじゃあね」
「はい、頑張って下さいね」
 真人は笑顔で希望の背中を押していた。そしてその押したものを受けてだった。
 希望は自分のクラスに入った。それからだ。自分の席に着いた。その彼のところに今度は千春が来てだ。笑顔で言ってきたのであった。
「頑張ろうね、これからね」
「うん。もう何ていうかね」
「何ていうか?」
「こんなの澄み切った気持ちははじめてだよ」
 実際にそうした目で言う希望だった。
「テストじゃなくても。こんな気持ちになるのはね」
「はじめてなの?」
「うん、はじめてだよ」
 こう言ったのである。
「本当にね。はじめてだよ」
「じゃあ澄み切ったっていうと」
 その言葉からだ。千春は察したのだった。今の彼の心境を。それはどういったものかというと。
「希望落ち着いているんだね」
「そうなってきたよ。クラスに入って特にね」
「じゃああ頑張って。その気持ちのままでね」
「そうするよ。それでね」
「それで?」
「千春ちゃんはどうかな」
 千春を見ての言葉だった。彼はそれが言えるだけの余裕があった。
「今はどうかな」
「千春は大丈夫だよ」
 曇りのない笑顔での返事だった。
「全然ね。平気だよ」
「そうなんだ」
「だって。希望と一緒に勉強したから」
 あの図書館のことだ。千春はそこから言うのだった。
「だからね。大丈夫だよ」
「そうだね。それじゃあね」
「おばちゃん達のお家に行こう」
 そこに入ろうというのだ。テストの結果からだ。
「それじゃあその為にね」
「うん、頑張るよ」
 こうしてだった。二人はそれぞれの席に着いた。そうしてだった。
 希望はテストを受けた。最初の英語のグラマーの答案が自分の前に来た。そしてはじめの合図と共にだ。ペンを手にして運命を切り開きにかかったのだった。


第十三話   完


                          2012・4・4 
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