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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第293話「平和に向かって」

 
前書き
組織絡みの描写が難しいので、若干ダイジェストになっています。
ちなみに、前回と今回の間に退魔士や自衛隊、警察などの各勢力の代表者は優奈達のいる場所に集まっています(転移で無理矢理招集されたとも言う)。
 

 










「……これで、各地に通信が繋がります」

「っ、はぁー……!さすがに、疲れたわよ……」

 優奈達が地球に帰還して、数日が経った。
 仮拠点は既に撤去し、学校を基盤に拠点を新設。
 他にも、地球の各地に拠点となる施設を創った。
 それだけでなく、各次元世界にも設置済みだ。
 加え、通信を繋げるために優奈や神界の神が各世界に楔を打ち込んだ。
 これによって、天巫女の“祈り”で通信を代用できるようになった。

「お疲れ様です。これで、大まかな情報共有は出来るでしょう」

「一応、各次元世界の様子は見たけど、どこも復興を始めてはいるわね。ただ、あらゆる設備が壊滅的だから、全然進んではいないけど」

 優奈や神界の神のように、便利な能力や理力が使える者が各地にはいない。
 そのため、仮拠点すら作る事が難しく、復興は難航しているようだった。
 幸いなのは、まだ世界の法則が崩れているため、死の危険性が薄いという事だ。
 ただ、それでも精神的な問題で空腹等は早急に解決すべき事でもあるが。

「ありがとうございます。……早速、通信を繋げても?」

「構いません」

「それなら、関係ない人は退出しておきましょうか」

 優奈が手を叩いて、通信による話し合いに関与しない者に退出を促す。
 結果、残るのはリンディや地球の各勢力の代表者、天廻と祈梨だけだ。
 天巫女の力があれば通信は繋がるので、司でなくとも祈梨がいれば十分なのだ。

「優奈ちゃんは残らないの?」

「まぁ、優輝の代理なら今回の騒動の中心でもあるし、残ってもおかしくないわね。でも、今回の話し合いは単に復興などをどうしていくか。それなら私が残る必要もないわ」

 重要参考人としては優奈も残るべきだっただろう。
 だが、今回は飽くまで復興のための話し合いだ。
 そう言った事に知識がない訳ではないが、基本は代表者同士で話を付けるだけでいい。

「それに、私は私でやるべき事があるしね」

「やるべき事?」

「肉体の補填は他の神々がやるとして、私は衣食……住は最悪後回しとして、前者二つを創造魔法で補わないとね」

「……そっか。どっちも今は不足しているもんね」

 電気や水道も止まり、建物も軒並み壊滅している。
 そんな状態では食料も衣服も碌にないため、それを補わないといけない。
 それが出来るのは理力か創造魔法だけだ。
 そのため、優奈は食料と衣服を創造魔法で生み出す必要があった。

「とりあえず、拠点の人に配り歩いてくるわ。ついてくる?」

「……せっかくだしついて行こうかな。“祈り”の力で手伝える事もあるだろうし」

 そう言って、二人は一般市民が集まっている区画へと向かっていった。







「話し合いが終わるまで時間がある訳だけど……」

「何もせずに待っているのもな……」

 一方で、椿と葵を含めた志導家は若干手持ち無沙汰だった。

「せっかくだし、家に戻ってみる?」

「そうね。何か役立つものもあるかもしれないし、行ってみる価値はあるわ」

 緋雪の提案に、椿が同意する。
 現在、手の空いた者で街の残骸から何かしら役立つものがないか探索している。
 優奈だけでは食料と衣服は賄えないため、そういった探索も必要だった。
 それらも兼ねて、緋雪達は一度家の方に戻る事にした。

