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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第292話「英雄達の帰還」

 
前書き
戦闘は完全に終わりです。後は後始末&後日談になります。
 

 












「………」

「………」

 帰ってきた。
 眼下には八束神社の跡地があり、地球に残って戦っていた者達がそこにいた。

「……終わった、んだよね……?」

 神界での戦いに勝利した事。
 そして、無事に帰ってきた事。
 一時とはいえ優輝が消えてしまった事。
 その全てに、いまいち実感がなかった。

「そうよ。戦いは終わった。それだけは確かよ」

 だからこそ、優奈がしっかりと断言する。

「……そっか……」

 ふわりと、八束神社跡地に降り立つ。

「なのは!」

「……!お父さん、お母さん!」

 名前を呼ばれ、なのはは駆け出す。
 それを皮切りに、なのは以外の家族がいる者達も名前を呼ばれる。
 皆、戦いに行った子供が帰ってくるのを待っていたのだ。

「皆、無事に帰ってきたのね」

「リンディさん」

 遠くからリンディが他の局員を引き連れつつ合流してくる。
 皆が帰ってきた事に安堵しているようだが、すぐに優輝がいない事に気づく。

「……彼は、優輝君は……」

「それについては私が説明するわ」

 優奈が前に出て、何があったのか簡潔に説明を始めた。







「じゃあ、本当に死んでしまった訳ではないのね」

「一応はね。ただ、魂はそのままでも肉体は完全に消滅したわ」

 説明を聞いて、リンディだけでなく同席した各家族達も安堵していた。
 しかし、優奈が続ける言葉に、全員が驚愕する事になる。

「まぁ、今回の戦いで一度でも体が消し飛ばされた人も“死んだ”と言う意味では同じになるわね。“意志”で補填したとはいえ、それは本来の肉体ではないもの」

 そう。今回の戦いでは通常の死は“死”にならない。
 “意志”次第でいくらでも再生出来た。
 しかし、一部の欠損ならともかく、肉体全てを消し飛ばされた場合は物理的な再生はしておらず、ただ“意志”によって補填されているだけなのだ。

「どど、どういう事!?」

「そのままの意味よ。無意識下での“意志”で今は形を保っているけど、世界の法則が元に戻れば……まぁ、死ぬわね」

 苦笑いしながら言う優奈だが、他の者からすれば冗談で済まない。
 この中で体を消し飛ばされた者は何人もいる。
 いつ法則が戻るか分からないとはいえ、死が確定しているのだ。
 軽く流せるはずもない。

「マジか……本来の肉体じゃないって、そんな実感ねぇな」

「そもそも無我夢中だったからな」

 一方で、気にしていない者もいた。
 今の肉体は、詰まる所“テセウスの船”というパラドックスみたいなものだ。
 “意志”によって補填されているが、それは本当に自分なのか。
 そう言った不安もあって、何人かはパニックになっている。

