歪んだ世界の中で
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第十話 思わぬ、嬉しい転校生その九
「あれだけ痩せたからな」
「確かにな。夏の間に急に痩せたからな」
「じゃああいつはデブじゃないな」
「それだけは確かだな」
太っていないことはだ。認められた。しかし彼等が認めたのはこのことだけだ。
その他のことばだった。それは。
「けれどあんな馬鹿でな」
「成績なんかクラスで最下位だぜ」
「一学期の中間でも期末でもな」
「学年でも最下位だったんだぜ」
それが希望の成績だった。今までのだ。
「そんなどうしようもない馬鹿なのにな」
「しかも友達は友井しかいない根暗なのにな」
「友井も根暗だしな」
「根暗しか友達いない奴なのにな」
「何でなんだよ」
あらためて千春も見る。その彼女も。
「趣味が悪いよな」
「悪いにも程があるだろ」
「あんな奴にあんな奇麗な彼女ってな」
「身の程を知れよ」
こう話してだ。そしてだった。
かつて希望を絶望の底に陥れた二人、一人は小柄でジャガイモの如き黒くでこぼこの顔をしている。特撮映画のゴジラに出て来たミニラの出来損ないにも見える。
もう一人もやはり小柄で痩せた顔にだ。丸く顔に不釣合いな目に初期のチェッカーズの劣化した様な髪型をしている。その二人がだ。
お互いにだ。こんなことを話していた。
「なあ、あの娘な」
「だよな。あんな奴には勿体無いからな」
「俺達のどっちかが声をかけて」
「それであいつから引き離すか」
「じゃあ俺から行くな」
そのチェッカーズの劣化、居川が言った。
「まずはな」
「次は俺か」
今度はそのジャガイモ、田仲が言う。
「あの娘に声をかけるか」
「あいつの正体も言ってな」
「そうしような」
こんなことを話していたのだった。そしてだ。
ホームルームがはじまった。そのホームルームではやはりだった。
席替えが行われることになった。そしてその前にだ。先生はあらたにクラスにだ。席と椅子を一つずつ入れた。そのうえでこう生徒達に言ったのである。
「この席は夢野さん用だからな」
「先生、有り難う」
千春はとりあえずその席に着いて先生に笑顔で言った。
「じゃあこれからなのね」
「そうだ。席替えをするぞ」
先生は生徒達に告げた。千春だけでなく。
「二学期の席を決めるぞ」
「やれやれね」
ここでだ。野田が希望を見て言った。かつて自分が振った彼をだ。
「まあ運がよかったらよね」
「そうよね。隣同士とかね」
今度は永田が野田に続く。
「有り得ないよな」
「私そんなことになったら死ぬわ」
「私もよ」
あえて先生に聞こえない様に小声でだ。二人で希望を悪意のある目で見ながら言うのだった。
「というか早く登校拒否になれっての」
「何で学校来てるのよって感じよね」
こう話していた。しかしだ。
千春はその二人に顔を向けてだ。笑顔でこう言ったのだった。
「ねえ君達ってさ」
「んっ、何よ」
「何だってのよ」
「性格ブスなのね」
こうだ。あっさりとした笑顔で言ったのである。
「それもかなりね」
「何を、私達が何よ」
「ブスだって?」
「そうだよ。そして心の目も悪いのね」
これが千春の二人への言葉だった。
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