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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga24-A真実を越えた先にて待つもの~Before the final stage~

†††Sideルシリオン†††

リアンシェルトの胸を貫く“レーヴァテイン”を引き抜き、あの子を閉じ込めている重力の檻を解除。地表に落下する前に抱き止め、そっと横たえさせた。楽に逝かせるならトドメを刺すべきなんだろうが、もう弱々しい呼吸をしているこの子への攻撃は・・・出来ない。このまま、完全に機能停止するまで寄り添おう。

「リアンシェルト。お前には、本当に感謝していたよ」

“戦天使ヴァルキリー”だった頃のリアンシェルトと過ごした日々を思い起こす。

・―・―・回想だ・―・―・

「お父様!」

私をそう呼んで駆け寄って来るのは、つい先日にロールアウトした完全自律稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”の3機目、リアンシェルト。共に開発しているシェフィ、それにフノス達と相談して、“ヴァルキリー”だけの軍隊を造ることになった。
第1隊ブリュンヒルデ。第2隊アルヴィト。第3隊ヒルド。第4隊ラーズグリーズ。第5隊ヘルフィヨトル。第6隊ヘルヴォル。第7隊ランドグリーズ。第8隊ゲイルスケルグの、予定総数500体。
ヨツンヘイム連合に負けている要素である数を埋め合わせるための計画だ。

「(未だに試作0番機ロヴァル、完成1番機ガーデンベルグ、2番機リアンシェルトの3体しか出来ていない・・・。先はまだまだ長いな)どうした、リアンシェルト」

「これからお母様のところに向かわれるのですよね? ご一緒してもいいですか?」

「もちろんだとも」

「やった♪」

リアンシェルトは、いやガーデンベルグや今後の“ヴァルキリー”は、私とシェフィのことを、父・母として慕ってくれるようになっている。当初はマスターという敬称を付けて、マスター・ルシル、マスター・シェフィと呼ばせようと考えていたが・・・。

――どうせなら、両親として扱ってほしいかも。生みの親であることは変わりないのだし、それに・・・――

――それに?――

――この大戦は私たちの代で必ず終わらせるつもりだけど、それがいつになるか判らないでしょ? つまりは、その・・・あなたとの子どももいつ作れるか判らないって話で・・・。最悪、終戦時にはおばさんになってるかもで・・・――

(あの時の、顔を真っ赤にしているシェフィは可愛かった)

恋人の可愛らしいお願いに受け入れ、“ヴァルキリー”は私とシェフィの子どもという設定になった。いやしかし、父と呼ばれるのも新鮮で悪い気はしないな。

「何かあったのか? 機嫌が良さそうだが」

「あ、判りますか? ロヴァルとの模擬戦闘で、ようやく決定打を与えることが出来ました♪ ガーデンベルグより早い記録ですよ」

「ほう。それは大したものだ。偉いぞ」

「えへへ♪ 褒めてもらうと嬉しいです! お母様にも、褒めてもらいたいです!」

「大丈夫、褒めてもらえるとも」

ロヴァルは試作機ということもあり、いろいろ詰め込み過ぎて戦場には投入できない不安定さがある。そのため、あの子には弟妹たちとの模擬戦闘機としての役割を任せた。戦場投入されないと知ったあの子は少し悲しそうだったが、弟妹たちのためならば、と承諾してくれた。

「お父様」

「ん?」

「私たちヴァルキリーが、お父様たちに必ず勝利をもたらします」

「・・・ああ、期待しているよ」

・―・―・終わりだ・―・―・

「かふっ、こほっ、こほっ」

急に咽だしたリアンシェルトに、俺は“エヴェストルム”を起動した。考えたくはないが反撃の可能性があるからだ。現状のリアンシェルトがまともに戦えるとは思えないが、死に際の決死の反撃なんぞ食らったら・・・。

「大丈夫だよ、マイスター。大丈夫」

「あ、ああ、そうだな。お前の対氷雪術式があれば」

いつの間にか魔術師化が出来るようになっていたアイリが側に居てくれれば、リアンシェルトの反撃も怖くはない。深呼吸を1回して、体の崩壊が始まったあの子の最期を見守る。

