提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・65
~千歳:柿の種~
俺がこのホワイトデーのお返し企画を始めた時、とある取り決めをした。それは、
『勤務時間内に食べに来た場合、酒は飲まない』
という物。勤務時間を過ぎればその限りじゃねぇが、そこは飲兵衛ばかりのウチの鎮守府。勤務時間ギリギリに頼みに来るとか、悪知恵を働かせる奴等がいるんだが。
「てぇとくぅ~、おいひぃれすよぉこれ」ヒック
目の前では今回チケットを持ってきた千歳が、リクエストの柿の種をポリポリやっていた。その瞳はとろんとして、頬は真っ赤に紅潮している。
「このパターンは予想してなかったなぁ」
「ん~?何がれひゅかぁ?」ポリポリ
「しこたま飲んでからリクエストに来るとか、予想外過ぎんだろ……」
「えへへぇ~、じゃあわたひのさくせんがちれすねぇ♪」
そう、千歳の奴はベロンベロンに酔っ払って千鳥足で現れたのだ。普段はこんなになる前に妹の千代田が止めているのだが。
『千代田が遠征に行ってる間のオフ日を狙ってる辺り、計算高いよなぁコイツも』
完全に確信犯の犯行だ。
「のんじゃあらめっていうから、わたひかんがえたんれすよぉ。『逆に考えるんだ、飲んでから行けばいいさ』ってぇ」
「お前はどこのジョースター家当主だよ」
「ちがいまひゅよぉ。わたひはぁ、て~とくのおよめさんれしゅよぉ~?」
そうなんだよな、こんなんでも嫁だ。………カッコカリだけど。
「らからぁ~……えいっ♪」
千歳はソファから立ち上がると、向かいに座っていた俺の隣に来て俺の太股に頭を載せてきた。
「こ~んなことらってぇ、しちゃうんですよ?」
俺に膝枕されたまま、此方を向いた千歳は妖艶に笑ってみせた。
「ハイハイ、まだ仕事中です。誘惑されても手出しせんぞ」
「ぶ~っ、つまんにゃいのぉ」
正直かなりムラっと来たが、俺だってそこは経験豊富なのだから、自制位は出来る。
「……って、何してるのかな千歳さんや」
さっきまで膝枕されていると思っていたら、千歳の顔が下を向いている。股間の辺りに生暖かい風を感じる。怪談的なアレではなく、呼吸的なアレだが。
「す~っ……は~っ。てぇとくのにおい、たんのうしてましゅう♪」
「どこの匂い嗅いでんだよ」
「そりゃもうおちーー」
「言わせねぇよ!?」
とんでもないアケスケなドスケベである。まったく、誰がこんなにしたんだか←
「ぶぅぶぅ、最近相手してもらえないから千歳は寂しいんですよぉ?」
千歳は首を少し持ち上げ、人差し指でムスコをクリクリしながら話しかけている。吐息と指先のフェザータッチの微妙な刺激で、ただでさえ起きそうになっていたムスコが『早く出せ』と駄々を捏ね始めている。
「やめんか、仕事中だぞ」
「ホントに止めていいんですかぁ~?コッチは止めてほしくないって言ってますけどぉ~?」
ニヤニヤと笑いながら、指を動かすのを止めない千歳。
「いいから……大人しく、してろっ!」
「もがっ!?」
流石にイラッとして、右手で一掴みにした柿の種を千歳の口に押し込んだ。最初の内はもがもがと苦しそうにしていたが、その内バリボリと咀嚼する音がし始めた。やがてゴクリと喉が動く音がしたかと思うと、
「ちょっと、何するんですか提督!苦しくて死んじゃうかと思いましたよ」
「ん?まだ食い足りないのか?」
不貞腐れる千歳にニッコリと微笑みを返してやる。勿論そこには『いい加減にしろ』と圧力を籠めて。
「乾き物ばっかり食べてたから、お茶が欲しいかな~なんて、アハハ……」
「そうか、今淹れて来てやるから待ってな」
流石に長年連れ添ってるだけはある。俺の堪忍袋の緒の位置を感覚的に理解して、危ないと判断すればあっさりと退く。その辺はやっぱり年の功というか、なんというか。