「……まぁ、案の定壊れているよね」

「消し飛ばされていないだけまだ被害は抑えられているわ」

 目の前に広がるのは、完全に崩れた元自宅。
 どんな地震が起きてもあり得ない崩れ方をしており、家としての機能を失っていた。

「ここら辺は余波で吹き飛ばされたみたいだね。だから、比較的瓦礫とかは多く残っているんだと思うよ」

「直撃はしていなかったって訳か」

「そう見るべきだね」

 周りの家も、一定方向から吹き飛ばされたように崩壊していた。
 その事から、戦いで流れ弾が直撃したのではなく、余波で崩壊したのが分かる。

「とりあえず、無事なものを掘り出さないとね」

「優先するのは……」

「服と食料ね。後は寝る際に体を温められるものとか」

「毛布とかもあると良いって訳か」

 最終的に全てが元通りになると優奈達からは伝えられている。
 それでも、その過程においての物資は必要だ。

「確か、この辺りに……」

「あ、保存食は無事だったよ!」

 瓦礫をどかしつつ、優香と光輝は記憶を頼りに物資を探す。
 一方で同じように探していた緋雪が保存食を見つけた。

「地下……優輝か?これを作ったのは」

「そうだよ。せっかくだから創造魔法を使って地下倉庫を作っておこうってね。まさか、ここで役立つとは思わなかったけど」

 まだ優輝と緋雪が両親と再会する前。
 その時に優輝は創造魔法で地下に倉庫を作成し、そこに非常用の物資を置いていた。
 地下だったため今回の戦いでも無事であり、物資もまるまる残っていた。

「まさか、ここまで読んで……?」

「さすがにそれはないと思うよかやちゃん。単に自然災害とかに備えてただけでしょ。おかげで、今回は大助かりだけど」

 単純な保存食だけでなく、毛布や衣服などもある。
 数は足りないが、今の状況下では拠点で大きな助けになるだろう。

「後は……あったあった」

 加え、別で保存していた食料や、いくつかのお菓子も無事だった。
 一部の毛布等も無事なため、それらも回収して持っていく事にした。

「……これ……」

 その時、優香が瓦礫の中からある物を見つけた。

「写真か。………」

 それは家族で撮った写真だ。
 今はいない優輝が映っているため、優香も光輝もそれを見て思わず無言になっていた。

「……なんなら、それも持っていきましょう」

「……そうだね」

 思う所はあるが、それ以上誰も写真や優輝の事を言わなかった。
 何はともあれ、物資はいくらか確保したため、緋雪達は拠点に戻る事にした。









「並んで順番は守ってくださーい!」

「慌てなくても人数分は用意します!」

 緋雪達が戻ると、そこには炊き出しを待つ列のようなものがあった。
 辿ってみると、そこには優奈と司が食料を配っていた。
 聡や玲菜などの友人は列の整理を手伝っているようだ。

「これは……?」

「あ、緋雪ちゃん。これはね……」

 食料を配りつつ、優奈が創造魔法で食料を配っていると司が説明する。
 見れば、優奈が一つ一つ実際に創造していた。

「私達が持ってきた意味は……」

「意味ならあるわ。というか、出来ればそれも配ってちょうだい!」

 現在、緋雪達が持ってきた物資は拘束系の魔法と霊術で一纏めにしてある。
 それも出来れば配ってほしいと、優奈が食料を創造しながら言った。

「了解!」

「“意志”次第で魔力は絞り出せるけど、手間がかかるわ。これ……!」

 優奈は物資を創造するにあたって出来るだけ配る相手の要望を叶えている。
 さすがに無駄に手の込んだ料理とかは出せないが、それでもストレスを感じないように希望に沿ったものを出しているのだ。
 当然、そんな事をすれば手間は増え、優奈だけでは人手が足りない程だ。

「単純な保存食でいい人はそっちを配るようにするわ」

「なるほど。お父さん、お母さん!」

「よし、俺たちも手伝おうか」

「そうね」

 すぐに緋雪達も物資の配給に参加した。







「これで一通り終わったかしら……」

 約一時間後。優奈達の拠点にいる一般市民に全て物資を供給した。
 途中、物資調達に出かけていた者達も戻り、物資にはある程度余裕が出来た。
 ただし、やはり希望通りの食料を出してくれる優奈が人気だったため、優奈の負担は全く下がる事はなかったが。

