歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその一
第八話 友情も
プールの中で泳ぎながらだ。希望は千春に笑顔で話していた。
「やっとね。友井君が退院するんだ」
「あのお友達の人が?」
「うん、そうなんだ」
こうだ。今日も白のワンピースの水着の千春に話すのだった。
「もうすぐね」
「夏休みの間に退院できたね」
「よかったよ。本当に」
このことを心から喜んでいる言葉だった。
「一時はどうなるかって思ったからさ」
「希望その人のこと本当に大事なのね」
「友達だからね」
明るい顔になって言えた。今の希望は。
「だからね」
「そうよね。お友達だからね」
「千春ちゃんにとっての家族の人達もそうだよね」
「うん、皆家族だけれどね」
それと共にだと。千春は笑顔で答えたのだった。
「それでもね。お友達だよ」
「だから。僕にとってはね」
「千春のお家の皆と一緒で」
「凄く大切な人なんだ」
まさにだ。そうだというのだ。
「凄くいい人なんだよ」
「そうなの。じゃあね」
「じゃあって?」
「千春と同じ位大事な人なのね。希望にとって」
「あっ、また違うよ」
無意識のうちにだ。希望は千春の今の言葉を否定して答えた。
「千春ちゃんは恋人でね。友井君は友達でね」
「同じ位とかじゃないの?」
「全く別だよ。千春ちゃんは千春ちゃんで」
それでだというのだ。
「友井君は友井君なんだよ」
「それぞれ違うの」
「僕にとってはね。二人共大切な人だけれど」
千春を見てだ。そのうえで話すことだった。
「それぞれ違うんだ。同じ位とかじゃなくてね」
「同じじゃなくて」
「そう。僕は確かに千春ちゃんは大好きだよ」
微笑んでだ。他ならない千春自身に告げた。
「けれどそれでもね」
「その人もなのね」
「大事だよ。大事なんてものじゃないよ」
「それ自体がなんだ」
「そう。友井君はそれだけの人なんだ」
「そうね。恋人と友達ってね」
「また違うものなんだね」
千春の声に応えてだ。希望はだ。
このことに気付きだ。そして言ったのだった。
「そういうものだね」
「そうだね。千春とその人は別だから」
「うん。千春ちゃんは千春ちゃんでね」
「その人はその人でね」
「だからいいんだよ。それじゃあ」
こう言ってだった。希望はだ。
千春に対してだ。笑顔で言った。その笑顔はプールの中の明るい光の中で輝いていた。
その笑顔を見ながらだ。千春も応えた。
「泳ぐのね」
「うん。今からもね」
「泳ごう。それじゃあ」
こう言ってだった。二人でだ。
泳ぎながら楽しんだのだった。二人でいる時間を。
希望は千春との時間も楽しんだ。そしてだった。真人との時間も同じ様にしたのだった。
彼は無事退院できた。見送りに来たのは希望だった。彼だけだった。
その彼の笑顔を見てだ。真人も笑顔で応えた。
「有り難うございます」
「ええと。今からだね」
「はい、お家に戻ってですね」
それからだと。希望にだ。真人はその明るい笑顔で述べた。
「賑やかにいきましょう」
「おばさん達はね」
「知ってます。皆忙しくて」
「妹さんもね」
「塾の合宿らしいですね」
「だから今家にいるのはね」
「僕達だけですね」
真人自身と希望、彼等だけだった。だがそれでもだった。
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