SHUFFLE! ~The bonds of eternity~
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第一章 ~再会と出会い~
その五
「それでは、懐かしき友との再会と新しき出会いに……」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
魔王の音頭とともにグラスが合わされる。神王・魔王・幹夫・柳哉の四人は酒、他の六人はジュース又はウーロン茶というラインナップである。なお、プリムラが酒に手を出そうとしていたが、稟と楓により止められていたのは余談。
「おお、柳殿いい飲みっぷりじゃねえか」
「付き合いとかで飲む機会が多かったんで」
「うんうん、美味しい酒が飲めるというのはとてもいいことだよ」
「いや、でも柳哉君、本当に大きくなったなあ」
さっそく酒飲みの間でそんな会話が交わされていた。それを眺めながらため息をつく稟。いつもなら酒を勧められる立場を交代してもらったようなものだが、その相手が自分と同年齢の幼馴染だということははたして喜んでいいことなのだろうか? というか、あの中に混ざっていてもまるで違和感のない柳哉の姿にちょっと頭痛がしてくる稟だった。
「えーと、なんか聞いてたよりずっと……なんていうか……こう……」
「そうですね……なんと言えばいいか……」
「シア、ネリネ、正直に言ってくれても全然構わないからな」
「柳君、何かいろいろはっちゃけてしまったような……」
いろいろとあきらめ気味の稟に、無自覚に遠慮のない楓の台詞が続く。
「で、でも、根っこの部分は変わってないよね」
桜のフォローも若干自信がなさげだ。と、そこへ声が掛かる。
「よう稟、聞いたぞ? なんでもシアとネリネの二人と婚約してるそうじゃないか」
「婚約なんてまだしてない!」
声高に否定する稟だが、
「ふむ。まだ、ということはいずれするってことか?」
「そうなんですか稟君!?」
「そうなの稟君!?」
幼馴染二人が食いつき、王女達が赤面する。
「いや、そうじゃなくてな!?」
「じゃあどうなんだよ」
「いや、だから、ってお前もう酔ってるだろ!?」
どうにか話をそらそうとする稟に苦笑する柳哉。
「まあ確かに少し酔ってはいるがな」
「酔ってない、とは言わないんですね」
「ん、酔っ払いの“酔ってない”発言はまるで当てにならないしな」
自分で言うか、というツッコミはさておき。
「稟、お呼びだ。とっとと来い」
見れば、三匹の親馬鹿(神王・魔王・幹夫)がこちらを見て笑っていた。
「っておい! 引っ張るな! ちゃんと自分で歩くから!」
「つー訳で、ちょっと稟を借りるぞ」
稟は引きずられていった。
「お手やわらかにー」
「お父様、あまり稟様に負担はかけないようにしてくださいね」
「り、稟君。がんばってくださいね」
「あはは……」
ちなみにこの間、プリムラはただ黙々とつまみを口に運んでいた。
* * * * * *
しばらくして、柳哉が楓達の方へ来た。三人の相手を稟に任せてきたようだ。押し付けた、とも言うが。
「どーも」
「あ、柳ちゃん。あっちはもういいの?」
「ああ、近況の報告とかは済ませたし、それにまだあまり話もしてないしな」
そう言ってシア・ネリネ・プリムラを順に見る。たしかに自己紹介の時以来、三人とはほとんど話していない。
「というかプリムラ……はともかく、シアとネリネはあんまり驚いてなかったな。俺のこと」
「実は今朝、登校中に稟君と夢の話をしていた時に……」
「うん、教えてもらった」
「でもまさかその日のうちに、とは思いませんでしたけど」
楓の言葉を引き継ぐシアとネリネ。
「夢って俺を仲間はずれにして見たっていうやつか?」
不満げなふりをして言う。
「あはは、別に仲間はずれにしたわけじゃないんだけどね」
「ま、いいけどさ」
「ところで柳君は学校はどうするんですか?」
楓が訊ねる。
「ああ、それも話そうと思ってな」
と、グラスの中身を飲み干しながら言った。
「新学期からはバーベナ学園の高等部二年に編入するから」
「そうなんですか」
「一緒のクラスになれるといいね」
そう言った二人だが、