「わた・・・私の・・・負け、です・・・神器王・・・」

「ああ。俺の勝ちだ。・・・教えてもらうぞ、ガーデンベルグの居場所を」

最後の“堕天使エグリゴリ”の居場所を知るには、リアンシェルトを救わなければならないという、この子との約束だ。

「そう、でしたね・・・。ガーデンベルグは・・・ヴィーグリーズはエイルトゥーン城塞・・・にて、神器王、あなたを・・・待っています・・・」

大戦の終結地にして“アンスール”最後の地、ヴィーグリーズ。エイルトゥーン城塞は、アースガルドの保有していた対ヨツンヘイム連合のための砦の1つだ。あそこにガーデンベルグが居るのか。あの子の居場所は判った。問題は・・・。

「どうやってヴィーグリーズまで行けばいい? あそこは、俺たちが今いる下位次元世界とは違う領域だぞ。ヴィーグリーズのある上位次元世界を隔てる次元の境界はどうすればいい?」

俺の“界律の守護神テスタメント”としての干渉能力でも突破できないほどの境界だ。リアンシェルト達はどうやって上位と下位の境界を行き来しているんだ?と疑念が渦巻く。

「定期的に開くのですよ、境界に穴が・・・。次は4年後ですね」

リアンシェルトの崩壊が収まり、霧散していた魔力が元に戻ろうとし始める。“魔力炉(システム)”を破壊した以上、いくら“エグリゴリ”でも修復されるなどありえない・・・はずなのだが、リアンシェルトは何やら特別な進化をしていようだから、おかしくはない・・・のか。チラッと側に控えているアイリに目をやると、あの子は力強く頷いて見せた。判った、信じよう。

「また随分と長く待たされる。・・・4年、4年・・・ちくしょう。4年も俺の体がもつとは思えない・・・」

すでに崩壊が始まりかけているこの魔力で出来た肉体は、もう1年後には完全に朽ちているに違いない。だから「他に方法は?」と問うと、「・・・ありません。4年は待ってもらいます」という、無慈悲な返答が。片膝立ちだった俺は尻を地に付き、胡坐をかいてガクッと項垂れた。ここまで来て、俺は・・・終わりなのか。

「その辺りの問題は、彼女が解決してくれます」

仰向けのまま、俺たちから視線を変更したリアンシェルトにつられ、俺もそちらへと目を向ける。そこに居たのは、存在を忘れていた「パイモン、フラメル、ルルス」の新世代“エグリゴリ”3機だ。パイモン達は小さく一礼してから、こちらに歩み寄ってきた。

『アイリ。あの3機の魔術は無力化できるか?』

『ううん、出来ない。アイリの魔術は・・・対氷雪系限定みたいだから。だけどね、マイスター。もう、戦いは終わってるの。だから安心してね』

「『・・・そうか・・・』随分と親切にしてくれるんだな、エグリゴリのリアンシェルト」

「当然です。敗北を自認した以上、あなたに再び襲い掛かる気はありません。それに、約束ですから。私に勝ったら、教える、と」

体の修復がほぼ終わりかけているリアンシェルト。敗北を認めたとは言っているが、完全修復したらまた襲い掛かってくるのではないか?という不安が僅かに生まれる。パイモン達も、リアンシェルトの一声で態度を改めて参戦してくる可能性も捨てきれない。

――原因はもう変えられない。ならば過程と結果をより良いものにするのが人というものでしょう?――

「ん・・・?(なんだ、今のノイズ・・・)」

脳裏にノイズ交じりの、何かしらの記憶が流れた。別の契約先での記憶じゃない。今の声は、リアンシェルトのものだったが、俺が人間だった頃の記憶じゃない。人間だった頃の記憶であればノイズなんてものが出ず、ハッキリと綺麗に思い浮かべることが出来るからだ。

「・・・パイモン。今後、いかなる理由においても神器王と、その周囲の者たちに危害を加えることは一切不可。境界門の次回の開門時には、神器王を案内するように」

「了解です~」

――私たちはこれまでもこれからも敵同士なのです――

――リアンシェルトはヴァルキリーとして記憶が戻っているという――

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・!」

「ま、マイスター? どうしたの・・・?」

――僕はヴァルキリーなんて知らないもん! 僕はレーゼフェア! エグリゴリのレーゼフェアだもん!――

(なんだ、この記憶は!?)

――戻れるわけない。僕は、僕たちは、大好きな人たちをこの手で殺した。洗脳されてた? そんなの言い訳だよ――

(いつの――いや本当に実体験したものか!? 知らないぞ、俺は!)

