Fate/WizarDragonknight
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牙向く繋がり
バングレイによって召喚された三人の少女たちは、それぞれの記憶の持ち主へ攻め入る。
緑の少女は、驚いたままの可奈美を斬り裂き、地に伏せさせる。
水色の少女は友奈の全身、間接という間接を銃撃し、戦闘不能に陥れる。
そして紫の少女は、歌とともに光線を放ち、響を転がす。
「みんな! 真司、ここは頼む!」
「ああ!」
『アドベント』
ドラグレッダーで人数の不利を補おうとする龍騎をしり目に、ウィザードは可奈美たちのもとへ急いだ。
「待て!」
ウィザードは、ソードガンを可奈美へトドメを刺そうとする少女へ振り下ろす。
緑の少女___その名が、可奈美がずっと救おうとしてきた少女、十条姫和じゅうじょうひよりだということはウィザードが知る由がない___は御刀、小烏丸こがらすまるで防ぎ、逆にウィザードへ突き技を放つ。
「速い……!」
「貴様が遅いだけだ」
ウィザードは彼女の攻撃を反らすが、驚いたのはその素早さだった。右からの攻撃をウィザーソードガンで受け止めたと思えば、別の突きがすでに左肩を貫く。さらに、こちらの攻撃にカウンターするように、彼女は十字に手を広げ、即座にウィザードの腹を切り裂く。
「ぐっ!」
痛みに耐えながら、ウィザードは指輪を入れ替える。
『ビッグ プリーズ』
発生した魔法陣にウィザーソードガンを刺す。巨大化した刃が姫和へ伸びるが、彼女は体を反らしてそれを避ける。彼女の胸元を紙一重でウィザーソードガンが通り過ぎた。
逆に、彼女の神速のスピードは、ウィザードの体を一気に斬り裂いた。
「ぐあっ!」
地面を転がったウィザードは、急いでルビーの指輪をエメラルドに取り換える。
「フレイムじゃとても追いつけないな……だったらこれだ!」
『ハリケーン プリーズ』
風のウィザードは、少しでも姫和の動きに付いていけるように素早く対応する。剣と剣の交差が、まるで柱のように積みあがっていく。
「温ぬるいな」
「!」
口が利けるのか。
記憶からの再現でもとりわけ高い再現率の彼女に舌を巻きながら、ウィザードはハンドオーサーを開く。
『キャモナスラッシュ シェイクハンド ハリケーン スラッシュストライク』
緑の竜巻が、ウィザーソードガンの刃に宿った。
ウィザードが緑の刃を振るい、姫和の体を引き裂こうとする。
だが、姫和はジャンプで旋風を交わし、小烏丸で風を切り裂く。
「嘘っ!?」
「がら空きだ!」
ウィザードが驚く間にも、姫和はウィザードを攻め立てる。
非常に素早い彼女の突き技に、スピード特化のハリケーンでさえ、追いつけなくなっていく。
そして。
「ぐあっ!」
姫和は目の前。それなのに、背後からのダメージ。
その原因は、また別の少女。
青と白の勇者服を着たスナイパー。東郷美森とうごうみもりの名を持つ少女。
「我、友軍を援護ス!」
「いやいつの時代の日本海軍だよ!」
彼女は、ウィザードが攻撃に向かおうとするたびに、その足を狙い撃つ。
「っ……! だったら……」
『ランド プリーズ』
遠距離から狙撃してくる美森に対抗するために、ハルトはエメラルドの指輪からとトパーズへ切り替える。
ウィザードの足場より出現した黄色の魔法陣。それは、ウィザードの緑を黄色へ塗り替えた。
『ディフェンド プリーズ』
土のウィザードは、土壁を盾に美森と撃ち合う。
だが、銃弾の威力は彼女の方が上だった。みるみるうちに土壁は破壊され、ウィザードの盾になる部分が消えていく。
「くっ!」
土壁から回避したと同時に、美森の銃弾が壁を粉々にする。
「逃がすか!」
さらに、姫和の連撃も襲ってくる。
機動力を犠牲にした形態のランドスタイルは、すでに姫和の剣の餌食になっていた。
「次だ……」
『ウォーター プリーズ』
トパーズからサファイアへ。ウィザードはすぐに水のウィザード専用の指輪を使った。
『リキッド プリーズ』
「何!?」
体が液体になる。それは、姫和の刀も、美森の銃弾も受け付けない。
逆に、姫和へのソードガンの斬撃、美森への銃撃は通用する。それぞれにダメージを追わせることには成功した。
