Fate/WizarDragonknight
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新しいムー帝国
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
『ゴー キックストライク』
二つの蹴りが、ファントムを爆発させる。
人気がいない場所に移動してから、それぞれは変身を解除する。
「ふう……まさか、こんなときにファントムが出てくるなんてね」
ハルトはため息をついて、ルビーの指輪をホルスターに収める。
コウスケは肩を回して、「まあな」と答える。
「さてと。それじゃ、響をどうやって助けるもんかね……」
「そもそも、どこにいるか分からないのがね」
「皆まで言うな。範囲は見滝原に絞られてんだから、あとは探せばいいだけだろ?」
コウスケはそう言って、指輪を付け替える。
「探せばいい?」
『グリフォン ゴー』
ハルトの疑問に、コウスケは魔法で答えた。彼の前に出現する、緑のプラスチック。それは自らを定めた形へ当てはめていく。それはやがて、幻獣グリフォンの姿形となった。
「使い魔か?」
「ああ。グリフォンってんだ。可愛いだろ?」
「可愛い……か?」
指輪をはめてグリフォンを完成させる様子を見ながら、ハルトは首を傾げた。
すると、グリフォンは「可愛いだろ!」と言わんばかりにハルトの頭を小突いた。
「痛っ!」
ハルトは痛みを訴えながら、公園の彼方へ飛び去っていくグリフォンを恨めしそうに睨んだ。
コウスケはそれを見ながら尋ねる。
「お前の使い魔は?」
「え? 今出払ってる。ファントム探しのためにあんまり俺の手元にはいないんだよね」
「つーことは、人手は増えねえのか」
「ごめん。……ん」
ハルトのポケットの携帯が着信を知らせる。見てみると、可奈美から『電話した?』とのメッセージが記されていた。
「どうした?」
「ああ、可奈美ちゃん。もともと、ここには可奈美ちゃんを探しにきたんだ。えっと、『どこ行ったのか心配しただけ』と」
「お前も結構過保護だな」
「うるさい。一応年上だしな。あ、もうラビットハウスに戻ってるんだ。入れ違いになっちゃったな。……さてと」
送信を終えたハルトは、顎に手を当てた。
「響ちゃんを探すにしても、手がかりが欲しいよね。見滝原と言ってもかなり広いから」
「だな。流石に人がいるところにはいねえだろ」
「だったら、この前みたいな山の中とか?」
「あとはスラム街だな」
「スラム街?」
日本ではなかなか聞かない言葉に、ハルトは首を傾げた。
コウスケは頷く。
「何でも、昔見滝原を発展させるための工業地区が見滝原南にあったんだけどよ。事故で爆発が起きて、孤島になっちまったんだよ」
「孤島?」
「ああ。川に囲まれてな。んで、そこは色んなやべえ連中がたむろしてるっつー話」
「うわ、お誂え向きすぎるでしょ」
ハルトは呆れた声を上げた。
「じゃあ、その……スラム街? に行ってみようか?」
「ああ。……あ、結構遠いぜ?」
「俺バイクだし」
すると、コウスケは納得したように頷いた。
「いやあ、持つべき仲間はバイク乗りだぜ」
「お前俺のことタクシーか何かと勘違いしてない?」
「してねえしてねえ。じゃあ、行こうぜ?」
「ああ」
荷物をさっさとまとめたコウスケは、先導して駐輪場へ行こうとする。
可奈美には会えなかったなあと思いながら、その後に続こうとしたとき、ハルトは周囲の人々の様子に気付く。
「なあ、コウスケ」
「あ?」
「何か、おかしくない?」
「何が?」
ハルトは、周囲を指さした。
コウスケもそれにつられて見渡すが、彼も表情が強張っていく。
「何だ?」
「さあ」
誰も彼もが、空を見上げてポカンとしていた。
コウスケと目を合わせ、上空へ視線を映す。
