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モンスターハンター 隻腕のドルフ

作者:さざらき
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第五話 蛇

——ベラーナ村東部・古塔

 遠くから見ても分かるほど巨大な、古代人による謎の建造物。何のために造られたのか、何故この塔は嵐に包まれているのか。その全ての謎が、現代でもいまだ解明されていない。

 そのため、ギルドでは古塔を常に監視するため、古塔観測班を発足。モンスターの手が及ばない上空から、気球にて、古塔を観測し続けている。



「あ、見えてきた。あれ、観測班の気球だね」



 ユニが身を乗り出し、そう言った。それに釣られて、全員が竜車の前方に目を向ける。

 普段は遥か上空にいるはずの気球が、古塔入口付近に着陸し、レイニスと同じような白い服を着た観測員が二人、気球の前で竜車を見ていた。

 竜車が近付いてきたことを上空から確認し、降下してきたのだろう。竜車はそのまま彼らのもとへ走り、停止した。

「皆様、到着致しましたニャ!」
「ありがとう、御者さん」

 下車し、それぞれの荷物を背負う四人。そんな彼らを、観測員達が出迎えた。

「お待ちしておりました、皆さん」
「状況は?」

 先頭に立ち、そう訊ねるドルフ。

「古塔頂上から確認されたエネルギー波は健在。気球ではその高度まで達することができず、正体は不明です」

 内容は、概ね村で聞いたままのものだった。調査依頼では、依頼を受けて現地に到着するまでの間に、その原因が消失してしまうことも少なくはないが、今回はそのケースではなかったらしい。

「そうですか。次に嵐が来るのは、半月と少し後だそうですが」
「はっ。予測に変更はありません」

 リエンの問いには、そのように答える。今のところ、調査のための時間は十分に残されていると考えていいだろう。

「もしもの時は知らせてくれるんだよね?」
「はい。予測が早まった場合は、気球から信号弾を打ち上げます。古塔の頂上付近までは打ち上がる予定です」
「使わないことを祈っておいてくれ。できればな」


 全員が積荷を下ろし終え、調査の支度が整った。役目を終えた竜車とアイルーが帰るのを見送ると、リーダーであるリエンと、もう一人のリーダーとして指名されたドルフが、号令をかける。

「皆、危険な依頼だが、必ず達成して生きて帰ろう。村でカジンが待ってるからな」
「観測班の報告では、標的は頂上付近にいるらしいが……塔内部は全て、奴の縄張りだと思って行動してくれ。相手は未知のモンスターだ。警戒は怠るな」
「了解、リーダー」
「うむ。皆、背中は任せるぞ」


 それぞれが覚悟を決め——今、塔の調査に乗り出した。



 調査時の隊列は、リエンとドルフの二人が決定した。まず、ランス使いのラッセルは先頭。これは確定事項だ。折角の防御役を、後方に設置したのでは意味がない。

 二番手は、リエンが務める。リエンとドルフ、二人が悩んだのは、この二番手を二人のどちらが務めるか、だった。ボウガンを担いだユニを後方に配置するのは確定しているが、最後尾では後方からの奇襲に対して安全策を用意できない。

 そのため、二人のどちらかを最後尾、四番手に配置することを決めたはいいものの、片手剣使いであるリエンと両手剣使いであるドルフ、どちらも攻撃と防御の両方を兼ね備えたハンターだ。どちらを前にしたようがより良く調査できるか、これを決めるのに時間がかかった。

 結果、本来のパーティメンバーであるリエンを二番手に配置することで、ラッセルとの連携を強化することにした。ドルフは今回限りの臨時メンバーで、ソロハンター。四番手に配置したとしても、彼本来の力が阻害されることはない。


「……古い塔、っていうくらいだから、どんなもんかと思ってたけど、想像以上にボロいんだね」


 塔に入って少し進んでから、ユニがそう呟いた。

 この場にいる者は皆、ドルフでさえ、古塔の調査に挑むのはこれが初めての経験だ。塔内部の情報も、話に聞くことはあったが、話に聞くのと実際に見るのとでは、また景色も違ってくる。