だが。
「響……邪魔者は、みんな消してあげる」
もう一人、響の記憶より呼び出された紫の少女は別だった。
彼女___響の陽だまり、小日向未来こひなたみくの左右を漂う鏡より放たれた光。それは、液体となったウィザードを穿つ。
「っ!」
液状の魔法の解除と同時に、ウィザードは転がる。
「っ!」
未来の光と美森の狙撃。それよりも先に、ウィザードは魔法を発動させた。
『ライト プリーズ』
目くらましは、効果的だった。
視界を奪われた姫和と美森は、動きを止める。
『キャモナシューティング ウォーター シューティングストライク』
水の魔力を凝縮した一撃。
だが。
未来の目は、特製のゴーグルで覆われていた。それは光を遮断する機能もあるのか、鏡より放たれた一撃がシューティングストライクを相殺する。
「な!?」
しかも、その間にも残り二人の目くらましの効力は切れた。
「終わりだ!」
姫和の全身に、雷のような電流が流れる。それはウィザードへの道を真っすぐに作り上げていく。
「一の太刀!」
彼女が身構えると、ほぼ同時に突貫してきた。それはウィザードを貫通し、すぐにその背後へその姿を移動させた。
全身の痛みが走ったのは、その後。銃弾をも超える速度の一撃は、ウィザードの鎧を火花で彩っていく。
「我、進軍ス!」
続くのは美森。無数の長い銃が全身を包むように配置され、月光をバックに飛び上がる。
「まずい……!」
ウィザードは慌ててディフェンドを発動させる。だが、水のバリアを張った直後、彼女は告げた。
「護国弾 穿通!」
銃口よりの一斉放火。一部は水のバリアで防げたものの、すぐさま水のバリアは打ち消され、ウィザード本体に命中。
悲鳴を上げることもできず、ウィザードの体は宙へ浮いた。
「がはっ……!」
ウィザードはマスクの下で吐く。
だが、宙へ浮いたウィザードは、それが処刑台への移動だとは気づくことはなかった。
すぐ上空。そこにはすでに、対となる鏡を侍らせた未来が待機していたのだ。
「そんな……」
「響……大好きだから……だから……みんな消えて」
未来は、再びその目をマスクで閉ざす。彼女の全身を直径に、円形のパーツが発展した。
さらに、鏡たちは互いを写し、その内部より新たな鏡が生成。それを繰り返し、やがてウィザードを囲むほどの数が作られた。
これから行われること。それを想像した時、ウィザードは「あ」と声を上げることしかできなかった。
「煉獄」
円を作る鏡より、紫の光が一斉にウィザードへ発射される。
夜に太陽が昇ったかの如く閃光を起こした爆発とともに、ウィザードはハルトとなり、地面に投げ落とされた。
「姫和ちゃん……!」
ボロボロの可奈美はウィザードに加勢しようとする。だが、その目前には刃が振り下ろされた。
「待てよ!」
バングレイ。危険な宇宙人は、そのまま可奈美を蹴り飛ばした。
「よお。ベルセルク。狩りに来たぜ」
バングレイはじっと響を見つめている。
「いけない!」
響へ向かおうとするバングレイを、響は食い止める。千鳥で彼の進撃を食い止めながら、傷つきながら起き上がる響へ叫ぶ。
「響ちゃん、逃げて!」
「逃げられないよ!」
響は立ち、バングレイへ飛び掛かる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
雷の中、響の姿がサンダーベルセルクとなる。雷の剣に合わせて、可奈美も千鳥を振るった。
「危ねえ!」
バングレイはバックステップで躱し、空間を切り裂く。
青く飛んだ刃は、可奈美と響を守るように着地した友奈が殴り壊した。
「私を置いて行かないでね!」
「……うん」
「バリバリバリバリ!」
すると、バングレイが腹をかかえて笑い出した。
「いいねえいいねえ! これだから狩りはやめられねえ! どんどん獲物が群れていきやがる! そういう繋がり、ぶっ壊すのもバリ楽しい!」
バングレイが鎌を振り下ろす。可奈美はそれを受け止め、その隙に響がイナズマケンで斬り裂く。
「させない! 絶対に!」
「……どうかな?」
バングレイは、執拗に響を狙う。だが、右からの友奈の徒手空拳も、左からの可奈美の剣もそれぞれ六つの目で見切り、防ぎ、受け流す。
