歪んだ世界の中で
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第九話 決意を述べてその七
「僕を信じてくれるからだよね」
「そうだよ。それにね」
信頼、それに加えてだった。
「希望が好きだから」
「だから。僕を」
「そうだよ。好きだからね」
「有り難う。じゃあね」
今度は希望から言ったのだった。
「僕も千春ちゃんの決めたことならね」
「それでいいっていうのね」
「僕も千春ちゃんを好きで」
そしてだった。そのうえでだった。
「信じてるから」
「そうしてくれるからなのね」
「人を信じるのも怖いことだけれどね」
あのことを思い出してしまった。無意識のうちに。
無意識から沸き起こるそれを感じながらだ。そして言ったのである。
「若し。信じていた人に裏切られたらって思うとね」
「そんなことがあったからよね」
「うん。あの高校に入ってすぐの時にね」
まさにその時のことだった。失恋の時の。
「信じていた友達。ほら、前にアイスクリームを食べた時にね」
「ああ、あの」
「そう。あの時にも話したけれどね」
「あの人達を信じてたけれど」
「裏切られたからね」
暗く辛い目になってだ。希望は微笑んだ。
寂しい微笑みだった。その微笑みでの言葉だった。
「あの時。凄く痛かったから」
「心が痛かったのよね」
「そう。だから人を信じることもね」
「勇気がいるよね」
「誰かを信じないと裏切られることはないよ」
心は。そうだというのだ。
「信じていないと。最初からね」
「そうよね。信じているから裏切られるから」
「それで傷つくこともないよ。けれど」
だがそれでもだった。信じないことは。
「それって何にもならないから」
「誰かを信じてこそだから」
「そうだよね」
それでだというのだった。
「誰かを信じて。人と人ってはじまるから」
「だから。希望は」
「千春ちゃんは何があっても信じるよ」
その千春を見て。澄んだ微笑になったうえでの言葉だった。
「絶対にね。それは千春ちゃんが信じられる人だから」
「世の中って。信じられる人とそうでない人がいるよね」
「いるね。そしてそうしたことを見極めることがね」
「大事だと思うよ」
「僕は信じたらいけない人達を信じたんだね」
彼等のことをだ。希望はわかっていた。既に。
「それだけだったんだね」
「それでそうした人達って小さいよ」
「そうだね。人を簡単に裏切れる人達ってね」
「小さいよ。下らない人達だよ」
そうした連中だとだ。千春も話した。
「だから希望はね」
「そんな人達のことは気にしないで」
「信じられる人をね。信じてね」
「そうすればいいよね」
「千春をそう思ってくれること自体が嬉しいの」
まずそこからだった。千春が喜びを感じることは。
「それで信じてくれて好きになってくれることが」
「その二つも重なって」
「とても嬉しいの」
こう希望に話してきた。明るい奇麗な笑顔で。
「本当に有り難う」
「御礼はいいよ」
希望もだ。言う言葉だった。
「だって。僕も千春ちゃんを信じられることがね」
「そのことが嬉しいのね」
「それって千春ちゃんと一緒にいられることだから」
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