「まあ、あのお二方がこれを知った以上、別のクラスになることはまずないだろうけど」
稟を交えて騒ぐ親馬鹿どもを横目にしながらの柳哉の台詞に苦笑いを浮かべた。額に汗が浮いていたのはきっと気のせいではないだろう。
どうやらこの短時間で既に神王・魔王の性格をある程度把握したようだった。
「そういえば柳ちゃん」
「何だ?」
「うん、妹さんはどうするのかなーって」
「ああ、そうだ。菫はストレリチアの中等部三年に編入するから面倒みてやってくれるか? 高等部と中等部じゃちょっと難しいかもしれんが」
「あ、そうなんだ」
「妹さんがいらっしゃるんですか?」
ネリネが聞く。
「ああ、菫って言うんだ。よかったら仲良くしてやってくれ」
「菫ちゃんに会うのも楽しみですね」
「写真とかないの?」
「ああ、見るか?」
「うん、見たい見たい!」
そう言うシアに柳哉は携帯電話の写真機能で撮った画像を見せる。
「わー可愛い」
「あ、見せて見せて」
「本当に可愛いですね」
シア・ネリネ・桜が群がる。楓はこっくりこっくりと船を漕いでいたプリムラに膝枕をしているため動けなかった。
* * * * * *
三時間程で宴はお開きとなった。主催者達(神王と魔王)はもう少し騒ぎたかったようだが、明日は柳哉の家族が到着することや引越しの荷物の整理に編入手続きなどがあるため、涙をのんだようだ。
「それでは幹夫さん、明後日にでも」
「ああ、決まったら連絡してくれ」
「それではおやすみなさい」
「おやすみ」
幹夫と挨拶を交わし、桜と共に歩き出す。桜を家まで送り届けるためだ。神王・魔王両父娘と楓はそれぞれの自宅前で彼らを見送っていた。稟は酔いつぶれ(結局飲まされた)プリムラは既に自室のベッドで就寝中だ。
「柳ちゃん、さっき幹夫おじさんと話してたことって……」
歩き出して少ししたところで桜が聞いてきた。
「ああ、墓参りの事。土見家と芙蓉家の」
「そうなんだ」
「あれっきりだからな」
実は水守家は八年前、幹夫から事故の話を聞いた翌日から数日だけだが光陽町に帰ってきていた。もちろん弔問のためだが、同時に葬儀の手配や弔問客への対応、さらには事故に関しての警察の事情聴取などを一人でこなさなくてはならない幹夫の手伝いのためである。実際には八重家や近所の人も手伝ってくれたため一人ではなかったのだが、それでも幹夫にとってはありがたいことだった。
「ところで桜」
「え?」
言葉を発したのは柳哉のほうだったが、
「……いや、何でもない」
「?」
結局その会話はそこで終わった。八重家がもう間近でもあったこともあるが。
「それじゃおやすみ、桜」
「うん。おやすみ、柳ちゃん」
桜が家に入ったのを見届けた後、柳哉は歩き出す。
(稟と楓……もう仲直りしたって話だが……)
ならば二人の間に感じたこの妙な違和感は何なのか。
(まあ、今は見守るしかないか、それに……)
もう一つの懸案事項に想いを馳せる。
(まさか、とは思うが……)
もしそうなら、その時自分はどうするべきか?
(なるようにしかならない、か)
そう結論し、全体の四分の一ほどが欠けた月を見上げる。前とは違う。今、自分は彼らの近くにいる。それに、
――忘れないで。キミは独りじゃないんだから――
“彼女”の言葉を思い出す。不安はもう、消えていた。
* * * * * *
時間は少し戻る。
「で、まー坊。どう思う?」
「現時点では情報が少なすぎるね。他人の空似、ということも充分ありうる」
娘達を先に家に戻らせ、両王は話し合っていた。その顔に浮かんでいるのは稟達の知る親馬鹿のそれではなく、一世界の最高権力者としての表情だった。
「少し探りを入れてみるか」
「それには賛成だけど……」
「? 何か問題でもあるのか」
渋い表情の魔王が言う。
「彼はとても勘が鋭い。でもそれ以上に……」
「ああ、それは俺も感じた」
「とりあえず、事は慎重に運んだほうがよさそうだね」
「……そうだな」
それでなくとも今は大事な時期なのだから。
そんな彼らを、柳哉も見上げていた月の明かりが照らしていた。
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