「お疲れ様」

「負けられない戦いとかじゃないから、“意志”で補いきれないわ。この疲れは」

「途中から、私の“祈り”で疲労回復を掛けてたからね……」

 苦笑いしながら、先ほどまでの話をする優奈と司。
 そんな彼女達の下へ、ルフィナとミエラがやってきた。

「優奈様、皆さん、会議が終わったようです」

「情報共有のため、一度集まるようにとの言伝です」

「わかったわ」

 どうやら、リンディ達の話し合いが終わったようだ。
 これからの方針について優奈達にも伝えるため、一度集まるように言われる。

「今更だけど、神が消えたらその“天使”も消えるんだよね?だとしたら、どうしてミエラさんとルフィナさんは……」

「一応、私もユウキ・デュナミスだからよ。と言っても、半身を失っているから全力で戦う事は出来なくなっているけどね」

 さらに言えば、今の優奈は理力を失っているため、ミエラとルフィナも理力の回復速度が停止しているかと思う程遅くなっている。

「ついでに言うと、主は飽くまで優輝だから私の事を主とは呼ばないのよ」

「そういえば……」

 二人は優奈の事を様付けで呼ぶが、決して主とは呼ばない。
 区別するためでもあるが、飽くまで主は優輝なのだろう。

「まぁ、私自身もユウキ・デュナミスのベースは優輝だもの。当然と言えば当然よ」

「なるほどねー」

 そんな会話をしている内に招集場所に着く。

「皆、集まったわね。連絡事項を伝えるだけだから、自由に座ってちょうだい」

 リンディの言葉に、各々自由に座り、話を聞く。





「とりあえず、しばらくは各自で復興という事ね」

「ただ、神界の神達は各世界を駆けずり回る事になるんだね……」

「まぁ、責任で言えば結構割合が大きいもの。私だって、理力が扱えるままだったら同じような扱いになっていたでしょうね」

 大まかな方針としては、各世界でとりあえず復興するようになっている。
 祈梨などの神はまず支援物資を理力で創造しつつ、肉体の補填を各世界全ての人々に行う事になっており、かなり忙しくなるようだ。

「責任……かぁ」

「今回の戦いの発端はイリスの執着によるもの。……そうなると、誰に最も責任があるかと問われると……」

「……優輝になるわね」

 ここまでの被害になれば、何が原因か、誰に責任があるのかと誰かは思うだろう。
 そして、その矛先は確実に優輝に向く。
 その事が優奈だけでなく、緋雪や椿などにも簡単に理解出来た。

「でも、その優ちゃんがいないから……」

「私や、他の神界の神に向いた。まぁ、分散はしているけどね」

「理不尽……だけど、間違いとも言い切れないよね」

 ごく一部の人に今回の責任を負わせるにはあまりにも重すぎる。
 だが、間違いでもないため、どうもやるせない思いだけが司達に渦巻く。

「考えても仕方ないわ。私だって、責任は感じてるのだから」

「……そうね。それに、聞いた所だとかなり良い落としどころだったし」

「死ぬほど忙しいだけならかなり軽い方よ」

 リンディ達もそれを理解していた。
 だからこそ、理不尽な仕打ちとまではいかない責任の取らせ方にしたのだ。
 過労にはなるかもしれないが、それ以外には特にないのだから。

「とりあえず、まずは地球からね」

「私達も手伝うよ。乗り掛かった舟だしね」

「ありがとう」

 早速、優奈は物資の創造に取り掛かる。
 運搬や整理などは司達が担当し、手際良く物資を生産していった。









「よっ……と」

 行動の方針が決まってから数日後。
 復興も始まり、神々は既に肉体の補填のために各地に向かっていった。
 優奈の物資創造も安定してきたのか、緋雪達も別行動していた。
 
「さすが雪ちゃん。大きな瓦礫も軽々だねぇ」

「力には自信があるからね」

 緋雪は椿と葵を引き連れ、瓦礫の撤去を行っていた。
 いずれは理力によって元に戻るが、それでも大通りなどの瓦礫はどけておいた方がいいため、緋雪達はいくつかのグループに分かれて作業している。

「これも、これもこれも……ほいっと」

「地面も罅割れちゃってるから、車とかも走れないよね」

「そもそも、肝心の車が使い物にならないのばかりじゃない」

「それもそうだね。基本的に移動は徒歩だから、あたし達から出向かないと」

 戦いの余波は酷いもので、徒歩以外の移動手段が使えない程だ。
 緋雪達のように魔法や霊術が使えるならばともかく、一般市民は身動きが取れない。
 連絡網も地球では各国家の主要人物の場所までしか行き届かないため、どうしても一つ一つの街は孤立した状態になっている。
 そのため、緋雪達から出向いて復興の手伝いを行っている。