 至る所に苔が生え、どこから生えてきているのか、石と石の間からは木々の枝が伸びていた。柱の一部は崩壊し、既にその役目を果たしてはいない。

 押せばすぐにでも崩壊してしまいそうなのに、全体としての形は保っている。古代人の技術力が、いかに高かったかということが分かる建造物だ。

「しかし、塔っていうからには、すぐに階段が始まるもんかと思ったが……中は広いんだな」
「うん。まずは階段を探さないと」

 リエン達がそんな会話を繰り広げる中、ドルフは静かに、感覚を研ぎ澄ませていた。


 十年前、この塔に金火竜が現れてから、ベラーナ村では時折、塔の話を聞く機会があった。塔内部には大型モンスターは勿論のこと、小型モンスターも生息している。強大な力と堅牢な外殻を持つ大型モンスターと違って、小型モンスターは塔を包んでいる嵐を突破できないため、基本的には内部での繁殖が数を増やす主な要因となる。

 しかし、塔内部は広いとは言っても、大自然に比べれば閉塞した空間。小型モンスターの食糧は、同じく小型モンスターであり、塔に生息するモンスターは縄張り争いで雌雄を決している。閉塞した古塔であればその頻度も高くなり、生き残るためには力を付けなければならない。

 そのため、塔内部に生息するモンスターは、外の世界に生息するモンスターよりも強力である、というのが、ハンター達の間での常識である。好戦的として代表的な小型モンスター、ランポスやファンゴも、塔の外の個体と比べて遥かに強力であるとされている。

 そして、もう一種。塔に踏み入れたことのあるハンターが、口を揃えて『警戒しろ』と忠告する小型モンスターがいる。主として火山や沼地、暗所地帯に多く生息し、細長い体と大きな翼を持って飛行する小型モンスター。小型モンスターの中では比較的大型な部類で、個体によっては大型モンスターに迫る程の体躯を持つものもいる。

 別名、『翼蛇竜』。近接武器が届かないほどの高度から毒を吐きかけ、その鋭い尻尾で鎧をも貫く、厄介なモンスター。


 奴らの特徴は、尻尾を震わせて鳴らす不快な耳鳴り音。少しでもその音が聞こえれば、ハンターは足を止め、奴らの襲撃を警戒せねばならない。大きな群れに襲撃されれば、たとえ大型のモンスターを狩れるような腕利きのハンターであっても、決して油断のできない相手。



「避けろ!」



 ドルフはユニに抱きつき、そのまま前方へ跳んだ。直後、先程までユニがいた辺りの場所に、上空から液体が飛来した。

 飛来した液体は石床に着弾すると、ぶくぶくと泡を立てながら、着弾した面の石床を溶かしてしまった。

「ガブラスの群れだ、構えろ!」

 ガブラス。奴らは、そう呼ばれている。

 ドルフは立ち上がってすぐに大剣を構え、ユニを守るように、ガブラスの群れの前に立ちはだかった。

「ラッセル、毒は防ぎすぎるな。盾が溶ける」
「クソッ、こいつら嫌いなんだがな……」

 同じく片手剣を構えながら忠告するリエンと、文句を言いながら大盾を構えたラッセル。空を飛びながら毒液を吐くガブラスは、多くのハンターに嫌われている。

 十匹の群れ。大きな音に敏感なガブラスは、ドルフがバサルモス戦でも使った、音爆弾を使えば墜落させることができる。しかし、頂上にいるモンスターがどのような敵であるか分からない以上、物資は極力温存しておきたかった。

「リエン、ユニの援護に回れ。いざとなったら、俺が音爆弾で奴らを墜とす。が、できれば温存しておきたい」
「ああ、分かってる」

 片手剣では飛行するガブラスに届かない。リエンはユニの援護に回り、彼女をガブラスの尻尾や、奇襲をかけてくる別のモンスターから守ることに専念した方が良いと判断した。

「ユニ、強力な弾は温存しろ。動きを止めれば、俺達でとどめを刺す」
「了解!」

 立ち上がって体勢を整えたユニが、ボウガンを構えた。粗悪で安価、狩場で調達できるような素材で作られた弾薬を、慣れた手付きで装填していく。

 装填が終わり、ハンドルを引いて弾丸を込める。そして、銃口を上空に向け、スコープを覗き込んだ。

「ターゲット、ドルフ正面三匹!」
「任せろ」

 立て続けに三度、爆発音のような銃声が鳴り響いた。放たれた銃弾は全てガブラスの翼膜に命中し、三匹のガブラスの体勢を崩して、少しだけ高度を落とした。ユニに指名されたドルフは、その隙を逃さず、大剣が届く範囲まで高度を落とした三匹のガブラスを、続け様に斬り裂いていった。