「落ち着いて!私だって、なんの解決策もなしにこんな事あっさり言わないわよ」

「よ、よかった……」

 当然、解決策もある。
 それを説明するために、一度優奈は全員を落ち着かせた。

「まぁ、これは祈梨達にとって世界の法則を戻す前の一仕事になるわね」

「どういう事?」

「理力はあらゆる存在に対して互換性があるわ。魔力や霊力に変換する事はもちろん、その気になれば概念にすら置き換えられる。当然、物理的なモノにもね」

 理力はあらゆるモノに変わる前の“力”だ。
 そのために、如何なるモノにも変える事が出来る。
 それを利用すれば、元の肉体を創り出す事も可能だ。

「さすがに人数が人数ですから、時間はかかりますけどね」

「とりあえず、手始めにこの場の皆さんを戻しましょう」

 祈梨とソレラがそう言って、理力を行使する。
 溢れ出す理力は、肉体を消し飛ばされた者に流れ込み、肉体へと変わっていく。

「……変わったようには感じないが……」

「“意志”による補填も今だけを見れば理力で補填するのと変わらないもの。感覚としては何も変わらないわよ」

 世界の法則が戻り始めた時ならともかく、今はどちらも同じだ。
 実感のなさに困惑があったが、それでもこれで補填は完了だ。

「さて……一回落ち着いて今後について話し合いたい所だけど……」

「問題は、どこでするかだよね?」

 今回の戦いで、軒並み大きな建物は全滅だ。
 それは地球もミッドもどこも変わらない。
 となれば、大勢が集まって話す場所の確保が必要になる。

「ミッドチルダも同様に壊滅状態だから、通信もままならないのよね……」

「通信自体は司でも何とかなるけど……まずは、臨時の施設が必要ね」

 帰ってきても重労働だと、優奈は溜息を吐く。
 尤も、ある程度は分かっていた事だ。
 すぐさま行動を開始する。

「まずは街の様子を見ないとね。場所としてはやはり学校辺りがわかりやすいと思うわ。そこに、私の創造魔法と……祈梨以外の神が協力してくれるとありがたいわ。祈梨は司についてもらって、“祈り”で各世界の主要人物とかに念話を繋げるように」

「それが無難ね。こちらで手伝える事はある?」

「単純に、瓦礫の撤去とかが必要ね。幽世の大門の時と同じよ」

「わかったわ」

 優奈の指示を受け、まずは司達も通う学校へと向かう。
 そこには紫陽が繋げた幽世への門もあり、避難場所となっている。
 敷地も学校なため広く、仮拠点にはちょうどいいだろう。

「ただ、今はまだ動ける人だけでいいわ。まずは休むべきだもの。……特に、神界に突入したメンバーは、ね」

「それなら、私達が式神を貸すよ。単純作業であれば、いくらでも動かせるしね」

「助かるわ。リンディもそれでいいわね?」

「ええ。それでいきましょう」

 戦闘が終わった事による安堵で、肉体的にはともかく精神的な疲労が大きい。
 出来る事ならば、すぐにでも休みたい程だろう。
 幸い、寝床を確保するだけならばまだ何とかなる。
 とりあえず休む場所に向かうため、優奈達は全員で移動を開始した。









「とこよー!」

「あれ、鈴さん」

 ちょうど学校に着く頃に、鈴が合流してきた。
 彼女は今回の戦いではずっと日本で戦っており、神界には来ていなかった。
 そのため、結果確認も兼ねて合流しに来たのだろう。

「方位師の転移のおかげで、移動が楽でよかったわ」

「どうしたの?……って、皆……」

 とこよは駆け寄った際に、鈴と共にいる面子を見て察する。
 そこには、かつてとこよが陰陽師として活動していた頃の仲間がいたからだ。

「文ちゃん、三善先生、校長先生……それに、澄姫と柴乃さんまで……」

「他にも知り合いの妖とか、平安の人達もいたけど、とりあえずね……」

 共に戦ったとはいえ、その時は再会を喜ぶ間もなく戦い続けた。
 その後、支援にいくため神界に赴いた。
 故に、ちゃんとした再会は今回が初めてだ。

「それよりも、結末はどうなったの?」

「それについては……」

「こっちは先に仮拠点を創っておくから、そっちはそっちでやってていいわよ」

 とこよと紫陽が一度離脱し、鈴達に経緯を説明する。
 その間に、優奈達は仮拠点となる寝床を制作した。
 と言っても、比較的壊れていない建物を創造魔法と理力で補填したものだ。
 一から創造する程の余力も残っていないため、元々あるものを利用した。