「とりあえずはこれだけ集めればいいんじゃない?」

「そうだね。じゃあ……」

   ―――“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)

 ある程度集めた瓦礫を、緋雪が“破壊の瞳”で消し飛ばす。
 どうせ後で理力を用いて創り直すのだ。
 残骸はあるだけ邪魔なので、こうして消し飛ばしている。

「ここと、ここと、ここね」

 一方で、椿は神力を使って木々を再生させていた。
 街が壊滅したとはいえ、木々の根までは吹き飛ばされていなかった。
 そこから権能と神力を使う事で、再生させていたのだ。

「じゃ、次の区画だねー」

「オッケー」

 事が済めば、すぐに緋雪達は次の場所へ向かう。
 その街にいる人々との交流は最低限だ。
 それは緋雪達の役目ではなく、飽くまで瓦礫の撤去や自然の復元が目的だ。
 だからこそ、テキパキと次へと向かう。

「待ちなさい。先に連絡を送ってからよ」

「あっ、ごめんごめん」

「まったく……」

 椿が御札を取り出し、伝心による連絡を取る。
 相手は澄紀率いる退魔士達だ。
 街の人々との対話は専ら退魔士の人達に任せており、緋雪達は瓦礫の撤去と共に報告をする事で各街に派遣する流れになっている。

「じゃ、改めて次行こうか」

「次はさっきより規模が大きいみたいだよ」

 伝心で連絡を送り、緋雪達は改めて次の場所へ向かう。
 地道だが途方もない作業量にも決して辟易せず、ただ平和に向かって奔走していた。









   ―――そして、数年後……







「えっ?お兄ちゃんがもう転生しているの?」

 復興から年月が経ち、地球やミッドチルダなど、大体の次元世界は落ち着いていた。
 まだ辺境の地域や次元世界は傷痕が残っているが、それでもかなり復興しただろう。
 そんな中、緋雪は優奈から優輝が既に転生し終わっていると話を聞いた。

「ええ。元々一人だったから何となくわかるのよ。多分、ミエラとルフィナも存在を感知ぐらいはしているんじゃないかしら?」

「でも、どこに……?」

「そこまでは分からないわね……」

 転生したとはいえ、場所までは分からない。
 飽くまで転生した事を感知出来たというだけだ。

「それに、記憶もあるか定かではないわ」

「そうなの?」

「前回がそうだったもの。今回も多分、ね」

「そっかぁ……」

 かつての大戦で転生した際、ユウキは神としての記憶を完全に失っていた。
 志導優輝として生まれてからようやく自覚出来た程に記憶は奥底に封じられる。
 否、輪廻の環に入るために実際に記憶が抹消されているのだ。
 神界の神としての“領域”があるからこそ、記憶を思い出せたに過ぎない。

「記憶はともかく、転生したのだとしたらどこにいるのかしらね……」

「さぁね。この世界と一言に言っても、まず次元世界が多いもの」

「さすがに別の平行世界に転生した訳じゃないよね?」

「それはないわ。他の世界から独立したこの世界から離れるには、当時の優輝にはあまりにもリスクが高いもの」

 当時の優輝は明るく振る舞っていたものの、かなりギリギリだった。
 転生すると言ってもそう単純なものではなく、転生前に完全消滅の危険もあった。
 それなのに別の平行世界に流れるなど、そんな“可能性”を選ぶはずがない。

「それじゃあ、間違いなくこの世界のどこかに?」

「そうなるわ」

「……いつかは、探し出したいね」

 ぽつりと呟く緋雪に、椿と葵も無言で同意する。
 既に消滅してから数年が経っているのだ。
 どこかにいるとわかっているのなら、探したいのも当然の心理だろう。

「それは、もう少し先になりそうね」

「……そうだね」

 しかし、それが出来ないのが現実だ。
 現在、復興がだいぶ進んだとはいえ、終わってはいない。
 優奈はもちろん、緋雪達も駆り出される事があるため、暇ではないのだ。
 そんな中で個人を探しに行くなど許可はされないだろう。