「それでもッ!」
響はイナズマケンを振り上げた。
雷鳴とともに、落雷が雷の剣へ落ちる。
「我流・超雷電大剣サンダーボルトブレイド!」
「甘え!」
それをあらかじめ待っていたのだろうか。
バングレイは突如としてバリブレイドを放り捨て、友奈の首を掴む。
「友奈ちゃん!?」
「オラよ、お前の大事な繋がりだ!」
バングレイは、今にも振り下ろす動作に入ろうとする響へ友奈を投げつける。
「っ!」
剣を嗜む可奈美には分かる。響の動作は、もう止められない位置まで来ていることに。
響はサンダーボルトブレイドを反らしたが、それはあろうことか可奈美の方だった。
可奈美は千鳥でそちらを防ごうとするが、それはつまり、バングレイへ背中を見せるということ。
背中を蹴り押す。それだけの動作だが、可奈美の体はそれだけで、響のサンダーボルトブレイドへ引き寄せられてしまった。
「しまっ……!」
その時、可奈美の体に圧力がかかる。
友奈が咄嗟に、可奈美を少しでも雷鳴より遠ざけるように突き飛ばしたのだ。
オーパーツの力は、そのまま可奈美と友奈の、中間の地点を砕く。同時に発生した電撃が、可奈美と友奈を襲った。
可奈美は悲鳴を上げる。だが、より雷の地点に近い友奈の方が威力は高く、すでに彼女の意識はなくなっていた。
「そんなッ!?」
響の驚く声が聞こえる。
だが、可奈美の横を、バングレイが通り過ぎる気配があった。
「バリッ!」
動揺する響へ、バングレイがラッシュをかける。ベルセルクの力をもってしても、響は防戦一方になっていった。
「オラオラァ! お前の繋がりが、バリ足手まといになったなあ!?」
「っ!」
その言葉に、響の動きが止まった。
「響ちゃん!」
助けに行こうにも、サンダーボルトブレイドの影響で体が痺れる。
そして、バングレイの刃が、ベルセルクの甲冑を引き裂く。
「ひっひゃははははは!」
歓声を上げながら、バングレイの猛攻は続く。
彼が刃物を響に押し付けるごとに、彼女の体より白銀の鎧が剥ぎ取られ、弱っていく。
すでに抵抗する力を失った響は、やがて通常のガングニールに、そして生身へと戻っていく。
「お前、どこに隠しているんだ? ベルセルクの剣をよお?」
生身の響の首を掴み上げながらバングレイが問う。だが、響には答える余裕などなく、ただ呻き声を上げるだけだった。
「ああ? 聞こえねえなあ?」
「……」
「バリバリ。大きな声でバリ言いやがれ!」
「し……らな……い……私の……」
「聞こえねえなあ!」
聞く気があるのかないのか、バングレイは「ま、いいか」と吐き捨てた。
「お前を連れ帰ればいいんだからな!」
「! させない……!」
「お前は寝てろ!」
掴みかかろうとした可奈美は、腹を蹴られ、地面に倒れたところに顔を踏みつけられる。
「うっ……響ちゃん……!」
「バリかゆ」
吐き捨てたバングレイは、そのまま可奈美の腹を蹴り飛ばす。飛びそうな意識とともに、可奈美の体は転がった。しかも、写シを剥がされ、体も痛みで動かなくなっていた。
「ベルセルクは、もらっていくぜ」
可奈美の耳は、それだけを確かにとらえた。
気絶した響を抱える彼の隣には、エンジェルと、美森。
そして、愛おしそうに響を見つめる未来と。
可奈美へ冷たい目線を投げる姫和がいた。
「響ちゃん……姫和ちゃん……」
可奈美は手を伸ばすが、朧げになる視界は、その姿をはっきりさせない。
ただ一つ。満足そうな青い影が、上機嫌に言ったのだ。
「あばよ。また遊ぼうぜ」
その言葉を待っていたかのように、その頭上には青い飛行物体が現れる。
宇宙船と呼ぶべきそれが、光の柱をバングレイたちに放つと、
響、姫和を含めた彼らの姿は、消滅した。
「……!」
いなくなった後、可奈美は周囲を見渡す。
気絶した友奈。
エンジェルに敗北したのであろう、目を開けない真司。
声を出すことなく、雪降る道で倒れているハルト。
それは、完膚なきまでの敗北の痕だった。
可奈美はそれを最後に、意識を手放した。
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