「これであなたの不安は取り除かれたはず。あとは・・・私にトドメを刺すだけです、神器王。さぁ、その槍で、もう一度わたしを貫いてください。今度は貫くだけではなく魔術で確実に体を破壊してください。でないと、異常に進化しすぎた私の自己再生プログラムは機能し続けます」

“レーヴァテイン”によって胸に開けられた穴が修復され、リアンシェルトは仰向けに倒れたまま両腕を大きく広げて、まるで十字架のような姿をとった。

――自分自身を許せないんだよ! 記憶が戻って、自分たちが犯した罪を思い出した時、僕たちは決めたんだ! せめて敵として父さんと戦って、その手で眠りにつこうって!――

――私たちはこれまでもこれからも敵同士なのです。あなたの腕に抱かれ、この優しい温かさも永遠の中の一瞬。離れたらそこから元の関係に戻りましょう。あなたは神器王として、私はエグリゴリとして、あなたの手でこの身に死を齎されるその日まで――

――最初はね、自壊しようとしたんだよ。でも僕たちには、当時のヴァナヘイム王から自壊も自傷も出来ないように、アンスールのみんなを殺すように、特別なプログラムが組み込まれた。だから記憶が戻っても、そのプログラムがある以上は嫌でも父さんと戦わないといけなかった。だからこうして父さんに敵意を持たせるような行動して、僕たちエグリゴリを斃し易いように仕向けてた――

――お父様の手で、罪深い私たちの旅路に終止符を打ってください。それがバンへルドも、グランフェリアも、シュヴァリエルも、レーゼフェアも、そして私も、フィヨルツェンも、ガーデンベルグも、皆が抱くたった1つの・・・一生のお願い、というやつです♪――

(なんて・・・ことだ)

ノイズ交じりだった記憶が徐々にハッキリと見えてきた。レーゼフェアとの闘い、その後のリアンシェルトとの真実の会話の記憶。妄想なんかじゃない。俺が忘れていた、絶対に忘れてはいけない記憶だった。何故、こんなに大切なモノを忘れていたのか。

――彼女らエグリゴリと偶然出会ったのは事実です。ルシリオン様より伺っていた特徴と一致し、私からルシリオン様のお名前を出し、コミュニケーションをとりました。そこで彼女たちの記憶が戻り、ルシリオン様の行方を探していたことを知りました――

(マリア・・・)

――お父様。この真実はいたずらにお父様を苦しめ、悲しませるもの。忘れた方がお父様の為なんです――

俺とアイリの記憶を消した(正確には封印した)のはマリアだが、それを考えて依頼していたのはリアンシェルトだ、責めるわけにはいかない。“エヴェストルム”を握る左手に力を込めるが、すぐに緩めた。マリアの記憶封印が今になって突然解除された理由は判らないが、リアンシェルトの最期というタイミングには感謝だ。

「(この子たちの決意をふいにしたくはないが・・・)リアンシェルト」

「なにか?」

「思い出したよ。お前たちエグリゴリが、すでに記憶を取り戻していることを」

「っ!!」

大きく目を見開いたリアンシェルトの様子からして、俺がマリアに封印された記憶を取り戻すことは予定になかったようだ。さらに「そんな・・・! どうしてお父様の記憶が元に・・・!?」と、誤魔化すことはせずにサラッと演技をやめてくれた。嬉しい話だ。そうだの違うだのと押し問答はしたくないからな。

「推測になるが、お前の創世結界がヴァルハラを侵食した際、そのダメージが俺の体を構築している魔力にまで影響を及ぼした。その際、封印に綻びが生まれたんだろうな。アイリの機転で体の崩壊は免れたわけだが、封印までは元に戻らなかった、と言ったところだろう」

何の根拠もない推測だが、理由なんてどうだっていい。今はただ、リアンシェルトを敵としてではなく、娘として送ることが大事だ。“エヴェストルム”の柄を握っていた左手で、あの子の右手を握った。

「・・・お父様?」

「すまない。俺は親だというのに、お前たちを苦しめてばかりだ。今もこうして・・・」

リアンシェルトの瞳から溢れ流れる涙を右手で拭い去ると、あの子は「あぅ」と顔を真っ赤にして、左袖で目をゴシゴシと拭った。そして「泣いてるところ、見ないでください」と顔を逸らした。そんな恥ずかしがることないだろうに。