「下手に探しても、責任が改めて集中するでしょうしね」

「そっか。それもあるよね……」

「世知辛いねぇ」

 そもそも、既に管理局がついでではあるが優輝の捜索を行っている。
 神界の戦いにおける中心人物のため、放置という選択肢はなかった。
 その上、下手すれば責任が集中する人物でもある。
 どこかにいると公になれば、血眼で捜索される可能性もあった。

「最悪、記憶があるなら向こうからこっちに来るでしょう。地球の座標は分かっているんだから。……まぁ、記憶がないからこうして戻っていないのでしょうけど」

「思い出すのが先か、探せるようになるのが先か……だね」

「そういう事」

 どの道、再会はすぐではない。
 そう結論付け、優輝に関する話題は切り上げた。

「話は変わるけど、なのは達がどうしてるか知ってる?」

「なのはちゃん達?」

 現在、なのは達はミッドチルダで活動している。
 地球には既に人材が豊富なので、魔導師は全員移動しているのだ。
 同級生だった事もあり、緋雪は優奈に対して比較的連絡を取っている。
 その事から、優奈は緋雪に尋ねた。

「順調に活動しているよ。一部の人から若干やっかみはあるみたいだけど」

 原作と同じように、機動六課をはやてが設立していた。
 だが、活動内容は主に復興やそれに伴う治安の維持だ。
 場所ごとに担当する他の部署と違い、機動六課は各員の機動性を生かして様々な場所へ出向いて活動している。
 自身の管轄に介入してくる事から、ごく一部からは疎まれているらしい。

「幸い、と言うべきか知らないけど、神との戦いで管理局もかなり白くなったから、そこまで心配する必要はなかったわね」

 最高評議会を始め、管理局の腐っていた部分は大体が一掃された。
 中には改心した者も多く、かなり一枚岩に近づいていた。
 そのため、裏で犯罪を犯している者が減り、結果的に以前よりも犯罪件数は減った。

「第二次神界大戦……本当、色々爪痕を残したわね」

 イリスとの戦いは、専ら“神界大戦”と呼ばれるようになっている。
 かつて起きた方の大戦も神界大戦だが、こちらは神界以外では馴染みがないため、優奈など実際に神界を知っている者以外は区別していない。
 ちなみに、区別する場合は“第一次”、“第二次”と言い分けている。

「あっ、それでなんだけど、この前要請があったんだよね」

「あら。こっちは比較的余裕があるから行けるけど……また人手不足?」

「そうみたい」

 負担は地球を拠点に活動している優奈達だが、必要に応じてミッドチルダにも行く。
 機動六課の臨時戦力として在籍しているため、要請されてば向かうのだ。
 基本的に手が足りない時に呼ばれ、今回もその一種だ。

「行き先は?」

「えっと……第何管理外世界だったかな……?」

 シャルに記録されたメモから、緋雪は向かう世界を言う。
 そこは所謂辺境の次元世界だ。
 復興の必要も薄い世界ではあるが、大戦の打撃で少しずつ衰退しているのが確認されたため、急遽優奈達を向かわせるとの事。

「なるほど。じゃあ、すぐに向かいましょう」

「了解。二人も呼んでくるね」

 会話の間に少し席を外していた椿と葵を緋雪は呼びに行く。
 すぐに二人も駆けつけ、優奈の転移魔法によってまずは機動六課へと跳んだ。





「周囲の環境は安定……特に異常はないわね」

 必要な手続きを終わらせ、現在は件の管理外世界の上空にいた。
 管理外世界なため、そこには魔法文明は存在しない。
 文明も地球と比べ、中世ヨーロッパ程度でしかない。
 そのため、余計な混乱を招かないように上空へと移動していたのだ。

「魔法の存在しない中世ファンタジーの世界、みたいな感じだね」

「そうね。地球と違って、ドラゴンみたいな生物もいるけど」

 危険度でいえば地球よりも高いだろう。
 この世界ではドラゴンのような野生生物もおり、魔導師でも危険な場所だ。
 優奈達であればどうとでもなるが、原住民では復興もままならないだろう。