「あ~、緑茶って落ち着きますよねぇ」
「やっぱり日本人だからな、DNAに刻み込まれてるようなもんだろ」
酔いも大分冷めてきたらしい千歳が、柿の種をポリポリしながら茶を啜っている。
「柿の種ってお茶にも合うんですね。意外です」
「まぁ、元々柿の種はおかきとかあられの一種だからな。元はお茶請けだ」
「あ、そうなんですか?私てっきりおつまみ用に作られた物かと」
「なんでやねん」
「基本ビールとかとしか食べませんもん」
「心底飲兵衛だなぁ」
「いや~それほどでも~」
「褒めてはねぇぞ?」
そもそも柿の種ってのは、1920年代に新潟の煎餅屋が発売したのが元祖だ。店主の嫁さんが小判型のおかきの金型を間違って踏んづけて、歪んだ型を直せないからそのまま使ったら柿の種の形に似たおかきが出来た、ってのが始まりらしい。
「でも、果物の柿の種ってこんな形でしたっけ?」
「新潟の名産の柿の種がそんな形らしいぞ?」
「流石提督、博識ですねぇ」
「そういえば提督、どこのメーカーのが好きですか?柿の種」
柿の種は元祖の店が商標登録せず、しかも作り方を公開した為に様々な米菓メーカーが作って巨大な市場を形成している。シェアのトップは、言わずと知れた亀〇製菓。そこにで〇六、岩〇製菓、〇幸製菓、ブ〇ボンと続く……らしい。
「三〇製菓の奴かな」
「え~っ、意外。私はやっぱり亀〇の奴ですね!」
〇田製菓は流石にトップシェア、安定して美味い。それに、醤油と唐辛子のノーマルな柿の種の他に、塩だれ、ワサビ、ソースマヨ、チーズ、カレー、挙げ句の果てにはノーマルをチョコでコーティングしたチョコレート柿の種なんて変わり種まである。
「ただ、亀〇の奴って全体的に小粒なんだよ」
俺個人の好みとしては噛み応えがあってバリバリ音を立てて食える感じのちょっと堅めの方が好きなんだよな。おかき食ってる感じがして。その基準から行くと亀田の柿の種だと若干役不足感がある。三幸の柿の種は亀田のに比べて大粒で、生地も厚めだから食べていて噛み応えがある。ピーナッツも大粒な気がするし。
※作者の主観です、悪しからず。
「え~、あの小粒なのが乾き物に丁度いいんじゃないですか。缶ビールと柿ピーの組み合わせとか、最高じゃありません?」
「それは分かる」
実は柿の種……というか柿ピーが乾き物の定番になったのは平成の始め頃。昭和の終わり頃に発売された『アサヒ スーパードライ』に端を発したドライビールブームに乗っかり、柿の種は手軽で美味しくビールにあう、乾き物の定番にのしあがった。事実、亀田の柿の種はドライビールブームの最中に売上が3倍になったというんだから、そのすごさが伝わるだろう。
「さて、俺の休憩は終わりだ。お前は大人しく柿の種を堪能しててくれ」
「は~い……」
ちょっと拗ねた感じで、千歳は大人しく座り直して柿の種をお茶請けに茶を飲み始めた。時計を見れば時刻は3時過ぎ。後2時間、気張って仕事しますかねぇ。
-2時間後-
さて、今日の仕事は終わり。店もたまの休みだ。千歳の奴は……
「あ~らら、随分静かだなぁと思ったら」
ソファの上で丸くなって寝息立ててやがる。
「おい、いい加減に起きろ」
「ん……にゅう、あぇ?て~とくぅ」
「寝惚けてやがるな……よっと」
俺は千歳を肩に担ぎ上げる。
「んぇ……にゃに、するんでひゅ?」
「決まってんだろ、ナニすんだよ」
正直、千歳に誘惑されてからこっちムラムラしててな。寝込みを襲うようで若干罪悪感があるが、まぁそこはお仕置きも込みって事で。
「昼間に寝た分、今夜は寝かさんぞ?」
「望む所れしゅ~………」
翌日、足腰立たなくなった千歳を明石に届けに行ったら滅茶区茶に怒られた。解せぬ。
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