「馬鹿だな・・・」

そう言いながらリアンシェルトの頭をそっと優しく撫でる。ますますあの子の頬や耳が赤くなっていく。あの子は「も、もう結構ですから・・・」と困り気味に言うものだから、俺は仕方なく頭から手を離した。

「コホン! えっと、お父様。今後のことですが、私に考えがあります。本当なら私が破壊された後で、パイモンから伝えるように計画していたのですが、こうなっては少しでもお父様とお話がしたいので私がお伝えします」

リアンシェルトが語ってくれた話は、本当に昔から俺のために考え、行動していてくれたことが判る内容だった。今回の闘いで、俺の体に致命レベルの異常が発生する可能性があったとして俺の影武者――クローンを生み出していたこともそうだが、アイリが始めから俺専用の、ユニゾン可能な新世代“ヴァルキリー”として開発されていたこと。次に境界門が開くまでの約4年間、俺の体を保持や、ガーデンベルグとの闘いに必要な魔力を次元世界のあらゆる場所から回収する組織、“T.C.”(Testament Cancellerの略とのことだ)の考案などなど・・・。

(そんな頑張り続けてくれていたこの子を、このまま本当に破壊していいのだろうか? 否、そんなのは許されない、許したくない。しかし、リアンシェルトをこの手で救わなければ、あの子はこの先どうなる。自壊も自傷も出来ず、俺がこの世界からいなくなった後も独りで存在し続けるのか・・・。

「(そうか。結局、結末は変わらないのか・・・)なぁ、リアンシェルト」

「はい」

「俺は・・・やはり、お前を破壊しなければならないのか?」

「はい。それは絶対です。堕天使戦争において、お父様の勝利条件はただ1つ。私たちエグリゴリを殲滅することです。正直な話、お父様はガーデンベルグと神器ユルソーンを破壊すればいいだけです。ですが、そうなったら私はどうしたらいいのです? お父様がテスタメント、神意の玉座から解放されたとき、お父様がいつの時代で復活するか判りません。そうしたら私は、お父様のいない何百、何千という時間を独りで過ごさなければなりません」

それは前々から俺も考えてはいた。ガーデンベルグの“ユルソーン”に貫かれ、不死と不治の呪いを受け、フェンリルによって時間凍結封印を受けた6千年以上前のアースガルドに戻るのか。それとも、この時代のアースガルドで復活するのか。可能性としては、“テスタメント”になった時点まで戻る――前者だ。過去に戻ったら、記憶、堕天使戦争などなど、俺自身どうなるのかも判らない。不確定要素が多すぎるため、リアンシェルトを生き残らせる選択肢は始めから・・・無かったんだ。

「判った。先に逝ったバンヘルド、グランフェリア、シュヴァリエル、レーゼフェア、フィヨルツェン達に・・・よろしくな、リアンシェルト」

「お父様、ありがとうございます」

そう言ってリアンシェルトは十字架の姿勢に戻り、静かに目を閉じた。俺は「アイリ、ユニゾンを」と伝え、アイリと再びユニゾンを果たす。

「アイリ。氷神裁く絶対なる術法(エグリマティアス・エクテレスィ)の発動を。アレには私の術式の無力化はもちろん、魔力炉(システム)の出力や神秘の強制低下という効果があるの。これなら弱体化なさっているお父様でも、私にトドメを刺すことが可能。・・・ですが、パイモン。念のために私を抑えつけておいて。お父様の攻撃に反応して迎撃してしまうから」

「了解です~。・・・リアンシェルト様、長い間お疲れさまでした~」

――フェアボート・ヴィーダーシュタント――

紅碧色の魔力で作られた5本のリボンがリアンシェルトの四肢と腰に巻き付き、地面に拘束した。俺ではなくミミルからの魔術なためか、あの子は迎撃行動に出ることはなかった。

「アイリ、頼む」

『ヤヴォール。氷神裁く絶対なる術法(エグリマティアス・エクテレスィ)

対リアンシェルトという術式が発動されると、リアンシェルトから魔力や神秘が急速に失われていくのが判る。確かに、これなら今の俺でも問題なくあの子にトドメを刺すことが出来る。地面に置いていた“エヴェストルム”の柄を握り直し、神秘カートリッジをロード。穂に刻印されたルーン文字に魔力を流し、デバイスから神器へと変化させたイドフォルムとする。