「そりゃあ、衰退する訳だよ」

 いくら死ななくても、弱りはする。
 そうなれば、復興の労力も割けなくなり、結果的に衰退していく。
 だからこそ派遣が必要だったのだ。

「まぁ、いつも通り施して終わりって所ね」

「こういう世界だと、あたしみたいな存在もいるのかな?」

 前回までにも文明はともかく似たような復興支援はあった。
 今では手慣れたもので、椿と葵もかなり気楽だ。

「……あれ?」

 ふとその時、緋雪は地上にあるものを発見する。

「あそこ……あそこだけ、何かぽつんと……」

「あら、確かに建造物があるわね。しかも、見た所本来なら隠されていたみたいね」

 目の良い椿も確認し、それが建造物の残骸だと断定する。
 しかも、本来なら地下に隠されていたようだ。
 優奈と葵もそれを聞いて怪しいと思い、先にそちらをチェックした。

「……もぬけの殻……でも、何かあったのは間違いないわね」

「これは……生体ポッド?それに、間違いなく魔法文明……」

「所謂違法研究所だった訳ね。後で報告しておきましょう」

 荒れ果ててはいるが、特に手掛かりはない。
 後の捜査は管理局に任せるとして、優奈達は改めて人の集落へと向かった。







「あ」

「えっ?」

 街に着いて散策をして状況の把握をしていると、バッタリと誰かに出くわす。
 気づいたような聞き覚えのあるその声に、緋雪は思わずそちらを見る。

「……お兄ちゃん?」

「……まさか、ここにいるなんて……なんて偶然よ」

 その人物は、優輝だった。
 厳密には転生したため“志導優輝”ではないが、容姿は間違いなく優輝だ。

「他人の空似とかじゃなくて、間違いなく?」

「ええ。対面すれば分かるわ。間違いなく優輝の転生体よ。……おまけに、どうやら記憶もちゃんとあるようだしね」

 どことなく気まずそうにする優輝を余所に、優奈が断言する。

「……パパ?」

 すると、そんな優輝の服の裾を後ろに隠れていた少女が引っ張る。

「え、あ、その子……」

「……私の記憶が確かなら、その子に見覚えあるのだけど……」

 金髪に右目が翡翠、左目が紅色のオッドアイの少女だ。
 その姿に、優奈達全員が見覚えあった。
 正確には、その少女を少し成長させた姿だが。

「……オリヴィエ……ううん、ヴィヴィオ、だよね?」

「ああ。違法研究所から偶然見つけて、な」

 その少女は間違いなくヴィヴィオだった。
 違法研究所、という事は先ほど優奈達がいた研究所の事だろう。
 そこから保護したのだろうと、優奈達は結論付ける。

「パパ、この人たちは……?」

「怖がらなくていいぞ。彼女達は僕の、そしてヴィヴィオの家族だ」

「パパの、家族……」

 警戒はしているが、優輝が平然としているからかいくらか怯えは薄れていた。
 それを見て、優奈達もあまり刺激しないように一旦落ち着く。

「もしかしてだけど、その子を保護してたからそっちから会いに来なかったの?」

「……まぁ、そうなる、な」

 周りを見れば、優奈達には街の人から注目が集まっているが、優輝達は普通だ。
 つまり、保護した後しばらくここで暮らしていたのだろう。

「はぁ……まったく。とりあえず、記憶があった事とすぐ再会しようとしなかった事はこの際いいわ。そういう“可能性”だったんだし」

 そう言って、呆れながらも優奈は納得して下がる。
 同時に、緋雪の背を少し押した。

「ほら、緋雪」

「うん」

 一歩、緋雪は前に出る。
 何はともあれ、再会できたのだ。
 ならば、言う事は一つだった。

「……お帰り、お兄ちゃん」

「ああ。……ただいま、緋雪」

 平和に向かうその“可能性”の先にて、優輝は帰ってきた。
 これからもやるべき事は山積みだ。
 それでも、今はこの再会の喜びを分かち合った。



















 
 

 
後書き
たった一話跨いだだけで復活するという一時の別れ()。
一応、作中では数年(大体Sts辺り)まで経っているので……。

ちなみに、この作品のヴィヴィオは若干原作と異なります(生まれた研究所など)。
と言っても、オリヴィエのクローンであったりと大まかな部分は変わっていないので、さして気にするような事でもありません。

次回、最終回です。 
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