「………」

 仮拠点を創り、まずは戦いが終わった事を周知する事にした。
 そのために、祈梨のサポートを受けつつ、司が“祈り”を広げていた。

「……ダメ。なかなか上手く行かないよ……」

「肝心のプリエール・グレーヌが力を使い果たしていますからね……。それに、戦いが終わったからか世界そのものによるバックアップがありません」

「回復するまで待つしかないかな……」

「そうですね」

 しかし、周知するには力が足りなかった。
 地球だけならばまだ何とか出来たが、全ての次元世界に行き渡らせるにはプリエール・グレーヌの力がなければ無理だったのだ。

「私自身消耗していますから、一先ず回復を待ちましょう」

「……うん」

 結局は回復待ちだ。
 そのために休もうと、仮拠点の寝床に向かった。
 仮拠点は基本テントで作られており、既に街中に散らばっていた住民も集まっている。

「司!」

「あ、玲菜ちゃん」

 その中に、司の学友でもある玲菜がいた。
 遠くの方には玲菜の彼氏である聡もおり、こちらに気づいていた。

「では私はこれで。積もる話もあるでしょうから」

「あ、うん」

 祈梨はそんな司達に気を利かせ、席を外した。

「よかった……帰ってきてたのね……」

「何とかね……。それよりも、皆戦ったみたいにボロボロだけど……」

 心配する玲菜だけでなく、住民のほとんどがボロボロだ。
 それも、ただ被害にあったというよりは、戦ったかのように。

「戦ったのよ」

「えっ?」

「私達も、負けたくないって思って戦ったのよ。あの時聞こえた声で奮い立って、ただ我武者羅にね。……少しでも、司達の力になりたかったから」

「……そっか……」

 世界中の英雄を召喚したあの時、“世界”からの声を玲菜達も聞いていた。
 優輝達が戦っていると知っているが故に、戦おうと決意したのだろう。

「まぁ、単純な戦いだと足手纏いでしかなかったんだけどね。私なんて、そこらにある石を投げるしか出来なかったし。……それでも通じたのには驚いたけど」

「あはは……まぁ、単純な戦闘は前提でしかないからね。バトル漫画とかにあるでしょ?意志で戦力差をひっくり返すっていうの。今回のはあれが顕著に出たようなものだから」

「だからって極端すぎない?おかげで力にはなれたけども」

 なんやかんやで久しぶりの再会に会話が弾む。
 ふと、司が視線を向ければ、別の場所ではなのはやアリシアなどもクラスメイトと再会したのか、色々会話していた。

「事情はある程度聞いたのだけど、その……」

「どうしたの?」

 言い淀む玲菜。
 代わりに聡が合流して、言葉を続けた。

「優輝は……どこにいるんだ?」

「ッ……!」

 友人と会った時点で、司も何となくわかってはいた。
 優輝についてを尋ねられる事を。そして、その返答次第でどうなるかも。

「優輝以外の見知っている顔はほとんど見た。でも、優輝だけは……!」

「それは―――」

 どう誤魔化そうか、それとも正直に答えるか。
 司は逡巡する。

「―――優輝が帰ってくるのは当分先よ」

 だが、先に答える者がいた。

「緋雪、ちゃん?」

「いや、緋雪ちゃんじゃないよ」

 似ているが故、玲菜は見間違えたが司が訂正する。
 優奈がいつの間にか近くに来ていたのだ。

「初めまして、ね。私は優奈。……そうね、優輝が帰ってくるまでの代理的存在とでも言っておこうかしら?」

「代理的……」

「存在……?」

 いまいちピンと来ないのか、聡と玲菜は首を傾げる。
 尤も、厳密な説明の方が複雑なため、こういった簡潔な説明しか出来ないのだが。

「優輝の代わりとでも思っておけばいいわ。実際、同一人物みたいなものだし」

「どういう、事なんだ?優輝は……どうなったんだ?」

「話せば長くなるから、簡単に言うわ」

 決着が着いた時点で優輝はとっくに限界を迎えていた事。
 それによる完全な消滅を避けるために、転生という手段を取った事。
 そして、転生した時点で“志導優輝”は死んだという事。
 それらを簡潔に説明した。

「例え姿形がどれだけ似ていても、それは“志導優輝”ではないわ。記憶を持っていたとしても、生まれ変わったのだからそれは別人だわ」

「……それは、飽くまで事実としての問題だよね?」

「まぁね。これは変わりようのない事実よ。もしかすると、記憶すら引き継いでいない可能性もあるわ」

「………」

 噛み砕いた説明故に、聡と玲菜も理解できた。
 そのために、何も言えずに司と優奈の会話を聞いているしかなかった。

「大丈夫だよ。優輝君が優輝君だと自覚して、私達が優輝君だと認識出来るのなら、何も問題はないよ。だって、そこに在るだけの事実なんて、人の認識次第で簡単に無視できるモノなんだから」

「……っ、そうね」

 司の言葉に、優奈は微笑む。
 その通りだ。例え“事実”として“志導優輝”でなくとも、本人が、そして周りが“志導優輝”だと認識すれば、それは真実となる。

「意地悪な言い方したけど、いつかは帰ってくるわ。それは確実。私達がそういう“結末”へと“可能性”を導いたから」

「そう、なのか……」

 “帰ってくる”。それだけは確実と知り、聡は安堵する。

「でも、結局貴女は……?」

 同じく安堵していた玲菜だが、優奈についての説明がなかったと思い、尋ねる。

「っと、説明していなかったわね。結構複雑な事だから……そうね、パラレルワールドは知っているかしら?」

「一応は。“もしも”の世界だとか、そんな感じの……」

「その認識が一番わかりやすいわね。例えば、貴方達がもっと早い段階で付き合う世界もあるだろうし、その逆もある。……極端に言えば、性別が逆転した世界もあるでしょうね」

