歪んだ世界の中で
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第十話 思わぬ、嬉しい転校生その七
希望、唖然となっている彼個人にだ。直接言ってきたのだった。
「希望、学校でも一緒だよ」
「そんな・・・・・・」
「一緒にいようね」
笑顔で言う千春だった。そしてだ。
ホームルームと始業式の後でだ。千春は希望の席に来てだ。こう笑顔で言ってきたのだった。
「実はね。希望を驚かせようと思って」
「僕を?」
「内緒にしてたの。御免ね」
「いや、それはいいけれど」
内緒にしていたことはだ。希望はいいとした。
そのうえでだ。こう千春に言ったのだ。
「ううん、それでもね」
「それでも?」
「僕に一緒にいる為に」
「そう。学校に入ったの」
そうしたというのだ。そしてだった。
希望に何故内緒にしていたのかもだ。彼女は言ったのである。
「希望を驚かせたくて」
「それでだったんだ」
「千春。希望に隠しごとはしないつもりだったけれど」
「そういえばそんなこと言ってたね」
「御免ね。このことは」
頭を下げもした。謝罪であった。
「けれどそれでもね」
「転校してきたのは」
「その方が希望が喜ぶと思ったから」
驚いてだ。そうしてだというのだ。
「だからなの」
「それで内緒にしていたんだ」
「もう二度としないから」
内緒にすること、それはだとだ。千春は申し訳ない顔で希望に話した。
「絶対にね」
「いいよ。僕はそれよりもね」
「それよりも?」
「千春ちゃんがこうして来てくれたから」
このことをだ。その千春に言ったのである。
「嬉しいんだ」
「それでなの」
「僕と一緒にいたくて来たんだね」
「うん、そうだよ」
「だからいいよ」
隠していたこともだ。その為ならいいというのだ。
「嬉しいよ。そうしてくれて」
「有り難う。そう思ってくれて」
「うん。じゃあこれからはね」
「学校でも一緒だよ」
千春はあらためて希望に言った。千春は座っている彼の前に立っている。そのうえで腰を彼の方に可愛らしく折り曲げてだ。そのうえで言ったのである。
「二人ね」
「そうだね。実はね」
「実は?」
「学校がはじまったら。千春ちゃんと会えなくなる時間が減ると思って」
それでだと。希望はその千春に返したのである。
「寂しく思ってたんだ」
「そう。それは千春もだったから」
「それでなんだ」
「だから一緒にいたくて学校に来たの。転校してきたの」
「転校っていうと」
ここでだ。希望は気付いた。あることに。
「千春ちゃん学校は」
「一応通ってたの」
「そうなるよね。転校だから」
「そうだよ。山の中の学校に通ってたの」
「山の中の学校」
「ずっとそこに通ってたの」
何年かはわらなかった。この言葉だけでは。
だが千春が学校に通っていることがわかってだ。希望も安心した。そしてだ。
こうだ。千春に言ったのだった。
「通ってないって思ってたから」
「うん。町とか村の学校にはね」
「そうした学校には通ってなくて」
「山の学校に通ってたの」
そこがだ。千春の学校だったというのだ。
「皆とそこで一緒だったの」
「山のなんだ」
希望はそう聞いてもあまりおかしくは思わなかった。山の中にも学校はあったりすると思ったからだ。何しろ神戸は後ろに山が控えているからだ。
だから千春の今の言葉の意味もこれといって考えなかった。それでだ。
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