そして。
「なんだ……? あれ」
それは、大陸だった。
巨大な円を中心に、上下へ長い突起が伸びた大陸。空の遥か遠くにそびえるそれには、複雑なディティールが所狭しと刻みこまれていた。
周囲の雲が綿菓子に見えるほど小さくなり、雲海を引き裂く。それは、雪の残る見滝原を雄弁に見下ろしていた。
「あの形状……コウスケ、あの形、なんか見覚えがあるんだけど……」
「奇遇だな。オレもだ」
コウスケは頷いた。
それは、前に山にある遺跡で見たことがある。
かつて、見滝原にいた一部民族が崇め奉った、その名前は。
「「ムー大陸!」」
ムー大陸はしばらく上空で佇み、やがて声を発した。
『あー、あー。バリ、聞こえるか?』
その声は、ハルトとコウスケには覚えのある声だった。
すでに何度も目の前に現れ、破壊という名の狩りをした存在。
「バングレイ……!」
『今、お前たちの上にあるこの超古代の大陸、ムー大陸はな? 映像だ。実体じゃねえ。安心しろ』
ハルトのスマホが揺れた。可奈美からだった。彼女もまた、公園のどこかでムー大陸の出現に驚いているらしい。
『ムー大陸は今、太平洋のど真ん中にいる。んで、俺は今のムーを支配しているバングレイっつーもんだ』
「知ってる」
ハルトは毒づいた。
『んでよ? 俺はこれから、地球の支配者になろうかなって思ってんのよ』
「支配者だあ?」
「アイツ、狩りのために地球に来たんじゃなかったのか?」
バングレイは、ハルトたちの疑問に応えることなく続ける。
『今日から地球は、俺の狩の牧場だ! これから、お前たち全人類、俺に狩られるのを待つだけになるんだ!』
だが、人々はそれぞれ頭にはてなマークを浮かべていた。
それを見越していたのか、バングレイの声は鼻で笑った。
『無理だとか思ってんな? すぐにバリ理解するぜ。これが、本物の世界征服だってな』
その瞬間、人々の合間よりどよめきが走る。それはだんだん大きくなり、やがて少しずつ悲鳴が聞こえてきた。
『だが、そうやって人間を全員一気に狩るのも面白くねえ。そこでだ』
ムー大陸からのバングレイの声色が変わる。
『俺が支配する、このムーの帝国の住民になれれば、狩りの対象じゃなく、狩る側に回ることを許してやる』
「?」
『ムーに住む奴らには、あらゆる自由をくれてやる! あらゆる法律も規則もねえ、権力だけの自由だ! ただし、タダってわけにはいかねえ』
「おいハルト。あいつ、一体何言ってやがんだ?」
「俺が知りたいよ」
『ムー大陸に住むための試験はバリオンリーワン。こいつ等から逃げ延びれたらだ!』
その瞬間、ムー大陸より光が放たれる。
それは、見滝原上空だけではない。全世界に出現したムー大陸の幻影より、それは落とされた。
「!」
その間にムー大陸より地上に投下された、謎の存在。
それは、一つや二つではない。いつの間にか地上へ現れた、多種多様の___物質を持たない、生命体。
「な、なんだあれ!?」
『世界中にムーの……あー、まあ、よくわかんねえや。とにかく、ムーにいた奴らを送り込んだ。生半可な抵抗は身を滅ぼすだけだからな? 頑張って生き残って、ムー大陸で安全に狩りを楽しもうぜ?』
その言葉とともに、生命体たちはその叫び声を上げた。
『キャッキャッキャ』
ピンクの幽霊が人々を襲い。
『覚悟しろ、地上の人間たち』
藍色の雪男が破壊を繰り広げ。
『ぬぅぅぅぅ!』
黄色の首長竜が湖より出現し。
『ひゅおおおおおおおお!』
桃色の怪鳥が空を舞う。
全員、体は物体をもったものではない。それぞれ波打った、反物質の体で、血肉のない、地球上の生物とは異なる理屈の存在だった。
「キャーッ!」
「ば、化け物だ! はやく助けを……!」
「だ、ダメ……! どことも連絡が通じない! 他の場所も同じことが起こってるみたい……助けなんて、とても……」