「性別が……って、まさか」

 そこまで言って、玲菜は気づく。

「そう。私は優輝が女性として生まれた場合の“可能性”。“もしも”の存在が形になった者よ。だから、代理的存在なの」

「そういう事か……」

 平行世界を例えに出した事で、聡と玲菜にも簡単に伝わった。
 漠然とだが理解し、二人の疑問はこれで解消された。

「基本的に私は優輝と同じよ。性別が違うから、思考や性格は女性に寄っているけど、記憶とかは全て優輝と同じ。……尤も、分裂してからは別だけど」

「なるほどね……それにしても、緋雪ちゃんにそっくりね……」

「緋雪の姉にもなるもの。似ていてもおかしくないでしょ?」

 気になる疑問が解消され、そこから世間話へと変わっていく。
 重苦しい話題は出ず、どこか和やかな雰囲気へとなっていった。







「皆さん、思い思いに過ごしているようですね」

「そのようですね」

 一方で、神界の神や“天使”である祈梨達は一か所に固まっていた。
 仮拠点において彼女達を知っているのは共闘した者達だけだ。
 故に、会話に参加する事もなく、同じ立場の者同士で集まっていた。

「何をしているんですか?」

「プリエール・グレーヌに早く力が戻るようにしているんです」

 その一角で、祈梨は天廻と共にプリエール・グレーヌを弄っていた。

「どうですか?」

「ふむ……儂の“性質”を使えば、少しは早く回復するじゃろう」

「なるほど」

 祈梨が確認した所、プリエール・グレーヌはすぐに回復しなかった。
 そのため、回復を早めるために天廻に相談していたのだ。
 
「“廻す性質”は生命のサイクルだけでなく、生活におけるサイクルをも表す。それを応用すれば、自然回復を早める事が可能じゃ」

「飽くまで自然回復……であれば、プリエール・グレーヌに負担はかかりませんね」

 理力を用いればプリエール・グレーヌを無理矢理回復させる事も可能だ。
 しかし、神界での戦闘で既にかなりの負担がかかっている。
 理力での回復では大きな負担がかかるため、壊れる危険性があった。
 対し、自然回復を早める程度ならば、負担はない。

「では、お願いします」

「うむ」

 プリエール・グレーヌを天廻に預け、祈梨は別の場所へ向かう。

「例え回復するとしても、準備はしておきましょうか。手持無沙汰ですし」

 そこは、先ほど司が“祈り”を捧げていた場所。
 魔法陣を中心に、神聖な儀式染みた構造物が並んでいる。

「世界のバックアップ分は、これらで補うように……まずは魔法陣からですね」

 それらは、全て天巫女の“祈り”を増幅させるためのモノだ。
 世界からの支援がない分、プリエール・グレーヌが回復しても成功する保証はない。
 そこを補うために、祈梨は儀式による増幅を狙った。







「……今度は、行けます」

「そのようですね」

 数時間後。司達が地球に返ってきたのは昼頃だ。
 既に日は傾き、夕日が空を照らしていた。

「ッ………!」

 祈梨によって“祈り”を増幅する装置は改良されている。
 さらに時間を見て夕日を活かした術式も仕込まれている。
 そして、天廻によってプリエール・グレーヌも全快とまでいかなくとも回復した。
 これによって、全ての世界に司と祈梨の声が届く。