「おやすみ、リアンシェルト。・・・良い夢を」

「おやすみなさい、お父様。私を生んでくれてありがとうございました」

リアンシェルトの額にキスをし、俺は立ち上がった。“エヴェストルム”の穂先をあの子の胸に突き付けた。あの子は自分の死がすぐ側にあっても呼吸を乱すことなく、「さぁ、どうぞ」と一言。

――集い纏え汝の閃光槍(コード・ポースゼルエル)――

穂に閃光系魔力を付加し、その威力を高める。そして・・・

「っ!!」

「ぅく・・・」

リアンシェルトの胸、“魔力炉(システム)”のある心臓付近を確実に貫いた。“レーヴァテイン”で貫いたときとは違い余裕をもって正確に狙えたことで、“魔力炉(システム)”を破壊できたことを示す証明――あの子の呼吸が止まった。四肢の末端よりあの子の体の崩壊が始まったかと思えば、フィヨルツェンの時と同じようにあの子の体を構築していた魔力が爆ぜた。

「リアンシェルト様もまた~、フィヨルツェン様と同じようにベルカの地を再生されるのですよ~」

「なぜだ?」

「アンスールが全滅した後も、レーベンヴェルトの騎士団がエグリゴリに戦いを挑んだんです~。アンスールの敵討ちという理由ですね~。神器王たちの敵討ちという理由に、リアンシェルト様たちは感謝していたみたいですね~」

「だから、レーベンヴェルト――ベルカの地を再生するのが恩返しになると?」

「だと思いますよ~」

100㎝を超える大きな胸を揺らしながらミミルは「では~、これより案内しますね~」と歩き出した。リアンシェルトの死という、感傷に浸る間も与えてくれない。彼女に何も答えずに、あの子が横たわっていた地面を眺めていると、グイッと両腕の袖が引っ張られた。

「フラメル、ルルス・・・」

「マスターに付いて行ってください、ルシリオン陛下」

「ほらほら早く早く!」

揃って頬を膨らませている2人に引っ張られるまま、今後の“T.C.”の本拠地となる場所へと案内された。

・―・―・終わりだ・―・―・

「そろそろ時間だよ」

椅子に座っている俺の顔を覗き込んでいるアイリに「ああ、そうか」と応じながら、背もたれに預けていた上半身を前へと起こす。

「報告するね。ミッドの各襲撃地からプリム達は帰ってきて、回収した魔力を預けた後に顕現時間の限界によって消滅。・・・で、やっぱりと言うか、ディアーチェ達は帰ってこなかったよ」

「魔力保有物の回収任務完了後の行動に縛りは付けていないからな。全エインヘリヤルに施してある緘口令も、もう切れていると見ていいだろうし・・・」

「これでマイスターの真実が、はやて達みんなに伝わっちゃうね。良かったの? 死を偽ってまではやて達と縁を切ろうとしてたのに」

アイリにそう言われた俺は、自分がクズだってことを嫌でも思い知る。ディアーチェ達を召喚したのは、ルシリオンの最期が近いということもあり、はやて達と最後の再会をさせるつもりなだけだった。それがはやて達にもディアーチェ達にも恩返しになる、と考えたからだ。しかし、俺の真実を伝える機会を与えた上で放った以上は、それは・・・。

「卑怯者だな、俺は・・・」

俺は死んだと思わせてはやて達を悲しませておきながら、実は生きていました、俺のことを忘れないでください、それをディアーチェ達から伝えさせる。最低すぎる・・・。

「大丈夫! アイリ、そんなマイスターでも大好きだから♡」

「ありがと(卑怯者だっていうのは否定しないんだな。事実だから構わないけど)」

眠気も完全に吹っ飛んだ俺は椅子から立ち上がり、最終フェイズのための出撃準備に入る。アイリを伴って部屋を出よう・・・とする前に、首だけ振り返る。視線の先、部屋の奥の椅子に座る、頭からすっぽりと布を被る“王”に向かってアイリと一緒に「いってきます!」と告げた。
部屋から出、廊下で待機していた猫、「エルフテ」の名前を呼ぶ。元は二足歩行で貴族服を身に纏っていたが、シュテルの指示で素っ裸で四足歩行を徹底するようになった。

「最後の仕事だ。いくぞ」

「了解です」

「アイリが抱っこしたげるね!」

アイリの胸に抱きかかえられたエルフテを伴い、俺とアイリは本局へと向かった。
 
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