Fate/WizarDragonknight
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
狩りの道具
「可奈美ちゃん! みんな!」
真司と合流したハルトは、可奈美たち三人が休憩する公園にやってきた。
「ハルトさん……」
「三人ともここにいたんだ……って、なんかすっごい疲れてない?」
ハルトはベンチにもたれかかる可奈美、響、友奈の姿に目を丸くした。
可奈美は、すでに疲弊し切っており、千鳥さえも手から離している。
友奈は気絶しており、その頭上では牛鬼がひよこのように回っている。
そして響が一番深刻。「あはは」と薄ら笑いとともに、ハルトと真司を見上げる他、体は一切の機能を停止しているようだった。
「どうしたの……?」
「ちょっと、結芽ちゃん……私の記憶から呼び出された刀使と戦ったんだけど、ちょっと疲れちゃって……」
「結芽ちゃん?」
「ああ、この前のピンクの女の子か?」
真司は心当たりがあるようだった。
可奈美は頷いて、
「それで、なんとかやっつけたんだけど、私達三人全員ボロボロになっちゃって……私は全力使って、友奈ちゃんはノックアウトしちゃって、それに響ちゃんはまたベルセルクになって」
「ちょっと待って! それ、一人の女の子にやられたっての?」
「うん、結芽ちゃんは天才って言われてたからね」
「うわあ……」
「ちょっと待ってて。えっと……」
真司は頬をかきながら、友奈の気絶した顔を覗き込む。
「友奈ちゃん……本当に気絶してるの?」
「う~ん……うどんうどん……やっぱり一年いつでもうどんだよ」
「友奈ちゃん気絶してんじゃなくて寝てるよ! おーい、起きろ!」
真司が友奈の頬をペチペチと叩く。
「……うーん……うどんがぺちぺち……きつねさん、速く出ないと狸汁になっちゃうぞ……」
「一体どんな夢見てんの友奈ちゃん!?」
「さしずめ巨大なうどんに、狐が溺れているところなんでしょ」
「ハルトはハルトで何冷静に分析してんだよ!?」
真司は目を大きく見開く。「もう一回だ!」と息巻いて友奈を起こそうとしたその時。
寝起きと同時に起き上がった友奈の額が、真司の鼻先にぶつかる。
「へぼっ!」
「あたっ!」
のけ反った真司と頭を抑える友奈。それぞれの痛みに涙目になりながら、真司と友奈はたがいに睨み合った。
「おお、なんて見事な作用反作用」
「痛っ! ……あれ? 真司さん?」
目が覚めて初めて真司とハルトの存在を認識した友奈。頭を抑えながら上目遣いで真司を見上げる彼女へ、真司は苦言を漏らした。
「何でこのタイミングで起きるんだよ!」
「ええ!? 私なんか悪いことした!?」
「したよ! 俺が起こそうとした瞬間にヘッドアタックしないでよ!」
「へ……な、何? って、あれ?」
友奈は左右をキョロキョロと見渡す。
「あの子はどこ?」
「結芽ちゃん? 結芽ちゃんなら……」
「もう可奈美ちゃんの記憶に戻っちゃったよ」
響が顔だけ横に向けて言った。
「え? あ……」
友奈はしばらく静止し、ようやく理解したように「ああ、そっか」と頷いた。
「じゃあ、やっぱり敵になったままだったんだね」
「うん……」
「バリバリ……」
その時。
もう聞きたくない、狂暴な宇宙人の声が耳に届いた。
バングレイが、こちらに歩み寄ってくる。
「どうやらアイツ、うまくベルセルクを弱らせることはできたみたいだな」
「バングレイ!」
ハルトと真司は、休んでいる三人を庇うように出る。
バングレイはその六つの目で、こちらを眺めている。
「おうおう。ウィザード。お前らもいるのか。狩りの相手が増えるのはいいことだ」
「お前のサーヴァントはもういない! 諦めて地球から出ていけ!」
「いない? 誰が?」
その声は遥か上空より聞こえてきた見上げると、雪の中、黒い天使の影がゆっくりと地上に降りてくる。
「サーヴァント エンジェル。降臨」
「お前、エンジェル!? 倒したはずなのに!?」
「貴様ごときに、この私が遅れを取るとでも?」
エンジェルは肩を揺らす。黒と青の宝珠を胸に装填する。
「シーイック、ランディックオーブ 天装」
発生した土人形に、水が大きくかけられる。すると、それはエンジェルの姿となった。
「まあ、この木偶人形程度では倒せないとは思ったがな。まさか我がダークヘッダーたちも倒すとは」
「……お褒めに預かり光栄ってことで」
ハルトは指輪を腰にかざす。
指輪の力で、腰にウィザードライバーが出現した。
「真司……行ける?」
「ああ。……戦うしか、ないよな」
「他に選択肢があるなら教えて」
「私たちも!」
