芸術とガラクタ
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第三章
「いいってね」
「そう思ってよね」
「作ってるわ」
「表現したいものは出しても」
「悪意とか作品に出すもの?」
そもそもというのだ。
「絵とかって」
「違うわよね」
同級生も五十八に答えた。
「やっぱり」
「そうでしょ、というかこれぱっと見で言わせてもらうけれど」
おかしな像や旗を焼いたり引き裂いたものを見つつ言った。
「政治的に何か言いたいみたいだけれど」
「それでもっていうのね」
「全力でぶつかってないでしょ」
自分の様にとだ、五十八は言った。
「適当に作っただけで」
「確かに熱意は感じないわね」
「何か情熱とか想いとか感じなくて」
「悪意とかだけ感じるっていうのね」
「政治の主張はともかくとしてね」
「想いね」
「主張はあっても作品に対する愛情ってあると思うの」
五十八はやや首を傾げさせつつ言った。
「私も、けれどね」
「この画像の作品にはどれもなのね」
「そういうの一切感じなくて相手を貶めたい、変な主張をしたい」
「そういうのを感じるだけで」
「ガラクタに見えるわ」
「そうなのね」
「逆に言えば自分が作ったものにここまで思い入れがないとかね」
やはり首を傾げさせつつ言う。
「美術で。書道でも陶芸でもね」
「ないわね」
同級生も自然とこの言葉が出た。
「確かに」
「そうでしょ」
「ええ、本当にね」
「こんなの展示して何になるのかしら」
五十八にとってはそのことがわからなかった、それでもうその画像を見なくなった。それで同級生に言った。
「ガラクタはもういいからね」
「だからなのね」
「今度は写真撮るし」
「写真部からもお話来てるのね」
「一枚どうかって、だからそっちも行って」
そうしてというのだ。
「それでね」
「そのうえでなのね」
「また絵描くわ」
「そうするのね」
「ええ、どれも全力でぶつかってね」
「五十八ちゃんが表現したいもの全部表現するのね」
「その時にね、じゃあどんどんね」
五十八は同級生に明るい顔で話した。
「やっていくわ」
「じゃあ頑張ってね」
「向かっていって表現していくから」
五十八は笑顔で言った、そうして写真も絵も頑張った、そうして。
五十八は芸術大学に進学しやがてアバンギャルド系の画家として評判になった、しかしガラクタは一作も作らなかった。そうした作品を見ても何とも思わなかった。そこに作った者の確かな思い入れが感じないと言って。
芸術とガラクタ 完
2020・11・18
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