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戦国異伝供書

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第百二十八話 僧籍の婚姻その四

「だからな」
「それで、ですな」
「織田殿については一揆を起こすことはないですな」
「左様ですな」
「寺を滅ぼすこともされぬので」
「六代様は暴虐の方であられた」
 このことは顕如も知っていた。
「ご自身がお気に召されぬならな」
「はい、その時はですな」
「容赦なく打ち据え手打ちにされ」
「守護の方も滅され」
「そして寺も」
「そうした方であられたが」
 それでもというのだ。
「織田殿は違う、だからよい」
「はい、それでは」
「そのうえで、ですな」
「我々もですな」
「このままですな」
「天下の法に従おう」
 こう言ってだった、顕如は本願寺の政は整えていってもそれでも織田家には逆らうことはしなかった。その中で。
 天下の動きを見た、やがて信長と将軍である足利義昭の関係が悪くなり。
 義昭の密書を受けて朝倉家が信長と敵対する様になった、顕如は義昭の動きを完全にではないが察して言った。
「その様なことをされてもな」
「意味がないですか」
「公方様が織田殿を煙たく思われても」
「それでも」
「もう幕府に力はない」
 そして足利将軍にもというのだ。
「応仁の時の大乱で山城一国だけとなられたな」
「はい、実質」
「幕府は山城一国を治めるのが精々になりました」
「二十万石程の力しかない」
「そうした勢力になり」
「そして先の変でな」 
 将軍足利義輝が三好三兄弟と松永弾正久秀に弑逆された時にというのだ。
「もう山城どころか」
「都の一端ですな」
「そこにあるだけになりました」
「もう禄もほぼなく」
「幕臣の方々の禄は織田殿のものです」
「幕府は織田殿が動かされています」
「最早そうなっている」
 今の幕府はというのだ。
「それで織田殿に何かされても」
「それでもですな」
「意味がないですな」
「むしろ幕府をさらに弱めますな」
「幕府を実質的に動かされている織田殿と反目されては」
「織田殿も公方様のお考えは察しておられるであろうが」
 それでもというのだ。
「特にな」
「相手にされておられませぬ」
 ここで鋭い目であるが端正な顔の男が言ってきた、本願寺に仕える紀伊の忍の者達雑賀衆を束ねる雑賀孫一である。
「全く」
「そうであるな」
「ですが朝倉家とはです」
「戦か」
「そうなりそうです」
「ふむ、朝倉家は負ける」
 織田家と戦えばとだ、顕如は述べた。
「織田家と戦えばな」
「力の差は歴然ですな」
「うむ、朝倉家には宗滴殿がおられるが」
 名将である彼がというのだ。
「しかしあの方だけではな」
「朝倉家はですな」
「織田家と力の差が歴然とし過ぎていてな」
 それでというのだ。
「到底な」
「勝てませぬな」
「左様、我等は何もな」
「しませぬな」
「朝倉家とは長年戦をしてきた」
 越前つまり自分達の国となった加賀の隣にあってというのだ。 
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