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イベリス

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第四話 家でこっそりとその十一

「私はね」
「そういうことね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「本当にね」
「それでよね」
「こうしたお酒はないと」
「咲ちゃんもね」
「お酒こんなに飲まなかったわ」
「お酒が口に合わないと」
「やっぱり飲まないわね」
 咲は自分で言った。
「お酒は美味しくないと」
「まずいと思ったら飲まないことよ」
 愛はまた注文しながら咲にこの言葉を告げた。
「お酒もね」
「そういうことなのね」
「飲みたいと思ったら飲んで」
 そしてというのだ。
「飲みたくないならね」
「飲まなかったらいいのね」
「お酒はね」
「そうしたものなの」
「というかまずいのに無理して飲んだら」
 そうすればというと。
「身体も壊すし心にもね」
「よくないのね」
「そうよ、坂口安吾って知ってる?」
「昭和の作家さんね、漫画やゲームにも出てるわ」
「作家さんもなの」
「文豪何とかっていう作品があって」 
 それでというのだ。
「そうした作品で出てるわ」
「それで知ってるのね」
「その人がなの」
「そう、ウイスキー美味しくないと言いながらね」
 正確に言えば著作で書いてあったことだ。
「それでね」
「そのうえでなのね」
「飲んでいたのよ」
「そんなことして飲んで楽しかったのかしら」
「さあ。それでも飲んでいたのよ」
「わからないわ、そんなことするなんて」
 咲は本気でいぶかしんで言った。
「何がいいのか」
「私もそう思うけれど」
「坂口安吾はそうしていたの」
「それで飲んでいたのよ」
「私そんなことは」
 咲はその飲み方について眉を曇らせて言った。
「どうにも」
「するつもりないでしょ」
「今飲んでるのも」
 これもというのだ。
「やっぱりね」
「美味しいからでしょ」
「ええ」
 従姉に答えた。
「やっぱりね」
「それがいいの、まずいなら」
「無理して飲むことないのね」
「そんなのして何がいいか」
 愛もこう言った。 
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