『……聞こえますか?私の声が、聞こえますか?』

 “祈り”が声となり、全ての次元世界を跨いで響く。

『遍く全ての世界、全ての生命よ。戦いは終わりました。皆さんの尽力によって、私達は戦いに勝利しました』

 司と、そして祈梨の声が全ての世界に浸透する。

『繰り返します。戦いは終わりました。私達の勝利です!』

 声は意思を“祈り”によって伝えたモノだ。
 そのため、言語の壁を越えて全ての生命に言葉が伝わる。
 戦いは終わったと、自分達が勝利したのだと。

『ありがとう。古今東西の英雄達。そして、全世界の皆さん。皆さんの“意志”があったからこそ、勝てました。本当に、本当にありがとう……!』

 今更になって、勝利できた事に涙が出てくる司。
 それは声にも表れ、だからこそより声が本当だと伝わった。

「………っ……!」

 “祈り”を終え、司はその場で嗚咽を漏らす。
 実際に声にして伝えたからこそ、実感した戦いの終焉。
 その事実に、安堵を抑えられなくなったのだ。

「ゆっくり、ゆっくりと落ち着いてください。貴女達は本当に頑張りましたから」

 そんな司を、祈梨は優しく後ろから抱きしめ、慰める。
 祈梨にとって司は子供のようなものだ。
 実際、遠い子孫であるからこそ、優しく接していた。







「……さて……」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 司の声は、当然優奈達にも聞こえていた。
 優奈は声を聞いた後、少し考え事をしていた。

「緋雪。……そうね、ちょっとお別れをしようと思ってね」

「お別れ……?」

 その言葉を聞いて、緋雪はつい嫌な予感がした。
 優輝が一時とはいえ消滅したのだ。そんな考えを持つのもおかしくはない。

「ちょっと、ベルカの方に跳ぶわよ」

「え、ちょっ……!?」

 言うや否や、優奈は緋雪を連れてベルカへと転移する。



「急にここに連れてきて、何するの?」

「司と祈梨、そして世界そのものの後押しによって英雄や神々は召喚されたわ。でも、それはいつまでも続くものではないの」

 転移した先で、優奈は飛行しながら緋雪に言葉を紡ぐ。

「それって……」

「いずれ、召喚された者は還っていくわ。神ならば人々の目につかない領域へ、過去の英雄ならば世界に刻まれた記録にね」

「……消えるんだね」

 そう。神々ならばいざ知らず、既に死んだ英雄達は消える。
 別世界において“英霊の座”とも呼ばれるような、そんな世界に刻まれた記録へと還ってしまうのだ。

「だから、その前にオリヴィエとクラウスには会っておきたいでしょ?」

「そっか。だからここに連れてきたんだね」

 戦いの最中、オリヴィエとクラウスに緋雪は再会した。
 だが、再会したとはいえ、積もる話は全く出来ていない。
 そこで、優奈が気を利かせて連れてきたのだ。

「……見つけた!」

 しばらくして、優奈はオリヴィエとクラウスを見つける。
 既にベルカの人々を従えるように復興の指示を出していた。

「オリヴィエ!クラウス!」

 そんな二人に、緋雪が上空から呼びかけつつ飛び降りる。

「シュネー!戻ってきましたか!」

「先ほどの声の通り、勝利したのは確かだったんだね」

 緋雪の姿を見て、二人も顔を綻ばせた。
 その後、少し話をするために、ある程度他の人々に指示を出して改めて向き直る。

「……ところで、そちらの……」

「私は優奈よ。……そうね、ムートの代理人とでも思ってちょうだい」

「代理……まさか、ムートに何か……?」

「察しが良いわね」

 そう言って、優奈は聡たちにしたような簡単な説明を二人にも行う。

「それと……リヒトにメッセージが残されていたわ」

「リヒトに?一体、いつの間に……」

 優奈の手にはいつの間にかリヒトが握られていた。
 優輝が消滅した際、優奈が回収しておいたのだ。

〈再生しますね〉

『―――このメッセージが流れているという事は、オリヴィエとクラウス、そして緋雪が見ているか……もしくは、優奈辺りが確認のために見ているかだな』

 映し出された映像には、確かに優輝が映っていた。
 だが、背景には何もない。神界の景色すら映っていなかった。

〈マスターは消滅する前に、私に直接この記録を残してきました。おそらく、神界だからこそ出来た手法です〉

 一度メッセージを中断し、リヒトが解説を挟む。
 リヒトに記録が書き込まれたからこそ、消滅の際にリヒトは何も言わなかったのだ。

『戦いが終わってから何も言わずに去ってしまってすまない。僕に限界が来ることは薄々わかっていた事なんだ。語りたい事は多くあったし、オリヴィエとクラウスもそうだと思う』

 その通りだと、オリヴィエとクラウスは頷く。
 ムートが、そしてシュネーが死んでからのベルカについて。
 生まれ変わり、優輝と緋雪となった二人の歩み。
 語りたい事、聞きたい事は多くある。