可奈美も立とうとする。だが、彼女の歩調はいつもと違ってふらついており、とても戦いに参加できそうにもない。
「下がって! 皆疲れてるでしょ」
「で、でも!」
可奈美と友奈が揺れる。倒れそうな彼女たちを真司とともに支え、ベンチに戻す。
「響ちゃんも。バングレイの狙いは君だから、君は絶対に出てこないで。ていうか、むしろ逃げて」
「私も戦力外通告!?」
「疲れ果ててる人に戦力外ってそんなにおかしいかなあ!?」
ハルトはそう言いながら、ルビーの指輪のカバーをかける。
真司もまた、カードデッキを掲げ、左手を斜めに伸ばす。
「「変身!」」
『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
魔法陣と鏡像がより、それぞれ龍騎とウィザードの姿になる。
それぞれ、ウィザードと龍騎へ変身する。
それぞれの変身が完了したところで、バングレイはこくこくと頷いた。
「いいねえ。狩りはこうじゃねえとなあ?」
「こうって……?」
ウィザードはコネクトからソードガンを取り出す。
「ああ。今回の狩りはベルセルクが主目的なんだがよ? 聖杯戦争だのブライだの、面白えつまみ食いが多い。ホントにバリ面白れぇ」
「……狩るって、なんのために?」
ウィザードは尋ねる。するとバングレイは「ああ?」と耳をほじくる。
「んなもん、狩って嬲って刻んで殺すために決まってんだろ? 獲物をハンティングした後は、いたぶって刻んで殺す。そういうもんだぜ?」
「お前……いい加減にしろ……!」
ウィザードは体が震えるのが止められなかった。
その間にも、バングレイは続ける。
「俺はこれまで宇宙で九十九体の巨獣を狩ってきた。楽しかったぜえ!? 狩る時はあれだけ獰猛で強え奴らが、俺が斬るごとにどんどん弱っていくのはよお? 今まで何狩ったかなあ? 仲間仲間うるせえ群れるイーグルとか、余裕ぶっこいてて、いざ狩ると壊れた鮫とか? 鬣剥いでやったら面白え発狂したライオンとか、自分よりも本みてえなのを大事にしてた象とか、雪みてえに綺麗なトラとか? ああ、巨獣の癖してすぐに落ち込むサイみてえなのもいたな」
「それも……全部……?」
「ああ。狩って刻んだ。次はお前らだ。お前らの次は、後ろの三人だ。その次は、残りの参加者だ。さっき戦った奴らは、ムーの力を持ってるみたいだからな。もうちょっと遊ぶために逃してやったが、お前らは……ベルセルク以外は、逃がす理由もねえよなあ?」
「……」
ウィザードは、龍騎と目を合わせる。
龍騎も頷き、ウィザードはその目線を再びバングレイに向けた。
「ああ。そうだな。お前は、もう逃がさない!」
ウィザードとバングレイの刃物が、同時に交差した。
「狩らせてもらうぜ! ウィザード! お前もな!」
バリブレイドでウィザード、左手の鎌で龍騎を狙うバングレイ。ウィザーソードガンとドラグバイザーでそれを防御し、二人で同時にバングレイを蹴る。
「こいつは危険すぎる! 真司!」
「分かってるよ! 気が進まないけど……」
龍騎はドラグバイザーのカバーを下ろし、ベルトよりカードを引き抜く。
「させん!」
だが、バングレイの背後より飛び上がったエンジェルが、その手より雷を放つ。龍騎へ届く前に、ウィザードが指輪を使用。
『ディフェンド プリーズ』
魔法陣によって雷は弾かれ、周囲に散漫。爆風の中、龍騎のドラグバイザーの電子音が聞こえた。
『ストライクベント』
爆炎が晴れるとともに、龍騎は右手に装着した龍の頭から、炎を発射する。
「何!?」
それは、防御態勢を取ったバングレイに命中。異星人の体を大きくのけ反らせる。
「スカイックオーブ 天装」
エンジェルの声により、発生した突風。さらに、その中よりエンジェルが剣とともに攻めてきた。
「やべえ!」
「真司どいて!」
『ビッグ プリーズ』
天使の攻撃に対して、ウィザードの巨大化した足蹴り。対消滅し、ウィザードが敗北。地面に転がる。
「ハルト!」
「俺より前!」
ウィザードがそう言った時、すでにエンジェルは龍騎の首へ剣を振り下ろしていた。
龍騎はそれをドラグバイザーで防ぎ、彼の手首を掴み、蹴る。
「ぬっ!?」
エンジェルの剣が彼の手元を離れ、飛んでいく。その行方を見送る間もなく、龍騎はエンジェルの胸へ拳を突き立てた。
「ぐっ……」
「おらああああああああ!」
さらに、龍騎のパンチはエンジェルの顔面に炸裂する。大きく後退させることに成功したエンジェルへ、龍騎は怒鳴った。
「もう、戦いは終わりだ! 俺たちが戦う必要なんてないんだって!」
「ふん。一撃与えただけで、勝ったつもりか?」
エンジェルが口を拭う。
その時。
「いただきい!」
龍騎の背後より、バングレイがその頭を掴んだ。