 ガブラスの弱点は、的にしては大きすぎる、巨大な翼。そして、皮膚の柔らかさ。ひとたびハンターの攻撃射程圏内に入ってしまえば、その鋭く重い一撃を防ぐほどの耐久力はない。

「ラッセル、左方二匹!」
「了解!」

 続けて、ユニがラッセルの左方にいたガブラス二匹の翼膜を撃ち抜く。ドルフと同じように、高度を下げたガブラスに、ラッセルは長大なランスを突き立てた。

 ラッセルの戦闘スタイルは、一言で表すならば『堅実』。一撃必殺を狙わず、ガブラスが再び飛び立てないよう、二匹の翼膜を先に貫いていた。

 ドルフからすればまどろっこしいやり方だが、確実だ。地に落ち、飛び立てなくなったガブラスは、ハンターにとって敵ではない。飛行性能が高いガブラスは、反面、脚部の筋肉が著しく退化している。地上ではまともに動くこともできず、起き上がることもできない。

 地に落ちたガブラスの頭部に、ランスを突き立てるラッセル。これで、五匹。群れはあと半分だ。

「ドルフ、左方二匹! ラッセル正面一匹!」

 指示が下る頃には、既にガブラスは怯んでいる。元々ボウガン使いだったとは言え、現在は双剣に鞍替えしているユニ。それでも尚、これだけ精密な射撃ができるのは、流石は上位ハンターといったところである。

 感心するドルフをよそに、ユニは再度弾薬の装填を始めた。ボウガン使いにとって、最も隙が大きくなる瞬間。それは攻撃中でも、移動中でもない。弾薬の装填中だ。弾薬ポーチや弾薬ベルトから、必要な弾薬を取り出し、ボウガンに装填する。この一連の動きが終わるまで、どうしてもハンターは無防備になってしまう。

 故に、ボウガンを扱うハンターは、戦闘中は常に、全方向に気を張り巡らせていなければいけないが……今回は、そのために護衛がいる。


「続けてくれ」


 飛来するガブラスの気配に気付き、咄嗟に装填を中断しようとするユニ。そんな彼女に、リエンがそう言葉をかけた。

 ユニの側方に回り込み、迫るガブラスの鋭い尻尾を、左手に携えた小さな盾で防ぐリエン。彼はそのまま攻撃を受け流すと、あろうことか、左手で尻尾を掴んで、力いっぱい地面へ叩き付けたのだ。

 ガブラスも予想していなかった行動。ラッセルやユニは特に反応していなかったが、ドルフはこの動きに思わず目を丸くしていた。

(……あの性格で、えらくパワフルな戦い方をするな)

 これは彼の仲間もよく知ることだが、一番堅実そうに見えて、一番豪快に戦うのがリエンという男である。時には、高所からモンスターの背中に飛び乗り、片手剣で背中から滅多刺し……といった戦闘スタイルも披露する。

 リエンは地上へと引き摺り下ろしたガブラスの頭部を、何の躊躇もなく、踏み砕いた。片手剣使いが、片手剣を一切使わずにモンスターを討伐する。ベラーナ村では中々見られない戦い方だ。


「ラスト、ドルフ!」


 ここまでで、計九匹。残る一匹はドルフの頭上にいた。装填を終えたユニがボウガンを構え、虚しく鳴き喚くガブラスの翼膜を、三度、撃ち抜いた。

 翼に大きな風穴が開いたガブラスは、抵抗虚しく落下し始めた。それを正面に捉え、ドルフは剣を振り上げる。



「やー、初っ端からガブラスの群れなんて、攻めてくるね」
「そうだな」

 戦闘を終え、一息つく四人。ガブラスは屍肉や腐肉を好んで食すため、その肉は食用には向かないが、皮はファッション用として定評があり、持ち帰ればそれなりの価格になる。が、ここはまだ塔の入口付近。帰りならばいざ知らず、これから塔を上るのに身を重くするのは得策ではない。

 泣く泣く、剥ぎ取りはせずにそのまま先へ進むことを決めたドルフ達。先行きに少しばかりの不安を覚えながら、彼らは再び、古びた塔内部を進み始めたのであった。 
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