『悪いけど、それを語る時間は取れなかった。僕から見たモノは語れないけど、それについては緋雪……シュネーから聞いてくれ』

「そこは私に丸投げなんだね……」

『時代を、死を超えて僕らは再会した。ほんの一時であったけれど、共闘出来たのは楽しかったよ。……それと、すまなかったな。あの時、もっと早く二人に協力を求めていたら、あの結末にはならなかったかもしれない』

 優輝がムートとして唯一残していた後悔。
 それは、シュネーを止める際にオリヴィエとクラウスに協力を求めなかった事だ。
 その結果、ムートは死に、シュネーも二人によって討たれた。
 “もしこうしていれば”という後悔が、優輝にもあったのだ。

『これだけは、謝っておきたかった。でも、二人のおかげでこうしてベルカの文明は続いている。だから、ありがとう』

「……お礼を言われる程じゃないさ。僕らも、悔いはあった」

「皆まで言わないでください、クラウス。あの時の最善はあれしかなかったのです」

 各々、後悔はあった。
 それでも、後ろを向き続ける程、弱くもなかった。

『再び会えるか分からないけれど、またいつか“可能性”の先で会おう』

〈……以上です〉

 だからこそ、希望を持てるその挨拶を最後に、メッセージは終わった。

「また帰ってくるとわかっているからこそ、悲しみはありません。ですが……」

「ここで再会出来ないのは、少し寂しくはあるね」

 そう言って、二人は苦笑いする。

「じゃあ、聞かせてくれるかい?シュネー、君の……そしてムートの軌跡を」

「うん。色々あるからね。まずは―――」

 寂しくあっても、それ以上に再会の喜びがある。
 故に、オリヴィエとクラウスは緋雪による話を楽しんだ。









「……あ……」

「オリヴィエ?」

 そこからどれほど時間が経ったのか。
 ふと気づいたように、オリヴィエが声を上げる。

「……どうやら、お別れのようだね」

「そのようですね」

 見れば、オリヴィエとクラウスから燐光のようなものが漏れ出ている。
 それを見て、緋雪もすぐに察する。

「……消えちゃうの?」

「そうよ。結構持った方だけどね」

 緋雪も話自体は既に優奈から聞いている。
 遠くない内に来るのは分かっていた。だから、すんなりとその現実を受け入れる。

「さよならだね。二人共……」

「ああ。でも、良かったよ。シュネーの話は、とても幸せそうだった」

「はい。あの悲しい結末があったからこそ、今の貴女が幸せそうで良かったです」

 わかり切った別れだ。
 むしろ、再び会えた今が異常だ。
 だからこそ、別れを惜しまない。

「どうかお元気で。幸せになってください」

「僕らは、それを祈っているよ」

「うん。……ありがとう、二人共」

 その会話を最後に、二人は還って行った。

「……帰るわよ。結構長居しちゃったしね」

「……うん。わかってるよ」

 茫然と、二人が消えた事を見送っていたベルカの人達がいた。
 それを尻目に、二人は地球へと帰る。
 転移の瞬間、緋雪の足元に雫が落ちたのは気のせいではなかっただろう。







「……あ、とこよさん。それに鈴さんも」

「緋雪ちゃん?」

 帰った際、とこよと鈴に緋雪は出会う。

「二人も、別れを?」

「……うん。そうだよ」

 オリヴィエとクラウスが還ったように、とこよの友人達も同じだ。
 とこよと鈴も、緋雪と同じように別れを済ませてきたのだ。

「悲しい?」

「そうだね……でも、それだけじゃないよ」

「そっか」

 それだけ聞いて、緋雪はとこよ達と別れる。

「(出会いがあって、別れがある。当たり前で、悲しい事。……でも、それらがあるからこそ、成長したり、前へと進んでいける)」

 別れは、悲しい事ばかりじゃない。
 一時の再会とはいえ、緋雪は二人に当時の謝罪とお礼を言えた。
 心残りを解消できたからこそ、緋雪は前を向いていた。















 
 

 
後書き
ちょっと長めになりました。
今回のサブタイトルは、緋雪達(今回の英雄)とオリヴィエ達(かつての英雄)の帰還というダブルミーニングです。
オリヴィエ達の描写が少なくなりましたが、一応そのつもりのサブタイトルです。
 
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