「ヤバイ! 皆を助けないと!」
「皆まで言うな! こんなの、大急ぎでやらねえと不味いだろ!」
ベルトを操作するのももどかしく、ハルトとコウスケは急ぐ。
「く、来るなぁ!」
「もうダメ……」
「万事休すじゃ!」
「今助ける!」
ウィザードへ変身し、殴りかかろうとした雪男を蹴り飛ばす。そのまま、幽霊へソードガンを切り抜き、両断する。起き上がった雪男にも、ソードガンで蜂の巣にした。
『ファルコ ゴー』
ファルコマントを付けたビーストも、上空の怪鳥の翼を切り裂く。湖に墜落し、迎撃しようとした首長竜ごと、ビーストはキックストライクで爆発させた。
「よし……!」
少なくとも、見滝原公園の目立つところの怪物たちは倒した。
変身を解除したハルトとコウスケは、助けた人々のところへ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
ハルトが話しかけたのは、同年齢くらいの大学生。彼は、ハルトの手を握り返すこともなく、茫然と雪男がいたところを見つめていた。
「一体何なんだよあの怪物たちは……」
「大丈夫。今はいなくなりましたから、速く避難してください」
だが、彼にハルトの声は聞こえていなかった。首を振りながら叫ぶ。
「もう地球はおしまいだ!」
助けた人々を見渡せば、彼のような諦観に走っている者も少なくなかった。中には、泣き出しているものもいる。
その時。
「い、いえ……私は……助かるわ」
ぴしゃりと水面に撃ったかのような、女性の言葉。それは、公園で絶望しきっている人々全員に行き渡った。
OLらしき女性。彼女は立ち上がり、宣言したのだ。
「だ、だって私は優秀だもの……顔だって可愛いし……私は、ムー大陸の国民になってみせる……!」
「待て」
そんな女性を呼び止めたのは、腰が曲がった老人。彼は女性をきっと睨みながら吐き捨てる。
「儂だって優秀じゃ。若いもんには負けんぞ」
「イヤ……優秀なのはボクだ!」
それは、今まさにハルトが助け起こそうとした大学生。彼はハルトを突き飛ばし、OLと老人へ突っかかった。
やがてこの波は、公園全域に広がっていく。誰も彼もが、「自分が優秀」「新しいムーの国民になる」と宣言し、互いを罵っていた。
「ちょ、ちょっと!」
ハルトが彼らを止めようとするが、その肩をコウスケが掴む。
「コウスケ?」
「よせ。今のアイツらに、何を言っても無駄じゃねえか? 見ろ」
コウスケの言葉に、公園の……湖とは少し離れた方も見る。子供も大人も老人も。老若男女、誰も彼もが互いの悪口を言い合っている。
「何だよこれ……」
「自分だけ助かればいいとでも思ってんじゃねえか。あまりの恐怖にパニックになってやがる」
「そ、そんな……」
ハルトは、その現状に言葉を失った。だが、ムー大陸の攻撃は続く。
『おい、地上の人間たち! ムーの力はどうだ? 俺に狩られるか、俺とともに狩るか。どっちを目指すか決めたか?』
泣き叫ぶ声が聞こえる。人を攻撃する声が聞こえる。
『バリ絶望的なことを教えてやるぜ! ムーの力は、バリ終わることはねえ!』
「なっ!?」
バングレイの言葉を証明するように、先ほど倒した幽霊が、雪男が、首長竜が、怪鳥が同じ位置に出現する。
「また増えた!」
「キリがねえ! あの大陸、まるでバケモンの生産工場じゃねえか!」
「どうする……? あのムー大陸を止めるしかないけど、どうすれば……?」
「分かんねえ! とにかく、今いるバケモンだけでも倒すぞ!」
「あ、ああ」
ハルトとコウスケは、また指輪を取り出す。
『『ドライバーオン』』
「変身!」
「変~身!」
ムーの怪物たち。それは、何度倒しても、どれだけ倒しても。尽きることはなかった。
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