「ぬわっ!」
「真司!」
ウィザードは慌ててバングレイを斬りつけ、引き離す。だがバングレイはすでに目的を果たしたようで、頭に触れた手を伸ばす。
「いい記憶だ。もらうぜ!」
青い光。それは、バングレイの記憶の再現だった。
現れたその記憶には、龍騎だけではなく、ウィザードも。そして、休んでいる友奈も目を疑った。
「千翼君……」
友奈が呟く。
先月、見滝原を混乱の中に陥れた、アマゾン細胞の原因である、サーヴァントバーサーカー。
アマゾンネオ。
「お前……!」
ウィザードと龍騎がともにバングレイを恨みのこもった目で睨む。
だが、バングレイはただ笑っているだけだった。
「バリバリバリ! なんだよ、 お前の記憶を覗かせてもらっただけじゃねえか! んで、最近で一番お前を攻撃するのによさそうなのを選んだんだ! 俺の演出、バリイケじゃね?」
「お前!」
ウィザードよりも、龍騎が大きく踏み込む。だが、そんな彼の足をも止める者がいた。
「……ひどいよ……」
龍騎の肩を掴んで押しのけるのは、疲労していた友奈だった。
明るい顔つきの彼女には想像できないほど、怒りで顔を歪めている。
「千翼くんを、またそうやって……戦わせるの?」
「ああ? いいじゃねえか! どうせコイツ、もう死んでるんだろ? だったら、俺がバリ有効利用してんじゃねえか? 効率活用は狩りのバリ基本だぜ?」
「効率……?」
友奈は、バングレイへ鋭い眼差しを向ける。
「あなたは……本当に……!」
友奈は、スマートフォンを取り出していた。
いつの間にか、可奈美と響も、彼女の左右に並んでおり、それぞれが抜刀、そして歌を唄う。
「変身!」
「写シ!」
『Balwisyall Nescell gungnir tron』
それぞれ、勇者、刀使、奏者の姿へと変わる。
アマゾンネオが吠え、アマゾンズドライバーを操作するよりも早く。
三人は、すでに偽物に肉薄していた。
「勇者パンチ!」
「太阿之剣!」
「我流 星流撃槍!」
桃、赤、黄の光がアマゾンネオの体を貫く。
千翼が中にいたとは思えない怪物は、そのまま青い粒子へ戻り消滅。
だが、それはすでにバングレイが計算した後のことのようだった。
すでに宇宙人は、三人の背後に回っていた。
「え!?」
一番に反応したのは可奈美。だが、彼女が反撃するころには、すでにバングレイは、三人の頭を掴み、その記憶を読み取った後だった。
「危ねえ危ねえ」
バングレイはケラケラと笑いながら、バックステップで距離を取る。
「どうだ? マスターよ」
その隣に降り立ったエンジェルへ、バングレイは頷いた。
「いい記憶だ。やっぱり、狩りには頭も必要だ」
「ふん」
バングレイは、また記憶から、彼の手駒を召喚する。
千翼の次は何が出てくるのか。ウィザードと龍騎、そして三人は身構えた。
青い粒子が三人の人影に形成されていく中、バングレイの言葉が聞こえた。
「お前らみてえなのは、ただの強敵よりもこういう奴らをぶつけた方がよさそうだ」
「こういう奴ら?」
ウィザードは、その言葉に首を傾げる。
そこに現れたのは、三人の少女だった。
一人は、深緑のセーラー服を着た、ロングヘアーの少女。スレンダー体系で、動けばとても素早そうな印象を持たせる。腰に付いた長い棒は、刀の鞘と、それに収まった日本刀だった。
一人は、車椅子の少女。虚弱体質を思わせる色白の肌で、リボンで束ねたロングヘアーを肩から前に流している。薄幸そうな美少女で、おさげにまとめたリボンが特徴だった。
そして、最後の一人。紫の服とフリルをした少女で、その短い髪を同じく紫のリボンで束ねている。引き締まった筋肉が見て取れて、その足も速そうな印象を抱かせる。
「女の子?」
わざわざ可奈美たちの記憶を読み取って、呼び出したのがただの少女のわけがない。
龍騎とともに、ウィザードは警戒を緩めなかった。
バングレイは三人の少女の顔を背後から覗き込む。
「絆だ仲間だバリうるせえ奴らは、こういう奴らを差し向けると簡単に壊れちまう。俺はそういうのがバリ好きなんだよ!」
「最低な趣味だなおい」
龍騎が吐き捨てる。だが、それはバングレイは可奈美たちを指しながら言った。
「でも、効果は覿面みてえだぜ? 後ろを見て見ろ」
バングレイの言葉に従い、ウィザードは可奈美たちへ目線を反らす。
そして。
可奈美、友奈、響。三人はそれぞれ、驚愕の目でバングレイが呼び出した少女たちを見つめていた。
「姫和ちゃん……」
「東郷さん……」
「未来……」
「……?」
三人とも、敵の前で棒立ちになっている。
だが、そんな状況でも、バングレイは無慈悲に号令をかけた。
「殺れ!」
ページ上へ戻る